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大人の愛着障害のセルフヘルプ術 ①

あなたは今迄「人に頼ってはいけない」と思って生きてきたのではありませんか? 愛着に問題を抱えたまま大人になった人は、過度に自分に厳しくしてしまい、困っていても人に助けを求めることができません。

 

 

その原因の一つと考えられるのが、幼少期からの体験です。小さい頃に誰かに助けを求めた時に「自分でやれ」と断られたり、「うるさい」と怒られたりしたことはないでしょうか。または、「自立しなくちゃ」という思いに囚われ、人に頼れない人もいます。「自分ひとりでやらなくては」「自分の問題は自分で解決すべき」と思い込んでいる人もいることでしょう。「こうなったのは自分のせいだから人に迷惑をかけられない」など、自責思考が影響している人もいます。

 

 

心の奥底ではSOSを出しているのに、助けを求めることができず、限界まで自分を追い詰めてしまう人がとても多いのです。「人に頼る」と「助けを求める」のは未熟であり、自立した人ではないと考える人もい言うかもしれません。ですがそうではありません。

 

 

赤ちゃんや用事は、親にしっかりと甘え、依存する中で心が成長していきます。依存とは自立へ向かうために不可欠です。誰も頼らず依存しない幼児は、健全に成長できるでしょうか。恐らく難しいでしょう。乳幼児期からしっかり依存することが、後の自立へと繋がります。

 

 

また、自立を「誰にも頼らないこと」だと考える人が少なくありませんが、自立とは本当は「依存先を増やすこと」です。例えば、車椅子で生活をしている人は、多くの人や物に助けてもらう必要があります。頼る先が特定の人に集中するのは避けるべきですが、多くの人に少しずつ上手に依存して、自分なりの生活をしている姿は、自立しているといってよいのです。

 

 

このように「自立とは上手に依存すること」です。そして人が育つ過程で最も身につけなくてはならない能力のひとつは上手に人に助けてもらう能力=ヘルプシーキング能力なのです。今までひとりで頑張ってきた人が、ヘルプシーキング能力をつけようとしても一朝一夕にはできません。段階を踏んで進めましょう。

 

 

最初のステップは、自分の心と向き合い精神構造に気づくことです。自分の心を直視するのは決して楽なことではなく、むしろ辛い気持ちが伴うことが大半です。けれども、心の治療には自分の精神構造に気づくことが必要です。自ら精神の拠り所や弱点を理解して、初めて心を補強できるのです

 

 

あなたは、何度もつらい気持ちに耐えながら、ここまでやってきたのではないでしょうか。これまでの人生を振り返り、頑張った自分に「よくここまで生きてきたね」と十分に労をねぎらってあげましょう。懸命に生きてきた自分をイメージし、「よしよし」とほめてあげて下さい自分の労をねぎらえたら、次のステップに進むことができます。

自分自身にも優しくしてみよう

愛着に問題を抱えている人は、他人に優しく自分に厳しい……まるで、人に優しくする反動で自分を傷つけているかのようです。「自分を大事にすることは自己中」と思い込んでいるのかもしれません。

 

 

こうした思考パターンが、いつ、どこで身についたのかを考えてみる必要があります。勿論、生まれながらの気質という可能性もあります。しかし、もし幼少時に親や周囲に人から「人に何かしなければ、自分は存在する価値がない」などと言われていたならどうでしょうか。褒められることに罪悪感を覚える、親に褒められると反動で否定する言葉が浮かぶ、という人もいます。誰かに植え付けられた思考が習慣化し、素直に自分を大切にすることができなくなってしまったのです。

 

 

自分を相手より優先することが難しければ、少なくとも優しさを自分と相手に均等にふり分けましょう。他人に優しくしたら、それと同じだけ、自分自身に「お疲れさま」「がんばっているね」と声を掛けてあげて下さい

 

 

愛着に問題を抱えている人は、心の奥底で「自分のことはどうでもいい」と思ってしまい、自分のケアを後回しにしがちです。しかし自分自身をかわいがり大切にする「セルフケア」を怠ると、いずれ疲弊し、心と身体の健康を保つことができなくなります。

 

 

もし、他人には優しくできるのに、それを自分に向けることに躊躇いがあるなら、他人を許し、他人に優しくしてあげたことを、そのまま自分にも同じ量だけしてみて下さい。意識的に自分をケアする時間を徐々に作っていきましょう。

 

 

★方法①「自分の感情を認識する」:自分の気持ちに正直になりましょう。例えネガティブな感情であってもそれを無視せず、そこにその感情が存在することを認めます。心の中で、「今日はちょっと疲れているな」「少しイライラしているな」と感じたら、その感情を言葉にしてみます。

 

★方法②「いたわる時間を作る」:ベッドでゴロゴロする、好きな本を読む、どこかに出かける、美味しいものを食べる、静かに音楽を聴く…等、自分がいま本当に望むことを少しだけやってみましょう。人の目を気にせず、人の期待を気にせず、ひとりで実行してみましょう。

 

★方法③「自分に優しくする言葉をかける」:自分を責めてしまいがちな人は、内なる声(内言・セルフトーク)が自分の希望を非難することがあります。ですので、自分を励ます言葉を意識的に掛けることが大切です。「昨日はよく頑張ったから、今日はやすんでいいよ」といった言葉を自分に向けて言ってみましょう。

周囲の人たちに上手に「プチ甘え」

愛着を再形成する際は、ひとりの人に集中するのではなく、周りの人にまんべんなく「プチ甘え」をした方が無難です。

 

 

愛着には相手に対する甘えや依存が必要です。大人になってから愛着の再形成を行う際も必ず相手に、一定程度甘えたり依存したりします。過度に依存されると、それを重荷に感じたり、支えきれなくなって関係が壊れたりすることもあります。また、それまで抑えていた親への複雑な思いや漠然とした不安感が突如噴出してしまう人もいます。そうなると、相手はとても支えることができません。信頼していたパートナーにさえ「重たい」と言われて、大きなショックを受ける人もいます。

 

 

そのようなことにならないように、甘えは意識的に分散しましょう。周囲の人に少しずつ依存する「プチ甘え」を試して下さいいったん人に甘え始めたら、際限なく甘えてしまうのではないか…という恐怖から、自分を律している人もいます。怖いかもしれませんが、一日ひとつだけでも、人を頼る練習をしましょう。

 

 

愛着に問題を抱えている人は、普通の人から見たら、こんなことに躊躇するの?というほど、小さなことでも人に頼むのが苦手です。勇気を出して、声を掛けてみて下さい。また、もしも周囲に、相手を不快にせず上手に頼みごとをする人がいたら観察してみましょう。最後には必ず感謝の気持ちを伝えます。「ありがとうございます」「助かりました」など、相手の協力に対して、言葉にして感謝の気持ちを伝えることで、良好な関係が築けていけます。「お願い→ありがとう」を練習し、自分を慣らしていって下さい。

 

 

「プチ甘え」を始めた患者様は、暫くすると、「あれ?私、前からプチ甘えをしていたのかも」と気づくことがあります。例えば、困った時にちょっと友達に相談をしたり、先輩や同僚に頼ったりしたことはないでしょうか。「ひとりでがんばってきた」と思っていても、普段の生活のどこかで誰かに助けてもらった経験はあるはずです。人は生きている以上、必ずどこかで「プチ甘え」をしているのです。

 

 

そういった意味では、新しいことを始めなくとも、“見方”が変わるだけで心は変化します。自分は愛される価値のない人間だ」と思っている人も、「こんなに人に大切にされてきたんだ」と気がつくと、人生は愛情に包まれたものに変化します些細な出来事がきっかけとなり、子どもの頃に本来受け取るべきだった「人に優しくしてもらう喜び」を得られることがあります。そこからあなたの凍りついていた心が解け始めます。

 

 

例えば、幼い頃に風邪をひいて寝ていた時、いつも厳しかった母親が優しくしてくれたことはありませんか。「放っておかれた」という思い込みが、そのような記憶に蓋をしていなかったかどうか振り返ってみましょう。

親との関係性の再構築は可能か否か?

思春期くらいまでなら、もう一度親との間に愛着を形成することも出来ます。不登校や摂食障害など何等かの問題が生じ、それがきっかけで親子関係が修復されるケースもあります。ただ、年齢を重ねてしまうと親子関係の修復はかなり困難と言わざるを得ません。そもそも親子の相性自体が良くない可能性もあり、やり直そうとして却って悪化しがちです。どちらが悪いのではなく、お互いに苦しくなります。

 

 

上記のような事もあって、大人になってからの愛着再形成は、むしろ親しい友達やパートナーを対象とした方が良いでしょう。ひとりに集中して愛着形成を手伝ってもらうと、相手の肩への負担が大きくなり過ぎるため、何人かにまんべんなく甘える(プチ甘え)方がより良いかと思われます。たとえパートナーであっても、親代わりまでは出来ないものです。最終的に相手の重荷もなり、関係が破綻しかねません。

 

 

愛着に問題を抱えている人にとって、適度に人に甘えるというのは非常に難しいことです。愛着形成の過程で相手に甘え、攻撃的になり、関係を壊してしまうことがあります2~3歳の子どもがわがまま放題に振舞うのとはわけが違います。すっかり成長し、すでに大人になってしまった人間の、ずっと秘めていた愛情欲求が爆発するのです。いったん求め始めると際限なくなるまで求める人もいます。そのため相手が情緒不安定に陥り傷ついてしまうこともあるのです。専門家(医師・カウンセラー)がこうした問題を取り扱う際は、その機関により様々な制約が付けられていることもあるくらいです。親代わりの愛着形成は、そのぐらい難しいものなのです。

愛着再形成が徐々に進んでいくと…

愛着再形成が進むと、少しずつ心が緩んでくるので、徐々に「素の自分」が見えてきます。すると、それにつれてあらわれる不完全な自分に対し、自己否定的な考えが浮かんでくることがあります。

 

 

自己否定的思考に気がついたら、それがいつ生まれたのかを考えてみて下さい。自分を否定する思考パターンは、生まれながらのものではないはずです。恐らく、幼少期に誰かが放った言葉が、あなたの心の中に入り込み、そのまま棲みついてしまったのでしょうだとしたら、それは本来のあなた自身ではなく“異物”です。自分を苦しめる思考パターンが“異物”と分かるだけでも、悪影響は小さくなります。

 

 

同様に、自己否定の思考パターンがいつ、どこで、心に投げ込まれたのかを振り返り、「これは自分ではない(異物である)」ことを確認しましょう他人から刷り込まれた自己否定的な思考は、知らない間に、毒が塗られた絆創膏を背中に貼られていたのと同じです。絆創膏に気づいたら、自分ではがしてみましょう。

 

 

ネガティブな気持ちを全て否定する必要はありません。しかし、それがいつもわき上がり、あなたの行動を止めてしまうのであれば、それが何に由来しているものなのかを見つめ直す必要があります。あなたがそう思うようになったきっかけをたどってみて下さい。その“出所”が分かるだけでも、心が癒されるはずです。親や周囲の人から投げ込まれた“異物”であり、もう不要なものだと分かったら、勇気を出してそれを捨てていきましょう。

 

 

さて、心が緩み、どんな「素の自分」が現れましたか? そこに「小さな自分」の姿は見えませんか?隠されていた小さな自分が「助けて」と弱々しい声で救いを求めているのではないでしょうか。

 

 

今まで声を聞いてもらえなかった「小さな自分」は、その存在を認めて欲しいと願っています。決して自己否定のパターンに陥ることなく、その子の全てを受け入れ、労ってあげましょう親が子ども「よしよし」するように、頭をなでて安心させてあげて下さい。

 

 

最初のステップにおいて、あなたは過去を振り返り、今まで頑張ってきた自分に対して「お疲れさま」と労をねぎらってあげたはずです。今度は、長い間、強固に隠れていた「小さな自分」を見つけ出し、同じように労をねぎらってあげて下さい。「もう大丈夫だよ。安心していいんだよ」と、優しく声を掛けてあげましょう。

 

 

……さらに愛着の再形成が進んでいくと、過去の記憶に対する「イメージ」や「感じ方」が不思議なほど変わっていきます。それまでには口にされることのなかった親との楽しい思い出も口にされるようになるのです。話しながら、「そう言えば、こんな楽しいこともあったんですね」と、自分が思い出した記憶に自分で驚かれる人も少なくありません。

 

 

このように、患者様が明るい思い出を話されるようになられた段階は、「レジリエンス」が機能し始めた証拠だとも言えるでしょう。レジリエンスとは、外から加わった力による歪み(歪曲)を跳ね返す力です。心がダメージを受けても、回復できる自己治癒力であり、失敗を乗り越えるために反省をし、試行錯誤しながらも再挑戦できる力のことです。

 

 

この力も、実は愛着形成がベースとなって育まれます。何故なら、レジリエンスには基本的安心感と自己肯定感が不可欠だからです、。愛着形成のサイクルが上手く回り始めると、レジリエンスもより強まっっていきます。

 

 

このように愛着がしっかり再形成できれば、長い間忘れていた幼少時の明るい記憶にも光が当たります。過去の出来事に新たな意味が生まれ、自分を大切にできるようになると、世界が色鮮やかに見えてくることでしょう

このコラムを読まれまして、
気になる点がありました方や、興味・関心を抱かれた方は、
どうぞ当院まで、お気軽にお問い合わせください。

 

 

当院では、うつ病をはじめ、

適応障害、躁うつ病(双極性障害)、不安症、

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パニック症、摂食障害、統合失調症、強迫症、

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大人の発達障害(ADHD、自閉スペクトラム症)、

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皆さまの抱えるこころのお悩みに対して、

心身両面からの治療とサポートを行っております。

 

 

また当院では、診察と一緒に、専門の心理士(臨床心理士・公認心理師)資格を持ったカウンセラーによるカウンセリング(心理療法)も行っておりますカウンセリング(心理療法)をご希望される患者様は、診察時に医師にご相談下さい。

 

 

Presented by.医療法人社団ペリカン(心療内科・精神科・内科)

参考引用文献:村上伸治著大人の愛着障害