はじめに
アリピプラゾールの服用により「太った」と感じる方が一部に見られますが、それはあくまで例外的なケースであり、必ずしも一般的な副作用ではありません。実際には体重にほとんど影響が出ない方が大多数であり、太りやすさとの関連性は限定的といえます。
誤解していただきたくないのは、アリピプラゾール=太る薬、という単純な認識ではなく、体重変化の有無は個人の体質や生活習慣、精神状態の変化などが複雑に関係しているという点です。
この記事では、精神科医の視点から、アリピプラゾールと体重増加の関係性を客観的かつ科学的に解説し、服薬を継続する上で安心いただける情報をご紹介します。
アリピプラゾールとは?
アリピプラゾール(商品名:エビリファイ)は、ドパミン部分作動薬という特徴をもつ非定型抗精神病薬です。他の抗精神病薬と比較して、錐体外路症状や高プロラクチン血症などの副作用が少ないとされ、広く使用されています。
適応疾患には、統合失調症、双極性障害、うつ病(増強療法)などがあり、成人だけでなく小児や高齢者にも処方されるケースがあります。
アリピプラゾールで太ると感じる理由
アリピプラゾールは、ドパミンやセロトニンの受容体に作用することで、間接的に食欲に影響を及ぼす可能性があります。とくに、セロトニン5-HT2C受容体への作用が関与していると考えられています。
代謝の変化
一部の非定型抗精神病薬では、インスリン抵抗性や脂質代謝異常など、代謝系への影響が報告されていますが、アリピプラゾールはその中では比較的影響が少ないとされます。
活動量の低下
精神症状の改善に伴って気分が安定する一方で、活動量が減少する方もおり、それが間接的に体重増加につながるケースもあります。
実際の副作用データ
アリピプラゾールによる体重増加の頻度は、他の抗精神病薬に比べて少ないとされています。国内外の臨床試験では、体重増加が副作用として現れる割合は5〜10%程度であり、オランザピンやクエチアピンといった薬剤に比べてリスクは低いと考えられています。
このことからも、アリピプラゾールは「太りにくい」部類に入る薬剤とされ、実際には多くの患者さんが体重の変化をほとんど感じることなく継続的に服用されています。
太りやすさを防ぐための対策
● 食事管理を意識する
バランスのとれた食事を心がけるだけでなく、糖質・脂質の摂取量を意識し、過食を避けることが大切です。特に、夕食後の間食は体重増加に直結しやすいため注意しましょう。
● 適度な運動を継続する
ウォーキングや軽いストレッチなど、無理のない運動を継続することが代謝維持に有効です。精神的な安定にも寄与するため、治療効果を高める副次的効果も期待できます。
● 定期的な体重チェック
週1回程度の体重測定を習慣にすることで、体重の変化を早期に察知できます。変化に気づいたらすぐに医師に相談し、対策を検討しましょう。
医師の指導のもとでの服薬が安心
体重増加が気になる場合でも、自己判断で服用を中止することは絶対に避けてください。 症状の悪化や再発を招く可能性があります。アリピプラゾールは、正しく使えば非常に効果的で安全性の高い薬です。
気になる変化があれば、減薬や他剤への切り替えといった選択肢を含め、医師と相談しながら治療方針を検討しましょう。
まとめ:過度に心配せず正しく服薬を
アリピプラゾールは、体重増加の副作用リスクが低い薬剤として位置付けられており、多くの方が安心して使用できる薬です。
太りやすさを感じる場合には、生活習慣やストレス、活動量の変化など複数の要因が重なっていることが多く、一概に薬の影響とは限りません。
過度に心配せず、医師と連携しながら治療を続けることが、心身ともに健康を維持するための大切なポイントです。
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参考文献:
エビリファイ錠 インタビューフォーム(大塚製薬)
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/
日本精神神経学会 精神科薬物療法ガイドライン(統合失調症治療編)
https://www.jspn.or.jp/guideline/
MSDマニュアル家庭版「抗精神病薬の副作用」
https://www.msdmanuals.com/ja-jp
厚生労働省「医薬品副作用データベース」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000173310.html
UpToDate「Aripiprazole: Drug information」
https://www.uptodate.com/
監修者:
新宿ペリカンこころクリニック
院長 佐々木 裕人
資格等:精神保健指定医、精神科指導医・専門医
所属学会:日本精神神経学会