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【医師監修】自分の恋人はエネルギーバンパイヤ!?

近年「エネルギーバンパイヤ(エナジーバンパイヤ)」という言葉が使われることがあるようです。この「エネルギーバンパイヤ」という言葉は、精神医学や心理学の用語ではなく、スピリチュアルの領域の概念ですが、その意味するところは「(まるで吸血鬼のように)他者のエネルギーを奪う人」であるようです。

 

 

勿論諸説あるかとは思いますが、一臨床家として、もしこのようなタイプの人を、敢えて精神医学・心理学領域の概念に当てはめるとするならば、以下のような疾病や概念が当てはまるのではないでしょうか?

 

 

パーソナリティ障害であれば、境界性パーソナリティ障害自己愛性パーソナリティ障害演技性パーソナリティ障害、精神疾病であれば、双極性障害(躁うつ病、心理学的概念で言えば、アサーションの概念から「アグレッシブ(攻撃的な)タイプ」…等々。

 

 

今回は、冒頭に挙げた境界性パーソナリティ障害の人が、なぜ「エネルギーバンパイヤ」となり得るのか…? その辺りについて記載していきたいと思います。

心惹かれる出会いが、戸惑いに変わるとき

境界性パーソナリティ障害の人との出会いは、とても印象的で、心を惹きつけられるものがあるようです。一目見た時から、注意を向けずにいられないような、保護本能をくすぐられる方も少なくはないと言われています。明るく振舞っている時でも、ふと横顔に寂しげな翳りがあったり、無理をしていると感じさせる瞬間があったりします。

 

 

繊細で、思い遣りのある優しい気遣いを見せるかと思えば、突然、常識を超越したストレートな言葉で、痛いところをついてきたりします。よく気のつくサービス精神旺盛な面と、あなたをドキリとさせる大胆な振る舞いのギャップに、枠にはまらない新鮮さを感じ、徐々に魅了されていく人も少なくはないことでしょう。

 

 

しかも、驚くほど、あっと言う間に距離が縮まって、いつの間にか恋人同士のように親しい口を利き、甘えてくることも起こり得ます。そうなると、あなたは、相談に乗ってあげずにはいられません。時にはまるで、魔法にかけられたように、この出会いが特別なものだと思い、そこに運命的なものさえ感じてしまわれることでしょう。

 

 

個人的にすっかり親しい関係となり、プライベートな相談にも乗るようになり、互いの信頼関係が深まったと思った時、突如あなたは、不可解な相手の言動に戸惑いを覚えることになります。

 

 

それは、例えば、こんなふうに始まるかもしれません。いつのものように話をした後、あなたは手紙を渡されます。「おうちに帰ってから読んで」という言葉に背いて、気になったあなたは、電車の中で封を切って読み始めます。すると手紙には、「これで、もうお別れにしましょう。優しくしてくれてありがとう」と書かれているではありませんか。

 

 

あなたは、その意味が分からず、混乱して先を読み続けます。「今別れなければ、きっと、私のことを嫌いになって、見捨ててしまうに違いありません」と、予言めいたことが書いてあります。あなたは、気になってすぐに連絡をしますが、一向に連絡がつきません。あなたは最早パニック状態です。

 

 

翌日の朝、やっと連絡が取れた時、その人がずっと泣いていたことが分かります。あなたは心配で、仕事も放り出して、「今すぐ会いたい」と言います。しかし、相手は「本当の私を知ったら、きっと、私のことが嫌いになってしまう」と謎めいた答えをし、泣きじゃくるばかりです。そんなことは絶対にないと説き伏せて、あなたは半ば強引に会いに行きます。

 

 

ようやく会えたと思うと、あなたの前に現れたのは、いつもの魅力的なその人ではなく、暗い顔をして、沈み込んだ別人のようなその人でした。あまたは戸惑いを覚えながらも、不憫な気持ちになり、どうしてあんなことを書いたのかと、その理由を訊ねます。その理由を、その人は声を震わせながら打ち明け始めます。それは予想もしない、衝撃的な告白かもしれません。

 

 

あなたは、その話に圧倒され動揺しますが、いっそう相手を守りたい気持ちに駆られることでしょう。どんなことがあっても自分はそばにいるよ、と約束します。それで相手は安心したように、あなたに全幅の信頼をおいた表情をします。…これで何もかもが一件落着したかのように思われるかも知れませんが、これは始まりに過ぎません。その夜早速、寝入りばなのあなたは、不穏な電話に起こされます。「手首を切ってしまった。すぐに来て」と。

 

 

あなたの平穏だった日常は終わりをつげ、それから、まるでドラマのような毎日が始まることになります。突然入ってくるメールやLINE、電話に、あなたは、ときめきよりも、不安と緊張の方を覚えるようになります。いくらあなたが慰め、安心させても、5分と経たない内に、またその人の気持ちは揺らいでしまいます。あなたが目の前にいて、優しい言葉をかけ続けていれば、落ち着いて明るい顔を見せますが、片時でもあなたの姿が視界から消えると、不安定になってしまうのです。

 

 

そうかと思えば、急に脈絡もなく、不信感をむき出しにしたメールや攻撃的な言葉で傷つけてくることもあります。少しでも気を逸らしたり、冷淡な態度をとったりすると、それだけで不機嫌になり、口も利かなくなってしまいます。突然、浴室やトイレにこもって、危険なことをする場合もあります。

 

 

あなたは四六時中相手に縛られていると感じ、神経をすり減らし、それが負担に感じられるようになってきました。いっそのこと別れたいと思う時もあるものの、もしそのショックで危険なことをしたら…と思うと踏み切れません。

 

 

そんなある日、あなたの心の変化を感じたかのように、LINEが入ります。「これ以上、あなたの重荷になりながら生きていたくない。さようなら」。あなたは動転して、通話しますが、繋がりません。タクシーで駆け付け、部屋に飛び込むと、そこには睡眠薬を多量に飲み、手首を切って倒れているその人の姿が……。

 

 

……これは、決してドラマティックに脚色した話ではなく、境界性パーソナリティ障害の人では、ごく当たり前に起こり得る状況なのです。

思い遣りのある人ほど巻き込まれやすい

こうした経緯が、境界性パーソナリティ障害の人との出会いにおいて起こりがちであるのには、極めて本質的な理由があります。境界性パーソナリティ障害は、その根本的な問題が、愛情や関心への強い飢餓体験に根ざしているため、最も親密で、最も相手との距離が縮まる恋愛という状況において、激しく問題が露呈しやすくなるのです。

 

 

異性との関係に限らず、同性の友達や同僚、上司との関係においても、同じような状況は起こり得ます。いずれの場合も、十分な距離が保たれている限り、何事もないのですが、距離が縮まって、自分が受容してもらえることを感じ、相手に依存する心地よさを覚えた時、これまでとは別人のように、コントロールが失われていくケースが多く見られます。

 

 

従って、親切で、思い遣りのある人ほど、何とか支えになろうと相談に乗ったりすることで、巻き込まれてしまうことになりやすいとも言えます。また、自分自身も同じような心の傷や問題を抱えていると、一種の「共振現象」が起こり、冷静に関わることができなくなります。肩入れし過ぎて、一緒に感情の渦に呑み込まれてしまうのです。このように、問題の性質を理解せず、闇雲に手を差しのべ、何とかしようとすると、本人の支えになるどころか、支えようとした側も疲れ果て、情緒不安定になってしまいかねません。

 

 

友人や支援の専門家でさえも、関わり方を間違うと、本人を支えきれなくなり、関係性を終わりにするしかない状況に追い込まれてしまう場合もあります。そして、それはお互いの心に傷を残すことになります。相手を喜ばせよう、困っているから助けようという発想で、何の長期的見通しも持たずに関わり始めると、後で深みにはまって抜き差しならなくなってしまいます。

 

 

それでも、単なる第三者であれば、関わりを止めてしまうという選択肢もあるでしょう。しかし、そんあふうに投げ出すことのできない家族や伴侶、本気で本人の回復を考えている人にとって、問題はさらに深刻です。そして、誰よりも、自分から逃れられない本人自身が、一番苦しんでいるのです。

 

このコラムを読まれまして、気になる点がありました方や、
興味・関心を抱かれた方は、どうぞ当院まで、
お気軽にお問い合わせください。

 

当院では、境界性パーソナリティ障害をはじめ、
大人の発達障害(ADHD、自閉スペクトラム症)、
うつ病、躁うつ病(双極性障害)、不安症、
適応障害、ストレス関連疾病、睡眠障害(不眠症)、
パニック症、自律神経失調症、冷え症、摂食障害、
月経前症候群、強迫症、過敏性腸症候群、心身症など、
皆さまの抱えるこころのお悩みに対して、
心身両面からの治療とサポートを行っております。

 

 

また当院では、診察と一緒に、専門の心理士(臨床心理士・公認心理師)資格を持ったカウンセラーによるカウンセリング(心理療法)も行っております。カウンセリングをご希望される患者様は、診察時に医師にご相談下さい。

 

 

Presented by.医療法人社団ペリカン(心療内科・精神科・内科)

監修 佐々木裕人(精神保健指定医・精神科専門医・内科医)

参考引用文献:岡田尊司著境界性パーナリティ障害(幻冬舎新書)