前回のコラムにおいて、「大人の愛着障害」という言葉についてご紹介をしました。今回は、愛着に問題(課題)を抱えたままだと、その後どのようなことが起こり得るのかについて、解説をしていきます。
一般に「愛着」とは、慣れ親しんだものに対する離れがたい心情を表しますが、発達心理学における「愛着」とは、乳幼児と母親など養育者との間に形成される特別な情緒的結びつきを意味します。
生まれたばかりの赤ちゃんは「お腹が減った」「おむつが濡れている」など不快な感情を言葉で表すことができません。泣いたりぐずったりすると親が気づき、不快感を取り除いてくれます。こうした相互関係が繰り返される内に、赤ちゃんは親を「不快や不安から守ってくれる存在」と認識し、親にくっついて安心感を得ようとしま。このとき親は赤ちゃんの存在を丸ごと“無条件で”受け入れます。「何かができるから」「努力しているから」愛するわけではありません。
乳児期から3歳頃にかけて、こうした無条件の愛情を与えられると、子どもは自分を「生きる価値のある存在」「愛されるべき存在」と認識するようになります。この感覚が基本的な自己肯定感の土台となるのです。
このように親子間で愛着形成がなされていると、自分自身を肯定的に捉えられ、存在していていいかどうかを意識することなどありません。しかし、愛着形成が不十分だと、「自分には生きる価値がある」と思うことができず、安心して親に甘え頼ることができません。このように愛着障害は子どもに診断される障害で、虐待などの逆境体験により愛着が形成されなかった時に生じます。本来は大人に向けられる概念ではありません。
ただ、愛着に何らかの問題を抱えたまま大人になり、「自分が生きていてもいい」という基本的な安心感が乏しい人も沢山います。こうしたケースでは、逆境体験が皆無ということも多いのです。そのような人たちは、自己肯定感が乏しく、基本的な安心感をもつことが困難です。よって、付き合う相手により安心感が大きく変化したり、また年齢を重ねるほど、安心感が目減りしていくのも特徴です。
成長過程のどこかで躓き、「自分は愛されていない」「自分はいらない存在」「自分のことが嫌い」と思うようになってしまったのです。
そして、愛着に問題を抱え、苦しんでいる人には共通して「周囲にとても気を遣う」傾向が見られます。
最初に母子間で愛着形成が行われるのは、3歳位までの時期です。お腹がすいて泣く、乳をもらう、安心する…こうした要求と応答という母子間の相互のやりとりがベースとなります。この時こどもは、ただ「受ける」だけです。ギブアンドテイクでいうと、ギブする必要はないのです。ところが何らかの原因でこの相互関係が不安定になると、情緒も安定しません。お腹が空いて泣いても、乳を貰える時ともらえない時があり、そこに一定のルールも存在しない場合、子どもは混乱します。ワンオペ育児をしている、母親に何らかの病気や障害があり、安定的な育児ができない、等々…原因は様々です。
こうした不安定な関係性の中で、生存をかけた要求を通すために、子どもはより一層親の顔色を読み、注意を引こうとします。そして、次第にそれは、他の人との関係にも応用されていきます。幼い頃から親にも周囲にも気を遣うことが「習慣化」してしまうのです。
このように愛着形成が上手くいかないと、「自己」が上手く確立できません。自己が不安定で空虚であると、常に不安なまま周囲に気を遣い続けなければばりません。
相手に気を遣い、つい「何かじてあげなければ、ここにいてはいけないのではないか?」と思うようになるのです。それによって、感謝されても、あまり嬉しいとは感じられません。褒められているのは自分の内面(=自己)ではなく、自分の外側(=自分の行為)だと感じてしまうからです。まるで、メイクをした女性が「美しいね。いいコスメを使っているんだね」と褒められるようなものです。
人に褒められるほど、それと引き換えに「もっと頑張らなくては」という気持ちが強くなり、心が満たされないまま、ひたすら頑張り続けることになってしまうのです。
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参考引用文献:村上伸治著『大人の愛着障害』