前回等に引き続き、摂食障害に関するコラムです。
今回は、過食性障害の詳細をみていきます。
DSM-5による記述に解説を加える形で進めていきます。
DSM‐5に関する説明は、以下のコラムをご参照ください。
https://www.pelikan-kokoroclinic.com/%e8%a8%ba%e6%96%ad%e5%9f%ba%e6%ba%96icd%e3%81%a8dsm/
診断基準
A.反復する過食エピソード。過食エピソードは以下の両方によって特徴づけられる。
(1)他とはっきり区別される時間帯に(例:任意の2時間の間に)、ほとんどの人が同様の状況で同様の時間内に食べる量よりも明らかに多い食物を食べる。
(2)そのエピソードの間は、食べることを抑制できないという感覚(例:食べるのを止めることができない。または、食べるものの種類や量を抑制できないという感覚)
B.過食エピソードは、以下のうち三つ(またはそれ以上)のことと関連している。
(1)通常よりずっと早く食べる
(2)苦しいくらい満腹になるまで食べる
(3)身体的に空腹を感じていない時に大量の食物を食べる
(4)自分がどんなに多く食べているかを恥ずかしく感じるため一人で食べる
(5)後になって、自己嫌悪、抑うつ気分、または強い罪悪感を感じる
C.過食に関して明らかな苦痛が存在する
D.その過食は、平均して3カ月間にわたって少なくても週一回は生じている
E.その過食は、神経性過食症の場合のように反復する適切な代償行動とは関係せず、神経性過食症または神経性やせ症の経過の期間のみに起こるものではない
該当すれば特定せよ
部分寛解:かつて過食性障害の診断基準を全て満たしていたが、現在は一定期間過食エピソードが平均して週1回未満の頻度で生じている
完全寛解:かつて過食性障害の診断基準を全て満たしていたが、現在は一定期間診断基準のいずれも満たしていない
現在の重症度を特定せよ
重症度の最も低いものは、過食エピソードの頻度に基づいている(以下を参照)。
他の症状や昨日の能力低下の程度を反映して、重症度が上がることがある。
軽度:過食エピソードが週に1~3回
中等度:過食エピソードが週に4~7回
重度:過食エピソードが週に8~13回
最重度:過食エピソードが週に14回以上
診断的特徴
[解説]過食性障害では、過食行動の頻度が、週1回以上で3か月間以上続きます。
[解説]一般的な感覚より明らかに多い量を一定時間以内(2時間以内)に食べる行動を過食エピソードと言います。「明らかに」というのがあいまいに聞こえるところはあるでしょうが、実際にこの障害に悩まれている方の場合は極端に摂取量が多いことが多く、判断に迷うケースは少ないと思われます。
[解説]摂取量がその状況によって変化し得ります。特定の状況下でのみの情報で診断することはないと思われます。
[解説]多くの方が一気に大量に食べるため、通常は2時間以内に完結します。
[解説]連続する過食行動ならば、シーンが変わってもよいとされています。
[解説]一方、時折、少量を長時間に渡って食べ続けることを報告する方もいますが、少なくとも定義上は過食ではありません。
[解説]抑制できる大量の摂取は、摂食障害の行動ではありません。別の見方をすれば、摂食障害という病に支配されているというには、その根拠が必要ですが、それはその方のコントロールが効かない、つまり抑制が効かないことが必要になるということです。
[解説]解離の詳細な説明はいずれ「解離性障害」のコラムを記載する際に行いたいと思いますが、簡単に言うと意識や感覚などが切断されて、自分が自分でないような感じになることを言います。多くの場合、その最中の記憶が失われます。過食を正常心理で行えることは少なく、その間、意識が変性していることは十分考えられます。
[解説]抑制不能の定義も難しいところがありますが、単純には摂食が自分のコントロール外に置かれているならば、そう言って間違いではないでしょう。
[解説]突然起こることも多いですが、例えば仕事から帰宅する際中から過食するための食べ物を買い込み、帰宅後に「計画して」過食する方も多いです。
[解説]食物の種類はまちまちですが、経験的には炭水化物が多いと思われます。また、本稿の過食性障害では嘔吐はみられませんが、過食症で嘔吐を伴う場合は嘔吐しやすいものが多いです。
[解説]種類よりも量というのは、まさしくその通りです。
[解説]「楽しく」過食しているなら、それは過食ではなく、つまり摂食障害ではありません(正常心理ということです)。落ち着いて味を楽しむわけでもないし、適度な量でとどめることもありません(できません)、空腹でもないのに大量に食べてしまいます、そんな姿を他人にみられて平気な方もそうそういませんし、何より後にそういう自分を責めています。
[解説]多くの方が、過食を恥ずかしいものであると認識しており、見られないようにしています。
[解説]何かしらのトリガーがあって過食が起こることはしばしばみられます。過食をすることで一時的に気持ちはすっきりしますが、その後に上述もしている自責的な気持ちや罪悪感、抑うつ気分(落ち込み)に襲われます。
診断を指示する関連特徴
[解説]過食性障害と肥満の相違点ですが、まず(特に繰り返す)過食を肥満の方が行うことはありません。上述の過食の定義を満たし、抑制不能な感覚に襲われる食行動を肥満の方はとりません。また過食性障害に悩む方はその背後に苦痛があるため、気分の落ち込みがあり、それによる日常生活、社会生活への影響が出ます。
有病率
[解説]神経性過食症では、男女比が1:10であったことを考えると、かなりの違いです。また人種間での差もそれほどないのも特徴です。
症状の発展と経過
[解説]過食性障害は、まだ解明されていない部分が多い障害です。また抑制が効かなくなってきている食行動がある場合は、それが摂食障害に発展しやすい可能性はあるでしょう。
[解説]これは、神経性大食症との相違点として知られています。最初に過食をして、それによる肥満を防ごうとダイエットを始めるケースが多いです。
[解説]神経性過食症や神経性やせ症の方は中高生が多いですが、過食性障害はややそれより年齢が上がります。20歳代から起こることもあります。
[解説]これもまだ正確な理由は不明ですが、寛解(症状がなくなり持続すること)は過食性障害の方が高いとされています。
[解説]罹病期間が長いのは、摂食障害全般に言えることです。
[解説]過食性障害は、他のタイプに移行することはあまりありません。
危険要因と予後要因
[解説]まだ研究段階ですが、家族性があることは認められています。
文化に関する診断的事項
[解説]いわゆる欧米の先進国では頻度は変わらず、人種間での差もそれほどないようです。
過食性障害の機能的結果
[解説]過食性障害は、単に摂食の問題にとどまらず、身体の健康、日常生活、社会生活に大きく影響します。
鑑別診断
[解説]大きく異なる点は、まずは代償行動(嘔吐が代表的です)があるかないかです。過食性障害にはそういった行動はみられません。また、神経性過食症よりも過食性障害の方が治りやすいとされています。
[解説]過食性障害は代償行動がないため、一見肥満と似ているように見えると思いますが、複数の相違点があります。具体的には上述の通りですが、イメージとしては「病」に支配されているかどうかがわかりやすいと思います。過食性障害という「病」に支配されていると、平常の肥満ではみられない症状が出現します。逆に肥満は正常であるがゆえに、効果的な「治療」は存在しません。
[解説]過食性障害に限らず、摂食障害とうつ病/躁うつ病の関連性は高率に認められます。摂食障害を治療する際には、常にうつ病/躁うつ病の存在がないか確認しながら行っていく必要があります。
[解説]境界性パーソナリティ障害は摂食障害にも関連していますし、うつ病/躁うつ病にも関連しています。これらがオーバーラップすることはしばしば認められる事実です。
併存症