以前同コラム『醜形恐怖症ってなんですか?』で、その障害の説明をさせて頂きました。本日はその治療法等を記載させて頂きます。
醜形恐怖症の治療
醜形恐怖症は、その病理の深さによって、薬物療法と心理療法を適宜組み合わせて行われます。醜形恐怖症には3段階のレベルがあると言われており、一番病理が浅いレベル(恐怖症)ですと、心理療法が中心となります。二段階目の強迫観念が出てくるレベルになりますと、心理療法と薬物療法が併用されることが多くなります。そして三段階目の「妄想」状態になりますと、薬物療法が中心となってきます。
薬物療法では、強迫症にも効果が高いSSRIなどの抗うつ剤や、抗精神病薬などが用いられます。一方、心理療法は、まだ試行錯誤の段階だと言われています。というのも、醜形恐怖症の患者様は、強迫症と同じかそれ以上に強い強迫観念を持たれていることもあり、中々心理療法が上手く入らない側面があるからです。
そのような試行錯誤段階ですが、認知行動療法は有効な場合があるという報告がされています。まず「これは一種の病気です。あなたが支配されている“自分は醜い”という考えは事実ではなく、強迫観念に過ぎません」とはっきりと伝えて、病気であることを認識してもらいます。次に、「だから、病気に打ち勝とう」と、強迫観念との闘いを勧めてみるのです。そこで用いられるのが、エクスポージャー法やロールプレイなどになってきます。人間は“慣れる”ことに巧妙な側面を持っています。それを治療で活かすのです。ある意味では、「習うより慣れろ」ということでしょうか。
また、彼らは家庭で自由に生活している間は、自分の醜い部分にこだわり続けていますが、強制的に人との関わりを持つことによって、その適応に追われてしまい、醜形恐怖症が和らぐことはよくあります。そして、そこで対人関係が一旦できると、軽快していくことが多いのも事実です。
時には分析的な治療を行い「自分は醜い」と思い込むようになった本当の原因、即ち、心の奥に潜んでいる本当の不安や恐怖を明らかにすることが効果的な場合もあります。
家族にできること
時として、家族や周りの人が、本人の思い込みを激しく批難することが多々あります。しかし、醜形恐怖症は明らかに精神障害であり、説得は不可能なのです。ですから、家族や周りの人がまずなすべきことは、叱ったり説得したりするのではなく、医療の場に導くことだと考えて下さい。
家族が何度、「決して醜くなんかないのだから、心配することはない」と言ったとしても、むしろ誘導するかもように「でも、実は醜いんでしょう?」などと聞いてくるものです。そういう時は、素朴に「私はそうは思わない」とかわしながら、強迫観念から一旦遠ざかって、もっと生活の質(QOL)を高める、つまり生活を楽しむように示唆することがとても重要です。例えば、仕事の楽しさを教えてあげたり、趣味を持つ、友人を作る…等々、別の領域でも人生を楽しむように勧めてあげて下さい。
但し、治療については、あくまで専門家に頼るべきです。家族による美醜の判断は他人の判断よりももっと信じようとしませんから、家族が介入するのは一般的に言って、とても困難です。
関連する精神障害
醜形恐怖症の人は、人に悩みを打ち明けられず、ひそかに外に出なくなることも多く、ひきこもりになりやすいと言えます。また、およそ90%はうつ病を経験しています。うつ病があるからこだわりに固執したり、逆に過度の拘りからうつ病を発症し、より一層美醜にこだわってしまったり…といった悪循環になっているのかもしれません。
その他、不安症、特に社交不安症が多く見られます。また、強迫症も加わっていることも多く、時に統合失調症との併発も見られます。性格は傷つきやすい回避性パーソナリティ障害が最も多く、自分の思い通りでなければ気が済まないという強迫性パーソナリテイ障害も多く見られます。
このコラムを読まれまして、
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当院では、強迫症をはじめ、
大人の発達障害(ADHD、自閉スペクトラム症)、
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パニック症、自律神経失調症、冷え症、摂食障害、
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心身両面からの治療とサポートを行っております。
また当院では、診察と一緒に、専門の心理士(臨床心理士・公認心理師)資格を持ったカウンセラーによるカウンセリング(心理療法)も行っております。カウンセリングをご希望される患者様は、診察時に医師にご相談下さい。
Presented by.医療法人社団ペリカン(心療内科・精神科・内科)
監修 佐々木裕人(精神保健指定医・精神科専門医・内科医)
参考引用文献:町沢静夫著『図解 大切な人の心を守るためのこころの健康事典』