前回のブログおいて、ADHDの人の仕事術として「ポモドーロ・テクニック」という作業方法について記載させて頂きました。しかしそれでもなお「そもそも、作業に取り掛かること自体が苦痛」「何から始めていいか分からず、永遠に手が付けられない」という方も多いのではないでしょうか。実は、ADHDの人に限らず、一般的に人は「作業をやり始める時が一番労力を使う」と言われています。
手を付けててしまえば何てことのない作業であるのに、その最初の一歩が踏み出せず、後回しが続いてしまい、結果いよいよ目にいれることすら嫌になってしまう…といういったことはありませんでしたか。この「手が付けられない」を回避するには、「なぜ手を付けられないのか?」を考えてみる必要があります。
単純に「面倒な作業だから」「自分には難しい作業だから」などの理由が挙げられるかと思いますが、一方で、面倒でもやり慣れている作業なら、スッと手をつけられることはありませんか。何故なら、脳は基本的に、生命維持のため、変化を避けて現状を維持しようとする防衛本能を持っています。そのため、何か新しいことや、あまり慣れていないことをしようとすると、その行動を制御しようとする力が働くのだそうです。よって、慣れない仕事や家事を先延ばししてしまうのは、ある意味、人間の脳の特性の一つだとも言えるのです。
そうは言っても、先延ばしをずっと続けていては、何も進みませんので、そうした作業に取り掛かれるようにするためには、どうすれば良いのかを考える必要があります。ここで「面倒そう」「慣れていない」「何から手を付けていいのか分からない」…等をクリアするために、“ちょっと手をつけてある状態”をつくる癖をぜひ作りましょう。
そこでお勧めなのが、付箋を使って、やるべき作業を可視化してみることです。先延ばしをされてしまう理由の大半は、“その作業の得体の知れなさ”にあると思われます。「多分無理そう」というようなフワッとした理由で避け続けていると、その「無理」度はどんどん増していきます。よって、この“得体の知れなさ”が明確になった「ちょっと手をつけた状態」にするだけでも、ハードルはグッと下がります。よって、まず着手すべきことは、やるべきことや、自分が置かれている状況を思い切って可視化してみることなのです。すると往々にして「あれ?思っていたほど多くないぞ」という感を持たれる方が大半なのです。
この具体的な方法として、「付箋アプリ」を使うというやり方があります。毎朝起きたらすぐ、付箋アプリに「今日やるべきこと」を全部書き出します。各タスクには、「これからやること→△」「作業途中のもの→〇」「終わったもの→◎」と印をつけておき、完全に終わった案件の付箋はsのまま削除します。この一連の作業を繰り返していくわけですが、勿論「付箋アプリ」でなくても、To Doリストでも、実際の紙の付箋でも、自分が一番やりやすい方法で構いません。要は、「全体の作業状況」と「具体的にやるべきこと」を明確に可視化することが重要なのです。
やるべきことが明確になったら、「ちょっとお手付き」を拡げていく気持ちで着手されると良いようです。順番は何でも構いません。」ご自身がやりやすいと感じることから始めて、勢いをつけてしまうのも有です。とにかくやってみる、手を動かしてみることが肝要です。「終わらせるぞ!」といった完璧な目標を立てずに、5分でも良いので、途中で挫折しても良いので、一旦着手してみることです。そしてそれが出来たら、「よし、5分やった自分、偉い!」としっかり自分を褒めてあげましょう
また、「仕事を全部やりきらず、ちょっと残しておく」のも有効な方法です。ついついキリの良いところまで仕上げたくなりますが、次に着手しやすいように、わざと中途半端なところで次に持ち越します。そうすると、ゼロからエンジンをかける必要はなく途中から再開できるので、心理的な負担もぐっと楽になります。
こだわりの強いADHDのタイプの方は、完璧主義な部分が却って仇になることがあります。何故なら、一旦作業に取り掛かると、「ちゃんと終わらせないといけない」というプレッシャーが生じるので、取り掛かる前から、既に億劫になってしまう傾向にあるのです。「完璧」は一旦脇におき、まずは「ちょっとずつ」を実践していくようにしましょう。このマインドを日々積み重ねていくことが、結果的に先延ばしや放置案件をなくすことに繋がっていくのです。
5分だけ頑張って“やる気スイッチ”オン
★ここからは、上記の内容を「理論」でご説明します★
「中々仕事が始められない」「中々勉強がスタートできない」等々といったことでお悩みの方は多いと思います。「やる気」が出てから仕事を始めようと思っていると、いつまで経っても「やる気」は出ないものです。
仕事や勉強を瞬時に始める方法があれば、きっと皆様の仕事や勉強、先延ばし気味な課題は、ものすごくはかどるに違いありません。そんな夢のような方法は、実はあります。それは、「まず始めること」です。「中々始められないから悩んでいるのに!」という突っ込みが入りそうですが、残念ながら「まず始める」しかないのです。
例えば、冬の寒い日に、車のエンジンを暖める場合、どうされますか? エンジンをかけて、暖機運転、つまりアイドリングをするとエンジンは暖まり、数分でエンジンの調子が上がってきます。車のエンジンをかけない限り、エンジンが暖まることはありません。これと全く同じことが、私たちの「脳」にも言えるのです。
心理検査の開発や統合失調症の研究で有名な精神科医のクレペリンは、「作業を始めてみると、だんだん気分が盛り上がってきて、やる気が出てくる」ことを、「作業興奮」と呼びました。今から100年ほど前のことですが、最近の脳科学では、この「作業興奮」のメカニズムがきちんと判明しています。
脳には「側坐核(そくざかく)」という部位があります。脳のほぼ真ん中あたりに左右対称に存在するリンゴの種ほどの小さな部位です。この側坐核の神経細胞が活動すると、海馬と前頭前野に信号を送り、「やる気」が出て、脳の調子が上がっていきます。しかし、側坐核の神経細胞は、「ある程度の強さ」の刺激がこないと活動を始めません。その必要時間はたったの5分です。
側坐核は脳の「やる気スイッチ」です。「とりあえず作業を始める」ことで、やる気スイッチがオンになって、側坐核が自己興奮して本格的な「やる気」が出るのです。
①まず始める(5分)➡②側坐核の興奮(=やる気スイッチON)➡③本格的なやる気が出て来る(やる気アップ)
ですから、やる気を出したい時には、「まず始める」しかないのです。「やるぞ!」と宣言して、簡単な作業からスタート。まずは5分だけ机に向かって頑張ってみましょう。
このコラムを読まれまして、気になる点がありました方や、
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当院(新宿ペリカンこころクリニック)では、ご希望の患者様に、ウェクスラー成人知能検査(WAIS)を施行することが可能な医療機関となっております。
ご自身の能力の凸凹の可能性が気になられる患者様、とりわけ発達障害(ADHDやASD)の可能性を危惧されている患者様は、御診察の際に、その旨を当院医師にお申し出頂けましたら幸いです。
また当院では、診察と一緒に、専門の心理士(臨床心理士・公認心理師)資格を持ったカウンセラーによるカウンセリング(心理療法)も行っております。カウンセリングをご希望される患者様は、診察時に医師にご相談下さい。
Presented by.医療法人社団ペリカン(心療内科・精神科・内科)
参考引用文献:やしろあずき著『すごいADHD特性の使い方』