ADHDを説明する際、そこまで医学的な専門用語を用いなくても、説明することは可能です。ひとことで言うと「相反している矛盾した傾向の集まり」だと考えると分かりやすいかもしれません。
例えば、集中力に欠ける一方で、過集中するだけの能力も備えています。方向性を見失いつつ、強い方向性を持つ起業家精神にもあふれています。そして、物事を先延ばしにする傾向があるのに、一週間分の仕事を2時間で終わらせる才覚もあり、衝動的に誤った意思決定をしやすいのに、独創的で斬新な問題解決力もあるのです。さたには、人間関係で失敗をする一方で、不思議なほどに鋭い直感力と共感力も備えています。…こういった相反する傾向が、このほかにもまだ沢山みられるのです。
以下、もう少し公的な定義に沿って、これらがあればADHDの可能性がかなり高いと思われる特徴をご紹介していきます。以下に該当される場合は、必要に応じて、医師の判断を仰ぐことも検討されても良いのかもしれません。
★「説明のつかない成績不振がある」:
持って生まれた才能や備えているはずの知性を十分に発揮できていません。それについて、弱視や重い身体の病気、頭の怪我などにより認識機能障害といった理由が見当たらず、はっきりした説明がつきません。
★「さまよう心を持つ」:
教師から、あるいは大人の場合には、上司や配偶者から、「気持ちがさまよっている」「集中力や作業の持続性に問題がある」「成績(業績)が一貫してしない」「良い日と悪い日、良い瞬間と悪い瞬間がある」…等と言われることが多々あります。結果として、教師、上司、配偶者から「もっと自制心が必要だ」とか「もっと頑張るべきだ」とか「注意を払う方法を学ぶべきだ」…等と結論づけられてしまいます。ADHDについてはまだ正しい理解がされていない側面が大きいので、秩序ある行動ができなかったり、注意力に欠けていたりすると、その原因を「努力していないためだ」と言う人は未だにいます。しかし、この点に関して、生物学的な事実はどうなっているのかと言いますと、ADHDの人は、刺激のない状況では“行動できない”のです。やろうとしないのではなく、“できない“のだと言われています。
★「整理整頓や計画を立てることに問題を抱えている」:
これは臨床用語では「実行機能の問題」と言われています。子どもが朝の着替えを上手くできないようなことであり、子ども部屋に行って着替えてきなさいといった15分後に、まだパジャマ姿のまま、ベッドに寝そべって人形との会話に夢中になっている娘を見つけるようなケースがこれに相当します。あるいは、ゴミ出しを頼まれた夫が、ゴミ捨て場まで歩いていく間に何をするのかを忘れ、ゴミ捨て場の前をゆっくり通り過ぎていくといったケースもあります。こういう時、妻は大概、怒り心頭になります。そして、自分の夫はあからさまに挑発的で、頼んだことをわざとやっていないのだ、何て自己中心的なのだ…等々と、それまで夫に対して何度も繰り返し思った言葉を頭に思い浮かべてしまうのです。しかし、これらの夫の行動は、決して悪意に拠るものではありません。ADHDの場合、注意力が一貫性に欠けてしまい、即時記憶も持続せず穴だらけになるため、頼んだことも時として一瞬で失念してしまうことが起こるのです。
反面、この問題をますます複雑にし、時に診断の正しさまで疑われる事態を招くのが、同じ人物であても、刺激を感じられる状況下にあると、過集中したり、素晴らしいプレゼンを時間ピッタリに行なったりすることができる、ということです。しかし、前にも触れたように、ADHDの人にとっては退屈というものが力を吸い取ってしまう存在になるのです。退屈するとADHDの人の思考はそこから逃れ、熱心に刺激を求める旅に没入してしまうのです。すると、その一方で、ゴミ袋だけがポツンと取り残されるようなことが起こるのです。
★「創造性と想像力が豊かである」:
ADHDの人々には、何歳になっても湧き立つような知性が見られることが多いです。ただ、残念なことに、そうした生来の火花のような輝きがあっても、長年にわたってその火がかき消され続けることもあります。つまり、批判や叱責を受けたり、方向転換を求められたり、評価してもらえなかったりすることです。そして、落胆が繰り返されたり、ストレスを抱えたり、明らかな失敗をしてしまったりする場合もあるのです。
★「時間管理に問題があり、先延ばし傾向がある」:
これは実行機能の別の因子とも言える、非常に独特の特徴の一つです。ADHDの人は、それ以外の人とは異なる時間感覚を持っていますが、こうした感覚の違いの存在を認めるのは、大半の人にとって、本当に難しいことです。ADHDの人には、時間の連なりを感じ取る内部感覚が、通常の人のそれとは違います。ADHDの人の内的世界において、認識できるのは、「今」と「今ではない、いつか」にざっくり分けられています。ですので、「あと30分で出かけなくては」と言われたような時には、「ああ、今はでかける時間ではないのだな」と聞こえます。あるいは、「論文の締め切りは5日後です」と言われた時にがは「今は、締め切りのときではない」と聞こえるのです。そうして、その締め切りが、5日後であろうが、はたまた5ヶ月後であろうが、そこには大した違いを感じないのです。そうなると、「そろそろ寝ないといけない時間だ」と言われた時、例え相手が実際に伝えたいのが「今こそ寝る時間だ」というメッセージであっても、その意図が伝わらないのです。
…このような感じで、時間を大雑把に捉え過ぎてしまう感覚でいると、喧嘩になったり、失敗や失職に至ったり、友人に落胆されたり、恋人に振られてしまったりすることになってしまいます。しかし、この傾向は同時に、大きなプレッシャーのかかる状況下であっても、素晴らしく仕事を成し遂げられる不思議とも言える能力や、大半の人なら極度のストレスを感じるような厳しい時間制約の中でも見事に対応できる能力にも繋がっているのです。
★「強い意志を持ち、頑固で、助けを拒否する」:
ADHDをもつ人、特に男性の中には「助けられて成功するくらいなら、自分のやり方で失敗する」と言い放つ人が、案外少なくはないのです。
★「気前が良い」:
ADHDの人々は、抱えている歪みのせいで苦しむ一方で、沢山の奇跡や、やっては過ぎ去っていくポジティブなエネルギーにも恵まれています。いざという時になれば、彼らほど気前の良い人々もいません。誰よりも楽天的で、熱心な人々でもあります。皮肉なことに、人からの援助は拒みがちだと言うのに(前出にある通り)、知り合いでも他人でも、何かを求める人がいれば、何でも分け与えます。ですから、ADHDの人々の中には優れたセールスパーソンも大勢いるのです。ADHDの人は、時にカリスマ的存在になったり、周囲を楽しませる人になったり、説得力のある人になったりするのです。
★「じっとしていられない(特に男性・男児)、空想にふける(特に女性・女児)」:
女性の場合は、多動や問題行動が起こりにくいです。女性はどの年齢層においても、もっとも診断のつきにくいグループに分類されてしまいがちです。女性や女児のもつ、注意欠如があるが多動のないADHDを見極めるためには、親、教師、配偶者、上司、医師の側に、鋭い判断力が必要とされます。
★「独特で活発なユーモアのセンスがある」:
突飛で風変わりである一方で、通常、かなり洗練されています。お笑い芸人、コメディアン、喜劇作家にはADHDの人がかなりの割合でいます。その原因の一端は、恐らくは世界の見え方が根本的に異なっていることにあるようです。ADHDの人々は、所謂「型にはまらない考え方」で生きているのです。
★「若い時には人と分かち合ったり、遊んだりするのが苦手だが、友人は欲しい」:
成長するにつれて、人付き合いに問題を抱える場合があります。これは、社会的な場面での読み取りが苦手であり、話に割り込んだり邪魔したりする衝動をコントロールできないことに拠ります。大人になると、これが「扱いにくい性格」だと捉えられてしまったり、不作法、自己中心的、あるいは打ち解けない性格だと行け取られたりすることもありまうs。しかし、実際のところ、こうした問題を抱えるようになるのは、未受診・未診断で治療を受けていないADHDの人であることが多々あり、診断を受けることで、周囲からの適切な支援や理解が受けらるようになるケースがあることが知られています。
★「批判や拒否に対して非常に繊細である」:
ウィリアム・ドットソン医師が提唱した有名な用語に「拒絶過敏症(RSD)」というものがあります。これは、ADHDをもつ人の一部に見られている傾向であり、馬鹿にされる、けなされる、何んとなく否定されるといったことをほんのわずかでも感じ取ると、急に酷く過剰な反応を示してしまう、というものです。瞬く間に落ち込んで、慰めようのない状態に陥ってしまうのです。そして、その一方で、これとは逆の状態を表す用語も出現しています。それは「評価敏感高揚感(RSE)」というもので、称賛、肯定、励ましを前向きに捉える突出した能力のことを指しています。つまり、ADHDの人々は、些細な批判で奈落の底に突き落とされることもある反面、ほんの少しの励ましや評価があれば高揚して元気になることもできるのです。
★「衝動性が高く、我慢できない」:
決断するのが早く、感謝するのが遅れます。但し、この衝動性の裏には、創造性が存在しています。創造性というのは、言ってしまえば、良い結果に繋がった衝動のことに他なりません。想像的なアイディアの発想や、「ひらめいた!」「わかった!」という気づきの瞬間というものは、前もって計画しておけるような類のものではないのです。それは指示も警告もなしに、衝動として訪れるものなのです。
★「人生の状況を変えたくてたまらない」:
これは、成長するにつれて、ありふれた日常に全般的に満足できなくなるという形で現れる傾向があります。日常をより良くし、より高めたい、過剰なまでにエネルギーを注ぎ込みたい、あるいは、レベルを数段上げたいという欲求に繋がっていきます。このような「欲求」が、多大な成功や創造へと繋がることもある一方で、あらゆる種類の依存などの危険行動に繋がってしまうこともあります。
★「エネルギッシュである」:
この特徴があるので、ADHDの名称には「多動」が入っているとも言えます。この特徴は、無気力になりやすいという特徴と“対”になっており、そのために怠け者だと誤解されることもあります。
★「不思議なほど的確な直感がある」:
この特徴は、簡単に気づくはずのことを見逃したり、主要なデータであるのに無視してしまったする傾向と“対”になっています。
★「あけっぴろげで、失敗を取り繕おうとしない」:
人の機嫌を取ることができない、偽善に耐えられない、機転が利かないことが多い、不適切な言動がある、反響や結果に無頓着……等々といった特徴のある人は、ADHDを抱えている場合が少なくありません。こうした特徴が、特に子どもの場合には、追い詰められると衝動的な嘘をつく傾向にもなりますが、これは良心が欠けているからではありません。そうあって欲しいと願うあまり、現実を変えてしまおうとする反射的な試みなのです。
★「依存しやすく、様々な衝動的行動を抱えやすい」:
薬物たアルコールをはじめ、買い物、散財、食事、運動、ゲームやスマホ…等々といった分野において、ADHDの人はそうでない人よりも、問題を起こしてしまう可能性が5~10倍ほど高くなっています。これは、前述した「欲求」、現実を活性化したい、というにニーズから生じています。但し、これには良い面もあって、適切で創造的な対象、すなわち、起業、本の執筆、家の建築、庭いじりなどに力を注ぐことができれば、悪癖や真の依存問題には陥らずに、欲求を満たすことが可能になるのです。
★「避雷針と風見鶏のようなものを備えている」:
どういうわけか、何かが上手くいかなくなりそうな時、ADHDの人はまるで避雷針のような役目に回ることが多々あります。スケープゴートにされ、責められ、叱られてしまう子ども(あるいは大人)になったりしてしまいます。また、家族イベント、ビジネス会議、クラス討論を図らずも混乱させる存在になってしまうこともあります。しかし同時に、この避雷針の性質があることで、ADHDの人は、どことも知らない場所からアイディア、エネルギー、予感、イメージを受け取り、それが驚くほどの成功にも繋がるのです。
そして、これとの似ているのですが、ADHDの人々には生まれつき、風見鶏のような機能も備わっています。この風見鶏で、集団やクラス、家族や組織、町や国のムードやエネルギーが変わったことを真っ先に感じ取るのです。他の人々が気づく前に、風向きが悪くなったから注意してとか、すぐに大きなチャンスが来るから準備して、などと教えていたりもします。この風見鶏の機能も、避雷針の機能と同様、既知の科学では説明のつかないものなのですが、ADHDの人達の間では、年代を問わず、常にこのようなケースが見られています。
★「自分のせいかどうかが分からず、人のせいにしたり、人を責めたりする」:
この特徴は、「概して自分のことを正確に観察することができない」という特徴と“対”になっています。結果として、自然と人のせいにしてしまうことが多くなります。これは、自分が問題にどう関わっているのかを、真の意味で理解していないことに拠ります。
★「歪んでいてネガティブな自己イメージを持つ」:
自分を正確のに観察できず、そこに批判に過剰反応をしてしまう性質と、成果の出ない日々が重なることにより、ADHDの人々は通常、本来もつべきものよりも遥かにネガティブな自己イメージを持っています。そのせいで、現実の受け取り方に余りに多くの歪み(歪曲)が生じてしまいます。考え方によっては、創造性というものも、別の現実を想像する力、つまり普通を「歪曲」して改良する力に拠るところがあるのですが、一方で、この「歪曲」がADHDの最も辛い側面を創ってしまうこともあるのです。つまり、自己愛が大幅に低下してしまうのです。ADHDの人は、自身の失敗や弱点のように思えるものばかりを見てしまい、通常沢山あるはずの良い部分については見えていないのです。それで、自分自身のことを正しく読めず、他人からの反応も正しく読めないので、恥ずかしさを感じてしまうのです。
このコラムを読まれまして、気になる点がありました方や、
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当院(新宿ペリカンこころクリニック)では、ご希望の患者様に、ウェクスラー成人知能検査(WAIS)を施行することが可能な医療機関となっております。
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また当院では、診察と一緒に、専門の心理士(臨床心理士・公認心理師)資格を持ったカウンセラーによるカウンセリング(心理療法)も行っております。カウンセリングをご希望される患者様は、診察時に医師にご相談下さい。
Presented by.医療法人社団ペリカン(心療内科・精神科・内科)
参考引用文献:『ADHD2.0 特性をパワーに変える科学的な方法』