コラム
News

アンガーマネジメント総集編②

「自分の『べき』と他人の『べき』は違うということ~アンガーマネジメント①」

 

関東在住の方が関西に旅行に行った際、エスカレーターに乗る時に、困惑することがあります。それは、関東でが、エスカレーターの右側を空けるのに対し、関西では左側を空けるからです。このように、ルールや価値観というものは、人や場所の違いによって、様々に形を変えるものです。中には自分にとって、受け入れ難いものもあるかもしれません。

 

ですが、そのどれもが正解なのです。不正解なんてないのです。人間は一人ひとり違う生き物、考えがそれぞれ違えば、価値観やルールも異なってきます。その全てをご自分の持つ価値観に当てはめようとすると無理が出てきてしまいます。

 

つまり「価値観」とは、極論すると、「~すべき」「~であるべき」という自分の中の考え方やこだわりのようなものです。そして、この「べき」にしがみつき過ぎると、人は怒りっぽくなります。

 

「べき」にしがみつくということは、即ち、自分の「べき」を最優先にしてしまうことに他なりません。周囲の人にも、自分の「べき」を知らず知らずのうちに強要してしまうということです。ですが、それが受け入れられないと、「何で分かってくれないのだ!?」とイライラが募り、遂には、怒りを爆発させ、人間関係を壊してしまうことすら起こりかねません。

 

「べき」という考えや、価値観を持つことはごく自然なことです。前述しました通り、「べき」とはその人の持つ「こだわり」です。「こだわり」は、その人の人格(性格)に深みや味わいを生み出してくれる大切なエッセンスでもあります。ただ、ここで忘れてはならないのが、自分に「べき」があるように、相手にもその人なりの「べき」があるということです。

 

「わたし(自分)」というオンリーワンの人格(性格)を作る「べき」があるのと同じように、「あなた(相手)」というこれまたオンリーワンの人格(性格)を作っている「べき」があるのです。それは時に、相反する「べき」かもしれません。大切なのは、自分の「べき」にしがみつき過ぎないことです。人は人、自分は自分なのです。

 

加えて、気持ちにゆとりを持って他の人のもつ「べき」を客観視してみると、時として面白い発見もあります。「ああ、そういう考え方もあるのか」「自分の『べき』にも例外はあるよね」…等というように感じることは、ご自分の視野や発想を拡げることにも繋がります。海外旅行に行かれて、様々な文化に触れることで、新たな発見があるのと同じです。自分とは違う価値観を知ることは、人生においての成長に繋がります。

 

自分の「べき」にしがみつき過ぎないことは、やたらと怒ってしまうことを無くせるばかりか、自分の心的成長にも繋がるのです。もしも、価値観の相違により、誰かに対して怒りを感じた時、一旦立ち止まって、自分とその相手の「べき」を見比べてみて下さい。もしかすると、あなたにとって、有意義な発見が隠れているかもしれませんよ。

 

「怒りの持つ『4つの性質』を知りましょう~アンガーマネジメント②」

 

「怒り」は中々に取り扱いが難しい感情の一つです。「怒り」について詳しく説明をしていきますと、「怒り」には4つの性質があると言われています。それが、以下の4つです。

 

1.怒りは高いところから低いところに流れる

2.怒りは伝染する

3.怒りは身近な対象ほど強くなる

4.時に怒りは行動を起こすモチベーションにもなる

 

1.「怒りは高いところから低いところに流れる」

 

例えば、上司から部下へ、先輩から後輩へ、お客から店員さんへ、親から子どもへ…等というように、怒りは高いところから低いところへと流れる、言い換えれば、力の強いところから弱いところへと流れるという性質があります。

 

また、流れるだけでなく、それはさらに低いところへと連鎖していくのが特徴です。つまり、上の立場の人からぶつけられた怒りは、そのまま当人に投げ返されるのではなく、自分よりも下の立場の人に向けられるという「負の連鎖」が起きるのです。

 

例えば、上司である部長から怒りをぶつけられた課長は、さらに自分の部下に怒りを流し、親に怒られた子どもは妹や弟、または学校でより立場の弱いクラスメイトに怒りを連鎖させていくということになるのです。

 

2.「怒りは伝染する」

 

家族や同僚など、周囲の身近な人がイライラしているのを見ると、何だか自分まで同じようなイライラした気分になってしまわれたことはありませんか。実はこの現象は、「情動感染」と呼ばれており、喜怒哀楽の感情は周囲に伝染します。

 

イライラして気になるため息をつく人、「チッ!」と舌打ちをする人、パソコンのキーボードを不機嫌そうに音立てて打つ人、ブツブツと愚痴や不満が声に出ている人…等々、知らず知らずの内に、そういった人たちの怒りがあなたに伝わってきているのです。それをまともに受けて、自分までイライラしないように気を付けると共に、自分自身が周囲に怒りを無自覚の内にまき散らしてしまっていないかにも注意されると良いでしょう。

 

3.「怒りは身近な対象ほど強くなる」

 

怒りは身近ない相手ほど強くなります。身近な相手とは、親しい知人、恋人、親友、家族、パートナー、親、子ども、きょうだい、長く一緒に仕事をしている人…等々が含まれるでしょう。このように、長く一緒にいる身近な相手ほど、「言わなくても当然分かってくれているはず」「コントロールできるはず」だといった思い込みが働いてしまうからです。

 

また、このようによく分かっている相手だからこそ、相手への「期待値」も高くなり、甘えも生じやすくなります。そのため、思い通りにいかない場合に、怒りが生じやすく、さらにそれを相手に向けてしまい、怒りの程度も増々強くなってしまうのです。

 

長く一緒にいる人であっても、相手は自分とは別の人間であり、違う考えや価値観(「べき」)を持っています。よって、例えどんなに身近で親しい間柄であっても、「言わなくては分かってもらえない、思い通りにならない存在」なのだと考えましょう。

 

「言わなくてもわかってくれるはず。何度同じことを言わせるのだろう」

「私はして欲しいことくらい(長く一緒にいるのだから)分かるでしょ?」

「このくらいのことは、普通察してくれるはず」

 

……等々、身近な人に対して、このような気持ちになった時には、要注意です。

 

4.「時に怒りは行動を起こすモチベーションにもなる」

 

怒りは強いエネルギーを持っているため、その扱い方によっては、「いつか言い返してやる!」「仕返しをしてやる!」などといった、非建設的(破壊的)なエネルギー源になってしまうこともあります。ですが、アンガーマネジメントを学べば、逆に建設的な方向にそのエネルギーを向けることも可能になります。

 

例えば、他者から馬鹿にされ怒りを覚えたけれども、それをバネに奮起して、「よし!結果を出してやる」「負けないぞ!」と行動されて、そのエネルギーやパワーにより何かしらの成果を出せたという経験はないでしょうか。

 

このように、怒りのエネルギーをうまく使って、建設的な行動へと意識を向けていかれることがお勧めです。

 

「『グラウンディング』って何ですか?~アンガーマネジメント③」

 

「グラウンディング」とは、咄嗟に出そうになった怒りへの対処法の一つです。一言で表現するのであれば、「『今、ここ』に意識を集中させる取り組み」です。

 

怒りのエネルギーは強いため、「あの時、あの人にあんなことを言われた。思い出したらまた腹が立ってきた。いつかまた会った時には、何て言おう!」と、繰り返し何度も、思考が過去や未来に行ったり来たりしてしまう人がいます。所謂、「怒りに飲み込まれてしまっている」状態です。

 

このような時は、目の前にあるものを観察することに集中して、強制的に「現在」に意識を戻します。

 

例えば、その時偶々「ペン」を持っていたとしたら、ペンの色、インクの残量、傷がついていないか、ロゴなど何か書かれていないかなどを、じっと観察することに集中します。ペンでなくても勿論構いません。その時目の前にある“何か”をじっくり観察することで、「今、ここ」に意識を集中させることが出来、余計なことに思考を働かせることがなくなります。

 

この行動によって、相手の怒りに不本意ながら振り回されることもなくなりますので、怒り任せに自分が行動することも防いでくれるのです。

 

この「今、ここ」を大切にし、その瞬間を十全に味わえるようになると、気持ちも穏やかに落ち着いてくるという考え方は、「マインドフルネス」にも通じるものがありそうです。

 

「『怒り』に繋がりやすい質問の仕方とは…?~アンガーマネジメント④」

 

相手の行動や態度について、その意図や理由を知りたい場合、私たちは「(なぜ)そんなことを言ったの?」「(どうして)言うことがきけないの?」というように、一見理由を訊いているようでありながら、相手を責めるような言い方をしていることがあります。

 

こういった時、誤解を招かないようにするためにも、注意が必要です。例えば、「理由(意図、いきさつ)について知りたいので聞かせて下さい」と言えば、相手も答えやすいでしょう。勿論、口調や表情といった非言語的(ノン・バーバルな側面)も、相手を責めるようにならないよう、気を付けることも大切です。

 

私個人は、「どうしたら……できるかな?」という聞き方を比較的好んで使っています。例えば、「なぜ(どうして)、遅刻してしまったのかな?」と上の立場の方から訊かれたとしたならば、その方は「…すみません」と、謝る言葉しか出てこなくなってしまいがちだからです。そういった際、「どうしたら、始業に間に合うことが出来るかな?」と訊いた方が、聞かれた相手は「…そうですね。もう少し~~」というように、「回答」を想像しやすくなるように思われます。

 

ここでのポイントは、「どうしたら…」と尋ねることで、過去の原因追及というニュアンスから、今後の将来的な防止(未来志向)のための対策を聞きたい、という方向に印象が切り替わることです。加えて、「……できる(can)かな?」という尋ね方をすることは、暗に「あなたなら、きっと出来ると信じている」という信頼のメッセージを送ることにも繋がります。このような信頼のメッセージを送られた側としては、無意識の内に「相手の信頼に応えたい」という気持ちやモチベーションを抱きやすくなることでしょう。

 

このように、質問をする際にちょっとした工夫をするだけで、「怒られてしまった」という誤解を防いだり、「謝罪が聞きたいのではなくて、対処策を聞きたいのだけれども…」というイライラを防止したりすることに繋がり、お互いに怒りの伝染を防ぐことが出来ます。この機会に、ご自分の質問のされ方を振り返って見られては如何でしょうか?

 

「感情を上手く伝えられない人の『5つの特徴』とは?~アンガーマネジメント⑤」

 

「怒り」は往々にして、ご自分の感情に気付きにくかったり、気付いていても相手に上手く伝えられなかったりすることによっても起こります。それでは、「自分の感情を上手く伝えられない人」とは、どのような人たちなのでしょうか?ここでは「5つの特徴」として挙げていきたいと思います。

 

1.「怒りを他の『人』や『こと』のせいにしてしはいませんか?」

 

怒りは他の誰でもない、自分自身が生み出した感情です。それに気が付かず、自分がイライラする原因はすべて「人」や「こと」にあると思い込んでいます。例えば、イライラしたり、上手くいかないと感じたりした時、「高圧的な物の言い方をする上司のせい」「子どもが言うことを聞かないせい」「ミスを繰り返す部下のせい」…等といったふうに考えてしまうことはないでしょうか。

 

どんな出来事も、どう受け止めるかは自分次第です。「人」や「こと」のせいにしても怒りは消えません。加えて、「人」や「こと」は少々のことでは変わりませんので、「変わらない」ことに対してもイライラして、元の怒りがさらに大きな怒りに「育つ」可能性すらあるのです。

 

2.「全ての人に好かれようとしてはいませんか?」

 

「こんなこと言ったらどう思われるかな」「相手にどう反応されるかな」「嫌われたくないな」…等々といったふうに、常に目の前の相手や他人からの評価が基準になっていることはないでしょうか。こういった傾向があると、無理に相手に合わせて同調したり、本当に言いたいことを飲み込んでしまったりするため、自分の感情を伝えられません。

 

ですが、いい顔をすることと、良い関係を築くことは異なります。自分がどう感じたのか、相手に何を分かって欲しいのか、まずは「自分」を大切にして下さい。

 

3.「自分の感情を把握できていますか?」

 

自分の気持ち(感情)と正直に向き合わず、すぐに怒りで対応してしまったり、「何だかイライラする」等と曖昧なままで放っておいたりしてしまうと、いつまで経っても自分自身の感情を把握することは出来ません。当然、自分が分かっていないことを相手に伝えることは不可能です。

 

「寂しい」「悲しい」「しんどい」「つらい」「不安」「心配」…等々、自分がどのように感じているかを、意識して掴む習慣を身に付けましょう。

 

4.「日頃怒りを溜め込み、ある日突然爆発させてはいませんか?」

 

自分自身で上手く対処できかったモヤモヤ、イライラ、怒りを、心の中に溜め込んでしまうタイプの方がいます。但し、そのような感情は、抑えたからといって無くなる訳ではありません。その徐々に溜め込んでしまった(飲み込んでしまった)感情が、いつの間にか大きなシコリのようになり、そのご本人の心身にダメージを与えることはあります。

 

また、他のパターンとして、溜め込んだ怒りが、ある時一気に相手に向かう、つまり「爆発してしまう」ことがあります。今までは反論をされてこなかった分、周囲の方々は戸惑われます。その後、ご本人が冷静になられると、深い自己嫌悪に陥られてしまうのもよくあるパターンだと言えるでしょう。

 

5.「言いたいことを何でも言ってしまう傾向はありませんか?」

 

相手がどのように感じるか、思われるかを配慮することなく、感情任せに自分の言いたいことを言い、つい余計なことまで口走ってしまってはいないでしょうか。

 

相手に自分の気持ちを理解してもらうためではなく、不満のはけ口として感情を垂れ流してしまっているので、これでは、相手を不用意に傷つけてしまったり、本当に分かって欲しいことが伝わらないままになってしまったりする恐れが出てきてしまうことでしょう。

 

「人のせいにするのを止めてみましょう~アンガーマネジメント⑥」

 

イライラや怒りは、人と人とのコミュニケーションから発生します。では、コミュニケーションの方法を変えてみましょう。具体的には、「人の責任(人のせい)にするのを止めること」です。

 

問題やトラブルが発生した時に、不平不満を言うだけでは、問題は何も解決しません。同じく、責任を他人に求めるのも同様です。他人に責任を求めても、問題は何も解決しません。

 

何か出来事(問題・トラブル)があった時は、「ちょっと待て。相手が悪いのではなく、自分に出来ることはなかったかな?」と、一旦自問自答するようにされることをお勧めします。

 

自分にとって嫌なことが起きた時、人はつい他人、あるいは周囲の環境…等のせいにしてしまいます。しかし、その出来事をどう受け止め、どう考え、どのような感情を引き起させるかは、全て自分次第なのです。

 

もし日頃から、人の責任(人のせい)にばかりしているようであったならば、一度立ち止まって、人のせいにすることを止めて、「相手のせいばかりではないはず。自分にも改善や対応できることはなかったかな?」という発想・視点を持っていると、それだけで「イライラ」や「怒り」の芽は発芽しにくくなるのです。

 

「『タイムアウト』って何ですか?~アンガーマネジメント⑦」

 

「タイムアウト」とは、咄嗟に出そうになった怒りへの対処法の一つです。一言で表現すると、「その場を一旦離れ、感情をリセットする取り組み」です。その仕組みとやり方を、以下に説明致します。

 

★「タイムアウト」の仕組み★

 

その場にいると、イライラが募ってしまう、あるいは誰かと言い争いになり感情がコントロール出来なくなってしまう、言い争いがエスカレートしてしまう…等と感じられた際、その場を離れることで、感情の流れを一旦リセットし、その場の雰囲気を悪化させないようにします。例として、少しの間、席を離れる、部屋を出る、そとの空気を吸ってくる、といったものが挙げられます。

 

その場を離れている間の「過ごし方」にも注意が必要です。大声を出したり、何かに八つ当たりして発散したりすると、却って怒りの感情が高ぶってしまいます。深呼吸をしたり、軽くストレッチをしたりする等、心が落ち着くような過ごし方をされると良いでしょう。

 

★「タイムアウト」のやり方★

 

その場を離れる時に、相手が近くにいる場合は、「ちょっとトイレに行って、戻ってきますね」と伝える等、必ず戻ってくること伝えてから、その場を離れるようにされると良いでしょう。その他、「ちょっと冷静に考えたいから、10分だけ時間を貰っても良いですか?」と、その場を仕切り直されたり、電話で言い争いになりそうな時は、一旦切って折返し掛け直す提案をされるのも良いでしょう。

 

「“他人の怒り”にはどう対処すれば良いのですか?~アンガーマネジメント⑧」

 

アンガーマネジメントにご興味や関心がある方の中には、かなりの頻度で「相手の怒りに対して、どのように対処したら良いのか」ということも、気に掛かっている内容のようです。

 

確かに、感情的に怒りをぶつけられたり、常にイライラと不機嫌そうな方が近くに居たりされると、何かと気になってしまうかもしれません。しかし、だからと言って、他人の怒りをコントロールすることはできません。

 

アンガーマネジメントは、あくまで「(自分の)怒りの感情と上手く付き合うための心理トレーニング」なのです。相手(他者)の怒りを封じ込めたり、イライラする相手を鎮めたりするようなテクニックを伝えているものではありません。自分の怒りは勿論ですが、「相手の怒りに“振り回されないように”」上手く対処できるようになる為の心理トレーニングなのです。

 

「何故あの人はあんな怒り方をするのだろうか」とか「何故クレームの電話が掛かってくるのだろうか」といった、自分がコントロールできないものに対して、思考を逡巡させてしまい過ぎると、今度はご自分の方がイライラしてきてしまい、結果ストレスが掛かってきてしまいます。そういった時は、「これは自分にはコントロール出来ない範疇のものだ」と認識しておくことは、とても大切なことだと言えるでしょう。

 

では、こういった時は、どうすれば良いでしょうか? まずは、相手の感情的な言い方に対し、過剰反応してしまわないことです。ついムッとしてしまい「売り言葉に買い言葉」のように感情的に言い返したり、「何でこんな言い方をされるのだろう…」「自分が何かしてしまったのだろうか…」等と、必要以上に落ち込んだり、溜め込んだりしないことです。

 

「上司が感情的に叱るのが嫌だ」という悩みを持たれている方も、少なくはありません。そのような場合には、上司の言った内容が、こちらが改善しなくてはならないような正当なものであれば、「何をどのようにすれば良いのか」という事実についてのみ受け取るようにされることが推奨されています。抽象的な言い方や指摘をされた場合は、「何を」「どのようにする」ことを相手が望んでいるのかということを、落ち着いて確認することも重要です。何故なら、そのことがきちんと把握できていないと、再度同じことを繰り返し、相手を怒らせてしまう可能性があるからです。

 

一方で、例えば「君は使いものにならない」等といった、不当な批判が含まれていた場合はどうでしょう? そのような言われ方をされたら、誰だって傷つき、落ち込んでしまうことでしょう。

 

そのような場合、「使いものにならない」というのは、あくまでその人の主観に過ぎない、として“聞き流す”という選択肢もあります。しかし、聞き流せない場合は、自分がどのように感じ、どうして欲しいか、ということを伝えるという判断も存在します。例えば、「私が直さなくてはいけない所は、以後しっかりと気を付けます。ただ、『使いものにならない』とまで言われてしまったことは、私としては正直かなり傷つきましたし、ショックでした」というように、どのように自分が感じたかを、落ち着いて伝えるという選択もあります。

 

但し、この時に気を付けたいことが、「相手に勝つこと(言い負かすこと・謝らせること)を目的としないこと」です。あくまでも、自分が感じたこと、どうして欲しいかを分かってもらうことが目的です。そう考えて、落ち着いて対応・対処されることが、不毛な言い争いと傷つけ合いを避ける上での重要なポイントなのです。

 

では、もしも「職場に機嫌が悪い人がいた場合」はどうでしょう。この場合は、相手の感情は相手のものであり、せめて自分は影響されないようにしようと考えることと、過剰反応しないことがお勧めです。

 

情動感染という言葉がある通り、感情は周囲に伝染します。特に「怒り」はエネルギーが強く、他の感情よりも伝染力があると言われています。そのことを踏まえて、まずは誰かの怒りの伝染を受け、自分自身もイライラしないことです。

 

このような相手と仕事で関わらなくてはならない場合は、「仕事」と割り切って、普段通りの挨拶を交わし、仕事に必要な報告や依頼があれば、簡潔に行ないましょう。声を掛ける必要がない場合は無理に行なおうとする必要はありませんし、相手がイライラし出したら、スッとその場から離れるといった選択もあります。

 

ただ、ご自身が上司の立場(相手を指導する立場)であった場合、それをさり気なく、部下である本人に伝えるというのも、選択の一つです。その際は、相手を責めるようなニュアンスはNGです。例えば、「○○さん、今日は何だかいつもと様子が違うように見えたから、気になって声を掛けたのだけれども、どうしましたか?」…等というように、伝えてみる方法はあるかと思います。

 

但し、相手がその声掛けに対して、どのような反応をするのかは、一概には言えません。場合によっては、却って反発心を高めてしまう可能性もあり得るということも踏まえて、そのことも含めて、言うか言わないかの判断をご自身で決められる必要はあるでしょう。

 

「自分の中の『べき』を検証してみましょう~アンガーマネジメント⑨」

 

皆様の心の中にある願望や理想を象徴する言葉が「べき」です。皆様は、普段の日常の生活の中で「~~であるべき」「~~するべき」という言葉を思い浮かべたり、使ったりされることはありませんか?

 

私たちは、相手に対して「こうあって欲しい」「こうであるべきだ(はずだ)」等といった自分自身の願望や理想が叶わなかった時、そうならなかった時に「怒り」を感じてしまいます。そしてこの「べき」は「譲れない価値観」「信条」と言い換えることもできます。例えば、以下のようなものが一例として挙げられることでしょう。

 

・時間は守るべきである

・挨拶はするべきである

・電車内では化粧をするべきではない

・高齢者には席を譲るべきである

・家に帰ったら手を洗うべきである

・靴はきちんと揃えるべきである

・上司の指示に部下は迅速に対応するべきである

・上司は部下の様子もきちんと把握するべきである

 

……等々、このように見てみますと、人生経験の中で身についた「べき」、育った家庭の躾で形成された「べき」など、多種多様であり、十人十色であることでしょう。即ち、自分自身が長年信じてきたことに対して、相手も「全くその通りである」と思っているとは限らないのです。特に、育った世代や環境が違う相手の場合、相手と自分の「当たり前」が異なることは、珍しいことではないはずです。

 

よって、もしも「普通はこうするものではないか?」「あたり前じゃない?」とイラッとしてしまったとしたら、自分の中にある、どのような「べき」がそう思わせているのか、立ち止まって考えてみることが大切です。

 

さて、ここまで書くと、何やら「べき」が怒りを引き起こす元凶のように感じてしまわれるかもしれませんが、早合点しないで下さい。「べき」自体には、正解・不正解はありませんし、長年信じてこられた自分の「べき」は、自分にとってのある種の真実なのです。但し、同時に、全ての人にとっての真実ではない、ということでもあります。これは、それぞれの「違い」や「個性」として、一旦受け止めましょう。

 

また、一見すると似た「べき」を持っているようでも、人によってその「程度」は違います。

 

例えば、「時間は守るべきである」を例に挙げてみましょう。「10時スタートの会議」と聞いた時、「開始10分前には会場に到着すべきである」と思っている人もいれば、「10時ちょうどに到着すれば良い」と思っている人、「同じ職場の人間が集まるのだから、5分程度の遅刻は許容範囲である」と思われる人…等々、さまざまです。

 

まずは、自分がどのような「べき」を持っており、そしてそれらを「どの程度」望み、信じているのか。それは周囲の人にとっても同じであるか、そうでないかを振り返ってみましょう。職場、家庭、公共の場などを思い浮かべながら、ご自身が持っている「べき」を書き出していくことも、アンガーマネジメントの取り組みの大切なプロセスなのです。

 

加えて、「べき」の中には、どれだけ信じていてもどうしようもない、つまりコントロール不可能な「べき」もあるので、その点は注意が必要です。その代表的な例として、以下のようなものが挙げられるでしょう。

 

・「努力は必ず報われるべきである」

・「失敗するべきではない」

・「皆から好かれるべきである」

・「どんな人とでも仲良くするべきである」……等々。

 

このような「べき」は、信じていても叶わないことが多く、信じているために自分自身が苦しくなっていってしまうことがあるので要注意です。

 

「アンガーマネジメント」で人気の書籍