パーソナリティ障害の背景に、発達障害が隠れている場合も少なくありません。勿論、発達障害がある人がみな、パーソナリティ障害になるわけではありません。ただ、社会の風潮や育ってきた家族関係などにリスク要因がある場合、そこに発達障害が加わると、パーソナリティ障害の発症リスクが高まってしまうのは想像に難くありません。
当人の中で、心的安心感や自己肯定感が育ちにくく、パーソナリティの根幹が不安定になりやすくなってしまいます。一方、親に発達障害があると、自分の子どもの特徴に気付きにくく、発達障害への対応が遅れがちです。また、子どもへの共感性が低い場合は、子どもの「見捨てられ不安」に繋がることもあります。
自閉スペクトラム症(ASD)の場合
自閉スペクトラム症(ASD)は、個人差はありますが、往々にして、その時の状況や流れから「相手の気持ち」や「その場の雰囲気」を推察することが苦手です。自閉スペクトラム症の傾向があると、赤ちゃんの時から、親があやしても反応が薄い、ひとり遊びを好むなど、親との愛着形成が出来にくくなります。子どもの方も、親や周囲の人から愛されたいという気持ちはあっても、人と関わることが苦手なため、いつも満たされない思いを抱えることになります。
自閉スペクトラム症の特性はしばしば誤解を受けてしまいがちです。例えば、「あの人は傍若無人だ」などと言われてしまうことがあります。しかし、自ら進んでそのような状態になっているわけではありません。心の奥底には「愛されたい」という気持ちをずっと抱えているのです。しかし、人の気持ちを読み取るのも人との関係を築くのも苦手なので、気持ちはいつも満たされず、その不安定さがパーソナリティ障害に結びつく可能性があるのです。
例えば、自閉スペクトラム症の当人の特性として、「自分の気持ちを言葉に出来ない」「衝動的な行動を抑えられない」「対人関係を作ることが困難」「状況の意味を汲み取れない」といったものがあったとします。愛情を求め気持ちはあるのですが、言葉や態度に出せないため、人間関係の作り方が分かりません。成長しても友人ができず、孤立しがちで、いじめに繋がることもあります。このような場合は、親とは傷つけあう関係になってしまいます。そして、ここで懸念されてくるパーソナリティ障害が「境界性パーソナリティ障害」です。無視できない程度の頻度で、軽度~中程度の自閉スペクトラム症と合併することが知られています。
また、自閉スペクトラム症の当人の特性として、「特殊な能力がある(親の期待になり易い)」「周囲となじめない」「親に甘えず、自尊心だけが育つ」「持続的に挫折感をもっている」といったケースもあります。自閉スペクトラム症には、「見たままを記憶する」「物語より図鑑を好む」などの特徴が出ることもあり、親は「この子には特別な才能や能力がある」と入れ込み、結果、子どもは「親に甘えたい」気持ちを捨てることになります。すると、親に賞賛される自分と無能な自分ができてしまい、結果「自己愛性パーソナリティ障害」へのリスクが増加します。この自己愛性パーソナリティ障害は、診断基準を満たさない程度のごく軽度の自閉スペクトラム症と合併していることが少なくないと言われています。
注意欠如多動症(ADHD)の場合
ADHDは「うっかり(不注意)」「落ち着きがない(多動性)」「突然、突飛な行動をする(衝動性)」を特徴とする発達障害です。よって、ADHDで衝動性が強いと、幼少期には親が目を離せず、子どもを叱るなど、行動を制限するような言葉ばかりを掛けるようになります。しかし、子どもには悪気はないため、なぜ叱られるのか分かりません。「自分はダメなんだ」という気持ちが強くなり、受け入れてもらっているという安心感や、自己肯定感が充分に育ちません。それが、パーソナリティ障害に結びついてしまうのです。
一方で、親にとっては「育てるのが大変な子ども」をしっかりと導いた、愛情を掛けたという気持ちは人一倍強くなります。ところが、子どもは親のしつけを「愛情」ではなく「自分への否定」と捉え、愛されていないと感じてしまうという、親子間の意識のズレも招きやすい面があるのです。
当院(新宿ペリカンこころクリニック)では、ご希望の患者様に、ウェクスラー成人知能検査(WAIS)を施行することが可能な医療機関となっております。
ご自身の能力の凸凹の可能性が気になられる患者様、とりわけ発達障害(ASDやADHD)の可能性を危惧されている患者様は、御診察の際に、その旨を当院医師にお申し出頂けましたら幸いです。
Presented by.医療法人社団ペリカン(心療内科・精神科・内科)
監修 佐々木裕人(精神保健指定医・精神科専門医・内科医)
参考引用文献:市橋秀夫監修『パーソナリティ障害』(講談社)