境 界性パーソナリティ障害の症状5つ!診断テストや口癖の特徴も解説
「人間関係や恋愛でトラブルを起こしやすい」
「情緒が安定しないから家族に迷惑をかけてしまう」
「恋人に見捨てられるのが怖くて仕方ない」
このように感じたことはないでしょうか。これらは、境界性パーソナリティ障害の症状に含まれます。
この記事では、境界性パーソナリティ障害の主な症状や2つの治療方法、接し方について紹介します。境界性パーソナリティ障害の診断テストもあるので、ぜひチェックしてみてください。
境界性パーソナリティ障害とは?|生活に支障をきたす病気
境 界性パーソナリティ障害とは「些細なことで気持ちや対人関係が崩れてしまい、普段の生活や仕事に支障をきたす障害」のことです。
境界性パーソナリティ障害は多くの場合、青年期に症状があらわれやすく、加齢とともにその症状は軽くなります。境界性パーソナリティ障害は、男性よりも女性に多いと言われています。主な症状は以下のとおりです。
- 人間関係や自己像の不安定性
- 極度の気分変動
- 突発的な行動
- 見捨てられるかもしれないという不安
症状の程度やどのような症状があるかは個人差があります。
なかには、孤独感を強く感じてしまい「見捨てられたくない」といった思いから自傷行為をして、周りの人が助けてくれるように危険を作るケースもあります。
また、併存してこころの病気がある場合が多く、うつ病や双極性障害をはじめ不安症、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、摂食障害などが認められます。具体的な割合は以下の表のとおりです。
病気 | 境界性パーソナリティ障害の併存率 |
うつ病 | 41~83% |
双極性障害 | 10~20% |
心的外傷後ストレス障害(PTSD) | 46~56% |
社会恐怖 | 23~47% |
強迫性障害 | 16~25% |
パニック障害 | 31~48% |
摂食障害 | 29~53% |
境界性パーソナリティ障害と一言でいってもさまざまな症状を抱えている場合があります。そのため、それぞれの患者さまに合った治療法が必要です。
境 界性パーソナリティ障害を発症する原因はわかっていない
境界性パーソナリティ障害を引き起こす原因は、はっきりとわかっていません。ただし、以下の3つの要因が関係している可能性があります。
- 生物学的な要因
- 家庭の養育環境
- 社会・文化的な要因
「境界性パーソナリティ障害はなぜ起こるの?」と疑問に感じている方は、ぜひ参考にしてください。
生物学的な要因
セロトニンやノルアドレナリンなどの脳内神経伝達物質が関与しているといわれています。
というのも、これらの物質には以下のような作用があるためです。
- セロトニンは精神を安定させる働きがあり、機能低下により衝動性や自殺企図が生じやすくなる。
- ノルアドレナリンはストレスにより分泌され、過剰分泌による情動の不安定性を引き起こす。
ほかにも、ストレスの処理にかかわる部位である視床下部や恐怖にかかわる扁桃体の過剰反応などが、境界性パーソナリティ障害の要因といわれています。
さらに、発達障害の影響も考えられます。
境界性パーソナリティ障害は、人格や個性が決まる中学生から成人までの間に症状が見られるためです。
その時期に境界性パーソナリティ障害と診断されやすいですが、成人してから注意欠如・多動症(ADHD)と診断しなおされるケースもあります。
発達障害は子どもの頃から持続して症状がみられます。
一方で、境界性パーソナリティ障害では中学生ごろから成人までの一定の期間にみられます。そのため、症状が現れた期間で境界性パーソナリティ障害もしくは、発達障害とわけることもできます。
家庭の養育環境
境界性パーソナリティ障害を引き起こす要因には、以下のような幼少期の経験があるとされています。
- 身体的虐待
- 性的虐待
- ネグレクト
- 片親の喪失
これらの経験により心的外傷後ストレス障害(PTSD)になり、境界性パーソナリティ障害の発症にかかわっていると考えられています。
社会・文化的な要因
境界性パーソナリティ障害は、発展途上国より先進国で多いといわれています。
現代社会の中では、さまざまなリスクにさらされ絶えず「不安」を感じているためです。
また、境界性パーソナリティ障害では女性の方が男性より約4倍多いことから性別による違いも見られます。
その背景には、昔の男尊女卑の考え方があるといわれているためです。例えば、男性が感情的になり女性を殴ったとしても正当化され、逆に女性が感情的になると「ヒステリーだ」といわれネガティブにとらえられてきた背景も影響しています。
このように、女性が感情的になることはよくないことだとされ、自分が悪いという思い込みにつながりやすくなったのかもしれません。
境界性パーソナリティ障害の主な6つの症状
境界性パーソナリティ障害の症状は主に6つあります。
- 感情をうまくコントロールできない
- 見捨てられるかもしれないという恐怖や不安がある
- 極端に考える
- 虚しさ抱きやすく幸せを感じにくい
- 突発的な行動をしやすい
- 自殺をしようとしたり自傷行為したりを繰り返す
感情をうまくコントロールできない
境界性パーソナリティ障害の方は、普段は機嫌がよくても些細なことがきっかけで態度が変わることがあります。
たとえば、突然怒ったり、暴言を吐いたり、ときには物を投げつけたり、相手を殴ったりする場合があります。これは家族だけではなく、会社の上司やお店の店員さんにもしてしまう場合があります。
ほかにも、遊ぶ約束をしていたのにキャンセルされるとパニックになったり、怒ったり情動が不安定になるケースもあります。
これは、キャンセルされたことを「自分が悪かったから見捨てられた」「自分の行動で嫌われてしまったから来てくれなかった」と考えてしまうことが原因であるためです。自分が原因で見捨てられたと感じると突発的な行動につながり、感情のコントロールがきかなくなる傾向があります。
見捨てられるかもしれないという恐怖や不安がある
境界性パーソナリティ障害では「見捨てられることへの不安」があり、友達や恋人に見捨てられることが怖くて相手に尽くそうとします。
そのため、ほかの人に共感したり思いやりを持つことが得意です。
ただし、それは相手が自分のそばにいてくれると安心している場合に限ります。相手が自分から離れてしまうのではないかと感じると怒ったり、自傷行為をしたりします。
極端に考える
境界性パーソナリティ障害の方は、物事を極端に考える傾向があります。
これは、白か黒という極端な判断しかできない考え方があるためです。たとえば、大事な用事ができたからと約束をキャンセルされると「私のことが嫌いなんだ」と好きか嫌いかの2択で考えます。
このような極端な考えは、人間関係の悪化や自己像に影響し自分も相手も疲れてしまいます。
白か黒かで考えると人間関係のトラブルを起こしやすいため考え方を見直していくことが必要です。
虚しさ抱きやすく幸せを感じにくい
境界性パーソナリティ障害では、親の影響で自立心が損なわれていることが多く「生きていても虚しい」「自分は無力だ」「生きている価値がない」と自分の価値が見いだせません。
そのため、虚無感を埋めるために相手に依存する傾向があります。
ですが、相手との関係がうまくいかないとその反動で怒りや抑うつ状態になります。このように、境界性パーソナリティ障害の方は、気分が落ち込みやすく幸せを感じにくいです。
突発的な行動をしやすい
前述したように、境界性パーソナリティ障害の方は、白か黒かという考え方であるため、些細なことでも「自分はダメな人間だ」「生きている価値がない」と感じます。
恋人や親、知人が相手をしてなくなるかもしれないと感じたときに、過食したり自殺しようとする行動を見せたりして、相手の注意を引くために自分自身を攻撃してしまう行動がみられます。
この行動は「自分が悪い人間だから拒絶されるんだ」と感じてしまうことで、自らを攻撃してしまいます。
自 殺しようとしたり自傷行為したりを繰り返す
境界性パーソナリティ障害の方は、見捨てられたり拒絶されていると感じ「自分が悪い人間だから離れていくんだ」「気に入らない行動をしてしまったから離れた」と考えます。
その結果、自殺しようとする姿を見せたり自傷行為を繰り返し自分を痛めつけようとしたりします。
自殺した若年者では、人格障害が20〜50%と多く含まれており、境界性人格障害の症状が自殺に関連しているといえます。
境界性パーソナリティ障害の診断テスト
境界性パーソナリティ障害では、DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル)の診断基準が用いられます。患者さまに以下のような症状が認められる場合に、境界性パーソナリティ障害と診断されます。
- 不安定な対人関係
- 自己像
- 感情が調整できない、もしくは明らかに衝動性な行動が続いているパターン
さらに、続的パターンは以下のうちの5つ以上が当てはまると診断される可能性が高まります。ただし、精神科や心療内科などで専門医の判断を仰ぐことが大切であるため、ここではあくまでも目安としてください。
- 見捨てられないように懸命に努力する
- 相手を理想化したり低評価したりしてその間を揺れ動くなど、こころが休まらない人間関係
- 明らかに不安定な自己像または自己感覚
- 自らに傷つける恐れがある衝動性(例、安全ではない性行為や過食、危険な運転など)
- 自殺する姿を見せようとする行動や自殺しようとする演技、もしくは自殺する脅や自傷行為
- 明らかな気分の変化(通常は数時間しか続かない。気分の変化が数日にわたって続くことはまれ)
- 慢性的な空虚感
- 不適切な強い怒りもしくは、怒りをコントロールできない(例かんしゃくを起こしたり、しばしば怒ったりするなど)
- 一時的なストレスにより引き起こされる妄想的な思考もしくは、重度の解離症状
また、境界性パーソナリティ障害と似ている以下3つの疾患の恐れがあるため、区別する必要があります。
病気 | 特徴 |
双極性障害 | ・気分などの症状が持続的に変化
・症状の出現頻度という点で異なる |
演技性パーソナリティ障害
自己愛性パーソナリティ障害 |
・周囲の注意を惹こうと演技するように振る舞う
・注意を惹くのと同時に自分を悪い人と考え、空虚感を抱いている点で異なる |
不安障害 | ・強い不安によりさまざまな症状が現れる
・特徴的な否定的な自己像や不安定である愛着などはみられない |
境 界性パーソナリティ障害の治療法
境界性パーソナリティ障害の治療法は主に2つです。
- 精神療法
- 薬物療法
これらの治療は、完治するのは難しい病気であるため、症状を軽くすることが目的です。精神療法や薬物療法を続けることで少しずつ症状が軽くなると考えられています。
ここでは、それぞれの治療方法をくわしくみていきましょう。
精神療法
精神療法には、認知行動療法や弁証法的行動療法があります。
- 認知行動療法物事の捉え方を修正することで行動を変える治療法
- 弁証法的行動療法主に白か黒か思考の考え方を修正する治療法
これらの治療方法は自殺行動の低減、抑うつの改善に有効といわれています。
自分の考え方を修正し、感情を適切にコントロールする力を身につけることで衝動的な行動や考えを軽減します。
薬物療法
薬物療法では「気分安定薬」「非定型抗精神病薬」が使用されます。
気分安定薬は脳内の神経伝達物質の働きを調整し、抑うつや不安、衝動性などを軽減し気分を安定させます。副作用には、眠き・ふらつきや体重増加、吐き気などがあります。
非定型抗精神病薬は、脳内のドパミン受容体やセロトニン受容体に働き、妄想や情動不安定などの症状を軽減します。
主な薬の種類は、以下の表を参考にしてください。
気分安定薬 | 炭酸リチウム、デパケン、テグレトール、ラミクタールなど |
非定型抗精神病薬 | リスペリドン、クエチアピン、アリピプラゾール、エビリファイなど |
境界性パーソナリティ障害に関するQ&A
ここでは、よくある質問を3つを紹介します。境界性パーソナリティ障害の疑問や不安を解消できるきっかけになれると幸いです。
境界性パーソナリティ障害の口癖とは?
境界性パーソナリティ障害の方の口癖は以下のとおりです。
- 「見捨てないで」
- 「死にたい」
- 「消えたい」
- 「わからない」
- 「ごめんなさい」
見捨てられることに対する不安や自分に対する嫌悪感からこのような口癖になります。
また、自分の思考が混乱しやすく「わからない」といったり、他人を安心させるために落ち込んでいることを隠すために「大丈夫」ということもあります。
自尊心も低いため「ごめんなさい」と頻繁にいうことがあります。
境界性パーソナリティ障害の恋愛の特徴は?
一途に愛しすぎるが故に、恋人に依存し執着するような恋愛になりやすい特徴があります。
「数時間、連絡をしてくれない」「昨晩は、帰宅するのが遅かった」など些細なことが原因で、衝動的になってしまい過呼吸やパニック発作が出現することがあります。
このような状態はお互い精神的に疲れてしまい、長期的に関係を続けていくことが難しいです。
相手に負担をかけてばかりで自分の存在意義や価値を見いだせないと感じる一方で、愛されたいという思いもあるためより複雑な恋愛の傾向となります。
境界性パーソナリティ障害の方への接し方の注意点は?
境界性パーソナリティ障害の方に接するときの注意点は以下のとおりです。
- 一定の態度で接する
- 病気が原因であることを理解する
- 周りが責任を感じすぎない
この3つが大切です。
境界性パーソナリティ障害の症状により調子がいいときも悪いときも、いつも同じ態度で接しましょう。
なぜなら、その日その日で態度が違うと、境界性パーソナリティ障害の方の感情が揺さぶられ情動が不安定となるからです。
また、衝動的になってしまうのは病気が原因であると理解することが大切です。一番苦しんでいるのは患者さまなので「あなたのせいではないよ」と伝えてください。
さらに「助けてくれないなら飛び降りる」「電話に出てくれないから飛び降りる」など相手に脅迫するようなことをいう場合もあります。
境界性パーソナリティ障害の方の行動にも責任があることを理解してもらうことが欠かせません。ただし、情緒が不安定な状況でいうと逆効果になってしまうため伝え方とタイミングには要注意です。
このように周りを攻める言動をいうことがありますが、周りは責任を感じすぎなくて大丈夫です。
本人も感情がコントロールできなくておこなってしまっているため、本心ではないでしょう。それを理解してあげるだけでもお互いに接しやすくなるかもしれません。
まとめ
境界性パーソナリティ障害は、脳内の機能異常や家族関係などさまざまな要因で起こります。
症状もさまざまです。
とくに、白か黒かのような極端な思考が見捨てられ不安につながり衝動的な行動を起こします。これは、患者さま自身だけではなく、家族や知人も身体的にも精神的にも疲れてしまう結果にしかなりません。
そのため、適切に治療を受けて寛解を目指していくことが重要です。境界性パーソナリティ障害の方への接し方に気を付けることも重要なポイントとなるので、ぜひ実践してみてください。
https://fa.kyorin.co.jp/jspn/guideline/kG80-85_s.pdf
「パーソナリティ障害 p81」|株式会社杏林舎
境界性パーソナリティ障害|MSDマニュアル
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspog/26/3/26_333/_pdf P336
2022年 境界性パーソナリティ障害とその関連疾患
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsr/66/4/66_460/_pdf P463
腫れ物としての身体
WHOによる自殺予防手引き
https://fa.kyorin.co.jp/jspn/guideline/kG80-85_s.pdf P81
パーソナリティ障害
監修 佐々木裕人(精神保健指定医・精神科専門医)