以前、当院のブログ「自分の中にいい子と悪い子がいるんです…」の中で、境界性パーソナリティ障害の人が、自分で出来る対処法の一つとして、心の中の嵐をどうやってやり過ごせばよいのかについて書かせて頂きました。本日は、境界性パーソナリティ障害の人が抱える「生きづらさ」を和らげていくためのヒントを引き続きご紹介させて頂きます。
気持ちや感情を言語化してみましょう
激しい感情から問題行動に走る理由の一つは、自分の感情を自分でつかみ切れていないからです。自分の気持ちや行動を振り返ることで、自分の行動パターンの特徴が見えてきます。
自分の行動や、その時の気持ちを書いてみます。書くことには幾つかのメリットがあります。一つは、問題行動が結局は何の解決にもならなかったことを、改めて「事実」として納得できることです。もう一つは、自分の気持ちが自分に見えるようになることです。言葉を持たず、感情の嵐を巻き起こす「幼い自分」に、気持ちの正体やその原因を教えてあげることが出来るのです。
問題行動を引き起こした時の状況や行動、自分の気持ちの変化を、なるべく具体的の書き出します。以下に一例を挙げておきます。
① 【日付や時間帯】を書くと、気分の波のリズムが見えてきます⇒『例:5月12日(金) 夜中』
② 【キッカケ】や引き金となる出来事を書きます⇒『例:彼氏にLINEをしたのに既読がつかなかった』
③ 【気持ち】を言葉にします。言葉にすると、モヤモヤした気持ちをキャッチする習慣がつきます⇒『例:悲しい むなしい』
④ 【行動】を書きます。そうすると、自分が陥りやすい行動パターンが浮かび上がってきます⇒『例:1分おきにLINEを送り続けた。それでも返信がないので、誕生日に彼からもらったマグカップを壁に投げつけて割った』
⑤ 【その後】の気分を書きます。感情のままに行動した後に、自分の気持ちがどのように変化したかを冷静に見直します⇒『例:余計むなしくなった。片づけが大変でへこんだ』
ここで注意して頂きたいのは、気持ちや行動とともに、問題行動の対策を立てながら書くことは余り意味がないということです。何故なら、よりよい対策を立てることの方に注意は向いてしまうからです。大切なのは、「今の自分と向き合うこと」です。自分を動かしているものが何か、自分の目で見えるようにするのが、書くことの目的です。焦らずとも、書いたものを読んだり考えたりするうちに、少しずつ問題行動も治まっていきます。
「ほどほどの自分」を持てるようになる
上記のような行動記録では、自分の行動パターンだけでなく、対人関係のパターンも見えてきます。境界性パーソナリティ障害では、自分のイメージが「極端に理想化されたよい子の自分」と、「そうでないダメな悪い子の自分」に二分化されています。この「よい自分」は元々、見捨てられないように作り出していた自分です。「悪い自分」も、見捨てられないように隠していた自分です。「よい自分」になろうと無理をしたり、孤独にさいなまれる「悪い自分」から目を背けたりせず、「どちらも自分なのだ」と受け入れましょう。
不思議なことに「だいじょう感」が育つにつれて、この分離した自分が統合できるようになっていきます。自分自身を「よいところもあれば、ダメなところもある」「ダメな自分でも見捨てられることはない」と思えるようになってくるのです。
ほどほどの自分が持てるようになると、自分の周囲の人に対しても「よい人」「悪い人」で二分するのではなく、大半が「ほどほどの人」と見ることができるようになってきます。例えば、他者に対して、「長所もあれば短所もある」と受け取れるようになることでしょう。
すると、それまで「依存」か「拒絶」の二択しかないという極端な対人関係から、相手に踏み込み過ぎない「ほどほどの関係」が築けるようになっていきます。それが「ほどほどの距離」であり、「つかず離れずという距離感を保つ」という新しい付き合い方ができるようになるのです。
人との距離感について
境界性パーソナリティ障害の人は、上述のように人との距離感が近すぎるか遠すぎるか、そのどちらかになりがちです。特に、「私はあなたに自分のすべてを見せます。だからあなたも私に何も隠さないで」と言わんばかりの密接な関係を求めます。しかし、全てをさらけ出すことが、健全な人間関係でしょうか? ハダカの付き合いと言えな聞こえは良いのですが、相手に「下着まで脱げ」と強要することに等しい暴挙でもあるのです。
「親しき仲にも礼儀あり」です。相手や状況に応じて服装を変えるように、人間関係にも色々な装いがあるのです。自分が適切な装いで接すれば、相手もそれだけ応えやすく、良好な関係を築きやすくなるのです。
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Presented by.医療法人社団ペリカン(心療内科・精神科・内科)
参考引用文献:市橋秀夫監修『パーソナリティ障害』(講談社)