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【医師監修】ADHDは普通の人なのですか?

発達障害には、様々なものが含まれますが、その中でも、特に話題になることが多いのが「ADHD」です。何故かと言えば、それだけ人数が多いからです。

 

 

ADHDは、注意欠如多動症と訳されます。文字にある通り、注意力の欠如と多動、そして衝動性が症状として見られます。

 

 

大人に占めるADHDの割合は、低く見積もって2~3%、多いと4~5%という統計もあるようです。診断を受けていない人、症状が軽い人も含めるとさらに多くなるでしょう。昭和大学附属烏山病院院長の岩波明医師によれば、ADHDの患者様はほとんどの人が軽症で、ごく普通に暮らしているそうです。ADHDの人はどこにでもいる普通の人なのです。

 

 

「発達障害は治らない」「人生においてその特性が変わることはない」――このように言われているのは事実です。しかし、統計を取ると、子どもに占めるADHDの割合は、大人より高くなります。これは何故なのでしょうか。それは、成長するにつれて、症状をコントロールできるようになるからだと考えられています。

 

 

授業中に教室を歩き回っていた子も大抵、大人になるとじっと座っていられるようになります。社会の規範を学び、動きたいという衝動を工夫で抑えられるようになるからです。規範に従えばストレスもありますが、そのストレスを解消していく手段を見つけていくわけです。このようなケースがあると、岩波明医師は述懐されています。

 

 

 

『ある大企業に勤めている方は、いつも小さなを粘土を持っていて、指の先でこねてると言っていました。またある士業の方は、常に折り紙を持っていて暇さえあれば折っているそうです。ADHDに特有の「多動への衝動」を、手先を動かすという工夫で解消しているんですね。』

 

 

 

このように、自分と折り合いをつける方法を見つけていかれる人は多いようです。「注意力の欠如」も、整理整頓やスケジュール管理の方法などを工夫されて、何とか対応されているADHDの方は多くいらっしゃられます。例えば、絶対に置き場所を忘れてはいけないもの(スマホ・鍵・財布)は、神棚を置き場所にする、といったライフハック的方法を駆使されている方もいます。

 

「多動」といっても歩き回る訳ではない

 

「ADHDの子は多動」――そう言われて、どんな姿をイメージされますか? 「ああ、そう言えば、小学生のとき、授業中に教室からふいに出て行ってしまう同級生がいたなぁ」といったような出来事を、思い出す方もいるかもしれません。

 

 

ADHDの子どもたちは、確かに「多動」です。とはいえ、ADHDの子どもが皆、そんなふうに「歩き回っている」訳ではありません。例えば、席に座ってはいるけれど、ガタガタ机を揺らしている、ソワソワ身体を揺すっている。そんな子もADHDの可能性があります。他にも、ずっと絵を描いていたり、ずっとお喋りをしていたり…という「多動」あります。

 

 

また、物理的に動く子どもばかりとは限りません。ぼーっとしているように見えて、頭の中で色々なことを考えているというタイプの「多動」もあります。

 

 

ADHDの子は、物静かなように見えて、頭の中が激しく活動していることがあります。これはマインド・ワンダリングと呼ばれます。考えていることが、あっちへ行ったり、こっちへ行ったりして、思考が「徘徊」するのです。授業中でも、友達と雑談をしている時でも、本題から離れた関係のないことばかりを延々と考え続けてしまいます。そして突然、的外れなことを言って、周囲の人たちを困惑させてしまうこともあります。本人の中では話が繋がっているのですが、周りからすると「なぜ今、その話?」となる訳です。

 

 

ADHD特有の「多動」には、このように様々な形があります。よって、「ADHD=多動=歩き回る」というイメージ(思い込み)を持ってしまうと、困っている人を見逃してしまう可能性があるのです。

 

集中力は阻害されるが、創造力は高まる

 

「マインド・ワンダリング」は、集中力を阻害します。その時の本題と関係のないことばかり考えてしまうのですから、当然、本題に集中できません。集中力の欠如もADHDに特有の症状です。

 

 

しかし、デメリットばかりではありません。マインド・ワンダリングの働きは、創造力と密接に関連していることがわかっていると、岩波明医師は指摘しています。

 

 

マインド・ワンダリングから生まれる創造性とは、どのようなものなのでしょうか。発達障害の診断を受けている、漫画家の沖田×華(ばっか)氏が、それを漫画に描いています。一部抜粋をさせて頂きます。

 

 

 

『ところでマンガを描くようになってから、

私の頭の中は常に回転していました。

例えるなら、沸騰したお湯の中をクルクル回っているイメージ。

マンガのネタはすべて、私が記憶しているデータから、

いつでもリアルタイムで見ることができました。』

 

 

 

これは沖田×華氏の著書こんなに毎日やらかしています。トリプル発達障害漫画家がゆく(ぶんか社)にある言葉です。そして、著書のタイトルの通り、学習障害、ASD、ADHDの3つの発達障害の重複診断を受けている沖田氏ですが、漫画家になられてから、ADHDの症状が強く出てきたそうです。これは、マインド・ワンダリングを上手く創造性に繋げていらっしゃるのかもしれません。

 

 

こういったアイディアがどんどん浮かんでしまうADHDの特性を、アート系の仕事や新規事業・商品開発といった方向性に上手く活かし、才能を開花させている例も少なくはないようです。

 

 

マインド・ワンダリングのように、発達障害の特性にはプラスとマイナス両方の側面があります。そして、プラスにすることができるかどうかは、その人の働き方に大きく関わります。発達障害の人にとって、職業選択のマッチングは非常に重要です。そのためにも、まずはご自分の特性(得意-不得意)や個性(好きなこと-嫌いなこと)などを、ご自身がしっかりと理解されておくことが肝要なのです。

 

 

 

当院(新宿ペリカンこころクリニック)では、ご希望の患者様に、ウェクスラー成人知能検査(WAIS)を施行することが可能な医療機関となっております。

 

ご自身の能力の凸凹の可能性が気になられる患者様、とりわけ発達障害(ADHDやASDの可能性を危惧されている患者様は、御診察の際に、その旨を当院医師にお申し出頂けましたら幸いです。

 

 

Presented by.医療法人社団ペリカン(心療内科・精神科・内科)

監修 佐々木裕人(精神保健指定医・精神科専門医・内科医)

 

参考引用文献:黒坂真由子著発達障害大全・岩波明著発達障害・岩波明著医者も親も気づかない女子の発達障害