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漢方薬入門!生薬って何だ?

うーん・・・
どうしたんだいペリスケ君。

漢方薬を試してみようと思って
何が入っているか見ているんだけど
難しくて分からないんだ。
どれどれ・・・なるほど、
構成生薬を調べていたんだね。

こうせいしょうやく?
漢方薬は「生薬」(しょうやく)の
組み合わせで出来ているんだよ。
今回は、生薬について勉強してみよう。

生薬とは

まず、簡単に言うと生薬とは「天然に存在する」「薬効の目立つ」もののことです。

天然に存在する、と言うのは植物や動物、鉱物なども当て嵌まります。

美容効果で有名な「プラセンタ」も実は生薬で名前を「紫荷車」(しかしゃ)と言います。

元々は胎盤から得られる生薬です。

また、博物館の展示などでもみられる琥珀も、鉱物系の生薬の一つで。

「重鎮安神」効果があります(重鎮安神については後程詳しくご紹介します)

 

先人たちは生薬の元となるものを口に入れ、効果を自ら感じ分類してきたのです。

そう考えると胎盤や鉱物も口に入れてみようと思ったことが驚きですよね。

 

そのため、生薬の中には「食材」としての一面を持つものもあります。

それらは「食薬」(しょくやく)と呼ばれ食材として薬膳で、生薬として漢方薬で活躍してくれます。

そして、生薬も食材と同じように五味と五性(それぞれの味による作用と寒涼平温熱で分類される体を冷やす温める作用)があり生薬を選ぶ上でのキーポイントとなります。

 

では、実際に漢方薬を一つ紐解いてみましょう。

風邪の引き始めで有名な「葛根湯」(かっこんとう)

この構成生薬は以下の通りです。

葛根(かっこん)、麻黄(まおう)、大棗(たいそう)、桂皮(けいひ)、芍薬(しゃくやく)、甘草(かんぞう)、生姜(しょうきょう)

この7つの生薬が配合され、葛根湯は構成されています。

 

葛根自体の消炎、解熱作用に加え。

麻黄、桂皮、生姜に葛根を合わせた発汗作用。

そして、芍薬、甘草、大棗による痛みの緩和の効果があります。

 

麻黄、桂皮、生姜、葛根は全て「解表剤」(げひょうざい)と言うカテゴリの生薬ですが葛根のみ消炎、解熱の性質を持ちます。

解表剤には温めて発汗させる作用の強い辛温解表剤と、熱を冷ましながら発汗させる辛涼解表剤があるのですが。

葛根湯の中では唯一「葛根」のみが辛涼解表剤の効果を持ち、葛根湯では一番多い構成生薬のため実は葛根湯は「汗をかかせる」作用は他の解表剤に比べるとやや劣ります。

ただ、葛根の持つ上半身の痛みを緩和させる効果があるため「汗をかいておらず」かつ「上半身の痛み」を伴う初期の感冒では幅広く活躍してくれます。

 

そこに更に痛みを緩和してくれる生薬が加わります。

元々甘草と大棗は補気健脾(気を補充して脾を整える)作用、芍薬は補血作用のある生薬です。

中でも芍薬は甘草と合わさることで初めて筋弛緩効果を発揮することが出来ます。

 

こうして紐解いてみると初めて、「葛根湯」が痛みを伴う初期の感冒に合わせるため構成されていることがよく分かりますね。

加わっている生薬の構成が一つ違うだけでその内容は変わっていきます、同じ効果でも自分の症状によりあったものを選ぶことが出来るのが漢方薬の素晴らしい所です。

どうだい?
少しは生薬に興味を持ってくれたかな?

うん!ところで先生
生薬って全部でどれくらいあるの?
日本で常用されているのは200種類程度と言われているよ

えぇ!?そんなに覚えられないよ・・・
全部覚えなくても大丈夫!
自然にあるものや、見たことのあるものから知ってみよう!

陳皮(ちんぴ)

陳皮は基原がミカン科、ウンシュウミカンの成熟した果皮のことを指します。

つまりミカンの皮です。

ミカンは薬膳的には実と皮で効果が異なるため、ミカンの実を食べても陳皮と同じ効果では無いので注意して下さい。

 

柑橘類の生薬は酸味、甘味のバランスと成熟未成熟の効能で分けられます。

気を巡らせる作用で代表的な「理気」(りき)剤です。

 

その中でも甘味のある陳皮は気を巡らせて「湿」、お腹に溜まった食べ物を取り除くため吐気、胃もたれ、お腹の張りなども改善してくれます。

日本は元来「湿」が高い地域のため陳皮は日本で使われる重要な生薬となっています。

また、陳皮はその温性の性質からお風呂に入れたり、紅茶に入れると体が温まります。

 

構成生薬として使われている代表的なものとしては二陳湯、六君子湯、平胃散、半夏白朮天麻湯、茯苓飲など。

どれも胃腸周りに陳皮が活躍している漢方薬です。

理気作用としてはその名も名前に含まれている抑肝散陳皮半夏などが有名です。

 

気を巡らせる効果と、理気作用で気滞や水毒の体質の方には合う生薬です。

桃仁(とうにん)

桃仁は基原がバラ科のモモの種子、つまり桃の種です。

桃を食べていた時に出てくるアーモンドのような種が桃仁と呼ばれる生薬なのです。

勿論食べることは無いと思いますが、桃仁は瘀血による血の巡りを改善し血をよく巡らせる効果がある代表的な生薬です。

 

月経痛や、月経量の減少、月経停止、血塊など月経トラブルによく使われるほか外傷後の瘀血にも使用されます。

血の巡りを整えることに関して、桃仁は抜群の強さがありますね。

また、桃仁は大きく油分の多いものが良品とされておりこの油分で便秘改善にも効果的です。

 

構成生薬として使われている代表的なものとしては桂枝茯苓丸、桃核承気湯、大黄牡丹皮湯、桂枝茯苓丸薏苡仁、順腸湯など

 

桃はその実自体も血の巡りを改善し、腸を潤してくれます。

ちなみに、葉っぱもあせもなどの皮膚病薬に用いることが出来るので桃は捨てる所の無い果物なのです。

杏仁(きょうにん)

杏仁の基原は、バラ科のホンアンズまたはアンズの種子。

こちらも杏子の「種」の部分が生薬です。

 

主な薬効は咳止め、便通改善。

中でも咳止め薬として広く使われています。

麻黄と呼ばれる生薬とは組み合わさると効果が高まるためよく一緒に配合される相棒のような存在です。

一つ前に紹介した桃仁とは同じバラ科であり、ともに咳止め、便通改善に効果があります。

 

では、同じように使えば良いかと言うと杏仁には気を付けないとならないことがあるのです。

それは、杏仁に含まれるアミクダリンと言う成分。

アミクダリンには軽い毒性があり、多量に服用すると嘔吐、けいれん、下痢などの副作用が出てしまうことがあるのです。

お子様に用いる時は量に気を付けて使ってあげてください。

 

構成生薬として使われている代表的なものとしては、五虎湯、麻黄湯、麻杏甘石湯、麻杏薏甘湯、苓甘姜味辛夏仁湯、潤腸湯などです。

枇杷葉(びわよう)

枇杷葉は基原がバラ科のビワの葉、名前そのまま枇杷の葉が使用されている生薬です。

食材としての枇杷は余分な熱を取り、火照りを解消してくれる涼性の果実です。

喉の渇きを癒す効果もあるため、咳にも効果的です。

 

では、生薬としての枇杷葉はどのような効果を持つのでしょうか。

まず、枇杷葉は枇杷と異なり苦みを有します。

主に肺と胃を冷やす性質と気の上逆(逆流)を下ろす作用があります。

つまり熱をもった肺や胃の不調、嘔吐に強い生薬と言うことです。

 

構成生薬として使われている代表的なものとしては辛夷清肺湯、甘露飲など。

甘露飲は保険適応外の漢方薬のため中々お目にかかる機会はありませんが、辛夷清肺湯は慢性鼻炎、蓄膿症に効果のある漢方薬です。

あの果物やフルーツも生薬の元だったんだ・・・
なんだか漢方薬が身近に感じてきたよ!

いつも食べている所だけでなく、
種や葉も薬に変えてしまうなんて凄いよね。
先生、今度はいつも食べている部分を生薬として使っているものが知りたいな。
よし、じゃあまたいくつか勉強してみよう!

桂皮(けいひ)

桂皮の基原はクスノキ科の樹皮または周皮の一部を除いたものです。

これだけだと桂皮は何の皮なのかな?と思いますが「クスノキ科」の「Cinnamomum cassia Blume」の樹皮と言うともしかしたらぴんと来る方もいらっしゃるかも知れません。

桂皮は別名「シナモン」と呼ばれるもので料理やお菓子にも沢山使用されていますね。

 

処方名に「桂枝」とつくものの多くにこの桂皮が使用されています。

主な効能は冷えを改善し、痛みを止めるなど。

桂皮はシナモンとほぼ同じ食薬と呼べるため薬膳的にも効果は同じです。

 

桂皮、と言っても中国では基原植物のケイの若枝を「桂枝」、樹皮を「肉桂」と呼んで区別しています。

枝である桂枝は手足、体表の発汗解熱に優れ。

肉桂は体幹を温める効果に優れています。

更に、心、脾、腎を温め気血の流れを改善し関節痛、痺れ、月経痛をも和らげてくれます。

 

生薬であると同時に食材であることからも飲みやすい桂皮。

漢方薬が苦手な方でご紹介した症状に悩まれている方はシナモンティーでも効果を期待出来ると思いますよ。

 

構成生薬として使われている代表的なものとしては、桂枝湯、桂枝加芍薬湯、桂枝加竜骨牡蛎湯、麻黄湯、葛根湯、五苓散、十全大補湯などです。

大棗(たいそう)

大棗はクロウメモドキかのナツメの果実です。

料理にもよく使われていますが、薬性はあまり強くなく甘味があるため漢方薬の味の調整目的で用いられることもあります。

 

ナツメは、日本ではあまり知られていませんが中国ではポピュラーな食材で薬膳としても漢方薬としても大棗は多く使われています。

食材のナツメは、気血水の「気」と「血」を補い、滋養強壮に効き、更にはイライラ不眠などの心身の疲れにも友好的。

日本ではあまり見ない食材でも薬膳を学習するとなると必ず登場すると言っても過言では無いほどの優秀な食材なので見つけたら取り入れてみるのが良いでしょう。

 

生薬としてのナツメも精神安定効果を持ちます。

ナツメの甘さは脾の気を補う働きをし、心血を補います。

気が東部、腹部に急激に上昇して起きる不安、不眠、焦燥感などに効果的です。

 

構成生薬として使われている代表的なものとしては、甘麦大棗湯、葛根湯、桂枝湯、桂枝加朮附湯、桂枝加竜骨牡蛎湯、小柴胡湯など。

胡麻(ごま)

胡麻の基原はゴマ科ゴマの種子です。

そのまま胡麻です、セサミンと言う名前で目に良いことで有名ですね。

生薬としても視力低下に効果があります。

 

薬膳で言うと黒ゴマは「腎」を補い、白ごまは「肺」を補うのに良いとされています。

中でも黒ゴマは白髪、皮膚の乾燥などのアンチエイジングにも効果的。

古代中国では「仙薬」(せんやく)と呼ばれ非常によく効く薬と言われていたそうです。

 

油分が豊富なため圧縮して得られるゴマ油は紫雲膏や中黄膏など軟膏剤の基としても使われます。

構成生薬として使われている代表的なものとしては、消風散、紫雲膏などです。

山椒(さんしょう)

山椒の基原はミカン科のサンショウ皮で、果皮から分離した種子をできるだけ除いたものです。

日本では赤く熟した実を粉末にした「粉山椒」、花を「花山椒」、青い果実を「実山椒」として料理に使用します。

 

体内の冷えを改善する働きがあり、特に胃に作用します。

冷たいものを食べるとなる腹痛、下痢にあっている生薬です。

腸管の熱さと寒さを感じる受動態に山椒が入ってくると「熱い」という情報が流れ、腸管の運動を促進させ、腸管への血流を増加させることでお腹の冷えをとってくれます。。

冷えを改善するほかに、殺虫の効果もあり駆虫薬としても以前は用いられていました。

山椒は身体の中を温める働きを持つ「温裏薬」(おんりやく)に属しています。

香辛料の多くがこの温裏薬であり、他にもショウガやコショウもこの温裏薬に属しています。

 

構成生薬として使われている代表的なものとしては大建中湯、当帰湯などです。

僕が食べたことある食材ばっかりだった!
でもそれが漢方薬の元になってるんだね。
そうだね、生薬は特別に作られたものでは無く
暮らしの中から生まれたことが分かったかな?

うん!あ、そう言えば先生。
最初に植物も生薬になるって言ってたけどお花が咲くものもあるの?
勿論、じゃあ次は綺麗なお花の写真と
その生薬を勉強していこう!

桔梗(ききょう)

桔梗の基原はキキョウ科のキキョウの根です。

桔梗の根は古くから親しまれている生薬で呼吸のリズムを整え、咳を止め、消炎作用を持ちます。

例えば痰が絡んで息がしづらい、咳が止まらない、痰が出るなど呼吸器疾患。

膿を出す働きにも優れるので化膿性の皮膚疾患、咽頭炎、扁桃炎、中耳炎などに用いられます。

 

構成生薬として使われている代表的なものとしては、桔梗湯、桔梗石膏、小柴胡湯加桔梗石膏、十味敗毒湯、参蘇飲、排膿散及湯など。

 

「桔梗」とその名に入るものはどれも喉の痛みや喉のトラブルに強い処方です。

親しまれてきただけに、もしかしたらその名前を見るだけで先人達は喉にまつわる漢方薬と判断出来たかも知れませんね。

牡丹皮(ぼたんぴ)

牡丹皮の基原はボタン科のボタンの根皮です。

牡丹は花の王とも呼ばれている美しい花ですが、古くから生薬としても栽培されていました。

香りが強いものが良品とされ、血を動かす力があります。

 

吐気を止める、血の巡りを良くする、熱を取り去る効果を持ち。

月経時に血の塊が生じる証を「瘀血」と呼びますが、この瘀血を取り除く活血化瘀作用があります。

月経痛や月経不順、不正性器出血、産後の衰弱にも友好です。

また、熱を取り去る清熱涼血作用もありストレスによって生じた熱にも用いることが出来ます。

更に更年期の発汗、顔面紅潮にも有効であり女性の三大漢方の一つと呼ばれる「加味逍遥散」に配合されています。

余談ですが、牡丹の花ことばは「高貴」、「王者の風格」。

麗しい牡丹が女性の味方の漢方薬に配合されているとは、なんだか心強いですよね。

 

構成生薬として使われている代表的なものとしては、加味逍遥散、桂枝茯苓丸、桂枝茯苓丸薏苡仁、大黄牡丹皮湯、八味地黄丸などです。

百合(びゃくごう)

百合の基原は、ユリ科のオニユリ、ハカタユリの鱗片葉を、通例蒸したものです。

これは、百合の鱗茎(りんけい)と呼ばれる部分を指します。

鱗茎とは、養分をたくわえて厚くなった葉が茎のまわりに多数重なって球状になっているもののことです。

百合はゆり根の食べている部分のことなので、ゆり根想像していただけると一致しているかと思います。

 

津液不足を改善し肺を潤し、咳を止めてくれます。

また、大病後に微熱と精神不安(不眠、動悸、焦燥不安感)を「百合病」と呼び。

「心」に作用する効果から精神安定作用も持つことが言われています。

食材としてのゆり根も不安感やイライラを和らげる食材であり、肌に潤いを与えてくれます。

 

構成生薬として使われている代表的なものとしては辛夷清肺湯などです。

芍薬(しゃくやく)

芍薬の基原はボタン科のシャクヤクの根です。

「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」と美しいことの形容として用いられる芍薬。

こちらも牡丹と同じ女性の三大漢方の一つ、当帰芍薬散と加味逍遥散に配合されています。

 

中国では血を補う「白芍」と、流れを良くする「赤芍」で使い分けられていますが日本ではその中間的な作用を持つとされています。

芍薬の補血作用は「血の量を増やす」と言うよりも「血の少ない部分に血を集める」と言う作用が強く局所的な血不足の解決に優れています。

血の巡りが悪い「瘀血」タイプでは無く血が少ない「血虚」タイプにあった生薬であると考えられます。

また、最初の葛根湯の際にも触れましたが甘草と合わさることでのみ筋弛緩効果を発揮する珍しい効果を持つ生薬です。

 

構成生薬として使われている代表的なものとしては当帰芍薬散、葛根湯、芍薬甘草湯、桂枝茯苓丸、加味逍遥散などです。

さて、今日はこのくらいにしようかな。
ペリスケ君どうだった?
なんだか生薬に詳しくなった気がするよ!
次から構成生薬を見た時に良かったら調べてみてごらん。
面白い生薬が見つかるかも知れないよ。
うん!なんだか漢方薬にもっと興味がわいてきた!
ありがとう先生!

 

こうしてペリスケ君の漢方薬入門の日々が始まったのでした。

 

出典:

現場で使える薬剤師・登録販売者のための漢方相談便利帖 杉山卓也著 SHOEISHA

生薬と漢方薬の事典 田中耕一郎 編著 日本文芸社

 

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監修者 佐々木裕人(精神保健指定医、精神科専門医)