ある日の新宿ペリカンこころクリニック
まずは分かりやすいものから始めると良いよ。
聞いたことある!ってものが良いんじゃないかな。
まずは漢字を見て基原が想像出来るものから見てみよう。
その薬用部位を表す言葉のことだよ。
薄荷(はっか)
薄荷の基原はシソ科のハッカの地上部です。
英語で言うミントのことです。
薄荷キャンディー、ミントティーなど様々なお菓子やアクセントに使われ、主要成分のメントールも聞いたことがある方は多いかも知れません。
「肝」の働きを助け、熱感の強い感冒を冷やしながら治しますが。
頭部、目、のどに良く作用し頭痛、咽頭痛、声のかすれ、充血に使われます。
また、ミントの香りを嗅ぐとスッキリする、と言うのも効果の一つで精神的な気持ちの落ち込みやかゆみなどにも効果的です。
直接食べることも出来るため食薬の一つであり、食材としても同じ効果を感じることが出来ます。
構成生薬として使われている代表的なものとしては加味逍遥散、川芎茶調散、清上防風湯、銀翹散、防風通聖散などです。
紅花(こうか)
紅花の基原はキク科のベニバナの管状花をそのまままたは黄色色素の大部分を除き、圧搾して板状としたものです。
生薬では「こうか」と呼びますが食用油、サフラワー油の原料である「べにばな」のことです。
サフラワー油のパッケージにも使用されたことがあり実物は無くとも絵や写真は診たことがある方はいらっしゃるかも知れません。
生薬自体も赤色が目を引く鮮やかな色合いをしています。
赤い色の生薬は「血」に作用すると考えられています。
血流改善、瘀血除去、瘀血による痛みを止める効果を持っており、月経痛、打撲、ねんざ、冷えなどで用いられます。
構成生薬として使われている代表的なものとしては通導散、治頭瘡一方、折衝飲などです。
菊花(きくか)
菊花の基原はキク科のキクまたはシマカンギクの頭花です。
お仏壇などに供える菊とは違い、林道などに生えている菊を指します。
ピクニックやハイキングなどに行かれた際に目にしたことがあるかも知れません。
東洋医学では自然界の気候と薬効が同調すると考えられているため、10月頃秋が深まり暑さが落ち着いてくる時期に咲く菊花は清熱作用に優れています。
また、菊は根元の葉を枯らしながらも上部へと発散して花を咲かせる植物。
そのため、最上部である花の部分を生薬として使う菊花は人間の体でも丈夫である頭部の熱を冷まし、目の視力を明瞭にする作用があります。
構成生薬として使われている代表的なものとしては釣藤散などです。
牡蛎(ぼれい)
牡蛎の基原はイタボガキ科のカキの貝殻です。
「ぼれい」と読みますが冬に美味しい牡蠣の殻のことです。
牡蠣は「海のミルク」と呼ばれる程に栄養価が高く、また食材としても体を潤し「血」を補い精神を落ち着かせてくれる作用があります。
生薬として用いる「ぼれい」もまた動揺する心神、肝を安定させてくれる効果があり不安、動悸、不眠に対する鎮静剤としてよく用いられます。
他にも牡蛎には身体に必要なものが外に出てしまうことを抑える効果と制酸作用があり。
寝汗、失禁、夢精、おりもの対策、胃酸過多にも使用することが出来ます。
構成生薬として使われている代表的なものとしては安中散、桂枝加竜骨牡蛎湯、柴胡桂枝乾姜湯などです。
山査子(さんざし)
山査子の基原はサンザシまたはオオミサンザシの偽果をそのまままたは縦切りもしくは横切りしたものです。
山査子だけだとぴんと来ない方もいらっしゃるかも知れませんが、お祭りの屋台などでよく販売されている写真のような縦に並んだ小さいりんご飴に似たものを見ていただくと想像しやすいかも知れません。
山査子飴の本場中国では「糖葫芦」(タンフール)と呼ばれています。
山査子は胃腸機能の低下、または過食が重なる結果飲食物が停滞した状態に用いられる「消食薬」です。
特に山査子は肉類、油、乳製品などの脂質の多い飲食物の消化を促進させて胃もたれ、膨満感、下痢などに効果があります。
また、瘀血を解消する作用もあり瘀血による痛みや月経痛などにも使用されています。
構成生薬として使われている代表的なものとしては啓脾湯、保和丸などです。
連想はしやすいよね。
蘇陽(そよう)
蘇陽の基原はシソ科のシソまたはチリメンジソの葉および枝先です。
薬味として用いられているシソのアカジソの方です。
ハーブとしても用いられていて、食薬の一つでもある多種多様な使い方をされている生薬です。
その香りは風邪を追い払う作用があるため感冒薬、特に消化器症状を伴う感冒に有効です。
「肺」「脾」「胃」の気を巡らせる効果もあり気滞を取り除くため吐気、嘔吐、胸のつかえ、不快感などにも用いられます。
その効果から「半夏厚朴湯」と言う喉や胸に感じるつかえに用いられる漢方にも含まれています。
食材として食しても体を温める効果に優れ感冒を遠ざけ、シソの香り成分で胃液の分泌を促し食欲増進、吐き気を防いでくれます。
構成生薬として使われている代表的なものとしては参蘇飲、香蘇散、柴朴湯、半夏厚朴湯、茯苓飲号半夏厚朴湯などです。
山薬(さんやく)
山薬の基原はヤマノイモ科のヤマノイモまたはナガイモの周皮を除いた根茎です。
山で産する、と言うことから山薬と言う名前がつけられています。
食材としても滋養強壮に優れ、「腎」、「脾」、「胃」を養い消化吸収を高めスタミナ不足の改善に役立ってくれます。
腎を養うことはアンチエイジング効果にも繋がっているため、ヤマイモを積極的に食べることはアンチエイジングにも効果的。
老化予防、ホルモンバランスの調整と大活躍し更年期障害による不定愁訴にも効果が期待出来ます。また、お子様の発育も促してくれる成長を司る食材です。
生薬としても「腎」、「脾」を同時に補ってくれるので腎虚、脾虚が伴っている方に適しています。
また、他の脾虚の生薬と違い気を補う以外に下痢を止めてくれる効果もあります。
構成生薬として使われている代表的なものとしては啓脾湯、八味地黄丸、六味丸などです。
枳実(きじつ)
枳実の基原はミカン科のダイダイまたはナツミカンの幼果をそのまままたはそれを半分に横切りしたものです。
温州ミカンの皮を使用したものを「陳皮」と言いますが、こちらはダイダイとナツミカンを使用しでいます。
同じダイダイ、ナツミカンでも成熟したものは「枳殻」(きこく)と言いますが枳実の方が理気作用に優れています。
果実は成長途中で苦みが強く、その刺激で強力に気を巡らせる作用を持ちます。
そのため、胸腹部の痰、胃のみ消化物を取り除き。
胸の痛み、つかえ、腹部膨満感、食欲不振、もたれ、腹痛、便秘、食べすぎなどの改善にも用いられます。
構成生薬として使われている代表的なものとしては四逆散、大柴胡湯、大承気湯、竹茹温胆湯、通導散、香砂平胃散、茯苓飲などです。
鬱金(うこん)
鬱金の基原はショウガ科のウコンの根茎です。
飲み会前、飲み会後に、と言う謳い文句で有名なウコンですが生薬としてはその季節によって名前が違います。
日本で鬱金とは秋ウコンのことでありターメリックと言う香辛料でも知られています。
中国で鬱金と言うと春ウコン(姜黄)であり、更に塊根、根茎で使い分けがされているため一様に「鬱金」と言ってもどの鬱金なのか注意しないといけません。
「気」「血」を巡らせ通りをよくすることで気滞瘀血による胸腹部の痛み、乳房の痛み、月経痛、打撲などの痛みを和らげてくれます。
また、胆汁分泌を促す利胆作用があり二日酔いのむかつきに効果があると言われています。
このため、先述のような謳い文句で商品化されているのでしょう。
構成生薬として使われている代表的なものとしては中央膏などです。
山梔子(さんしし)
山梔子の基原はアカネ科のクチナシの成熟果実です。
「くちなしの花」と言う題名でヒットした1970年代の曲があります。
その歌詞でも歌われる白い花が特徴の植物です。
臓腑以外の隙間を「三焦」(さんしょう)と言いますが山梔子はこの三焦のこもった熱をとるため幅広く熱証に使用されています。
イライラやのぼせ、不安などが出る精神不安定で自制が効かない「煩躁」(はんそう)と言う状態にも効果があります。
また、利尿作用も持っている生薬です。
副作用として腸間膜静脈硬化症という疾患が言われているため内服している場合消化管内視鏡での検査が勧められています。
構成生薬として使われている代表的なものとしては茵蔯蒿湯、黄連解毒湯、加味逍遥散、清上防風湯、温清飲などです。
「あれも生薬なんだ」って思うと違ってこないかい?
ペリスケ君は「竜」って分かるよね。
かっこよくて大好き!
竜骨(りゅうこつ)
竜骨の基原は、大型ほ乳類の化石化した骨で、主として炭酸カルシウムからなります。
竜となのつく化石ですが恐竜とは関係が無く、サイ類、ゾウ類、マンモスなど、古代の大型哺乳動物の化石です。
歯は長い間かたさを維持していることから「気」の収斂作用が強いと考えられており特に歯牙の化石は「竜牙」(りゅうし)といいもっとも効果が高いと言われています。
牡蛎(ぼれい)と同じように精神を安定させる効果があり、元からもつ収斂作用で身体に必要なものが外に漏れてしまうことを防ぎます。
牡蛎にも言えることですが鉱物系の生薬は効果がどっしりと安定している傾向が強く、この竜骨も「気持ちを座らせる」と評されることがあります。
構成生薬として使われている代表的なものとしては桂枝加竜骨牡蛎湯、柴胡加竜骨牡蛎湯などです。
竜眼肉(りゅうがんにく)
竜眼肉はムクロジ科のリュウガンの仮種皮です。
甘味の強い果実で、生薬としてはドライフルーツとして使用します。
ライチに似た丸い果実の中にある大きな黒い種子を竜の目に例えて竜眼と名前がついたと言われています。
そのまま食材としても使われる食薬であり、調理が不要であることから生活に取り入れやすい生薬であるとも言えます。
竜眼は日照時間や土壌の温度が関わっているため、温室では果実をつけず日本では鹿児島の大隅半島でようやく結実を見ることが出来るそうです。
血を養い、心を和らげる効果があり不眠症改善に効果があり、疲労や気血不足による精神症状、物忘れ、貧血にも効果があります。
構成生薬として使われている代表的なものとしては帰脾湯、加味帰脾湯などです。
竜胆(りんどう)
竜胆の基原はリンドウ科のトウリンの根および根茎です。
竜胆は苦みの強いものが良いとされていて、中国ではその味がまるで「竜の肝のように苦い」とたとえられたことから竜胆の名前がついたと言われています。
日本でも平安自体の書物に笑いが止まるほど苦い「笑止草」とたとえられています。
愛らしい見た目からは想像出来ない一面に驚かれた方もいるのではないでしょうか?
吐き気を止めるなど胃薬としても用いられますが、湿熱を取り除く作用があり特に下腹部の湿潤しやすい箇所の炎症に効果があります。
また、肝胆と呼ばれる目、耳、側頭部、肋骨の下、生殖器、陰部に流れている経路に作用し。
感情、特に怒りにより生じたイライラ、あせりといった精神症状。
頭痛、充血、耳鳴りにも用いられます。
構成生薬として使われている代表的なものとしては竜胆瀉肝湯、疎経活血湯などです。
ずっと僕たちに近い生き物なのかも知れないね。
漢方薬も面白いけど生薬も凄く面白いね!
生薬の面白さが分かってもらえたら嬉しいよ。
また教えてね、先生!
更にペリスケ君の漢方薬入門の日々は続いていくのです・・・
出典:
現場で使える薬剤師・登録販売者のための漢方相談便利帖 杉山卓也著 SHOEISHA
生薬と漢方薬の事典 田中耕一郎 編著 日本文芸社
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監修者 佐々木裕人(精神保健指定医、精神科専門医)