(更新 2024年7月1日)
A.「マインドフルネス認知療法(以下:MBCT)」
とは、アメリカのマサチューセッツ大学メディカルカレッジのジョン・ガバットジンの熱意ある取り組みである「マインドフルネス低減法」から生まれたものです。MBCTのテクニックは、西洋では最近までほとんど知られていなかった、「(宗教色を排した)瞑想」の形態を取り入れています。
マインドフルネス瞑想は、美しい程にシンプルで、私達に本来備わっている「生きていることへの喜び」を呼び覚ましてくれます。そのこと自体にも大きな意味があるいますが、さらには普段感じる水準での不安やストレス、悲しみなどが連鎖して、遷延化する不幸せな気分や疲弊、もしくは、さらに深刻なうつ病へと発展してしまうことを防いでくれるのです。
【1分間瞑想法】
① 背もたれのまっすぐな椅子に背筋を伸ばして座ります。可能なら、背骨が身体を支えていることが分かるように、背もたれから背中を少し離しましょう。床の上に足を水平に置きます。目は閉じるか、薄く開いた状態を保ちます。
② 呼吸に注意を向け、身体の中に空気が入ってきて、そして出ていくのを感じます。息を吸う時、息を吐く時、毎回感覚が異なることに注意を向けます。何か特別なことが起きることを期待するのではなく、ただ呼吸を観察します。呼吸の仕方を特に変える必要はありません。
③ 暫くすると、心がさまよい始めるかもしれません(=「マインドワンダリング」)。もし、それに気がついたら、自分を責めることなく、ゆっくりと注意を呼吸に戻します。心がさまよったことに気付き、自分を責めることなく注意を呼吸にそっと戻すことこそが、マインドフルネス瞑想の実践のエッセンスです。
④ 最後には、静かな池のように心が穏やかになるかもしれませんし、ならないかもしれません。もし、完全に静けさを感じたとしても、それは過ぎ去っていくものです。もし怒りや憤りを感じたとしても、それもまた過ぎ去っていくものです。何が起きても、ただそれを「あるがまま」にしておきましょう。
⑤ 1分が経過したら、そっと目を開け、もといた場所へと意識を戻します。
…上記のような典型的な瞑想(「1分間瞑想法」)では、空気が入ってきたり、出ていったりするのに気付けるように、呼吸に十分な注意を向けます。一つひとつの呼吸にこのように注意を向けることで、浮かんでくる考えを観察し、そしてそれを少しずつ手放せるようになっていきます。
そして、考えは自然にやってきて、そして流れ去っていくこと、あなたの考えは、あくまで考えでしかないのであって、決してあなた自身ではないことに気付くようになります。ちょうどシャボン玉が浮かんで壊れていってしまうように、考えもまた、空の中に浮かんできて、そして消えていくシャボン玉と同じようなものであることに気付くかもしれません。
そして、考えや気分(不快なものも含めて)というものは、一時的でうつろいゆくものに過ぎないと、はっきり気付けるようになります。ただ、やってきて、立ち去っていく。そしてそれらに反応するかしないかも、私達自身が決められることなのです。
このようにマインドフルネスとは、批判することなく観察すること、即ち、自分自身に思いやりを向けることを意味します。不幸なことが起きたり、ストレスにさらされたりした時に、まともにそれを受け取ってしまうのではなく、まるで空に浮かぶ黒い雲が過ぎ去っていくのを、そっと、しかも好奇心をもって眺められるようになることでもあります。
本質的には、マインドフルになることで、負のスパイラルに陥ってしまう前に、自分に否定的な考えが浮かんできていることに気付けるようになります。そうすることで、自分自身をコントロールできる状況を取り戻せるのです。
【マインドフルネスの具体的な効果とは?】
「マインドフルネス(マインドフルネス瞑想)にはどのような効果があるのでしょうか?」―これは恐らく、多くの方が知りたい内容ではないでしょうか?
数々の心理学的研究から、習慣的にマインドフルネス瞑想を行っている方は、普通の方よりも幸福度が高く、より満たされているということが明らかにされています。医学的な見地からも、これらはとても重要な結果と言えます。何故なら、ポジティブな気分は、健康に長く生きるためにも不可欠だからです。具体的には、以下のことが指摘されています。
◎ 不安、落ち込み、イライラなどは、マインドフルネス瞑想(以下、「瞑想」で表記)によって低下します。記憶力は改善し、反応速度は速くなり、精神的、身体的スタミナが増します。うつ病の再発防止にも高い効果が実証されています。
◎ 習慣的に瞑想を行っている人は、より健康で、満足度の高い対人関係を維持しています。
◎ 世界各国で行われた研究から、瞑想が高血圧など慢性的なストレスの重要な指標を改善させることが分かっています。
◎ 慢性疼痛や癌といった、より重大な疾患の症状を和らげるのに効果的であることや、依存症(アルコール等)の症状を緩和するのにも効果があることも分かってきています。
◎ また、これまでの研究から、瞑想が免疫機能を高め、風邪やその他の疾患への抵抗力を高めることも分かっています。
…このように、瞑想の様々な効果が明らかになってきていますが、それでもまだ多くの人が「瞑想」という言葉に、何らかの警戒心を持たれてしまわれる傾向があるようです。まずは、「瞑想」に関する誤解を解くことから始めたいと思います。
● 瞑想は宗教ではありません。マインドフルネスとは、メンタルトレーニングの技法の一つに過ぎません。瞑想を実践している人の中には、信仰心を持たれている方もいれば、無神論者、不可知論者の方の多くも瞑想を実践しています。
● 雑誌やテレビでよく目にするように、床にあぐらをかく必要はありません(勿論、そのようにしたい場合は、そうされても構いません)。多くの方は、椅子に座って瞑想をされています。最終的に、マインドフルネスによる気づきの実践は、何をしている時であっても―例えば、飛行機や電車に乗っている時、もしくは歩いて仕事に向かっている時などでも―行うことが出来るのです。どのような所であっても、何らかの瞑想を行うことは出来るのです。
● マインドフルネスの実践には、辛抱強さや根気強さが多少必要になりますが、それほど多くの時間が必要という訳ではありません。多くの方は、瞑想をすることで、時間のプレッシャーから解放されることにすぐ気づかれるようになります。よって、他のことをするための時間を逆に持てるようになるのです。
● 瞑想は複雑なものではありませんし、「成功」や「失敗」といったことも関係ありません。例え、瞑想を難しく感じる時であっても、ご自身の心の動きについて貴重な何かを学ぶことになるでしょうし、そしてそれはとても意義深いことなのです。
● 瞑想は、あなたの心の感覚を鈍くさせたり、職業上の重要なキャリアや人生の目標を諦めさせたりするものではありません。ましてや、人生に対して、無理に底抜けに明るい楽天家のような態度をとらせるものでもありません。また、受け入れがたいことを無理に受け入れさせようとするものでもありません。
…このように「瞑想」とは、現実をより明確に捉えようとする試みのことであり、そうすることで、何かを変える必要があることに対して、より賢明でより妥当な行動がとれるようになるのです。
瞑想によって人は、深淵で思い遣りに満ちた気づきを育むことができ、そしてそれによって、自分自身の目標やゴールを評価し、その人自身が最も大事にする価値を実現するための最適な方法を見つけることが出来るのです。
当院では、うつ病はじめ、
躁うつ病(双極性障害)、適応障害、パニック症、
睡眠障害(不眠症)、心身症、自律神経失調症、
摂食障害(過食症)、統合失調症、不安症、
月経前症候群(PMS)、月経前不快気分障害(PMDD)、
大人の発達障害(ADHD、自閉スペクトラム症)、
過敏性腸症候群(IBS)、強迫症、ストレス関連障害など、
皆さまの抱えるこころのお悩みに対して、
心身両面からの治療とサポートを行っております。
また当院では、診察と一緒に、カウンセリング及びショートケア(保険適用のグループカウンセリング)を実施しております。カウンセリング、またはショートケアをご希望される患者様は、診察時に医師にご相談下さい。
今後とも、医療法人社団ペリカン(心療内科、精神科、内科)を宜しくお願い致します。
監修 佐々木裕人(精神保健指定医・精神科専門医・内科医)
★参考文献:佐渡充洋・大野裕監修「自分でできるマインドフルネス」