「大人の発達障害です、『アンガーマネジメント』は役立ちますか?①」
『アンガーマネジメント』とは、『怒りのセルフコントロール法』と言われており、
大人の発達障害の方が円滑に周囲との対人コミュニケーションを取っていく上でも、
非常に役立つスキルの一つです。
もちろん、大人の発達障害の方に限らず、
どのような方であってもお使い頂ける対人コミュニケーションスキルでもあり、
セルフマネジメントスキルでもあります。
『アンガーマネジメント』は、
その怒りが「短期的な怒り」であるか「長期的な怒り」であるか、
あるいは「自分自身の怒り」であるか「他者からの(投げかけられた)怒り」であるか、
……等々によって、有効な対処法やスキルに若干の違いがありますが、
今回は「怒り」の持つ性質でもある“大前提”をお伝えしようと思います。
日本やその他多くの文化圏において、
「怒り=出してはいけないもの、抱いてはいけないもの」という認識が出来ています。
これは何故かと言いますと、
「怒り→相手への脅威や攻撃性」に発展しやすい傾向があるからです。
逆説的に考えれば、
「怒りを、相手に脅威を与えることなく伝えることが出来れば問題はない」
とも言えるのです。
しかし残念なことに、私たちはその方法を習う機会に中々恵まれずに、大人になってしまいました。
「怒り」は「第二感情」である、と定義されています。
起きた出来事に対して、すぐさま「怒り」を感じるように思われるかもしれませんが、
どんな人であっても、「怒り」の背後には必ず「第一感情」があるとされています。
その第一感情となり得るものは様々です。
悲しみ、不安、心配、嘆き、無念、残念、期待、驚き……等々、
さまざまな感情が「第一感情」となり得ます。
例えば、自分が大切にしていたマグカップを、例え相手が悪気がなかったとしても破損してしまったとしたならば、「怒り」がつい出てしまうこともあるでしょう。
けれども、その「怒り」の背後にある「第一感情」は一体何であったのでしょうか?
「残念」「嘆き」「悲しみ」「心配」…等々
どれであったとしても不思議ではありませんが、
その感情(=第一感情)こそが「本質」なのです。
「何で割ったの!」と怒りの感情で相手に訴えても、
相手は「(わざとじゃないのに)…すみませんでした」と不承不承謝るか、
逆に「そんな所に置いておく方が悪いんですよ!」と怒りをもって応酬を始めるかが、
大方の反応でしょう。
それよりも、気持ちの本質である「第一感情」で相手に伝えた方が、
自分の本当の思いがより相手に伝わります。
「ああ、これは私が初めてのお給料で買ったマグカップだったから……残念だな……」
であったならば相手は、
「自分はいったい何ということをしてしまったのだろう…!」
といった心からの謝罪の気持ちが湧いてくるかもしれません。
これが怒りの背後にある「第一感情」を伝える、ということです。
この作業が出来るようになるには、
「慣れる(練習する)」ことが何よりの手段であり、一番の近道です。
自分が何事かに「怒り」を感じたとするならば、
その時こそが練習するチャンスなのです。
「一体自分は何にこれ程まで怒っているのだろうか。この怒りの第一感情は何なのだろうか…?」
と、ぜひ自問自答してみて下さい。
このことを行うことで、
まずは瞬時・反射的に怒りを相手にぶつけてしまうことが避けられます。
そして、自分自身の“本当の気持ち”(=第一感情)に気付くことができ、
相手に自分の気持ちを伝える必要があるのであれば、
その第一感情を穏やかに相手に伝える方が、より自分にとっても本質的であり、
相手にとっても驚異(攻撃)として受け取られずに済みます。
「怒りは(自分が)我慢すれば消えてなくなる」というのも実は大きな誤解ですので、
まずは自分の怒りの背後にある第一感情に気づき、
それを相手に伝えることから始めてみられてはいかがでしょうか。
この練習を繰り返し実践されていかれることは、
ADHD傾向のある方にとっては「衝動性」のコントロールに繋がり、
自閉スペクトラム症傾向のある方にとっては「自分の感情への気づき」に繋がっていくことも、
非常に大きなメリットだと言えるでしょう。
「大人の発達障害です、『アンガーマネジメント』は役立ちますか?②」
「アンガーマネジメント」は大人の発達障害でお悩みの方だけでなく、
広く様々な方々や場面において有用な、
セルフマネジメントツールの一つです。
今回は、怒りを「短期的な怒り」と「長期的な怒り」とに分類した際に、
前者の「短期的な怒り」に効果的な対処法についてをご紹介いたします。
「何であの時、とっさに怒ってしまったのだろう」といったような、
瞬間的に怒りを出してしまったことによる後悔をされたご経験がある方は、
決して少なくはないと思います。
その背景や原因には様々なことがあるのですが、ここでの最初のポイントは、
「まず一旦は冷静になる(クールダウンする)」ことだと言えるでしょう。
その方法の代表的なものとして、以下のものが挙げられるでしょう。
◎大きく深呼吸をする
◎自分が落ち着く言葉(短めでシンプルなもの)を心の中で繰り返し唱える
◎心の中でゆっくり8つ数を数える(エイトカウント法)
「自分が落ち着く言葉」は、端的かつシンプルなものが良いとされています。
例えば、「深呼吸、深呼吸…」「落ち着け、落ち着け…」など、
自分に合った言葉を予め用意されておかれると良いでしょう。
「エイトカウント法」とは、声には出さず、自分の心の中で、
「8、7、6、5、4、3、2、1、0」とゆっくり噛みしめるように唱えます。
すると大抵の怒りがかなり鎮まってきているご自分に気づかれることでしょう。
この3つ方法はどれも、
ほんの数秒、反応するタイミングに「間」を作るだけで、
ご自分の怒り(興奮)が急速に低下するという現象を踏襲しています。
そして、前回のコラムでご紹介しましたように、
「間」を作ることで、冷静になった後、必要であれば、
自分の本当の気持ち(=第一感情)を穏やかに伝えるようにしましょう。
非常に興味深い研究として、
ポジティブな声掛け(例:あいさつ、感謝など)をした場合、
その声掛けに対する反応率は50%以下であるのに対し、
ネガティブな声掛け(例:怒り、怒鳴るなど)をした場合、
その声掛けに対する反応率は90%以上という結果が出ているそうです。
つまり、怒りを相手に投げ掛けてしまうと、
非常に高い確率(90%以上)で反応してしまい、
その場合、「怒り」の感情で返されることが殆どであるそうです。
「いやいや自分の場合、相手が上司だから、言い返さないで我慢しています」
と反論したくなる方もいらっしゃられることでしょう。
ここで、また不思議な「怒り」の特徴をご紹介しますと、
「怒りは、風呂敷に入れて持ち運びができる」
「怒りは、高いところから低いところに流れる」
という言葉(現象)があります。
これは、怒りをその当人に直接向けることが立場的に難しい場合、
自分が怒りを向けても反論しづらい相手(部下、あるいは家族)に、
その怒りの矛先が向けられる……という現象を表現しています。
会社では「穏やかな人物」と評されている方が、
家庭内では「暴力的・攻撃的な人物」に変貌する所以が、
この2つの怒りの特徴にあると言えるでしょう。
「怒り」との正しい付き合い方を知る重要性が感られるエピソードです。
「大人の発達障害です、『アンガーマネジメント』は役立ちますか?③」
アンガーマネジメントは、近年になって、
社会人に求められる自己管理スキルという色合いを帯びてきていますが、
本来は、あらゆる方に適用することが出来る、
汎用性が高いという特徴を持っています。
もちろん、発達障害(あるいは、その傾向)をお持ちの方々にも、
ぜひ身に付けて頂きたいスキルの一つであると言えるでしょう。
1回目は「怒りの本質とは?」「怒りは二次感情である」といった内容。
2回目は「短期的な怒りに対処する方法」といった内容についてを主に扱ってきました。
3回目である今回は、
「怒りは『マイルド』な内に気付き、相手に脅威を与えない形で伝える」
という内容で書かせて頂きます。
「怒り」の正体とは……実は「違和感」から始まっているのです。
例えば、大きな共同作業テーブルで、数人の方が一緒に仕事をされていたとします。
ご自分の隣席の方が、席を立つ度に、作業テーブルにぶつけるような形で
椅子を戻す癖がある、と仮定しましょう。
最初は「あれ?何か急いでいたのかな?」という程度の認識かもしれません。
しかし、実はここからすでに「違和感(怒り)」の素は始まっています。
これが重なると「もう少し静かに椅子を戻してくれないかな…」と思い始めることでしょう。
そしてやがて、「ああ、何でこの人はこんなに荒立たしいのだろう。嫌だなぁ」という気持ちになり、
さらには、「何だか自分ばかり気遣っている気がしてきた…。イライラする…」となり、
最終的には、「もう我慢できない。いい加減にして欲しい」と相手に怒りをぶつけてしまうような事態も起こり得るでしょう。
しかし一方で、その怒りをぶつけられた相手としては、
「急にどうしたのだろう」と心底驚いてしまわれるかもしれません。
ここでのポイントは、いくつか列挙してみます。
- 「違和感」を覚えた瞬間から「怒り」は始まっているということ。
- 「違和感」は、放置したり我慢したりすれば無くなるというものではなく、むしろ積もり重なって、怒りの度合い(強度)が増していってしまうこと。
- そもそもの「違和感(怒り)」は決定的、かつ致命的なものではないこと。(例:「隣席の人の椅子の戻し方が気になる」)
- 時に、その怒りの素となった行為・行動は、相手の無意識的・無自覚のものであること(=悪意や悪気があってのことではない)。
- 怒りが爆発したり、相手にぶつけてしまうような事態になる前に、穏やかに相手に自分が気になることを伝える方が、誤解や摩擦が回避できるだけでなく、本質的な解決にも繋がりやすいこと。
- あくまでもこの「違和感」は、自分の持つ価値観と照らし合わせてのことなので、相手を責めるような内容ではなく、「自分は……」「私は……」というように「Iメッセージ(アイメッセージ/私メッセージ)」で伝えるとより良いこと(同じ作業テーブルでも、気になっていない方もいるかもしれません)。
ですので、もし相手に椅子を穏やかに戻して欲しい、ということを伝えるとするならば……
「申し訳ないのですが、私は音が気になる性格なので、離席される際に気遣って頂いてもよろしいでしょうか」
という伝え方など良いかもしれません。
そのように伝えることが出来たのであれば、
相手は「ああ、こちらこそ全然意識できていなくて申し訳なかったです」と
以後気を付けてくれるようになるかもしれません。
発達障害(あるいは、その傾向)をお持ちの方には、
周囲の刺激(五感に関するもの)への過敏性がある方も少なくはありません。
また「規則やルールをしっかりと守られる」という特性から、
「こうあるべき」というご自分の価値感(ルール)があり、
それが周囲の人々に認識されづらい時に、
イライラや怒りへと発展してしまうようなこともあります。
そういったことを未然に防ぎ、お互いにとって居心地の良い環境とする為にも
「怒りは『マイルド』な内に、Iメッセージで伝える」ということを、
心の片隅に留めておいて頂けましたら幸いです。
「大人の発達障害です、『アンガーマネジメント』は役立ちますか?④」
「アンガーマネジメント」のコラムも今回で4回目です。
「アンガーマネジメント(怒りのコントロール法)」とは、
どんな方にもお使い頂ける、汎用性と実用性の高い、
自己管理スキルであり、コミュニケーションスキルの一つです。
特に、大人の発達障害(あるいは、その傾向)の方々とっては、
ADHD(あるいは、その傾向)がある方の場合は、
衝動性に身を任せてしまい、
相手に“怒り”を咄嗟にぶつけてしまうことへの対策として。
自閉症スペクトラム(あるいは、その傾向)がある方の場合は、
自分の気持ちや思いに目を向けてくことで、
相手に本当はどのようなことを伝えたかったのかに気づき、
自己洞察や内省、相手とのやり取りの変容に繋げていく対策として、
アンガーマネジメントの有効性が期待できます。
本日は、「アンガーログ」についてご紹介していきたいと思います。
「アンガーログ(怒りの記録)」の仕組み(メカニズム)は、
日記のように、日々の怒りを記録していくことで、
それまでは「掴みどころがない」と感じられていたかもしれない「怒り」に対する、客観視が可能となります。
加えて、ご自分の怒りの傾向・パターンも発見することが出来るのです。
では、実際にどのように「アンガーログ」を付けていけば良いかご説明します。
使われる用紙は、ノート、手帳、スケジュール帳、日記調、スマホのメモ機能等、ご自分が使いやすいと思われるもので十分です。
日記をつけるような要領で記録をしていきますが、
アンガーログには、以下の内容を記載していきます。
①怒った日時
②怒った場所
③きっかけとなった出来事
④具体的な自分の言動
⑤(怒りを向けてしまった相手に)して欲しかったこと
⑥結果
⑦その時の自分の感情
⑧怒りの強さ
これら①~⑧を書いていきます。
すると次第にご自分の怒りのパターンが見えてきます。
どのような時間に、どのような場所で、
どのようなことをしている時にイライラしやすい、怒りやすい、
ということが分かってきます。
上記の流れ(①~⑧)の書き方の一例として……
①怒った日時:5月20日午後
②怒った場所:会社
③きっかけとなった出来事:部下のAさんの企画書が不出来。書式がバラバラで全体に曖昧。予算も度外視していた。
④具体的な自分の言動:「もっとしっかり考えてやり直して!」と言い放つ。
⑤(怒りを向けてしまった相手に)して欲しかったこと:きちんと企画書を仕上げてきて欲しかった。
⑥結果:部下のAさんが逆切れ。
⑦その時の自分の感情:後になってから正しい言動だったのか悩む、罪悪感。
⑧怒りの強さ:中程度の怒り。
………というように書きます。
これを書き留めておいて、定期的に見返します。
すると自然と、「どうすれば自分は起こらなかったのか」「イライラを減らすにはどうしたら良いか」が、頭に浮かぶようになるのです。
加えて、アンガーログに記録された怒りやイライラに対する一つひとつの対策や回避方法を考えていくと、当然ながら、イライラや怒りは減っていきます。
やがて暫くすると、書くだけで意識改革が図られイライラや怒りが消えていくようになるから不思議です。
これは、「レコーディングダイエット」と同じ仕組みでもあります。
「レコーディングダイエット」では、毎日食べる食物とそのカロリーを記録していくことで、自分の食事内容や間食を自覚し、意識改革・改善に繋げています。
アンガーログは、イライラや怒りを未然に防ぐ秘密兵器なのです。
記録し始めて少し経つと、着実にイライラや怒りは減っていきます。
では、アンガーログをつけた結果、ご自分のイライラや怒りの原因が分かり、対策や回避方法を考えていかれたケースをご紹介します。
Bさんはいつもイライラしていました。そこでアンガーログを付けてみると、仕事を依頼された時にイライラが強まることが分かりました。Bさんは面倒な仕事があると、「すぐにやらなければいけない」と頭では分かっていながらも、先送りにしてしまいます。
それでも忘れてしまうわけではないのです。「やらなくちゃいけない」といつも頭の片隅に引っ掛かっているのです。それが溜まってくると、「あれもやらなくては、これもやらなくては!」と追い込まれ、慢性的にイライラするようになるのです。
そこで、「面倒だな」と感じた仕事を“実行に移す日”を、スケジュールに入れることにしました。仕事を依頼されたら、その場で、「〇〇日の午前中にやる」と手帳に書き込むのです。
不思議なことに、「この件については、この日にやる」と思えるだけで、イライラが取れていってしまったそうです。
「大人の発達障害です、『アンガーマネジメント』は役立ちますか?⑤」
「アンガーマネジメント(怒りのコントロール法)」の第5回です。アンガーマネジメントは、発達障害の方に限定してものではなく、どんな方が使って頂いても役立つスキルの一つです。
今回のテーマは「相手の怒りを自分に伝染させないこと」です。
もし皆さんの身近な人(友人、家族、恋人、同僚等)が、何に対して怒っている光景を目にされたら、どうされるでしょうか?
ここでのポイントは、「相手の怒りは相手のもの」として捉えることです。
「そんなに怒らなくてもいいじゃない」とか、「怒るのは良くないよ」…等と言ってしまったとすれば、相手の怒りがさらに増すだけでなく、多くの場合、その言葉を口にした相手に対しても怒りが「飛び火」してしまう結果になることでしょう。
そうなると、怒りの矛先を突然向けられてしまった皆さんとしても、つい「何で自分に対して怒るのだ」と思ってしまい、そこから、新たな怒りのバトルが勃発してしまいかねません。
これが「相手の怒りが自分に伝染してしまった」状態に他なりません。
また、「人の怒りは、同じことに対しては、20分間以上は続かない」と言われています。
もし20分間以上怒り続けている人がいたとするならば、一番よくあるケースは、途中でこちら側が何かしら口を挟んだり、意見を言ってしまったりすることで、「新たな怒りの種(燃料)」が投下され続けてしまった結果だとも言えるでしょう。
怒っている相手が身近にいらっしゃられた場合は、
- 20分間はそっとしておく
- 相手の怒りは相手のものとして捉える
- 相手の怒りを自分に伝染させない
まずはこの3点を意識されてみられて下さい。
「大人の発達障害です、『アンガーマネジメント』は役立ちますか?⑥」
「アンガーマネジメント(怒りのコントロール法)」の第6回です。アンガーマネジメントは、ADHDを始めとした発達障害の方に限定されたものではなく、どんな方が使って頂いても役立つスキルの一つです。
怒りを感じた時の「とっさの対処(応急処置)」として、以前同コラムにおいて、「8カウント法」「深呼吸」といった方法についてご紹介しました。
それに加えて、「ゆっくり水を飲む」という方法も非常に有効です。水を飲むことは、本当に小さな動作ですが、怒りに対する応急処理としての効果は絶大です。氷をなめることでも良いでしょう。
私たちは、怒りによって、脳の血流にアンバランスが出てしまうことがあります。ADHDの方の場合は、その傾向が特に顕著です。そういった意味でも、水を飲むことは、脳の血流を改善させる効果も期待できます。
水を飲む時は、ゴクゴクと喉を鳴らして飲むよりも、口の中の粘膜からじっくり吸収させるようにゆっくりと飲みましょう。
水は火を消すものです。水を飲む時には、心の中で「燃えている怒りの炎の火を消すようなイメージ」をされると良いでしょう。「イメージ療法」による相乗効果が見込めます。
このようにされることで、水を飲む間は、怒りから一旦気持ちが離れ、喉も心も潤して、一息つく時間と、心の余裕が生まれてくることでしょう。
「大人の発達障害です、『アンガーマネジメント』は役立ちますか?⑦」
「アンガーマネジメント(怒りのコントロール法)」の第7回です。アンガーマネジメントは、ADHDを始めとした発達障害の方に限定されたものではなく、どんな方が使って頂いても役立つスキルの一つです。
怒りを感じられた際、「心を静める言葉(怒りを鎮めるセルフトーク)」を心の中で唱えることは、非常に有効な手段です。但し、とっさに思い浮かべるというのは、かなりハードルが高いため、「予め自分に適した言葉を決めておく」ことが大切です。
この「言葉」を選ばれる時のポイントは、以下の3点です。
- 前向きでポジティブな言葉であること。
- 繰り返し唱えられるような、シンプルかつ端的な言葉であること。
- 自分にしっくりくる(一番落ち着くもの)であること。
このようにして、怒りを鎮める前向きな言葉を決めておき、怒りを感じた時、繰り返し心の中で唱えます。繰り返し唱えることで、気持ちが少しずつ言葉の内容に集中していきます。そうすると不思議なことに、徐々に言葉の内容が心に染み渡っていき、気持ちが怒りから切り替わるのです。
「心を鎮める言葉(怒りを静まるセルフトーク)」は、ご自分が一番落ち着くもの、しっくりくるものを選びますが、「具体例」を以下に幾つか挙げておきますので、宜しかったら参考にされてみられて下さい。
◎「落ち着いて、落ち着いて……」
◎「大丈夫、大丈夫……」
◎「リラックス、リラックス……」
◎「深呼吸、深呼吸……」
◎「冷静に、冷静に……」
◎「短気は損気、短気は損気……」等々。
「大人の発達障害です、『アンガーマネジメント』は役立ちますか?⑧」
「アンガーマネジメント(怒りのコントロール法)」の第8回です。アンガーマネジメントは、ADHDを始めとした発達障害の方に限定されたものではなく、どんな方が使って頂いても役立つスキルの一つです。
今回は、瞬発的な怒り(短期的な怒り)に対してではなく、長い間モヤモヤされてしまわるような「長期的な怒り」への対処法の中から一つ、ご紹介をさせて頂きます。それは「マインドフルネス」を、日常生活に取り入れていく方法です。
「マインドフルネス」は瞑想をベースにした心のエクサイズであり、近年では「第三の認知行動療法」とも言われています。怒りや不安に揺れる心を落ち着かせ、ネガティブな感情に飲み込まれるのを防ぐ際にお勧めです。
今回ご紹介するのは、マインドフルネスの中の「ボディスキャン」と呼ばれる方法(1~6の順番で行う)です。静かな落ち着ける場所で、30分程度の時間を目安に行っていきます。
- 背筋を伸ばして椅子に座ります:背筋を伸ばし、肩をまっすぐにして椅子に座り、軽く目を閉じます。背筋以外は力を抜いて、楽にされて下さい。
- 全身に息を吹き込みます:そのまま自然な呼吸を続けます。その際、吸った空気が全身を巡って、また口から出ていくようなイメージをされて下さい。
- 足先から太ももまで集中をしていきます:まずは左足の先に意識を向けます。指1本ずつが床に触れている感覚、冷たさなど、あらゆる感覚に気付いていきましょう。同様に、指の付け根、足の裏、足首から脛、ひざ、太ももまで、ゆっくりスキャンをするように注意を向けていきましょう。左足が終わったら、右足へ移ります。
- 腰から胴体、腕までを意識してきます:腰、胴体、背中の順に集中をしていきます。呼吸に伴う胸の動きや心臓の鼓動にも注意を向け、肺の動きにも気付きましょう。その後、腕から手首、指先に集中していきます。
- 首、顔、頭まで集中をしていきます:首、喉、口へと注意を移し、唇や舌を感じます。そして、目、耳、額から頭、髪が皮膚に触れている感覚に気付きましょう。
- 全身をくまなく意識します:全身をスキャンするように、全身に空気が出入りしていることを感じ、気持ちが落ち着いている感覚に気付いて、終了します。
ボディスキャンをされる時のコツは、「何かを判断しないこと」を続けていくことです。心に湧き出る怒りや不安など感情に気が付いても、今はそれを一旦脇に置き、感情に囚われず、「身体感覚」に注意を戻していきます。ひたすら「今、この瞬間のあるがままの状態」に意識・注意・集中を向けることを行って下さい。
このボディスキャンを含めたマインドフルネスは、その人ごとに「合う・合わない」といった“好み”がかなり出やすい側面があります。「試してみたらスッキリした、気持ち良かった」と感じられた方は、ぜひ継続されてみて下さい。
「大人の発達障害です、『アンガーマネジメント』は役立ちますか?⑨」
「アンガーマネジメント(怒りのコントロール法)」の第9回です。アンガーマネジメントは、ADHDを始めとした発達障害の方に限定されたものではなく、どんな方が使って頂いても役立つスキルの一つです。
私たちはどういった時に「怒り」を感じるのでしょうか?
以前同コラムにおいて、「怒りは第二感情であり、その背後に必ず『第一感情』がある」ということをご紹介させて頂きました。それも「怒り」を感じる一つの要因です。
ただ、もっと決定的な要因が実はあります。それは「価値観」という要因です。私たちは、当然ながら、自分自身の「価値観(価値基準)」というものを持っています。これがあるからこそ、人は物事に対して判断や決断をすることが出来るのです。
ただ、この「価値観」というものは、余りにも自然に、いつの間にか備わってくるため、その内容を逐一チェックしたり、違和感を持ったりすることは、まずありません。
ところが、この「価値観」こそが、他者との衝突や自分の怒りの発端になることが、非常に頻繁にあるのです。加えて、この「価値観」による衝突や怒りは、身近な親しい間柄ほど、起こり易くなります。何故なら、身近な親しい間柄の相手であるほど、「自分と同じ価値観を持っていて欲しい(共有したい)」という思いが生じてしまうからです。
「価値観」は誰一人として全く同じ人間はいません。「お互い持っている価値観は人それぞれ違うのだ」ということをしっかりと念頭において、それぞれの持つ価値観を尊重しつつ、お互いに話し合うところはきちんと話し合い、お互いの価値観の許容範囲内で折り合いをつけていく、といったことが必要になってくるのかもしれません。
少なくとも、一方の価値観を相手に押し付けることは、自分や相手の怒りの発端に繋がりかねません。もしも、無意識の内に、以下のような言葉を使っている時は、ご自身の価値観を強く押し出してしまっている可能性があるため、注意が必要でしょう。
★「べき」:その人の価値観が強く反映される言葉です。自分自身のやり方や方針だけでなく、相手の行動を決めたり判断したりする時にも使われがちです(⇒使用例:「女性はおしとやかであるべき」「子どもは親の言うことを聞くべき」「絶対にミスは避けるべき」…等々)。
実は「べき」は自分自身のルールであって、他人のルールではありません。他人を自分のルールで縛ろうとした際、相手が自分の思うような行動を取ってくれないと、自分のルールを守らない相手に怒りを感じてしまいます。
★「せっかく~~のに」:わざわざ行ってあげたのだという気持ちから出てしまう言葉のため、自分側では思い遣りのつもりが、相手には独善的に感じられてしまうことがあります(⇒使用例:「せっかく教えてあげたのに、どうしてすぐに活かさないの?」「せっかくあなたのために作ったのに、何で食べないの?」「せっかく来たのに、もっと喜びなさいよ」…等々)。
この「せっかく~~のに」のネックは、「喜ぶだろう」と自分が予想して、自分の意志で行動したのであり、必ずしも相手の希望に沿っているとは限らないことです。相手が自分の思っていたほど喜ばなかった時に、自分が手間を掛けた分だけ、がっかりしたり、腹が立ったりしてしまうのです。
★「はず」:結果を自分なりに予想していた際、それが大きく外れた時に出る言葉です。自分では「正しい」「合っている」と思っていても、実際には一方的な思い込みや期待、願望であることが往々にしてあります(⇒使用例:「言わなくてもこれくらい分かるはずでしょ」「頑張ったのだから、褒められるはずだ」「きっと慰めてくれるはず」…等々)。
残念ながら、物事は必ずしも自分が予想していた通りになるとは限りません。むしろ他者が関与してくる場合は、思い通りにならない方が多いこともあります。頭では「一般論としては、確かにそうだ」ときちんと分かっていても、自分のこととなると中々気が付かないものです。
「大人の発達障害です、『アンガーマネジメント』は役立ちますか?⑩」
「アンガーマネジメント(怒りのコントロール法)」の第10回です。アンガーマネジメントは、ADHDを始めとした発達障害の方に限定されたものではなく、どんな方が使って頂いても役立つスキルの一つです。
「怒った方が上手くいく」と思われている方は、案外多いようですが、これは完全に「幻想」だと考えて下さい。本日はそのテーマで書かせて頂きます。
よく「怒った方がスッキリする」とか、「相手だって怒っているのだからお互い様」と仰られる方がいらっしゃられますが、これはあくまでも「自分だけの感想」であり、相手が同じとは限らないのです。しばしば、相手もそうだろうと思い込んでいる内に、気づくとその相手との間に、埋まらない溝や大きな距離感が生じてしまっていることは少なくありません。
「怒った方が、自分の主張が通りやすい」と言う方もいますが、一時的に主張が通ったとしても、そういったコミュニケーションを続けていると、これも次第に相手が離れていき、人間関係が長続きしません。率直な意見交換と、感情のぶつかり合いは、違うのです。
「怒り」は他者を遠ざけます。怒りをぶつけられて喜ぶ人などいません。「触らぬ神に祟りなし」と、出来る限り接点を持たないようにと、周囲は考えます。その結果、怒っている人は、いつの間にか「孤立」してしまうことになるのです。
そして、「自分が怒った記憶」というものは案外残りませんが、「自分が怒られた記憶」というものは、かなり尾を引いて残ります。そして、その人の印象形成においても「怒る人」というイメージが長期に渡り残ってしまうのです。
加えて、以前同コラムにて、書かせて頂いた内容と重複しますが、困ったことに、「怒りは風呂敷に包んで持ち運びが可能」なのです。これはどういう事かと言いますと、上の立場の人から怒りをぶつけられた場合、その当人に怒りを投げ返すことは、かなりのリスクが伴います。よって、その怒りを返す相手の矛先を、自分より下の立場(部下や子ども等)の人間に向けてしまうのです。「職場では穏やかと定評がある人」が、家に帰ると一変して「暴君」になってしまう背景には、このような怒りの性質(「怒りは風呂敷に包んで持ち運びが可能」「怒りは高い所から低い所へと流れる」)が関係しているケースがかなりあります。
「大人の発達障害です、『アンガーマネジメント』は役立ちますか?⑪」
「アンガーマネジメント(怒りのコントロール法)」の第11回です。アンガーマネジメントは、ADHDを始めとした発達障害の方に限定されたものではなく、どんな方が使って頂いても役立つスキルの一つです。
私たちが無意識の内によく用いてしまっている言葉の中に、「なんで……」というものがあります。この「なんで……」という言葉が、「怒り」と関係してくることがあるのです。
まず、この「なんで……」という言葉は、過去を振り返って、失敗の原因を探る時に用いる言葉です。加えて、「なんで……」は「……ない」という言葉と結び付きやすく、「なんでできないのだろう」といったような、自分を責める気持ちや、自分自身への怒りの感情を招いてしまいます。
また、この言葉(例:「なんでできないの?」)を用いて相手に尋ねてしまうと、尋ねた側はそのようなつもりはなくとも、問われた相手は、「自分の失敗を責められている」「自分は怒られているのだ」と受け取ってしまうこともあります。
もし、ご自身に無意識に「なんで……」という言葉を用いる癖があるようならば、要注意です。実際に口には出していなくとも、内心で唱えてしまう(=「セルフトーク」)のも、自責感情を引き起こし易くなります。
口癖はいつの間にか習慣化して身に付いてしまったものですので、意識すれば変えることが出来ます。「なんで……」に代わるものとしてお勧め言葉は、「どうしたら……」です。
「どうしたら……」は、次の成功を導くための、前向きで未来志向型の問い掛けになります。加えて、「どうしたら……」に結び付きやすい言葉は、「……できる」になります。「どうしたら……」と自問すれば「……できるかな?」と前向きな言葉が自然に出てきます。
「なんで……」を「どうしたら……」に置き換えて、前向きな言葉をぜひ味方につけていって下さい。
「アンガーマネジメント」で人気の書籍