診断をするのは専門家でも難しい
ためこみ症が精神疾患として確立したのは、前回のブログにも記載させて頂きました通り2013年ですから、まだ10年ほどしか経過していません。ですから、専門家の間でさえ認知度は高くありません。その名称だけ聞くと、大変誤解を受け易いものです。
単にモノが捨てられないこと=ためこみ症と思われがちですが、実際にはためこみ症かどうかの判断がつきにくいことは多々あります。
例えば、うつ病やADHD(注意欠如多動症)、自閉スペクトラム症(ASD)などにも、ためこみ症と重複する症状があります。これらの疾患でみられる「ためこみ状態」は、「ためこみ行動」と呼ばれ、ため込み症とは区別されています。つまり、ためこみ行動は、うつ病やADHD等のそれぞれの主症状に伴う状態であり、ためこみ症ではありません。
2つの病気が併存している場合や、主疾患に関連してみられる場合もあり、その判断は容易ではありません。ですから専門家でも診断が難しいのです。
モノがあふれて行政代執行に至る状態
ためこみ症の説明をするとき、多くの人が思い浮かべるのが、いわゆる「ゴミ屋敷」ではないでしょうか。ゴミ屋敷とは、御存知の通り、自宅内に大量のモノが保存されている状態ですが、中には自宅外にも様々なモノがあふれている場合もあります。ためこみ症は一時的に「家の中」で起こりますが、誰かを招き入れない限り、本人または家族の間のみで続いている、非常に「閉じた」状態で起こっています。
行政代執行は、悪臭や火災などの危険性がある状態、あるいは公のスペースにモノが置かれて通行しにくい状態といった生活環境に著しい支障が生じていることを、ご本人ではなく隣近所の方々が自治体に申し出るところから始まります。
自治体が調査して、家主と話し合い、指導や説得を行い、勧告をしても「資産」である主張を続けたり、「一時的に置いているだけ」と処分に応じない場合、条例のある市区町村が変わりに処分を行います。話し合いや指導は100回以上続けられることもあり、関わりが始まってから複数年を要する経過をたどることもあります。隣近所の方々や行政職員と敵対関係になりがりでちですが、行政代執行費用を請求されても、複数回繰り返される場合もあります。
このような状態は、ためこみ症である可能性が高いように思われます。ただ、厳密には「ゴミ屋敷」の住人が全てためこみ症を患っているわけではありません(精神疾患に伴うためこみ行動の場合もあります)。
こうしたケースでは、大切な家族が亡くなられていたり、離婚を経験されていたりと何らかの喪失体験がモノをためこむキッカケになっている場合も少なくありません。収入獲得の手段であったり、満たされない思いや認められたい気持ちなどを抱いていることもあります。
モノをためこんでしまう背景には、生活の困窮や孤独感、家族間での葛藤などの心理的側面だけでなく、脳機能の影響も考えられます。また、別の精神疾患との併存の可能性も含まれるため、勝手に一掃することは避けるべきであり、本人の同意のもとに行われることが不可欠になります。
解決策は「モノを手放すこと」ではない
周囲の人たちかが、今のその状態、状況だけを見ると、「困った状態」「だらしない」「わがままで他の人の言うことに耳を貸さない」「片づける能力がない」などとレッテルを貼ってしまいがちです。あるいは、何とかしてあげたいけれど、何もできないことが辛く、苛立ちを覚える人もいるかもしれません。今の状態や状況を改善しようと本人に何か指摘すれば、ケンカになったり言い争いになったりすることもあります。
家族や友人など周囲の人たちが何かをしてあげたいと思う気持ちは、その人を大切に思ってのことですし、愛情に基づく関わりでしょう。しかし、それだけでは、ためこんでいる人たちを適切に理解していることにはなりません。
ためこみ行動やためこみ症では、「ためこみ」は今あらわれている現象に過ぎません。モノであふれている状態は、「普通の人たち」から見ればかなりインパクトの強いものです。ですから、「それらをなくしてしまえば、(本人が)変わるかもしれない」と期待してしまいがちです。しかし、周囲の人たちが、目の前に積み上げられた「モノ」を処分するだけでは、何の解決にもならないどころか、事態を悪化させてしまうだけだということは、強くお伝えしておきたい点です。
何らかの思いやネガティブな感情に対処する方法の一つとして用いるためこみ行動を、別の対処行動に変える、片づけたり処分したりするなどの新しい行動を学び習慣化する、あるいはためこむ背景にあることを解決していかないと、目の前のモノをなくしても同じことが繰り返されますし、その状態はさらにひどくなるかもしれないからです。
このように、モノをためこむ背景には、様々な要素が絡んでいます。ためこむ人からすれば、モノをためこむことで不安を紛らわせていたり、自分の記憶をつなぎ止めようとするなど、その方にとっての「正当な」理由があるのです。本人も周囲の人たちも、そうしたところにまで目を向けていくことが大切なのです。
このコラムを読まれまして、興味・関心を抱かれた方、
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当院では、強迫症(強迫性障害)をはじめ、
大人の発達障害(ADHD、自閉スペクトラム症含む)、
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心身両面からの治療とサポートを行っております。
Presented by.医療法人社団ペリカン(心療内科・精神科・内科)
監修 佐々木裕人(精神保健指定医・精神科専門医・内科医)
引用参考文献:五十嵐透子著『片付けられないのは「ためこみ症」のせいだった!?』