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【医師監修】IQの高い発達障害は、見逃されやすい!?

IQ(知能指数)は、低いことの方に目が向き問題視されがちですが、一概にそうとも言えません。例えば、IQが高いがゆえに、見逃されてしまう発達障害の人たちがいます。

 

 

以前、同コラムにて、発達障害の人の知能検査の結果には、ある共通点が出る傾向があり、それは分野別の凸凹(デコボコ)が大きいことだと書きました。その凸凹具合から、何を苦手として、どのような困難に直面されているのかを探るヒントが見えてくることがあります。しかし、凸凹はあっても、全体的な水準が高く、IQが高い場合、発達障害の存在に気づくのは、とても難しくなります。

 

IQが高い発達障害の人たちは大抵、学校での成績は良好です。例えば、成績は良いのだけれど、忘れ物が多くて、そわそわと落ち着きがなく、集団生活に馴染めない。あるいは、誰とも殆ど会話せず、クラスの中で孤立しているけれど、テストは満点。そのような人が、実は発達障害であり、何らかの困難を感じているということも、十分にあり得ることなのです。

 

しかし、成績が良いと、「この人に発達の問題があるかもしれない」とは中々思い至りません。仮に、学校の先生が気づいたとしても、生徒の親御さんに伝えるには、非常に勇気が要ることでしょう。受け入れられず起こってしまう親、落ち込んでしまう親、様々なネガティブな反応が返ってくることは容易に想像できます。そのような事情もあって、「あの人は頭が良いし、多少の問題があっても大丈夫だろう」と放っておかれてしまうケースが出てきます。すると、知能検査を受けることもなく、知能の凸凹にも気付かないままとなってしまうのです。

 

そのようにして見逃されてしまった「IQの高い発達障害の人たち」が、思春期になったり、そして社会に出たりされたことを契機に、メンタルダウンをしてしまう現実があります。

 

 

大人の発達障害に詳しい岩波明医師は、次のように言われています。

 

『今外来に来られているADHDやASDの方々には、知的能力の高い方が多いのですよ。我々はWAISなどの知能検査を使ってテストをするのですが、IQベースで見ても、平均より高い方が多い。また、大部分の方が4年制大学を出ています。有名大学を卒業している方も多数います。そのため「あんな言い大学を出ているのに、何でこんなことが出来ないのか」と(職場で)言われてしまうわけです。』

 

このように、IQが高ければ大丈夫という訳にも一概には言えないのです。

 

 

大人になられてから発達障害の診断を受けに来られる方には、大きく分けて2つのパターンがあります。

 

一つは職場での不適応から自覚が生まれるケースです。学歴を含めた「その人に本来あると周囲が期待する能力」と比較して、仕事のパフォーマンスが非常に低く、そのため上司から頻繁に叱責を受けてしまいます。職場におけるそのような問題がキッカケとなって、ADHDあるいはASDを疑うということがあります。

 

もう一つは、仕事が続かないケースです。長続きせず、色々な職を転々とされるケースです。その結果、場合によっては、引きこもりになることもあります。そういった方のベースADHDやASDがあることがあるのです。

 

繰り返しになりますが、そういった方々の大半は、高校や大学など学生時代の間は、大過なく過ごせていた方々です。

 

何故なら、子ども時代に顕著な症状がある方は、3歳時健診や就学前健診等で指摘を受け、その時期から既に“治療(療育)”に入られています。ですので、大人になってから発達障害を疑われて受診をされる方の9割以上は、子ども時代に本格的な受診歴がない方です。学生時代までは、ご本人の努力の甲斐もあって、何とかやってこられた方たちだと言えるでしょう。大学までは地頭でそれなりにやってこられたのが、仕事(就業)においては、それが上手くいかなくなってしまうことが多々あるのです。

 

 

IQが高い子どもに関しては、新しい課題も生れています。それは「ギフテッド教育」です。「ギフテッド」とは、突出した才能を持って生まれた子どもを指す言葉で、いわゆる「天才児」です。日本では、米国などとは違って飛び級は基本的にありません。そのために「ギフテッドの子どもたちが、学校の授業に退屈している」とか、「今の学校では、突出した能力を伸ばす場になっていない」など、日本のギフテッド教育の遅れが指摘されるようになってきました。

 

ただそのような「教室で退屈している子ども」たちが皆、本当のギフテッドかどうかは分かりません。例えば「IQ130」といった知能の高さは、分かりやすいギフテッドの数値とされています。けれども、今時の子どもの「IQ130」は、早期教育によって“作られたIQ”であることも、決して珍しくはないのです。

 

知能検査もテストですから、何度も同じような問題を解けば点数は上がります。結果、IQも上がります。だからなのでしょうか、IQを伸ばすことを謳う幼児教室もあります。ただ、このような早期教育によって達成されたのかもしれない“高いIQ”を根拠に天才扱いされてしまうと、子どものその後の人生は苦しいものになりがちです。

 

そして、そういった子どもが、本来の“普通の子ども”になった時、親はどのように反応するでしょうか。かつて天才児であた我が子が、“普通の子ども”になったことを親は上手く受け入れられずに戸惑います。子どもはというと、“普通の子ども”になった自分に落胆している親を見て、傷つきます。これが「ギフテッド」の負の側面です。

 

知能に限らず、人間の本当の能力を測ることは簡単ではありません。知能検査は大事な検査ですが、そこからわかるIQが独り歩きすれば、このように却って問題を生むことがあることも理解しておくことが大切なのです。

 

 

Presented by.新宿ペリカンこころクリニック

 

監修 佐々木裕人(精神保健指定医・精神科専門医・内科医)

参考引用文献:黒坂真由子著『発達障害大全』・岩波明著発達障害』・岩波明著『医者も親も気づかない女子の発達障害