ベルソムラで太る?副作用と体重変化について精神科医が解説
はじめに
睡眠導入剤として多くの方に利用されている「ベルソムラ(一般名:スボレキサント)」は、依存性が低く、自然な眠りに近い作用をもたらすお薬として注目を集めています。
一方で、「服用を始めてから体重が増えたように感じる」といった声が聞かれることもあります。
本記事では、精神科医の視点から、ベルソムラと体重増加の関係について科学的な根拠に基づいて解説します。「太る」という副作用の有無や、他の要因との関係性、そして安心して服用を続けるために知っておきたいポイントについて、分かりやすくご紹介します。
ベルソムラとは?
ベルソムラは、「オレキシン受容体拮抗薬」に分類される新しいタイプの睡眠薬です。脳内の覚醒を促す神経伝達物質「オレキシン」の働きを抑えることで、自然な入眠をサポートします。
従来のベンゾジアゼピン系睡眠薬とは違い、筋肉の弛緩作用や記憶障害といった副作用が少ないとされており、長期使用に伴う依存のリスクも比較的低いと言われています。
2014年に日本で承認されて以降、うつ病や不安障害を抱える患者様に対しても、安全性に配慮しながら処方されることが増えています。
ベルソムラで「太る」という副作用はある?
結論から言えば、ベルソムラ自体が直接的に体重増加を引き起こすという明確な科学的根拠は、現時点では確認されていません。
しかしながら、お薬の影響によって間接的に体重が増えるような変化が生じる可能性はあります。以下にその代表的な要因を解説します。
睡眠の質が向上し、食欲が正常化する
睡眠の質が向上すると、食欲に関与するホルモン(レプチンやグレリン)のバランスが整い、以前よりも食欲が増すことがあります。その結果として、無意識に食事量が増え、体重が増加してしまうこともあります。
うつ病治療との併用薬の影響
ベルソムラは、うつ病や不安障害の治療と併用して処方されることが少なくありません。その際に用いられるミルタザピンやスルピリドなどの抗うつ薬には、食欲を増進させる作用や体重増加の副作用が知られています。
こうした併用薬の影響によって体重が増えた場合でも、それをベルソムラの副作用と誤解してしまうことがあります。
活動量の低下
睡眠が改善すれば活動的になれると思われがちですが、精神的な回復が不十分な段階では、日中の運動や外出の頻度がむしろ減ってしまうこともあります。
このように、身体は休めていても心の状態が整っていないと、生活全体の活動量が低下し、結果として体重が増えることに繋がるケースも考えられます。
太りやすくならないための対策
ベルソムラを服用している間に体重管理を意識することは、心と体のバランスを整えるうえでも非常に重要です。以下のような工夫を生活に取り入れることで、体重増加のリスクを抑えることができます。
食事内容の見直し
- 高カロリー・高脂肪の食事を控える
- 野菜とタンパク質を中心としたバランスの良い食事を意識する
- 就寝前の食べ過ぎを避ける
適度な運動習慣
ウォーキングやストレッチなど、継続しやすい軽い運動を取り入れましょう。特に朝や日中に日光を浴びながらの運動は、体内時計を整え、睡眠の質の向上にも繋がります。
医師と相談しながら服用を継続する
自己判断での中断は避け、気になる変化があれば必ず医師に相談しましょう。服用するお薬の種類やタイミングを調整することで、副作用を最小限に抑える対応が可能です。
医師としての見解
ベルソムラは、比較的新しく登場した睡眠導入薬であり、現時点では「太りやすくなるお薬」と明確に分類されているわけではありません。長期使用による影響については今後の研究が待たれる部分もありますが、現在の知見では安全性の高いお薬とされています。
体重の変化には、食習慣や運動量、服用中の他の薬剤、ホルモンバランス、ストレスなど多様な要因が複雑に関係しています。睡眠の質が改善することで食欲や代謝が変わる場合もありますが、それは必ずしも「副作用」とは言い切れない面もあります。
服用にあたって不安がある場合は、主治医にご相談ください。お薬の効果を引き出すには、服薬と同時に生活習慣を見直し、心身の回復を総合的にサポートしていくことが大切です。
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参考文献:
ベルソムラ添付文書(MSD株式会社)https://www.msdconnect.jp/products/ber/sou/pdf/ber_pi.pdf
日本睡眠学会「睡眠障害の診療ガイドライン」
UpToDate: Orexin receptor antagonists for the treatment of insomnia
厚生労働省 e-ヘルスネット:睡眠と健康
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/
医中誌Web:ベルソムラと体重変化に関する国内報告
監修者:
新宿ペリカンこころクリニック
院長 佐々木 裕人
資格等:精神保健指定医、精神科指導医・専門医
所属学会:日本精神神経学会