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【医師監修】睡眠の問題と対処法とは?―チェックリストつき―

「眠れない日が長く続いている」「なかなか寝つけない」「夜中に目が覚める」「朝早く目が覚めてしまう」など、睡眠に関する悩みはありませんか?もし眠ることに関して困っていることがある場合は、何らかの健康問題が背景にあるかもしれません。

 

この記事では「眠れないこと(不眠)」に関わる症状の種類や対処法などをご紹介します。自己チェックリストや受診判断の目安、日常生活で行えるコツも掲載していますので、ぜひご覧ください。

 

【目次】

1:睡眠の状態をチェックしましょう

1-1:睡眠は健康のバロメーター

1-2:睡眠に関するチェックリスト

 

2:不眠の症状と受診判断

2-1:不眠に関わる症状の種類

2-2:受診するべきかどうかの判断は?

 

3:よりよい睡眠への処方箋

3-1:日常生活で行えることを実践する

3-2:年齢や個人差、環境に応じた対策をする

3-3:医療機関を受診する場合のポイント

 

まとめ

 

【本文】

1:睡眠の状態をチェックしましょう

睡眠は、心身の健康と密接に関わるとても重要なものです。日本人の5人に1人が不眠症を抱えているとされており、睡眠を取り巻く問題はかなり身近なものでもあります。自分の睡眠の状態をチェックして、必要な場合には心療内科などを受診して、適切な治療をすることをおすすめします。

 

1-1:睡眠は健康のバロメーター

心身の健康のバロメーターとなるもののひとつに睡眠があります。「よく眠れない」「寝つけない」「眠りが浅い」「夜間に目覚める」などの状態が続いて睡眠不足に陥ると、日常生活に様々な影響が出てきます。例えば、日中に眠気をもよおす、疲労感がとれない、注意力や判断力が低下する、記憶力が落ちる、頭痛になる、不安やイライラが生じるなどです。

 

睡眠の問題の原因を大きく分けると「睡眠環境、生活習慣、嗜好品によるもの」と「睡眠障害によるもの」となります。睡眠環境や嗜好品によって良質な睡眠が妨げられている場合には、原因を直接取り除くことによって基本的に改善するでしょう。一方、睡眠に問題があって昼間の生活に支障が出ている場合には、早めのタイミングで医療機関へ受診し、早期に睡眠状態を回復することが望まれます。

 

睡眠に影響を及ぼす原因としては、ストレスやうつなど心が関係するものをはじめ、身体疾患や治療薬(副作用)、睡眠時無呼吸症候群などが考えられます。安易に自己診断せずに、心療内科や精神科、睡眠障害外来などの専門医に相談して、きちんとした検査や診断を受けて、適切な治療を受けることが改善への近道となります。

 

1-2:睡眠に関するチェックリスト

睡眠の質について、客観的に判断するのはなかなか難しいことです。

今回ご紹介するチェックリストは、世界保健機関(WHO)が作成した不眠に関する自己評価尺度です。ご自身の睡眠の状態を判断するための参考になりますので、ぜひ試してみてください。

8つの項目それぞれにあてはまる選択肢を選んで、選択肢の左に書かれている数字を合計してください。

 

日本語版 アテネ不眠尺度(AIS)

過去1か月間に、少なくとも週3回以上経験したものについて、あてはまる数字を選んでください。

①寝床についてから実際に寝るまで、時間がかかりましたか? 0 いつもより寝つきはよい
1 いつもより少し時間がかかった
2 いつもよりかなり時間がかかった
3 いつもより非常に時間がかかった、あるいは眠れなかった
②夜間、睡眠の途中で目が覚めましたか? 0 問題になるほどのことはなかった
1 少し困ることがある
2 かなり困っている
3 深刻な状態、あるいは全く眠れなかった
③希望する起床時間より早く目覚めて、それ以降眠れないことはありましたか? 0 そのようなことはなかった
1 少し早かった
2 かなり早かった
3 非常に早かったか、全く眠れなかった
④夜の眠りや昼寝も合わせて、睡眠時間は足りていましたか? 0 十分である
1 少し足りない
2 かなり足りない
3 全く足りない、あるいは全く眠れなかった
⑤全体的な睡眠の質について、どう感じていますか? 0 満足している
1 少し不満である
2 かなり不満である
3 非常に不満である、あるいは全く眠れなかった
⑥日中の気分はいかがでしたか? 0 いつも通り
1 少し滅入った
2 かなり滅入った
3 非常に滅入った
⑦日中の身体的及び精神的な活動の状態はいかがでしたか? 0 いつも通り
1 少し低下した
2 かなり低下した
3 非常に低下した
⑧日中の眠気はありましたか? 0 全くない
1 少しあった
2 かなりあった
3 激しかった

 

8つの項目それぞれに回答できたら、合計点を出しましょう。

チェックリストの結果は、いかがでしたか?

 

  • 3点以下:睡眠がとれています

基本的に睡眠の状態はよいと考えられます。引き続き、規則正しく良質な睡眠がとれるようにおすごしください。良質な睡眠をとるためコツは、「3-1:よりよい睡眠をとるためのポイント」を参考にしてください。今後、もし睡眠の状態に異変を感じた際には、このチェックリストを使って睡眠の状態を確認することをお勧めします。

 

  • 4~5点:不眠症の疑いが少しあります

「不眠症の疑いが少しある」という結果で、睡眠の状態がやや気がかりです。一方で、必要な睡眠の質や量には個人差もあります。以下の記事をお読みいただき、健康に大きな影響が出る前にかかりつけ医や心療内科へ相談するなど、悩みの種類や程度による対応をお勧めします。

 

  • 6点以上:不眠症の可能性が高いです

睡眠に関する症状への対策が必要です。日常生活に支障が出ていないでしょうか?眠れない原因を特定して、睡眠の状態を改善する必要があると思われます。以下の記事をお読みになり、症状の種類に応じて心療内科や精神科、睡眠外来等へ相談することをお勧めします。

 

2:不眠の症状と受診判断

「寝つけない」「途中で起きて再び眠れない」「早く起きてしまう」といった不眠に関わる症状は、状態によっていくつかの種類に分けられます。受診をする際には、具体的にどのような状態なのかを伝えて、心配していることや解決に向けて希望することを伝えることが大切です。不眠にお困りの方は、ご自分の睡眠の状態として当てはまるものがどれなのか確認するとよいでしょう。

 

2-1:不眠に関わる症状の種類

・入眠困難

「なかなか眠れない」「寝つきが悪い」など、ベッドに入ってから実際に眠りに落ちるまでに時間がかかる状態です。

 

・睡眠維持困難(中途覚醒)

「夜中に目が覚める」「何度も目が覚める」など、いったん寝付いたものの繰り返し目が覚める状態です。

 

・早朝覚醒

「朝早くに目が覚める」というように、予定している起床時間よりも早く目が覚めてしまう状態です。

 

・熟眠障害

「眠りが浅い」「眠っているはずなのに疲れが取れない」「寝た気がしない」など、睡眠時間はとれているものの、身体のだるさが残っている状態です。

 

なお、睡眠に関する問題はこの他にも「眠りすぎる」「夢を見ながら行動してしまう」「突然に眠り込む」「睡眠中に頻繁に呼吸が止まる」「夜、寝ようとする頃に足がむずむずする」「睡眠の時間帯が少しずつずれていく」などが挙げられます。

 

2-2:受診するべきかどうかの判断は?

その人に必要な睡眠時間には個人差があります。そのため、夜眠れなくても、朝早くに目が覚めてしまっても、日中の活動で問題を感じないのであれば、それほど気にする必要はありません。ただし、睡眠の質を下げている要素がないか確認して、原因を取り除くことは大切です。「3-1:よりよい睡眠をとるためのポイント」を参考にして、より快適に日常生活をすごせるように活用してください。

 

不眠によって「昼間に眠気に襲われる」「集中力や判断力などが落ちる」「頭痛・めまい・食欲不振などが生じる」など、日中に身体面や精神面の不調を自覚している場合には、改善策が必要です。特に、先に紹介した不眠に関わる症状が2日に1回ほどのペースで起きていたり、1か月以上続いていたりする場合には、早めに病院を受診することをお勧めします。

 

眠りに関する症状は、インターネットなどの情報から自己判断して解決することは大変困難です。睡眠に悩みがあり、適切な対処方法を行いたい場合には、専門家に自分が困っている状態を具体的に伝えて相談しましょう。「何科を受診すればよいか」に迷う場合には、「3-3:受診する場合の診療科の選び方」を参考にしてください。

 

3:よりよい睡眠への処方箋

良質な睡眠は、健康維持や生活の質の高さにつながります。健康な方でも、睡眠リズムが不安定になったり、睡眠不足が続いたりすると、日常生活に支障が出てしまいます。まずは「よりよい睡眠」という視点から日常生活のすごし方を振り返りましょう。

 

睡眠の悩みについて医療機関に相談したい場合は、「何科を受診すればよいのか?」と迷われる方も多いです。心当たりのある原因によって診療科は異なりますので、適切な対策をとるためのポイントをご紹介します。

 

3-1:日常生活で行えることを実践する

良質な睡眠は、光や温度の環境の工夫と深く関連しており、日常生活で意識するとよいことがたくさんあります。光・温度・音を中心に環境を整えるとともに、日中の活動と夜間の休養とのメリハリをつけて規則正しい生活リズムを意識しましょう。

 

起床後には、朝日の強い光を浴びましょう。体内時計がリセットされて、睡眠・覚醒のリズムが整います。日中に光をたくさん浴びることは大切で、睡眠と関連の深いメラトニンの夜間の分泌につながります。寝室の照明の明るさは、睡眠の効率と関わっています。なるべく暗くして眠りましょう。

 

ヒトの深部体温は、おおよそ24時間周期で変動しており、夜間の睡眠時には体温が低下します。睡眠時の体温変動をスムーズに促すために、就寝の2~3時間前の時間帯を目安に入浴するとよいでしょう。入浴によって体温が一時的に上がり、就寝時間の頃には体温が自然と下がりますので、入眠を促す効果が期待できます。

 

睡眠は、活動によって消耗した体力等を回復する役割をもっています。そのため、適度な運動習慣は睡眠の質を高めることにつながります。日中は身体と頭をなるべく動かして活動しましょう。できれば就寝2~4時間前までに運動をすると、深部体温の上昇と下降の効果が得られて入眠を促しやすくなるでしょう。

 

規則正しい食生活を心がけ、睡眠の時間帯を一定にするよう意識しましょう。睡眠の妨げとなってしまうカフェイン・アルコールの摂取量にも気をつけてください。就寝前にリラックスしようとして、緑茶・紅茶・コーヒー(カフェイン)やタバコ(ニコチン)を摂取すると、これらの物質のもつ覚醒作用によって、入眠が妨げられてしまいます。アルコールには寝つきを促す作用があるものの、夜中にアルコールが抜ける段階で覚醒を促すことから、中途覚醒を増加させることにつながります。

 

 

睡眠の質を高めるためのポイント

e-ヘルスネット(厚生労働省)より

 

 

3-2:年齢や個人差、環境に応じた対策をする

その人にとって必要となる睡眠時間の量には、個人差があります。例えば、夜間に実際に眠ることのできる時間は、加齢に伴って少しずつ短くなることや、加齢によって早寝早起きの傾向が強まることが知られています。また、季節によっても睡眠時間は変動し、夏よりも冬のほうが睡眠時間は長くなるということが示されています。

厚生労働省は、2024年2月に「健康づくりのための睡眠ガイド 2023」を公開しました。これは、睡眠に関する新たな知見の集積や、わが国の睡眠を取り巻く状況をふまえて、「健康づくりのための睡眠指針 2014」を見直した、約10年ぶりに策定されたものです。「成人」「子ども」「高齢者」というライフステージ別の睡眠に関わる推奨事項がまとめられています。また、女性の健康や、交代制勤務に関わる睡眠のポイントも記されています。インターネットでPDFをダウンロードできますので、ぜひご覧ください。

 

厚生労働省:健康づくりのための睡眠ガイド 2023

https://www.mhlw.go.jp/content/001208247.pdf

 

3-3:医療機関を受診する場合のポイント

不眠について医療機関に相談したい場合は、ご自身の睡眠の問題についての原因や心当たりに応じて、どこを受診するとよいか判断してください。身体の痛みや、現在服薬している薬が関係していそうな場合は、かかりつけ医に相談とよいでしょう。ストレスが原因と考えられる場合や、ほかの心の症状(気分の落ち込み、落ち着かなさなど)もある場合には、心療内科や精神科などの専門医に相談をしましょう。同居者から「夜間に呼吸が止まっている」と指摘されている場合は、睡眠時無呼吸症候群の可能性がありますので、内科・耳鼻咽喉科・睡眠外来などを訪れるとよいでしょう。

 

心療内科や精神科、睡眠外来の初診では、睡眠をはじめとする状態を丁寧に確認します。ご自身が感じている睡眠に関する問題や、医師に伝えたいことを整理して、遠慮なく伝えることが大切です。

 

【伝えるとよいことの例】

・自分が感じている睡眠に関する問題

・自覚している症状

・治療中の疾患や、服薬中の薬の種類と量

・同居者からの情報(夜間にいびきをかいている、呼吸が止まっている時があるなど)

・日常生活に影響している事柄

・心配に思っていること、不安なこと

・知りたいこと

・どのようになりたいか

 

まとめ

今回は、睡眠の中でも「不眠」に焦点を当てて、症状の種類、自己チェックの方法、よりよい睡眠をとるための日常生活でのポイント、受診先の診療科などをご紹介しました。病院へ相談するとよいタイミングはあくまでも目安です。「つらい」と感じている場合は、不眠を悪化させないようにするためにも、早めに専門医を受診することをお勧めします。

 

 

【文献】

岡島 義(2022):自覚的な睡眠評価(宮崎総一郎・林 光緖・田中秀樹編著,日本睡眠教育機構監修:健康・医療・福祉のための睡眠検定ハンドブック up to date.全日本病院出版会)

 

厚生労働省:良い目覚めは良い眠りから 知っているようで知らない睡眠のこと

https://e-kennet.mhlw.go.jp/wp/wp-content/themes/targis_mhlw/pdf/guide-sleep.pdf?1706400000123

 

厚生労働省:e-ヘルスネット「眠りのメカニズム」

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-01-002.html

 

厚生労働省:e-ヘルスネット「快眠と生活習慣」

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-01-004.html

 

厚生労働省 健康づくりのための睡眠指針の改訂に関する検討会(2024):健康づくりのための睡眠ガイド 2023

https://www.mhlw.go.jp/content/001208247.pdf

 

国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 睡眠・覚醒障害研究部:不眠症(Insomnia)

https://www.ncnp.go.jp/nimh/sleep/sleep-medicine/insomnia/index.html

 

Okajima, I., Nakajima, S., Kobayashi, M., & Inoue, Y.(2013):Development and validation of the Japanese version of the Athens Insomnia Scale. Psychiatry and Clinical Neurosciences, 67, 420–425.

 

(6,425字)

 

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【画像 URL】

図1:ランプ付きのベッドの写真

https://unsplash.com/ja/%E5%86%99%E7%9C%9F/%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%97%E4%BB%98%E3%81%8D%E3%81%AE%E3%83%99%E3%83%83%E3%83%89-999xEzwi7oA

 

図2:厚生労働省:e-ヘルスネット「快眠と生活習慣」

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-01-004.html

 

図3:白い表面に茶色の木製のブロック

https://unsplash.com/ja/%E5%86%99%E7%9C%9F/%E7%99%BD%E3%81%84%E8%A1%A8%E9%9D%A2%E3%81%AB%E8%8C%B6%E8%89%B2%E3%81%AE%E6%9C%A8%E8%A3%BD%E3%81%AE%E3%83%96%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AF-feKxV48FZVM

 

 

監修 佐々木裕人(精神科専門医・精神保健指定医)