これまで複数回に渡って、月経前症候群(PMS)、月経前不快気分障害(PMDD)について記事を書かせていただきましたが。
今回はその総集編①をお送りしたいと思います。
是非ご参考にしてください。
「『月経前症候群(PMS)』を漢方薬で治療できますか?」
月経前症候群(以下、PMS)は、時として漢方薬による治療(漢方療法)が採択されることあります。漢方薬の服用は、黄体期にのみ、またはPMSの症状が現れた時にのみ服用で有効なケースも多々あります。但し、「PMSを引き起こす体質そのものを根本から改善させたい」という場合には、症状の有無に関わらず、ある程度継続的に服用される方が望ましいと言えるでしょう。
漢方薬を用いる際は、その患者様の「証(しょう)」、即ち体質・体格を見極める必要があります。例えば、「実証」「中間証」「虚症」という基本的な分け方があります。これは、大まかに言いますと、患者様の「体力」がどの程度あるかを指しています。比較的体力がある方を「実証」、比較的体力がない方を「虚証」とし、その間の方を「中間証」と呼びます。以下に、PMS治療の漢方薬としてよく用いられるものを、列挙させて頂きます。
◎「加味逍遙散(かみしょうようさん)」:PMSの症状全般に対して、最もよく用いられる漢方薬の一つです。中間証~虚証の患者様で、不安、イライラ感、身体の不定愁訴(日によって訴えの場所が移動する方)などがある際に、奏功することが多いです。
◎「女神散(にょしんさん)」:中間証~実証の患者様で、不安、イライラ感、のぼせ、身体の不定愁訴(日によって訴えの場所が移動しない方)などがある際に奏功することが多いです。
◎「抑肝散(よくかんさん)」「抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)」:中間証~虚証の患者様で、イライラ感が主症状である場合は、抑肝散が奏功することが多いです。より虚証であり、イライラが慢性化し、胃腸も虚弱である場合は、抑肝散ではなく抑肝散加陳皮半夏が用いられることが多いです。
◎「防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)」:中間証~虚証の患者様で、月経前の主症状が「むくみ(浮腫)」である場合に奏功することが多いです。
また、PMSの患者様は、PMS症状以外にも、不規則性月経や月経困難症といった何らかの月経異常や、下腹部の膨満感や圧痛、皮膚や粘膜のうっ血等の症状をお持ちの方が少なくありません。他にも、口渇、皮膚の荒れ、内出血傾向(特に強打した訳ではないのに、“黒痣”が出来ている)、痔核、頭痛、不眠…等々の症状もお持ちの場合があります。これらの症状は、漢方では「瘀血(おけつ)」と呼び、以下の「駆瘀血剤」に分類される漢方薬が用いられることがあります。
☆「桃核承気湯(とうかくじょうきとう)」:瘀血症状のある実証の患者様で、のぼせや便秘が見られる方に奏功することが多いです。
☆「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」:瘀血症状のある中間証~実証の患者様で、のぼせはあるものの、便秘は特にない場合に奏功することが多いです。
☆「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」:瘀血症状のある虚証の患者様で、冷えや貧血傾向がある場合に、奏功することが多いです
「月経前症候群(PMS)を漢方的に考えると?Ⅰ」
中医学(漢方)的に考える「月経前症候群(Premenstrual Syndrome:以下PMS)」の主な原因は、「肝(かん)」の不調によって「気」の巡りが悪くなることに拠ります。
「肝(かん)」には、月経周期の調整をする役割も担っています。日頃は、「血」の栄養で正常に機能していても、月経前や月経中は、全身の「血」が子宮に集まり、「血」が不足することで「肝(かん)」の働きが悪くなりやすい時期となります。その結果、しっかりと全身に「気」を巡らせることが出来ず、不調に繋がるのです。
このように、月経前には気の巡りが悪くなる以外にも、脾胃が弱いことが原因で身体に余分な水分が溜まり「むくみ」が出ることや、「気」「血」の不足から疲労感が強くなり、眩暈や動悸が現れることもあります。
繰り返しになりますが、PMSは「気の巡り」が悪いことが原因です。気の巡りを良くさせるためには、「ストレスを溜めないこと」が大切です。月経前は憂うつな予定は出来るだけ減らして、趣味を楽しむなど、無理せず過ごせるように心掛けましょう。
気を巡らせるためには、「肝(かん)」の働きを良くすること、ひいては「血」を消耗しないことも重要になります。例えば、目の使い過ぎは「血」の消耗に繋がります。この期間は、パソコンやスマートフォンなどの画面を見る時間を出来るだけ減らし、早めに眠って目を休ませることも、ぜひ併せて心掛けられてみられて下さい。
「月経前症候群(PMS)を漢方的に考えると?Ⅱ」
月経前症候群(以下、PMS)のタイプとして「むくみがある場合」や、「疲労感が強い場合」があることを書かせて頂きました。その双方のタイプ別に特化した際の対処法について、以下にご紹介させて頂きます。
◆「むくみがある場合」:月経前にむくみが目立つ場合は、脾胃の働きが弱くなっている「脾虚(ひきょ)」の状態にあるものと考えられます。生理前の症状としては、下痢、食欲不振、身体が重だるい、等のトラブルも起きやすいです。
➡食養生:ハト麦、あずき、きゅうり、もやし等、「利水(身体の中の水の流れを良くする)作用」のある食材で、余分な水分の排出を促しましょう。「湿(しつ)」を生みやすい甘い物、脂っこいもの、乳製品は控えめにしましょう。
➡漢方療法:当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅついてんまとう)など
◆「疲労感が強い場合」:貧血や、過度なダイエットなどで、気血を消耗されていると、月経前に疲労感や倦怠感が強く出たり、不眠や動悸が起こったりしやすくなります。
➡食養生:日頃から、黒ゴマ、肉類、かつお等の赤身の魚、小松菜、ほうれん草など「血」を補う食材を摂りましょう。胃腸が弱っていることも多いので、スープや煮魚など消化に良い調理法を選ぶことも意識されてみられて下さい。
➡漢方療法:十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)、帰脾湯(きひとう)など
排卵から月経直前の2週間は、特に血糖値が下がり易い時期だと言われています。
「月経前に“過食”になりやすいのは、何故ですか?」
通常、血糖値は食後4~5時間かけて上下しますが、この生理前の2週間は、女性ホルモンの影響で2~3時間で上下してしまいます。これによって、この時期は、食後に血糖値が上がってもすぐに下がってしまうため、頻繁に何かを食べたくなってしまいます。このことが、月経前に食欲が増す理由の一つです。
また、血糖値が下がると交感神経が優位になるため、攻撃的で興奮した気持ちになります。それが、月経前のイライラ感に繋がることもあります。
最近流行りの炭水化物をカットする食生活にこだわり過ぎてしまうと、必要以上に血糖値を下げることになってしまいますので、炭水化物をカットし過ぎない、バランスの良い食生活をぜひ心掛けて下さい。
このように、月経前、女性は誰しも血糖値が下がり易くなるため、食欲が増したように感じます。但し、この働きは、月経前の正常な身体の働きでもあるため、無理に食欲を我慢することは、逆に月経前症状を悪化させることにも繋がります。
そこで、この時期は「何をどのように食べるか」が大事になってきます。
例えば、間食される際は、なるべく直接糖(砂糖)が沢山使われた甘い物は控えるようにしましょう。血糖値が乱れ易い時に、甘い物を食べ過ぎると、さらに血糖値の急上昇と急降下を招き、自律神経のバランスが崩れてしまいます。
もし、間食をされるとするならば、良質の脂質・タンパク質を含み、栄養価が高く満腹感のある「ナッツ類」がお勧めです(もちろん、それでも取り過ぎには気をつけられて下さい)。
「月経前症候群(PMS)にお勧めのアロマは何ですか?」
月経前症候群(Premenstrual Syndrome:PMS)は、月経前に現れる不調です。月経は始まる1週間位前から様々な不調が現れ、イライラして怒りっぽくなったり、情緒不安定になったり、頭痛や便秘、過食、ニキビ等の症状が現れますが、月経開始と共に症状は緩和・消失します。軽めの症状も含めると(かなり個人差が大きいです)、月経前の女性の7割程度は大なり小なり感じられているとも言われています。
この月経前症候群(以下、PMS)にお勧めのアロマというものが存在しています。香りは「気」を巡らせてくれる作用があるため、アロマテラピーはPMSの養生にとてもお勧めなのです。
基本的には好きな香りを楽しんで頂いて良いのですが、中医アロマ(中医学的に体質を見立ててオイルを選ぶ)の観点からですと、柑橘系の香りである「スイートオレンジ」や「グレープフルーツ」、「ベルガモット」、「カモミール・ロマン」等がお勧めとされています。
月経前、即ち「高温期(月経開始前の2週間を指します)」は、特に「気」が滞りやすい時期ですので、その頃から使い始めても良いでしょう。ティッシュペーパーに1、2滴オイルを垂らし、枕元に置いておくだけでも効果は十分です。勿論、アロマディフューザーを使って頂いても構いません。
「マイカイカ・ティー~月経前症候群(PMS)でお悩みの方に」
生理開始の1週間前(1日~7日前)頃から、イライラや憂うつ感(情緒不安定)、頭痛や肩こり、眠気や倦怠感、下腹部の痛み、下痢や便秘、むくみ、乳房の張り…等が現れる不調を「月経前症候群(以下、PMS)」と呼びます。PMSの場合、上記の症状が複数個当て嵌まる方が多いのですが、個人差がかなりあることも特徴の一つでしょう。
その症状軽減のための対策として……
- 日頃口にする食材の工夫
- 有酸素運動を週1~2回採り入れる
- 睡眠を十分にとる
- 窮屈な締め付ける服の着用は避ける
- お風呂にリラックスして入る
- タバコ、脂っこいもの、刺激物(唐辛子など)は避ける
……等といったものが挙げられますが、今回は「1」について記載させて頂きます。
PMSを解消・軽減する食材として有名なものに、「マイカイカ(玫瑰花)」というものがあります。これは「中国ローズ」とも呼ばれ、その効能として、生理にまつわる様々な不調(PMS、生理不順、生理痛、更年期障害)を整える働きが指摘されています。また、ストレスによって生じる腹痛の改善にも有効です。
この「マイカイカ」は、国内では「お茶(花茶、ハーブティー)」としても扱いが多いため、「マイカイカ・ティー」として飲まれると、生理前後の不調が軽減・緩和される方も多いと言われています。
他にも、ハッカやシソ、ジャスミンやシナモン、柚子や柑橘類といった、気分がスーッとする香りがあるものをお茶や食事に取り入れてみられることは、PMSの方には有効だと言われていますので、ぜひ試されてみられて下さい。実際、PMSの漢方治療の中で処方される漢方薬の中には、ハッカやシソ、陳皮(ちんぴ/みかんの皮)といった同上のものが含まれているものも少なくはありません。
まずは、婦人科での治療がファーストチョイスとなるかと思われますが、PMS、PMDD、更年期障害の治療は、漢方薬など用いることで、心療内科で行うことも可能です。特に、若い女性の方だと、婦人科治療に抵抗感を持たれる方も少なくはありませんので、頭の片隅に留めておいて頂けましたら幸いです。
「『月経痛』や『月経前症候群』への対処法とは?」
女性の生理痛や月経前症候群(以下、PMS)は、その方お一人ごとの個人差がとても大きく、余りにも辛くて重い方には、それ相応の対処が不可欠になってきます。
生理痛の酷い方は、まずは温めてみて下さい。下腹を直接使い捨てカイロなどで温めてみられたり、時には腰や太ももの内側も温めたりされると、少しは楽になるかと思われます。勿論、冷えないように下着や服装にも留意されるとより良いでしょう。
生理痛の漢方薬は、その痛みの多さやタイプから非常に沢山あります。あくまで一例ですが、下腹がギューと絞り込んで、触れないように痛い時には「安中散(あんちゅうさん)」等がよく使われます。鈍痛があり手でさすると少し楽になるような場合は「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」等が使われます。また、漢方は対症療法ではなく、根本治療の意味合いが強いので、生理時にだけ服用されるというよりも、日頃の平時より服用されて、生理時に痛みが出ないような身体にしておくことの方がお勧めです。
PMSに関しても、人によって様々な症状が起こり得ます。例えば、「生理前になるとイライラする、胸が張る、便通が変わる、食欲が増す」といった「気滞(きたい)」タイプの方は、まさに身体がパンパンに張っているような感じがする方です。このような方には、ハッカやシソの葉などの香りの強い生薬が配合されている「逍遥散(しょうようさん)」や「香蘇散(こうそさん)」が向いています。
一方、「生理前になると眠くなる、むくむ、身体が重だるい」といった症状が出やすい「痰湿(たんしつ)」タイプの方もいらっしゃいます。こういったタイプの方に用いられる代表的な漢方薬には「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」等があり、温めながらむくみを取ります。他にも症状によって、処方される漢方薬は異なりますが、薬が身体に合えば、比較的すぐに楽になります。生理痛の時と同様、この場合も、生理前のみにだけ服用されるのではなく、日頃から飲んで、体質を改善されておくことをお勧めします。
女性は男性よりも少し複雑な身体なので、その分体調が崩れやすい側面があります。しかし、「漢方薬は女性のためにある」と言っても過言ではないほど、女性の心身の不調に応じた漢方薬が充実しています。加えて、女性の不調は、生理の異常から生じることが多いのも事実です。生理痛やPMSで苦しまれている方の中には、「これはどうしようもない、仕方のないものだ」と考えていらっしゃられる方も少なくはないことでしょう。
なお、生理痛や月経前症候群(PMS)の漢方薬は、当院のような心療内科では、健康保険適用で処方することが可能です。心療内科において、漢方薬による治療をご希望の患者様は、ぜひこの機会にご相談されてみられては如何でしょうか。
「『月経前不快気分障害(PMDD)』とPMSの違いを教えて下さい」
「月経前不快気分障害(以降、PMDD)」と重症の「月経前症候群(以降、PMS)」の違い(鑑別ポイント)は、月経前の諸症状により、社会生活・日常生活に「著しい支障をきたしているか否か」に拠ると言えます。つまり、月経前に「仕事(学校)を休んでしまう」「家事の能率が極端に落ちる」「他者との口論や人間関係上のトラブルが多くなる」等というような支障が、顕著に出ている場合には、PMSではなく、PMDDである可能性が高いと考えられるのです。
因みに、PMSの症状を持つ女性は案外多く、月経のある女性の20%~50%にみられるとされています。加えて、軽症のPMSの方も含めると、月経のある女性の80%に及ぶという報告すらあるほどです。
しかし、PMDDとなると、割合は途端に下がります。月経のある女性の約3%~8%の方に、月経前に見られる抑うつが、うつ病に匹敵するほどの重症度があり、日常生活・社会生活に著しい支障を来たすとされ、PMDDの診断を受けることになるそうです。
出展・参考文献
月経前深い気分障害(PMDD) エビデンスとエスクペリエンス 山田和男著 星和書店
http://www.seiwa-pb.co.jp/search/bo05/bn897.html
産科婦人科学会HP https://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=13
PMSナビ https://pms-navi.jp/