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漢方薬入門!神田橋処方

ある日の新宿ペリカンこころクリニック

先生~。
今日は何を聞きに来たんだいペリスケ君。
あのね、「神田橋処方」ってのが
有名なんだって聞いて教えて欲しいんだ。
そ、そうか~・・・う~ん・・・。
ど、どうしたの先生?!
いや、きっと説明を聞けば
僕の反応の意味が分かると思うよ。

神田橋処方とは

著明な精神科医である神田橋條治先生が考案した、フラッシュバックの症状に対し有効性が指摘されている処方のことです。

「四物湯」(しもつとう)と言う漢方薬と「桂枝加芍薬湯」(けいしかしゃくやくとう)を基本に変法(基本の形を入れ替えて処方すること)もいくつかあります。

 

例)桂枝加芍薬湯+十全大補湯

小建中湯+四物湯

小建中湯+十全大補湯

桂枝加芍薬大黄湯+四物湯

桂枝加芍薬大黄湯+十全大補湯

他にも桂枝加竜骨牡蛎湯を用いることもあります。

 

そもそもフラッシュバックとは何か。

フラッシュバックとは昔あったつらい出来事が「バッ」と湧き出るように思い出されてしまうことです。

神田橋処方の適応となるフラッシュバックはPTSDだけでなく日常的なものも含みます。

具体的に言うと心的外傷体験が瀕死の重傷や性被害などの他にも会社での叱責や友人同士の喧嘩、学校での級友の心無い一言と言ったものまで突然に湧き出る辛い出来事であれば適応になるのです。

ただし、どうして?なんで?この処方がそうしたフラッシュバックに有効なのかのメカニズムは解明されていません。

辛い出来事を思い出して嫌な感覚が戻ってくる、と言うような訴えのある患者さんに神田橋処方を用いると段々と程度が軽くなって嫌な感じのよみがえる回数が減少した。と言う有効例が多くあげられています。

なるほど、先生でも説明が出来ないのか。
そうなんだ、でも折角だから神田橋処方に使われている
漢方薬の構成生薬を勉強してみないかい?
面白そう!教えて!先生!

神田橋処方基本処方


「四物湯」(しもつとう)

当帰、芍薬、地黄→血を補う

川芎→血の流れを改善する


当帰(とうき)

当帰の基原はセリ科のトウキまたはホッカイトウキの根を、通例、湯通ししたものです。

当帰は血を補う補血の生薬では必ずと言っていいほど使われている生薬です。

血を補う補血と、血を巡りを改善させる活血の作用をもちあわせている生薬でもあります。

血虚によりおこる月経トラブルに広く対応するため婦人科では主薬として用いられています。

血の巡りをよくすることで痛みを改善させ、頭痛、胸痛、筋痛などにも有効です。

また、全身の症状以外にも血には皮膚修復機能があるので皮膚可能証や打撲傷のような皮膚疾患にも使用されます。

 

芍薬(しゃくやく)

芍薬の基原はボタン科のシャクヤクの根です。

女性の三大漢方の一つ、当帰芍薬散と加味逍遥散に配合されています。

中国では血を補う「白芍」と、流れを良くする「赤芍」で使い分けられていますが日本ではその中間的な作用を持つとされています。

芍薬の補血作用は「血の量を増やす」と言うよりも「血の少ない部分に血を集める」と言う作用が強く局所的な血不足の解決に優れています。

血の巡りが悪い「瘀血」タイプでは無く血が少ない「血虚」タイプにあった生薬であると考えられます。

甘草と合わさることでのみ筋弛緩効果を発揮する珍しい効果を持つ生薬です。

 

地黄(じおう)

地黄の基原はゴマノハグサ科のアカヤジオウの根(乾ジオウ)またはそれを蒸したもの(熟ジオウ)です。

地黄は、加齢に伴い減少するとされる「腎精」を補います。

また、身体に潤いを与え、血も補ってくれます。

腎虚、特に腎陰虚による倦怠感、めまい、のぼせ、耳鳴り、白髪、腰の怠さ、腰痛、寝汗、ほてり、泌尿器系の症状(夜間尿、頻尿、残尿、尿失禁)、生殖機能の低下(インポテンツ、月経不順、不妊)などに用いられます。

日本では一般的に根をそのまま乾燥させた「乾地黄」を指しますが、蒸してから乾燥させたものを「熟地黄」と言います。

胃もたれや下痢の原因となることがあるので胃腸が弱っている時、元々胃腸が弱い方が使用する際には注意が必要です。

 

川芎(せんきゅう)

川芎の基原はセリ科のセンキュウの根茎を、通例、湯通ししたものです。

血の流れをよくする活血作用があり、血を補う生薬と組み合わせると瘀血が取り除かれて新しい血を効率よく作り出すことが出来ます。

当帰と並ぶ、婦人科系の重要な生薬で「血中の気薬」とも呼ばれています。

気薬、と言うのは気を動かす薬と言う意味です。

肝の気血の流れをよくすることで感情の処理機能を高め、いらだちを鎮め精神的なリラックスを得る効果があります。

また、身体に侵入した風邪を追い出して頭痛などの痛みを止める作用もあります。


「桂枝加芍薬湯」(けいしかしゃくやくとう)

芍薬、甘草→痙攣を止める、痛みを止める

桂皮、生姜、大棗→内臓を温める


芍薬(しゃくやく)

芍薬の基原はボタン科のシャクヤクの根です。

女性の三大漢方の一つ、当帰芍薬散と加味逍遥散に配合されています。

中国では血を補う「白芍」と、流れを良くする「赤芍」で使い分けられていますが日本ではその中間的な作用を持つとされています。

芍薬の補血作用は「血の量を増やす」と言うよりも「血の少ない部分に血を集める」と言う作用が強く局所的な血不足の解決に優れています。

血の巡りが悪い「瘀血」タイプでは無く血が少ない「血虚」タイプにあった生薬であると考えられます。

甘草と合わさることでのみ筋弛緩効果を発揮する珍しい効果を持つ生薬です。

 

甘草(かんぞう)

甘草は他の生薬の働きを高めたり、毒性を緩めたりする調和の作用があります。

そのため、最も多くの漢方薬に配合されている背ようやくです。

五味の「甘」は、「気」「血」を補う作用、心身の緊張を緩める作用があり強い甘味のある甘草は心や脾胃の気を補い精神を安定させてくれます。

清熱作用も持ち、喉の腫れや痛みにも有効です。

体の各部位の緊張を緩めるためにも使われていて、先ほどもご紹介しましたが芍薬と合わせて使うことで筋弛緩作用を生み出し。

芍薬甘草湯、小建中湯などではこむらがえや腹痛の漢方薬として応用されています。

甘草は最も多く使われているだけに漢方薬を複数飲むと意図せずに甘草の摂取過多となってしまう場合があるので複数の漢方を飲むときは飲み合わせに注意しましょう。

 

桂皮(けいひ)

桂皮の基原はクスノキ科の樹皮または周皮の一部を除いたものです。

処方名に「桂枝」とつくものの多くにこの桂皮が使用されています。

主な効能は冷えを改善し、痛みを止めるなど。

桂皮はシナモンとほぼ同じ食薬と呼べるため薬膳的にも効果は同じです。

桂皮、と言っても中国では基原植物のケイの若枝を「桂枝」、樹皮を「肉桂」と呼んで区別しています。

枝である桂枝は手足、体表の発汗解熱に優れ。

肉桂は体幹を温める効果に優れています。

更に、心、脾、腎を温め気血の流れを改善し関節痛、痺れ、月経痛をも和らげてくれます。

 

生姜(しょうきょう)

生姜の基原ははショウガ科のショウガの根茎で、ときに周皮を除いたものです。

乾姜と同じショウガから作られている生薬ですが、その薬効には同じ所と違う所があります。

生姜、乾姜共に脾胃を温める力がありますが乾姜の方が勝ります。

ただし、生姜には発汗作用、止嘔作用、解毒作用があるのです。

軽く発汗させることで悪寒、発熱、関節痛、咳を軽減します。

またその止嘔作用は優れており、嘔吐を伴う胃腸炎やつわり、胃腸保護として多くの処方に含まれることも。

 

大棗(たいそう)

大棗はクロウメモドキかのナツメの果実です。

料理にもよく使われていますが、薬性はあまり強くなく甘味があるため漢方薬の味の調整目的で用いられることもあります。

ナツメは、日本ではあまり知られていませんが中国ではポピュラーな食材で薬膳としても漢方薬としても大棗は多く使われています。

食材のナツメは、気血水の「気」と「血」を補い、滋養強壮に効き、更にはイライラ不眠などの心身の疲れにも友好的。

日本ではあまり見ない食材でも薬膳を学習するとなると必ず登場すると言っても過言では無いほどの優秀な食材なので見つけたら取り入れてみるのが良いでしょう。

生薬としてのナツメも精神安定効果を持ちます。

ナツメの甘さは脾の気を補う働きをし、心血を補います。

気が頭部、腹部に急激に上昇して起きる不安、不眠、焦燥感などに効果的です。

ふむふむ・・・確かにどうしてフラッシュバックに
効果があるのか。これだけだと分からないね。
そう、だからこそこの処方の組み合わせを見つけ
沢山の患者さんを救った神田橋先生は凄い方なんだよ。
でも、僕のフラッシュバックのイメージは
思い出してパニックになるってイメージだったな。
そうだね、そう言った症状で漢方薬を使うなら
「パニック症」に使われるものの方が良いかもね。
知りたい!また使い分けの例も教えて!

パニック症に処方されることのある漢方薬とポイント生薬

桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)

桂皮、生姜→辛温薬で発汗させて風寒邪を除く

芍薬→血を補う

甘草、大棗→気を補う

竜骨、牡蛎→精神不安定を、重さのある生薬で落ち着かせる

 

帰脾湯(きひとう)

黄耆、人参、白朮、甘草、茯苓、大棗、生姜→脾の働きを改善し、気を補う

当帰→血を補う

竜眼肉、酸棗仁、遠志→心気を増やし、精神を安定させる

木香→気を巡らせ、腸の蠕動運動を正す

 

酸棗仁湯(さんそうにんとう)

酸棗仁→心気を増やし、精神を安定させる

茯苓→脾の働きを改善し、水分の代謝を正す、精神を安定させる

川芎→気の流れと血の流れを同時に改善させる

知母→体内の陰を補い、熱を冷ます

甘草→構成生薬の働きを整える


ポイント生薬

竜骨(りゅうこつ)(桂枝加竜骨牡蛎湯)

竜骨の基原は、大型ほ乳類の化石化した骨で、主として炭酸カルシウムからなります。

竜となのつく化石ですが恐竜とは関係が無く、サイ類、ゾウ類、マンモスなど、古代の大型哺乳動物の化石です。

歯は長い間かたさを維持していることから「気」の収斂作用が強いと考えられており特に歯牙の化石は「竜牙」(りゅうし)といいもっとも効果が高いと言われています。

牡蛎(ぼれい)と同じように精神を安定させる効果があり、元からもつ収斂作用で身体に必要なものが外に漏れてしまうことを防ぎます。

牡蛎にも言えることですが鉱物系の生薬は効果がどっしりと安定している傾向が強く、この竜骨も「気持ちを座らせる」と評されることがあります。

 

牡蛎(ぼれい)(桂枝加竜骨牡蛎湯)

牡蛎の基原はイタボガキ科のカキの貝殻です。

「ぼれい」と読みますが冬に美味しい牡蠣の殻のことです。

牡蠣は「海のミルク」と呼ばれる程に栄養価が高く、また食材としても体を潤し「血」を補い精神を落ち着かせてくれる作用があります。

生薬として用いる「ぼれい」もまた動揺する心神、肝を安定させてくれる効果があり不安、動悸、不眠に対する鎮静剤としてよく用いられます。

他にも牡蛎には身体に必要なものが外に出てしまうことを抑える効果と制酸作用があり。

寝汗、失禁、夢精、おりもの対策、胃酸過多にも使用することが出来ます。

 

竜眼肉(りゅうがんにく)(帰脾湯)

竜眼肉はムクロジ科のリュウガンの仮種皮です。

甘味の強い果実で、生薬としてはドライフルーツとして使用します。

ライチに似た丸い果実の中にある大きな黒い種子を竜の目に例えて竜眼と名前がついたと言われています。

そのまま食材としても使われる食薬であり、調理が不要であることから生活に取り入れやすい生薬であるとも言えます。

竜眼は日照時間や土壌の温度が関わっているため、温室では果実をつけず日本では鹿児島の大隅半島でようやく結実を見ることが出来るそうです。

血を養い、心を和らげる効果があり不眠症改善に効果があり、疲労や気血不足による精神症状、物忘れ、貧血にも効果があります。

 

酸棗仁(さんそうにん)(帰脾湯、酸棗仁湯)

酸棗仁の基原はクロウメモドキ科のサネブトナツメの種子です。

ナツメよりも酸味が強いので「酸棗」と言います。

生薬として、ナツメ(大棗)は果実を使いますが酸棗仁は中の種子を利用します。

「疲れているのに眠れない」と言う不眠の症状に用いられる生薬です、これは心の血虚による不眠で、精神も身体も落ち着かずじっとしていられない感じがあります。

動悸や、夢が多くなることもあり即効性はありませんが継続して服用することで次第に心血が補われて安眠効果が得られます。

酸棗仁の酸味も心神を引き締めることで精神を安定させます。

また、酸味は津液を補い皮膚を引き締め汗を止めるため陰虚の寝汗にも用いられます。

 

遠志(おんじ)(帰脾湯)

遠志の基原はヒメハギ科のイトイメハギの根または根皮です。

痰を除き心神の気血の流れを通じさせ、精神を穏やかに安定させる働きがあります。

「志を強くする」作用があることが名前の由来とされています。

ぼんやりとした、すっきりしない不安感、緩慢さ、不眠、夢が多い、動悸などに用いられています。

また、鎮咳去痰薬として慢性の呼吸器疾患などにも用いられます。

痰飲による皮膚の腫れもの、乳腺炎など初期の皮膚化膿症には外用薬として使われることも。

多量に使用するとむかつき、嘔吐を引き起こす恐れがあるので注意が必要です。

 

パニック症は長期的な治療を必要とする疾患です。

漢方薬を使用しても西洋薬を使用しても生活養生を加えた継続的なケアが求められます。

パニック症は「心」、「肝」、「腎」、「脾」のいずれか、あるいは複数に失調を起こしてバランスが崩れることで発作が起きるととらえます。

ここではパニック症を大きく2つに分けて考えてみました。

一つは「心」の気虚を主な原因としてパニック発作が起こってしまうタイプ。

もう一つは、肉体的な疲労が続いてパニック発作を起こしてしまうタイプです。

一つ目の「心」の気虚は曲後の精神疲労や不安で五臓の「心」が疲労して心に気(エネルギー)が不足してしまっているケースです。

この場合はパニック症以外にも疲労感、貧血症状、物忘れ、不眠、動悸などの症状があらわれます。

これに加えて、インポテンツ、早漏、夢精などがあり精神の興奮も感じている場合は桂枝加竜骨牡蛎湯。

食欲不振、寝つきの悪さ、無気力、めまい、たちくらみなどの症状が出ている場合は帰脾湯を選択するのがおすすめです。

次に肉体的な疲労が続いて、パニック発作を起こすタイプです。

この場合は他にも動悸、強い疲労感、不眠、精神の興奮、ほてりやのどの渇きなどの症状がみられます。

「心」気虚と似ている症状ですが、注目すべきは「ほてり」「のどの渇き」です。

このタイプの場合、体力消耗と共に体液も消耗しそのせいで体内にほてりや熱が生まれて動悸や精神の興奮が起こっています。

そのため、熱を下げ陰を補いってくれる酸棗仁湯がおすすめ。

身体を休ませて失われた陰液を補うことが重要です。

症状を見て、構成生薬を見るとなるほどーってなるね。
パニック症は特定の場面で症状が出ることも多いから、
避けられるならその状況を避けることも
生活養生の一環だよ。
そっか、健康に暮らすために出来ることだから
養生になるんだね。
今回は難しい話ばっかりだったけど、
どうだったペリスケ君。
難しかった・・・でも、頭が良くなった気がする!
僕も僕だけの漢方の組み合わせ見つけたいな!
そ、それは難しいんじゃないかな・・・。

こうしてペリスケ君の漢方薬入門の日々は続いていくのでした・・・

 

出典:

現場で使える薬剤師・登録販売者のための漢方相談便利帖 杉山卓也著 SHOEISHA

生薬と漢方薬の事典 田中耕一郎 編著 日本文芸社

 

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監修者 佐々木裕人(精神保健指定医、精神科専門医)