この度、精神疾患の説明のシリーズのほかに、『看護覚え書』(フロレンス・ナイチンゲール著)に見る「こころ」と題した、新たなシリーズを始めたいと思います。
フロレンス・ナイチンゲールは、日本でも有名な、近代看護の母と呼ばれる人物です。
そのナイチンゲールが、1860年という今から150年も前に記した最も有名な著作が、この『看護覚え書』です。
この著作で、ナイチンゲールは現代看護にも通ずる、多くの大切な理念、思想、考え方、実践法などを述べています。
また、看護学としてだけでなく、「こころ」の面からも大切な要素がたくさん詰まっており、学ぶべき点が多くあります。
クリミア戦争などで最前線に立って看護を続けたナイチンゲールの言葉は、今でもとても重く、暖かさであふれているのです。
それを、微力ながら、このシリーズを通して皆さんと共有できたらと思いました次第です。
引用元は フロレンス・ナイチンゲール著 湯槇ますら訳 (2000) 看護覚え書(改訂第6版) 現代社 です。
よろしくお願いいたします。
この「回復過程」は、ナイチンゲールの有名な言葉です。
ナイチンゲールがいかに慈愛を持ち、それを通して病気を見ていたかがわかります。
それだけなく、その先にある患者さん自身のことを思っていたかも、感じずにはいられません。
この考え方は、精神疾患への捉え方にも通じると思います。
例えば、統合失調症は、その患者さんのこころを苦悩から守るために生まれた覆いのようなものであるという考え方が古くからあります。
そのため、統合失調症という「異常」を消そう、なくそうとするのではなく、統合失調症を含めた患者さん自身(全体)を”保護する”ことが治療的である、とします。
そうして、患者さんのこころに安心、安全を保障することで、統合失調症という覆いが必要なくなるのである、と考えます。
もちろん、現実的にはこれだけで統合失調症が「治る」わけではありませんが、「なぜ、この方に統合失調症が生じたのだろうか?」「統合失調症が生じる必要性があったのではないか?」という視点を持つことで、その患者さん全体を理解することに役立ちます。
精神疾患は、患者さんの人生史の中で生じるものなので、患者さんの人生を理解しないと精神疾患から回復する援助はできないのです。
(次回に続きます)