過敏性腸症候群(Irritable bowel syndrome;以下、IBS)は、下痢と腹痛を主症状とし、一過性の便秘、そして便秘の解消時には、腹痛を伴う下痢をきたす機能性疾患です。大腸がんや潰瘍性大腸炎などとは異なり、視覚的に確認できる異常が認められないのが特徴です。ストレスが「脳腸相関」を介して、腸管の運動異常により発生する症候群です。
現在、過敏性腸症候群の患者数はかなりの数となっており、消化器科専門外来の腸疾患患者の30~50%がIBSであるという統計や、中高生の13~19%がIBSであるという調査も存在しています。このように、「日本人の5~10人に1人がIBSに当てはまる」と推定されるほど、IBSは誰もがなり得る疾患なのです。
腸の運動機能は、食物などの物理的刺激だけでなく、温度や身体疲労などの化学、生物学的刺激や、不安・緊張・恐怖などの心理的刺激によって、容易に変化します。例えば、授業中や通学・通勤途中の電車の中などで、急な下痢や腹痛症状に苦しんだ経験がある方も、少なくはないでしょう。他にも、受験といった過剰に緊張する場面において、トイレの前に列ができる光景もあるかと思います。
通常の下痢や便秘と異なり、主な原因はストレスで、腹痛やお腹の張り、お腹が鳴ったり、ゴロゴロしたりする…といった、不快な腹部症状を伴います。その他に、IBSによって、不眠や不安・抑うつなど、胃腸以外の症状を引き起こしてしまう方もいらっしゃいます。
心身医学や心療内科の領域においては「心身相関」という考え方が広く行き渡っています。「心と身体は密接な関係にある」という考え方に他なりませんが、中でも昨今注目を浴びているのが、この「脳腸相関」です。「脳(心)」が不安・緊張・恐怖・ストレス等を感じると、不思議なことにそれを「腸」が察知します。そして、腸がイレギュラーな活動を開始してしまうのです。このことから今や「腸」は「第二の脳」とまで呼ばれるようになっています。
基本的には、身体には病的な影響を与えることはないので、日常生活を送る上でQOLに支障がなければ、無理に治療する必要はありません。しかし、その症状のため社会適応が難しくなった際に受診へと繋がることが多く、治療はそういった例を中心に行われています。腹痛や便通異常に結びつく原因や誘因となる生活習慣・ストレス因に対する心理・社会的アプローチが重要とされます。不安や緊張が強い場合には、必要に応じて、投薬治療が行われたり、自律訓練法の実施や認知行動療法等を中心とした心理療法が選択されることもあります。
IBSは、自己流の対処を続けているだけでは、治りにくい病気です。また、便通異常が前面に出ていても、背後に重い精神疾患が隠れていることもありますので、早めに専門の医療機関において、適切な診断と治療を受けることが大切だと言えるでしょう。
今後とも、医療法人社団ペリカン新宿ペリカンこころクリニック(心療内科、精神科)を宜しくお願い致します。