ADHDの人の多くが悩みとして挙げられることの中に「集中力が持たない」「注意散漫になってしまう」といったものがあります。しかし、実はADHDの人に限らず、一般に「人間が最も集中できる時間は15分程度で、最大でも30分程度が限界である」と言われています(諸説あります)。それ以上の時間では、集中力が低下してしまい、どんどんパフォーマンスが下がるのだそうです。
古来、人間を含むあらゆる生き物において、一点に集中することは、命のリスクを伴うものでした。例えばサバンナで、目の前の獲物を狩ることだけに集中していたら、他の動物から狙われていることに気づけません。つまり、意識の分散は防衛本能の一種でもあるのです。そう考えれば、人間の本来の集中力の限界が30分程度というのも一理ある気がします。
よって、もし「集中力が続かない」とお悩みの人がいましたら、「ADHDかどうかに関係なく、基本的に、人は集中できないように作られていて、集中力が続かないのは、至って普通のことなのだ」という考えを、一度ご自身に取り入れられてみて下さい。
一方で、ADHDには「過集中」という特性もあります。一つのことに集中し過ぎて、食事やトイレも忘れて没頭してしまう状態です。苦手なことには人一倍耐性がない反面、好きなことにはとことん過集中をしてしまいます。
ADHDの人が、過集中モードに入ると、集中力を保ったまま長時間稼働できてしまうので、高いパフォーマンスを発揮することができます。仕事の専門性を深めるのに向いているでしょうし、勉強や楽器の練習などにもかなり有利です。ADHDの人で、「集中力が続かない」と悩む人は、むしろこの過集中の状態を知っているからこそ、そうでない時間を余計に問題視してしまうのかもしれません。
但し、この過集中には当然デメリットもあります。没頭し過ぎる余りに生活が乱れてしまったり、バランスよく作業ができなくなり、結果的に仕事ができない人と評されてしまいます。また、過集中を抜けた後には、当然ながら相当な疲労感に一気に襲われます。そして「過集中」に依存(期待)してしまい、「明日は絶対にやる!」という日が延々と続く……等々といったことが起こります。過集中は例えるならば、「諸刃の剣」のような能力なのです。
「集中力が続かない」「過集中してしまう」、ADHD特有のどちらの悩みにもお勧めなのが、定番ではありますが、「ポモドーロ・テクニック」を取り入れることです。ポモドーロ・テクニックとは、「作業時間25分→休憩5分」のループを延々と繰り返す仕事術です。先述の「人間の集中力持続時間は30分程度」の考え方に適ったやり方だと言えるでしょう。もしも「初めて聞いた!」という人は、You Tubeなどで検索されてみられると、「ポモドーロ・テクニックのタイマー動画」というものはBGM付で沢山出てきます。試しに実践されてみられて下さい。
但し、実際のところ、集中力が続かないADHDの人にとっては、25分作業すると聞くだけでも苦痛だと思います。そこでさらに、ポモドーロ・テクニックを再調整した「脳を騙す、超時短ポモドーロ・テクニック」をご紹介します。
これは「作業時間は一瞬だけだと脳に思い込ませて着手する」テクニックです。何なら作業時間は5分でも構いません。「あれこれ考えずにたった5分だけ我慢して、手をつけてみる」「ちょっとだけでいい。目次を読むだけでもいいよ」と、脳を騙して、とにかく「0→1」のきっかけを作ることがポイントです。
このテクニックのメリットは、最初のハードルを下げることで、作業に着手しやすくなることです。何故なら、ADHDの人はいったん着手さえしてしまえば、あとは5分どころか、もっと長く作業に集中できることは往々にしてあるためです。スタートまでが長いけれども、一度動き出せばゾーンに入って集中できるのもADHDの特徴だからです。
注意点としては、過集中しすぎないように休憩の時間も忘れずに挟むことです。「もっとできる!」と思っても、無理をして長時間作業をし続けると、必ず大きな疲労になって身体に返ってくるからです。実際、ADHDの人の中には、過集中によって身体を壊してしまう人も少なくありません。作業のし過ぎが大事を引き起こすことがありますので、ここは本当に気を付けて欲しい点です。そして何より、休憩を挟んだ方が集中力も高まることが科学的にも証明されています。休憩は5分以上延ばさないことも大事です。そして、休憩中にスマホや漫画を触ることはやめておきましょう。ストレッチやトイレ休憩など、のんびりとリラックスしていましょう。
このコラムを読まれまして、気になる点がありました方や、
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当院(新宿ペリカンこころクリニック)では、ご希望の患者様に、ウェクスラー成人知能検査(WAIS)を施行することが可能な医療機関となっております。
ご自身の能力の凸凹の可能性が気になられる患者様、とりわけ発達障害(ADHDやASD)の可能性を危惧されている患者様は、御診察の際に、その旨を当院医師にお申し出頂けましたら幸いです。
また当院では、診察と一緒に、専門の心理士(臨床心理士・公認心理師)資格を持ったカウンセラーによるカウンセリング(心理療法)も行っております。カウンセリングをご希望される患者様は、診察時に医師にご相談下さい。
Presented by.医療法人社団ペリカン(心療内科・精神科・内科)
参考引用文献:やしろあずき著『すごいADHD特性の使い方』