今まで、境界性パーナリティ障害の人の起こす「問題行動」について記載してきました。この問題行動は、当事者であるご本人には苦しさを紛らわすのと同時に、周囲の注意を引くための行動でもあります。難しいことですが、周囲の人は、問題行動に振り回されず、冷静に対応するこが肝要です。何故なら、騒ぐほど、却って悪化してしまいやすいからです。
身近な人が手首を切ったり、大量に薬を飲んだりと騒ぎを起こしたら、当然周囲は驚くでしょう。しかし、周囲が騒ぎ、本人を構うことは本人の「自分を見て欲しい」という要求を満たしてしまうため、周囲が騒ぐほど問題行動が増えるという悪循環に陥ってしまいます。また、たび重なる問題行動に耐え切れなくなって突き放すと、絶望感から問題行動がエスカレートする恐れもあります。
難しいことですが、できるだけ落ち着いて対応しましょう。そして、「こんなことをしなくても、あなたを見捨てないよ」と伝え、本人を適切に支えて下さい。問題行動は、過剰に心配しても、突き放しても、解決に繋がりません。何か突発的なことがあっても、騒がず、無視せず、バランスを保って対応しましょう。
Q.「暴力をふるいます。」
➡A.「暴力はダメだとはっきり伝えましょう。やり返さず、酷い時には逃げて。」
…境界性パーソナリティ障害は、身近な人が思い通りにならない状況に強い憤りを感じ、暴力に発展します。暴力をふるってきたら、押しとどめ、暴力はダメだとはっきり伝えましょう。あくまでも、押しとどめるだけで、やり返してはいけません。火に油を注ぐだけです。また、暴力で本人の怒りが解消するわけではないので、ひたすら耐えるのもよくありません。あまりにも激しい時には、「あなたが暴力をふるうのでそばにいられない」と伝え、逃げても構いません。
Q.「色々な人に違うことを言うし、言うことがコロコロ変わります。」
➡A.「否定せず、問い詰めず、必ず自分で直接確かめましょう。」
…相手を自分の味方につけておくために都合のいいことを言ったり、少しでも気に入らないことがあると、突然食ってかかかったりと、言うことも態度も一定しないのが境界性パーソナリティ障害の特徴です。大切なのは、本人が話すことに入れ込みすぎず、また聞き流さないことです。真に受ければ振り回されるし、いい加減に聞けば敏感に気付きます。気になるうわさ話などは、問い詰めたりせず、「私はこう思う」と自分の意見を伝えるだけにし、あとでその相手に直接確認しましょう。
Q.「『死んでやる』と言うので、気が気ではありません。」
➡A.「ほとんどのケースは注目を集めるための言動。なるべく冷静に対応しましょう。」
…「死んでやる」と言ったり、実際に死のうとする「自殺企図」の背景には、主に三つの理由があります。一つ目は、注目を集めるためです。二つ目は、思い通りにならない周囲に、恨みを見せつける行為。三つ目は、絶望に駆られて全てを終わらせようとする場合です。このうち、最も多いのは一つ目の「注目を集める」ための自殺企図です。いずれのケースも、奥底には本人の強い不安が隠れています。騒ぎ過ぎずに傷の手当てをし、「こんなことをしなくても見捨てないよ」と根気よく伝えましょう。
Q.「本人の辛い気持ちをわかることが大事ですか?」
➡A.「気持ちをわかろうとするより、その『姿勢』を示すほうがよいでしょう。」
…身近な人は、「本人の気持ちが分かるのは自分だけ」などと思いがちです。しかし、人の気持ちを本当に分かることなど、ありえません。そう思っている限り、気持ちを知ろうとする『姿勢』は見えず、本人にしてみれば「自分のことを理解しようともしない」と反感を強めてしまうでしょう。大切なのは、人の気持ちはわからないものだと気付くこと。すると、本人の話に耳を傾ける余裕が生まれ、分かろうとする「姿勢」が生まれるのです。
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Presented by.医療法人社団ペリカン(心療内科・精神科・内科)
監修 佐々木裕人(精神保健指定医・精神科専門医・内科医)
参考引用文献:市橋秀夫監修『パーソナリティ障害』(講談社)