本来「愛着障害」とは、乳幼児が母親などの養育者との間に愛着=心理的な結びつきを形成できなかったために、幼児期に発症する精神疾患です。
愛着障害の原因で最も注目されているのは、虐待や不適切な養育(=マルトリートメント)です。マルトリートメントとはアメリカで生まれた言葉で、子どもに対する身体的・心理的・性的虐待や育児放棄(ネグレクト)のほか、幅広い意味で不適切な養育環境を指します。
子どもの目の前での家庭内暴力(面前DV)や、親の都合で長時間留守番をさせること、親の気分で子どもへの対応をコロコロ変えること、頭ごなしにしかること、子どもの意志を無視して進路や職業を決めることなども、マルトリートメントに含まれています。
特に、子どもの発達に支障が出るほどのネグレクトや養育者が頻繁に変わるなどの状況が続いた場合、子どもは養育者との間に心理的結びつきを形成することができず、愛着障害の要因になると指摘されています。
それ以外でも精神発達症(発達障害)、中でも自閉スペクトラム症のある子どもは、愛着形成の時期に親への関心が乏しく、愛着に問題が生じやすいことが分かっています。
愛着障害の国際的な診断基準はWHO(世界保健機構)による国際疾病分類ICD-11における「反応性アタッチメント症」、DSM-5-TRにおける「反応性アタッチメント障害」に該当します。どちらの基準でも、愛着障害は子どもの障害として位置づけられており、大人に対する「愛着障害」という正式な疾病概念は存在しません。
近年、幼少期の愛着障害が大人になって様々な精神疾患を引き起こすことは分かってきました。ですが、精神疾患で受診される患者様の背景に愛着障害があるかどうかを診断するのは容易ではありません。
例えば、「幼少期に愛着障害の診断を満たす状態であった」ことや「不十分な養育の極端な様式を経験した」ことが明らかな場合には愛着障害だったと診断できます。しかし、実際問題としては、ご本人の語る幼少期の出来事だけで、この2点について判断するのは困難だからです。
正式な疾患名ではありませんが、いわゆる「大人の愛着障害(愛着の問題)」においては、こうした診断には当てはまらないものの、愛着形成時の問題で日々生きづらさを感じている人を指していることが多いと言えます。その中には、長期間別の精神疾患を患っている人や、何度も繰り返している人もいます。愛着の問題が隠れていると、精神疾患だけを治療しても中々改善しないからです。診察の際に、生育歴を振り返りながら、自分自身の問題を自覚し、自己肯定感に焦点を当てていく必要があるのです。
愛着障害によって、青年期以降に起こりやすい問題として、「依存症」「自傷行為」「摂食障害」「ひきこもり」「反社会性パーソナリテイ障害」…等々が挙げられています。
普通の家庭で育てられても起こり得る問題
虐待などの不適切な養育環境ではなく、全く普通の家庭で育てられたにも関わらず、愛着に問題を抱えている人は多いものです。
国際的な診断基準では、愛着障害からは除外されますが、最も典型的なのは、神経発達症(発達障害)が見られる子どもの場合です。愛着関係は相互のやりとりで形成されます。ASD(自閉スペクトラム症)がある場合、他者に関心を向けるようになるのは小学生以降になることが多いです。愛着形成を行う3歳前後では、他者との情緒・相互的交流が育ちにくいため、親との愛着形成が困難になります。
また、発達の問題がなくても、些細な誤解がきっかけとなり、親子関係にボタンの掛け違いが生じ、それが長期化し、親子の距離が広がってしまった可能性も考えられます。目立った衝突や葛藤がないため、親も子も自分たちの間にある溝を、中々自覚できません。
しかし原因はどうであれ、現時点で基本的安心感や自己肯定感が乏しいなら、どこかに愛着の問題(広義の愛着障害)が隠されている可能性は高いと考えるべきでしょう。
繰り返す精神疾患の背景にも…!
うつ病や不安症などの精神疾患が繰り返されるケースでは、表面化している症状だけを見るのではなく、根底にある身体の機能的な問題(発達の問題)と養育の問題(愛着の問題)にまで目をむける必要があります。特に愛着は、物心のつかない、自我が出来上がっていない時期に生じ、精神という建物の土台を作ります。ここに問題があると、土台の歪みが、やがて別の精神疾患などを引き起きします。
上層部や屋根が立派でも土台が弱ければ、その建物は傾いてしまいます。外に表れた疾患の背景にある愛着の問題に目を向け、自己理解を深めていくことは、精神疾患の根本的な解決にも繋がるのです。
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Presented by.医療法人社団ペリカン(心療内科・精神科・内科)
参考引用文献:村上伸治著『大人の愛着障害』