「発達障害」とは、「生まれつき少し変わった脳の特性を持っている人」のことを言います。その結果、「人とコミュニケーションがうまくとれない」「単純ミスが多い」「落ち着きがない」「遅刻や忘れ物が多い」…等といった様々な症状が現れます。
近年、こうした発達障害の症状に関する情報が広まったことで、学校や会社に馴染めない自分、生きづらさを感じる自分に対して「もしかして、自分は発達障害かも…」と悩んだり、身の回りにいる「ちょっと個性的な人」「付き合いにくい人」「空気の読めない人」に対して、「あの人は発達障害ではないか?」と考えたりする人が増えてきているようです。また、子どもの様子が少し他の子と違ったり、学校の教師から指摘されたりすることで「もしかして、うちの子は発達障害かも…」と保護者の方が悩むケースも増えてきています。
しかし、発達障害と診断されるには一定の基準が定められており、「症状が当てはまる=発達障害」ではありません。そもそも前述したような症状は誰しも大なり小なり持っているものですので、安易に判断することは大変危険なことだと言えるでしょう。
とは言え、発達障害は珍しいものではないので、実際に自分や家族、周囲の方が発達障害である可能性も捨てきれません。まずは、「発達障害」についての正しい情報を知った上で、しっかりと考えてみることが重要なのです。
併存症を抱えやすいのも特徴のひとつ
発達障害は、複数の症状が重複することが少なくありません。特に「自閉スペクトラム症(ASD)」は、他の発達障害と併存しやすいことが分かっており、ASDの約88%が少なくともひとつ以上の他の症状を併発しているというデータもあります。ASDの方は、ADHDを始めとした他の発達障害を併発していることもあります。
そして、こうした発達障害同士の併存以外にも、その他の病気との併存も少なくありません。例えば、小児期に多く発症する「てんかん」も発達障害と関連性があることが分かってきています。てんかんを発症した子どもの約20%が自閉スペクトラム症、約30%が注意欠如・多動症(ADHD)を併存しているというデータが報告されています。
そして、発達障害の人は「二次障害」といって精神疾患を抱えてしまうことも珍しくはありません。特に大人になって社会に出ると、日常生活や社会生活において様々な困難を抱え、対人関係に悩み、「生きづらさ」を感じ続けたり、失敗の連続で自信を失ったりりしてしまうことで、「うつ病」や「睡眠障害」といった精神疾患を発症してしまうのです。これは、発達障害を考える上で、絶対に外すことのできない視点・ポイントだと言えるでしょう。
発達障害には「重なり」と「濃淡」がある
前述のように、発達障害のそれぞれの症状には「重なり」があります。そのため「ADHDとASD」「ASDと学習障害(LD)」など、一人の中に複数の障害が共存し、重なっていることがあります。むしろ、「重なりがある人の方が多い」という専門家もいます。
複数の障害が同時にあると、例えば「ぴったりとADHDの症状に当てはならない」といったことも起こり得ます。絵具の青と黄色を混ぜると緑になるように、ベースには同じ障害があるのに、見え方が違ってくるのです。
また、それぞれの障害には濃淡もあります。「発達障害とまでは言えないけれど、それに近い特性がある」という人も多く、このような診断がつくかどうかの境界近くにある状態を「グレーゾーン」ということもあります。また、人生を通じてその濃淡が変わるということも起こり得ます。特に、ADHDから生じる困難は、一般には成長によって薄れていくことが多いようです。
発達障害には濃淡がある。これは知っておきたいことのひとつです。同じ「ASDとADHD」の重なりがある2人でも、どちらがより濃く出るかによって、その症状は変わりますし、サポ―トの仕方も変わってくれるからです。一人ひとりの脳が全く違うように、発達障害も人それぞれ違うものです。何故なら、どの障害がメインなのか、どう重なるのか、濃淡はどうかによって、違う様相を見せてくるからです。
発達障害が増えているのは、社会の仕組みのせい?!
発達障害の本質は脳の特性にあり、脳の特性は生涯変わることはありません。しかし、周りの環境はどんどん変わっていきます。特に、学生から社会人になった時の環境の変化は、発達障害があるか否かに関わらず、大きなものです。
繰り返しになりますが、発達障害が生まれつきの脳の特性であるとすれば、家庭環境や躾によって生じたり治ったりすることもありません。もちろん大人になってから、突然「発症」することもありません。にもかかわらず、大人になってから発達障害の「症状」を訴え始める方は多くいます。それは何故でしょうか?
精神科医の岩波明医師は、小さな自営のお店が減ったことも、発達障害の訴えの増加に繋がっていると指摘しています。会社では「仕事の管理化」が進んでいます。すると指示通りに仕事ができない人は、どうしても目立ってしまいます。例えば、昔ながらの街の電器店では無理なく働ける人も、大手家電チェーンでは働くことが難しい、といったことが起こります。前者では接客も在庫管理も自己流が許され、ある意味、自分の裁量が大きい一方、後者では細部までマニュアルに従ったり、上司に指示や判断を仰ぐことが求められたりするからです。
「ある一定の基準から外れないように行動すること」が求められる社会においては、それに応じることができない人にとっては厳しい世界となってしまいます。「発達障害が増えている」という言い方がされるのは、「社会の変化によって、自分を発達障害だと認識する人が増えてきている」というところに原因のひとつを求めることが出来そうです。
当院(新宿ペリカンこころクリニック)では、ご希望の患者様に、ウェクスラー成人知能検査(WAIS)を施行することが可能な医療機関となっております。
ご自身の能力の凸凹の可能性が気になられる患者様、とりわけ発達障害(ASDやADHD)の可能性を危惧されている患者様は、御診察の際に、その旨を当院医師にお申し出頂けましたら幸いです。
Presented by.医療法人社団ペリカン(心療内科・精神科・内科)
監修 佐々木裕人(精神保健指定医・精神科専門医・内科医)
参考引用文献:湯汲英史監修『心と行動がよくわかる 図解 発達障害の話』・黒坂真由子著『発達障害大全』・岩波明著『発達障害』