大人になってからADHDやASDと診断された場合(=「大人の発達障害」)、子どもの頃に診断をされている人よりも、自覚をされた期間は短くなります。実際には大人になってから急に発達障害になったのではなく、診断されたのが大人になってからというだけなのですが、ご自分が発達障害だという自覚を持っている期間が短いため、自分の発達特性を他人に伝え慣れていないのが実際です。
特に発達障害の場合は、ご自分の「個性」だと思っていたものが「障害」というラベルに貼り替わるため、ショックは大きく、自分自身でも消化しきれていないことが少なくありません。そのため他人に伝えるのはハードルが高く、一人で抱え込んでしまいます。
そして、昔ながらの友人や、診断を受ける前から勤めている職場の人にカミングアウトすべきか悩む人も多くいます。発達障害は病気ではないため、発達障害に“なる”のではなく、発達障害が“判明する”だけなのです。そういった意味では、自分自身が変わったわけではないのにカミングアウトすることで、これまで順調だった関係性に水を差すのではないかという懸念から、自分の発達特性を隠す人も多くいます。
発達障害に関しては、人によって、程度や特性、本人を取り巻く人間関係が様々であるため、カミングアウトに絶対的な正解はありません。ほとんどの人にとってはカミングアウトをする方がストレスを感じるので、無理にする必要はまったくありません。
悪いことをしているわけではないので、「隠している」「内緒にしている」といった後ろめたさや罪悪感を抱く必要もありません。しかし中には、「絶対に知られたくない」という人も多く、特に女性にその傾向が強くみられます。先述の通り、カミングアウトをして周囲に知られる方がストレスという場合は、無理に伝える必要はないのですが、一人で抱え込むことでオーバーフローしてしまい、ダウンされてしまう人が多いのも事実です。
バレないために「普通にしなきゃ」という気持ちが過剰適応に繋がり、「誰も分かってくれない。でも誰にも言えない」という葛藤が心を苦しめるかもしれません。パンクしてしまう前に吐き出せる場所を確保しておくのも一つの手でしょう。
例えば、同じ発達障害の悩みを抱える人が集まり、お互いの悩みやライフハックをシェアし、共感するような「当事者会」です。最近はオンラインでの当事者会も増えてきているので、地方在住の方の参加ハードルも下がってきています。もちろん、当事者会以外にもカウンセリングや医師への相談など、吐き出せる場所は色々あります。
但し、今ここでしているのは、あくまでも告知義務のない人間関係の話であり、告知義務のある書類や手続きにおける虚偽や詐称は絶対に止めて下さい。法やルールの遵守は、大原則になります。
結婚前の恋人の場合は…?
加えて、結婚前のパートナーには伝えておかれた方が良いかと思われます。何故なら、結婚後にトラブルや離婚理由にされてしまう恐れがあるからです。特に、病院に現在通院している、障害者手帳を持っている、診断がはっきり出ているという人は、伝えておかないと結婚後の手続き関係で揉める可能性があります。
例えば、結婚後に保険に加入する場合、保険によっては発達障害の診断が出ていることを告知に記載しなければならないものもあり、審査の結果加入できない可能性があります。住宅ローンなどで加入する団体信用生命保険も同様です。
妊娠を考えている女性の場合であれば、妊娠中は今飲んでいる薬が飲めなくなる可能性もあり、それによってパートナーに協力してもらわないといけないことも出てくるかもしれません。
結婚生活を長い目で考えると、パートナーには事前に伝えておいた方が無難でしょう。発達障害に引け目を感じられるかもしれませんが、これは発達障害に関わらず、健康上の懸念は結婚前に伝えておく方がお互いに安心できます。障害があるからカミングアウトするのではなく、末永く幸せな生活を結婚生活を送るために、大切なことは伝えていく姿勢こそが大事なのです。
但し、カミングアウト後に気をつけたいのが、「発達障害なんだから、仕方ないじゃない!」と障害を理由に話し合いを放棄してしまうことです。これを言われてしまうと、相手は何も言えなくなってしまい、お互いの歩み寄りが出来なくなってしまいます。
確かに、「何でできないの?」と責められるとつい口に出そうになるでしょうし、実際「何故?」という問いに対しての回答として「発達障害だから」という点は間違ってはいません。しかし、発達障害という“原因”が分かったところで、“解決”には至っていないのです。大事なのは、ここで“解決策”をお互いに考えることに他ならないのです。
このコラムを読まれまして、気になる点がありました方や、
興味・関心を抱かれた方は、どうぞ当院まで、
お気軽にお問い合わせください。
当院(新宿ペリカンこころクリニック)では、ご希望の患者様に、ウェクスラー成人知能検査(WAIS)を施行することが可能な医療機関となっております。
ご自身の能力の凸凹の可能性が気になられる患者様、とりわけ発達障害(ADHDやASD)の可能性を危惧されている患者様は、御診察の際に、その旨を当院医師にお申し出頂けましたら幸いです。
また当院では、診察と一緒に、専門の心理士(臨床心理士・公認心理師)資格を持ったカウンセラーによるカウンセリング(心理療法)も行っております。カウンセリングをご希望される患者様は、診察時に医師にご相談下さい。
Presented by.医療法人社団ペリカン(心療内科・精神科・内科)
監修 佐々木裕人(精神保健指定医・精神科専門医・内科医)
参考引用文献:沢口千夏著『ちょっとしたことでうまくいく発達障害の女性が上手に生きるための本』