境界性パーソナリティ障害が急速に身近に広がり、多くの人が自己否定感や空虚感を抱え、リストカットなど自分を傷つける行為を止められずに、苦しんでいます。また、気分や態度が両極端に揺れ動き、落ち込むと、死にたい気持ちにも囚われやすく、周囲も生きた心地がしない日々を過ごすことになりがちです。豊かになったはずの社会に、自分には生きる価値もないと感じ、自分を消し去りたいとまで思ってしまう人が、なぜ増えているのでしょうか。
境界性パーソナリティ障害の発症にかかわる要因としては、遺伝要因と環境要因が半々くらいとされています。しかし、何十年かの間に、遺伝要因が大きく変化するとは考えられませんので、この20~30年の間に目に見えて増えているとすると、環境要因の変化が、そこには関わっていると考えられます。
環境要因としては、やはり養育要因が大きいことが、以前から指摘されてきました。境界性パーソナリティ障害の人では、親との関係が不安定なことが非常に多かったからです。養育要因以外にも、性的暴力などの犯罪被害に遭ったり、挫折体験やいじめなどの心が傷つく体験をすることも、要因と考えられています。
では、境界性パーソナリティ障害を生む養育要因とは、どういうものでしょうか。アメリカでは、1950年代から半世紀以上にわたって研究が行われてきましたが、親から見捨てられるような体験をすることが心の傷となり、その後の発症を準備することになるのではないかと言われています。
境界性パーソナリティ障害の治療に大きな進歩をもたらしたマーシャ・リネハンは、その子をありのままに受け入れ認めようとしない「不認証環境」に注目しています。ありのままに認めてもらえない子どもは、頑張ることで、どうにか認めてもらおうとするのですが、その努力がもう無理だと感じた際、ギリギリ保っていた心のバランスが崩れてしまい、境界性パーソナリティ障害を発症すると考えられています。
愛着障害としての境界性パーソナリティ障害
さらに、境界性パーソナリティ障害の要因を理解するうえでも、注目されているのが、愛着の障害という側面です。子どもは幼い頃、養育者との間に「愛着」という絆を結びますが、その絆が不安定なものでしかないと、誰に対しても安定した関係を持つことができず、そうした傾向は、大人になっても不安定な愛着スタイルとして続いてしまうのです。
愛着が不安定な場合には、ストレスに敏感で、不安を感じやすく、人に信頼を持ちにくく、気分も不安定になりやすいことが分かってきたのです。それは、境界性パーソナリティ障害の症状とオーバーラップする部分が大きいのです。つまり、親との不安定な関係は、単に境界性パーソナリティ障害を生み出す要因というよりも、むしろ障害そのものではないかとも考え始められています。
実際、境界性パーソナリティ障害の人には、高い率で不安定な愛着スタイルが認められます。境界性パーソナリティ障害の人の愛着スタイルを調べた研究によると、75%がネガティブな感情に支配されたすい「とらわれ型」、89%が心の傷を引きずる「未解決型」の愛着スタイルを示したということです。さらに、「とらわれ型」と「未解決型」の両方の愛着スタイルが見られる人は、ほぼ全員が境界性パーソナリティ障害の診断基準に該当したのです。
「とらわれ型」は、不安が強く、人に頼らないと自分を支えられないのに、頼っている人に対して、手厳しく、あら探しばかりしてしまうといった点が特徴で、素直に甘えられない傾向が、1歳半の時点で見られていることが少なくありません。愛情不足と過干渉が混在しているような場合に起こりやすいものです。
「未解決型」は、親との離別や見捨てられた体験、虐待など、こころが傷つく体験をして、それを生々しく引きずり続けているもので、傷ついた体験に対して、いまも冷静さを失ったり、混乱したりしてしまうのが特徴です。
このように、境界性パーソナリティ障害の本質が、愛着の障害、つまり「絆の病」だとすると、社会の絆が脆くなっている時代に急増する理由も納得がいくものとなるのです。
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Presented by.医療法人社団ペリカン(心療内科・精神科・内科)
監修 佐々木裕人(精神保健指定医・精神科専門医・内科医)
参考引用文献:岡田尊司・咲セリ著『絆の病 境界性パーソナリティ障害の克服』