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漢方薬入門!肩こり

ある日の新宿ペリカンこころクリニック

うーん・・・。
あれ、珍しい先生がうなってるなんて。
やぁ、ペリスケ君。
いや、ずっと座って仕事しているから肩が痛くて。
僕が揉んであげるよ!
その代わり肩こりに効く漢方薬のお話して~。
ありがとうペリスケ君。あ~気持ちいいなぁ・・・。

肩こりで処方されることのある漢方薬とポイント生薬

葛根湯(かっこんとう)

麻黄、桂皮、生姜→辛温薬で発汗させて風寒邪を除く

葛根→辛涼薬で冷まして風熱邪を除く

芍薬→血を補う、痙攣を止める

甘草、大棗→胃気の不和を改善させる


桂皮(けいひ)

桂皮の基原はクスノキ科の樹皮または周皮の一部を除いたものです。

処方名に「桂枝」とつくものの多くにこの桂皮が使用されています。

主な効能は冷えを改善し、痛みを止めるなど。

桂皮はシナモンとほぼ同じ食薬と呼べるため薬膳的にも効果は同じです。

桂皮、と言っても中国では基原植物のケイの若枝を「桂枝」、樹皮を「肉桂」と呼んで区別しています。

枝である桂枝は手足、体表の発汗解熱に優れ。

肉桂は体幹を温める効果に優れています。

更に、心、脾、腎を温め気血の流れを改善し関節痛、痺れ、月経痛をも和らげてくれます。

 

生姜(しょうきょう)

生姜の基原ははショウガ科のショウガの根茎で、ときに周皮を除いたものです。

小青竜湯の時に紹介した乾姜と同じショウガから作られている生薬ですが、その薬効には同じ所と違う所があります。

生姜、乾姜共に脾胃を温める力がありますが乾姜の方が勝ります。

ただし、生姜には発汗作用、止嘔作用、解毒作用があるのです。

軽く発汗させることで悪寒、発熱、関節痛、咳を軽減します。

またその止嘔作用は優れており、嘔吐を伴う胃腸炎やつわり、胃腸保護として多くの処方に含まれることも。

生姜がもとになっているお寿司などに添えられている「ガリ」はこの生姜の解毒作用を用いたもので、生魚によって冷えたお腹も温めてくれます。

生姜はショウガとして食材に使用出来、効果も得られます。

 

葛根(かっこん)

葛根の基原はマメ科のクズの周皮を除いた根です。

軽い発汗作用があり、体表の熱を発散させるとともに、水を上昇させる働きをして口の渇きや下痢を改善し、上半身の筋肉の緊張を緩めます。

葛根湯が代表処方で、うなじ、肩、背中のこわばり、頭痛、下痢、発熱、悪寒などのかぜの初期症状に用いられます。

葛根には発疹を促して皮膚の表面に出す透疹作用があり、はしかの初期に同じ働きをする升麻とあわせて升麻葛根湯として使われています。

基原のクズは秋の七草にもなっている古くから親しまれている植物で。

クズのデンプンを用いた葛湯が民間で風邪や腹痛に飲まれてきました。


二朮湯(にじゅつとう)

蒼朮、白朮、茯苓→余剰な湿をとり除き、脾の働きを正す

生姜→脾の働きを改善する

半夏、香附子、陳皮→気を巡らせ、痰を除く

天南星→痙攣を止める、咳を鎮め痰を除去する

黄芩→熱を冷ます

甘草→構成生薬の働きを整える

威霊仙、羌活→痙攣を止める、風邪と湿邪を取り除く


蒼朮(そうじゅつ)

蒼朮の基原はキク科のホソバオケラの根茎です。

芳香で湿邪を取り除く芳香化湿作用を持ちます。

芳香化湿作用とは、香を有して気滞を解除し、胃腸にまとわりついた痰を除去し機能を回復する作用のことです。

湿邪による消化不良、腹部膨満、むかつき、嘔吐、下痢など胃腸トラブルで用いられます。

湿気を取り去る力が優れており、発汗、利水作用で水分代謝異常を改善。

風邪を追い払う作用もあります。

越婢加朮湯の構成生薬としては白朮か蒼朮どちらかが使用されますが。

蒼朮は白朮よりも除湿作用に優れ、白朮は蒼朮よりも消化器機能を高める作用が優れています。

 

白朮(びゃくじゅつ)

白朮の基原はキク科のオケラの根茎またはオオバナオケラの根茎です。

蒼朮とは同じ体の余分な湿気をとり除く作用がありますが、消化器の機能を高める力は蒼朮よりも白朮の方が優れています。

湿をとり除き、弱った消化器官を補うことから倦怠感、食欲不振、胃もたれなどの改善に効果があります。

また、湿気をとり除く効果からむくみ、めまい、ふらつき、関節痛などにも用いられます。

蒼朮とは類縁でありながら、香りも有効成分も違いますが一緒に用いることで湿気をとる力を高めることが出来るため同じ漢方薬の構成生薬として使われていることも。

 

半夏(はんげ)

半夏の基原はサトイモ科のカラスビシャクのコルク層を除いた塊茎です。

夏の半ばに花を咲かせることからその名がつけられました。

近年はあまり見かけませんが田畑や山の道端に自生していることもあるくらいに身近な植物です。

身体の湿気を取り除くことで「湿」と関連する痰の多い咳、嘔吐、めまい、胸のつかえなどに効果があります。

また、胃の辺りの水分の停滞を改善するのにもよく利用されています。

使用されている漢方薬で特に有名な半夏厚朴湯は検査しても異常が無いのに喉に何か詰まっているような感じを覚えるヒステリー球、梅核気の処方として使用されますが。

それは、この「つかえをとる」効果から来ています。

つかえをとることで「気」も巡らせるため、抑うつ症状にも使用されています。


疎経活血湯(そけいかっけつとう)

当帰、芍薬、川芎、地黄→血を補う

防風、防已、羌活、威霊仙、白芷→風邪と湿邪を取り除く

蒼朮、茯苓→水分の代謝を正す

桃仁、牛膝→血の汚濁を解消して、血行を改善する

竜胆→熱を冷ます、湿を解消する

陳皮、生姜、甘草→胃気の不和を改善させる


当帰(とうき)

当帰の基原はセリ科のトウキまたはホッカイトウキの根を、通例、湯通ししたものです。

当帰は血を補う補血の生薬では必ずと言っていいほど使われている生薬です。

血を補う補血と、血を巡りを改善させる活血の作用をもちあわせている生薬でもあります。

血虚によりおこる月経トラブルに広く対応するため婦人科では主薬として用いられています。

血の巡りをよくすることで痛みを改善させ、頭痛、胸痛、筋痛などにも有効です。

また、全身の症状以外にも血には皮膚修復機能があるので皮膚可能証や打撲傷のような皮膚疾患にも使用されます。

 

川芎(せんきゅう)

川芎の基原はセリ科のセンキュウの根茎を、通例、湯通ししたものです。

血の流れをよくする活血作用があり、血を補う生薬と組み合わせると瘀血が取り除かれて新しい血を効率よく作り出すことが出来ます。

当帰と並ぶ、婦人科系の重要な生薬で「血中の気薬」とも呼ばれています。

気薬、と言うのは気を動かす薬と言う意味です。

肝の気血の流れをよくすることで感情の処理機能を高め、いらだちを鎮め精神的なリラックスを得る効果があります。

また、身体に侵入した風邪を追い出して頭痛などの痛みを止める作用もあります。

 

桃仁(とうにん)

桃仁は基原がバラ科のモモの種子、つまり桃の種です。

桃を食べていた時に出てくるアーモンドのような種が桃仁と呼ばれる生薬なのです。

勿論食べることは無いと思いますが、桃仁は瘀血による血の巡りを改善し血をよく巡らせる効果がある代表的な生薬です。

月経痛や、月経量の減少、月経停止、血塊など月経トラブルによく使われるほか外傷後の瘀血にも使用されます。

血の巡りを整えることに関して、桃仁は抜群の強さがあります。

また、桃仁は大きく油分の多いものが良品とされておりこの油分で便秘改善にも効果的です。


越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)

麻黄、蒼朮→水分の代謝を正す

石膏→熱を冷ます

蒼朮、大棗、生姜、甘草→脾の働きを改善する


麻黄(まおう)

麻黄は砂漠の乾燥地帯に生息し、寒暖差に強い植物です。

身体を温めたり発汗させる生薬の中では最も強力で悪寒が強く発汗しないタイプの感冒に使用されています。

インフルエンザなどで処方されることも多い麻黄湯にも入っている生薬です。

気管支拡張作用も持つことから、せき、喘息のような呼吸困難にも用いられます。

また、温めることで水を動かし痛みをとるため顔面のむくみやむくみからくる関節痛にも効果があります。

ただし、この麻黄は一般的に用いられている生薬でありながらドーピング検査では禁止薬となっているという一面も持っています。

副作用として、発汗過多、動悸、血圧上昇。

また、胃腸障害も出やすいので元々胃腸が弱い方は避けた方がよろしいでしょう。

 

石膏(せっこう)

石膏の基原は天然の含水硫酸カルシウムで組成はほぼCaSO4・2H2Oです。

こちらは、植物由来ではなく鉱物から作られる生薬で、美術室などにある「石膏像」の石膏と同じものです。

石膏は優れた清熱作用を有しますが他の生薬と異なり体の水分を保持してくれる利点があり津液不足でも使用出来ます。

知母と組み合わせて「白虎湯」(びゃっことう)と言う漢方薬がありますがこれは西方を守護する白い虎、白虎の色と石膏が同じ白色であること。

また、西は秋と関連し暑気冷ましの季節にあたることから清熱作用がある石膏と同じであると言った似通った性質を持つことから名づけられています。

白虎とつく漢方薬は他にも、白虎加桂枝湯、白虎加人参湯などがあります。

構成生薬が沢山出てきた、効果もいっぱいだね!
肩こりは原因が様々だから
使われる漢方薬も様々なんだよ。
どうやって選べばいいのかな?
じゃあ、説明していくね。

病邪、体質からみる肩こり

肩こりは様々な年代の方に起こり、そこから首こり、背中の筋肉のこわばりなどを伴い。

更には頭痛、めまい、吐き気などを招くこともあります。

慢性的な肩こりに悩まされている方も少なくはないでしょう。

肩こりの原因は外から来る邪気によるものと、自分がつくり出す瘀血によるものなど様々。

原因によって用いる処方が異なるので痛みを感じた時にはその原因をよく知ることが重要です。

ここでは大きく4つの原因に分けて考えます。

風寒からくるもの、痰飲からくるもの、瘀血からくるもの、風湿熱からくるものです。

まず、風寒からくるものは風邪(ふうじゃ)寒邪(かんじゃ)の冷えによって血行がわるくなり肩の筋肉が収縮して起こるものです。

肩の1か所、と言うよりは肩全体がこわばったように痛みます。

このタイプの方におすすめなのは「葛根湯」(かっこんとう)です。

葛根湯は身体を温め、また血管拡張作用で上半身の血行促進に効果的。

ただし、急性症状に短期的に用いることに長けているので長期的な服用には向いていないので注意して下さい。

続いて痰飲からくるものです。

最初に、痰飲とは水分の代謝が滞った状態の一つで、しつこい湿邪でべっとりと停滞したもののことをさします。

このタイプは湿度が高い時に悪化する痰飲による肩こりで、肩が全体的にはれて重だるくなります。

このような方におすすめなのは「二朮湯」(にじゅつとう)です。

二朮とは、蒼朮と白朮のことでどちらも利水作用に優れた生薬です。

これらの生薬を用いて温めながら痰飲を除いていきます、この漢方薬は五十肩にも処方される漢方薬です。

続いて瘀血からくるものです。

こちらは外の邪気からではなく、瘀血が原因で起きる肩こりです。

瘀血は簡単に言えば気血水の血の流れが悪い体質のこと。

血虚(血不足)の方は血の流れが滞りやすくそれが瘀血となって痛みを起こします。

肩の痛みがピンポイントで固定され、そこが指すように痛むと言う方はこのタイプの方かも知れません。

そんな方におすすめなのは「疎経活血湯」(そけいかっけつとう)です。

血を補いながら血の巡りを改善してくれます。

最後は風湿熱からくるものです。

これは、湿熱によって炎症が起こり肩が熱をもってだるい痛みを感じます。

このような方におすすめなのは「越婢加朮湯」(えっぴかじゅつとう)です。

麻黄で湿をとり、石膏で消炎することで症状を緩和してくれます。

肩こりの原因まで考えたことなかったな。
患部に感じる痛みの種類も参考になるんだよ。
ふー・・・先生、肩はどうかな?
凄く軽くなったよ、揉んでくれてありがとうペリスケ君。
ねぇ、先生肩こりに効く食材って・・・。
頑張ってくれたから、勿論紹介するよ!

玉ねぎ

玉ねぎは滞った気と血の巡りをよくする作用があるので頭痛、お腹の張り、肩こり、肌のくすみを改善に導いてくれます。

利尿作用もあるのでむくみやすい人にもおすすめ。

気血水の巡りが悪い人全般に適している食材です。

 

ニラ

ニラには、身体の熱となる陽を補う働きがあります。

冷えて弱くなった五臓の機能を温めることで回復に導いてくれます。

冷えが引き起こす腹痛、下痢、便秘、消化不良の改善に良いでしょう。

また、血の巡りを活発にしてくれるので肩こり、肌のくすみ、目の下のクマ、生理痛、血栓の予防にもおすすめです。

 

黒砂糖

黒砂糖は、身体を温めて気血水の巡りを良くしてくれます。

手足や関節の冷え、悪寒を伴う冬の感冒にも効果的です。

体内の巡りを促す効果で肩こり、生理痛、頭痛など冷えや血行不良による痛みの改善に適しています。

また、水分代謝も活発になるので体の怠さやむくみにも効果が期待出来ます。

どれも巡りを改善する食材なので、
使いやすいものを使ってみてね。
よーし、今日はいつものお礼に肩こり解消薬膳も作るね!
それは楽しみだなぁ、ありがとうペリスケ君!
漢方薬も選びに行こうね、腕が鳴るな~。

こうしてペリスケ君の漢方薬入門の日々は続いていくのでした・・・

 

出典:

現場で使える薬剤師・登録販売者のための漢方相談便利帖 杉山卓也著 SHOEISHA

生薬と漢方薬の事典 田中耕一郎 編著 日本文芸社

 

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監修者 佐々木裕人(精神保健指定医、精神科専門医)