「発達障害の人は、自分に向かない仕事に飛び込んでしまいやすい傾向がある」――発達障害の人に特化した就労支援を手掛ける鈴木慶太氏は、このように指摘しています。また、発達障害の子どもを持つ親御さんから、「どう考えても向いていない職業を目指そうとしていて、止めるに止められません」という悩みも聞きます。
苦手としている分野だからこそ抱く憧れや、劣等感を克服したいといった気持ちの揺れがあるのかもしれません。前出の鈴木慶太氏は、それを以下のように説明しています。
『発達障害の人は、自分の得意・不得意が曖昧なままで大人になってしまうケースが多くて、そのためにゆがんだ夢を抱いたりして、就職が難しくなることがあります。…≪中略≫…勉強であれば、何をどれくらいできるかは、偏差値である程度の見積もりができますが、向く仕事、向かない仕事には偏差値のような一律の物差しがないためわかりにくい。
いわゆる健常者と言われる人は、自分の仕事の向き不向きを、ある程度、何となく掴めているものです。加えて、もし合っていない仕事に就いても、それなりに対処することができる。だから大被害にはなりません。一方、発達障害の人は自分を客観視するのが苦手で、全然合わない職に就いてしまいやすい。しかも向いていない仕事に自分を合わせるのも苦手なので、大打撃を食らってしまうんです。』
“仕事を体験しておく”大切さ
「喫茶店でのアルバイトで、自分は接客に向かないと知った」「工場のアルバイトで、単純作業が向いていると分かった」…等々、発達障害の人に限らず、学生の多くはアルバイトを通じて、自分に合う仕事を見極めています。このように、予め仕事を体験することが大切だと鈴木慶太氏は指摘しています。
また、ニトリ・ホールディングス会長の似鳥昭雄氏は、東京大学先端科学技術研究センター・シニアリサーチフェローの中邑賢龍氏と一緒に、「LEARN with NITORI(ラーン・ウィズ・ニトリ)」という教育プログラムを全国で展開しています。このなかには、家具チェーン「ニトリ」の店舗で、アルバイトを体験するプログラムもありそうです。この「LEARN with NITORI」の狙いを、似鳥昭雄氏はこう話します。
『自分の「好き」を早く見つけられるように、たくさんの経験をさせてあげるといいと思います。特に発達障害の子は、すぐに飽きてしまうところもあります。だからこそ、興味がないことでも一度、経験してみる。チャレンジできるプログラムがあれば参加してみる。そういう活動を、親も一緒になってできるといいと思います。』
ご自身も発達障害の診断を受けている似鳥氏は、「とにかく動いてみる、活動することが大事」とエールを送ります。
発達障害の人が幸せになる鍵は「職選び」
では、実際に仕事をしていく上で、具体的にどのようなことが問題となりやすいのでしょうか?
ADHDの人では、一般的にケアレスミスが多いことが問題になります。例えば、「上司からの指示が頭に入らずに、そのまま忘れてしまう」といった不注意症状が主です。
あと、これは全員に当てはまる訳ではありませんが、「言い過ぎ」「しゃべり過ぎ」が問題になる人もいます。例えば、職場の先輩に向かって、「これ、違っていますよ。こうすればいいじゃないですか」と頭ごなしに行ってしまう訳です。そうすると、その言葉を受けた相手は、当然良い気持ちはせず、結果対人関係が悪化してしまいます。特に上下関係がしっかりとしている公務員や銀行員などの職場では、苦労が多くなりがちです。
また、色々な人から声を掛けられる仕事も、比較的苦手とされる傾向があるようです。例えば、ADHDの特性を持つとある学生さんは、飲食店でバイトをしていた時に、お客さんがいっぱい来ると混乱してしまって、「(そんな時)お釣はいつも多めに渡していました」ということがあったそうです。ゆっくりやればできるのですが、複数の人から声を掛けられると焦って集中できなくなり、混乱してしまうようです。時には軽いパニック状態になることもあります。
一方、ASD(自閉スペクトラム症)の人の場合は、臨機応変に対応できないことが問題になりがちです。例えば、その日の仕事が急遽変更になる、といったことは非常に苦手です。「今日は向こうが大変だから、手伝いに行って欲しい」と言われたとしても、「そんなのおかしいじゃないですか。私の仕事ではないですよね」と言って、怒ってしまうことも起こり得ます。ASDの人には、頑固なところ(固執傾向)もあるので、それはご本人にも中々変えられない難しさがあるようです。
では、上手く折り合いをつけて働いている方は、どうされているのでしょうか? もちろん職場環境や周囲の理解なども影響してはいますが、基本的には「職種」選びが鍵です。ADHDもASDも、個人プレーが向いています。組織の中に属している、いないに関わらず、自分一人で取り組める仕事に就いて結果を出している人は大勢います(参照ブログ:『デジタルなニューロダイバーシティ!』)。発達障害はある意味、個性ですので、それを生かせる仕事を見つけることが大切になってくるのです。
当院(新宿ペリカンこころクリニック)では、ご希望の患者様に、ウェクスラー成人知能検査(WAIS)を施行することが可能な医療機関となっております。
ご自身の能力の凸凹の可能性が気になられる患者様、とりわけ発達障害(ASDやADHD)の可能性を危惧されている患者様は、御診察の際に、その旨を当院医師にお申し出頂けましたら幸いです。
Presented by.医療法人社団ペリカン(心療内科・精神科・内科)
監修 佐々木裕人(精神保健指定医・精神科専門医・内科医)
★参考引用文献:黒坂真由子著『発達障害大全』・岩波明著『発達障害』・岩波明著『医者も親も気づかない女子の発達障害』