境界性パーソナリティ障害の人の心の奥底には「見捨てられ不安」があり、そこから生じる虚しさや絶望をいつでも感じています。しかし、問題行動を引き起こすほどの嵐がいつでも心の中に吹き荒れているわけではありません。
問題行動を鎮め健康なパーソナリティをつくるには、まず問題行動に駆り立てる「感情の嵐」を我慢する(やり過ごせるようになる)練習から始めましょう。最初は辛いですが、続けるうちに、不安や衝動が和らいでいきます。
見捨てられ不安と、問題行動の原因となる感情の嵐は混同されがちですが、嵐はあくまでも一時的なものなのです。この嵐をやり過ごす方法を身につけることで、問題行動に逃げ込まず、対処できるようになります。
心の嵐を「だいじょうぶ」で鎮める
感情の嵐に襲われた時、リストカットや性依存、大量服薬などをして、少しでも問題は解決されたでしょうか? 不安や恐怖は「影」のようなものであり、逃げても付きまといます。だったらその恐怖に向かい合ってみましょう。
①「30分我慢する」:負の感情の嵐は激しいものですが、続くのは長くて30分ほどです。嵐を繰り返し経験していると、ずっと続いているように思い込んでしまう場合があります。問題行動に走らず我慢している内、30分ほどで嵐が終わることを確かめましょう。
②「『だいじょうぶ!』を自分に送る」:心の中にいる幼い自分が、不安を言葉にすることができず、感情の嵐を巻き起こします。嵐が吹き荒れている間、怖がっているのは大人の自分ではなく、見捨てられ不安を抱えている子どもの自分です。心の中にいる幼い自分に「だいじょうぶ!」と言い聞かせ、怖いことは何もないと教えます。幼い自分の感情をしっかりと受け止めて、励まし続けるのです。
③「現実には何も起こらないことを確かめる」:嵐によって起こる怒りや不安、絶望がどんなに強くても、「だいじょうぶ」とやり過ごせば、それで終わりだということに気が付きます。
④「3ヵ月がんばる」:毎日吹き荒れる感情の嵐を我慢することで、徐々に心の中にだいじょうぶ感が育ちます。それとともに感情の嵐も治まっていきます。また、問題行動を起こす自分への嫌悪感も解消されるため、感情の起伏も穏やかになっていきます。
心の中の「幼い、悪い子の自分」に、「だいじょうぶだよ」と、メッセージを送り続けましょう。すると、大人になった「よい子」の自分と、不安を抱えた幼い自分が、徐々に今の自分に統合されていくことでしょう。
自分の中の「よい子」と「悪い子」??
人は誰でも長所もあれば短所もあります。健康なパーソナリティでは、どちらも自分として認識出来ていますが、境界性パーソナリティ障害では「自分」への認識が曖昧になっています。
境界性パーソナリティ障害では、不安を抱えた自分を「悪い子」として切り離し、心の中に隠しています。しかし、親から愛されるはずの「よい子」もやはり病んだ姿なのです。このように両極端のパーソナリティが自分の中に同居しています。ほどほどの自分」という感覚がなく、「年齢相応に成長した自分」と「見捨てられた幼い自分」に分裂しているのです。
◇「大人で『よい子』の自分」:幼い自分を切り離して、年齢相応に成長した自分のイメージです。誰からも愛される「よい子」で、友好的なムードの時の自己像(パーソナリティ)です。
◆「幼いままで不安を抱えた『悪い子』の自分」:見捨てられ不安を抱えた、親に愛されない「悪い自分像」です。ふだんは隠されていますが、悲しみや苦しみを感じたときに、表に出てきます。
このように、自分の心の中で「よい子」と「悪い子」が分裂してるように、周囲の人に対しても「よい人」か「悪い人」としてしか認識できません。相手がよい人だと感じると「よい自分」で対応し、少しでもいやなことがあると「悪い人」だと認識して、「悪い自分」で対応します。しかも、昨日はよい人だったけれど、今日は悪い人だと感じるといった具合に、その認識が場面場面で変わり、相手に対する態度も正反対になります。
自分を受け入れてくれる「よい人」には全幅の信頼を寄せ、賞賛したり依存したりと、極端に理想化をします。一方、相手に批判的・否定的なニュアンスを感じると、途端に「悪い人」とみなし、徹底的に拒否、極端に拒絶します。
周囲の人は、本人の態度や言うことが日によってコロコロ変わるため、驚き戸惑います。そのため対人関係は安定せず、それが本人の「見捨てられ不安」をますます強める結果になるのです。
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Presented by.医療法人社団ペリカン(心療内科・精神科・内科)
監修 佐々木裕人(精神保健指定医・精神科専門医・内科医)
参考引用文献:市橋秀夫監修『パーソナリティ障害』(講談社)