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【医師監修】何度も手を洗う?カギを確認する?【OCD】

強迫性障害(OCD)に心当たりはありませんか?

「なんだか気になって、何度も手を洗っちゃう…」「ドアの鍵を閉めたか、どうしても確認しちゃう!」そんな行動、あなたも経験したことはありませんか?それ、もしかしたら 強迫性障害(OCD) のサインかもしれません!

私たちのクリニックでは、強迫性障害に悩む多くの方が「どうしても止められない不安」に苦しんでいます。でも、大丈夫!きちんとした治療でその不安から解放されることができます。

まずは、以下のチェックリストでご自身の状態を確認してみてください!


強迫性障害チェックリスト:

  • 何度も手を洗わないと気が済まない
  • ドアやガスの元栓などを繰り返し確認してしまう
  • 特定の順序で物を並べないと気が落ち着かない
  • 頭の中で不安な考えが繰り返し浮かんできて、それを止めることができない
  • 何か悪いことが起こるのではないかという強い恐怖がある
  • 物が汚れている、または自分が汚染されていると強く感じる
  • 自分の行動が他人に害を及ぼすのではないかと過度に心配する
  • 同じ言葉や行動を何度も繰り返さないと不安になる
  • 物を何でも取っておかないと落ち着かない

 

いかがだったでしょうか。

いくつか当てはまった場合は、強迫性障害の可能性があります。

ぜひ一度、当院にご相談ください。

 

 

 

強迫性障害(OCD)ってどんな病気ですか?

 

強迫性障害は、不安な考え(強迫観念)と、それを和らげるために行う繰り返しの行動(強迫行為)が特徴です。強迫観念とは、頭の中に繰り返し浮かんでくる不安な考えやイメージで、それを無視したり、止めたりするのが非常に難しい状態を指します。例えば、「手が汚れている」と過剰に感じたり、「何か悪いことが起こるのでは?」という不安が強くなることがあります。

一方、強迫行為は、その不安や恐怖を和らげるために繰り返し行ってしまう行動です。例えば、手を何度も洗ったり、ドアや電化製品を何度も確認したりします。これらの行動は一時的に不安を和らげるかもしれませんが、すぐにまた不安が戻ってくるため、行動を繰り返さざるを得なくなります。

 

先ほどの症状を1つ1つ詳しくみてみましょう。

 

  1. 「何度も手を洗わないと気が済まない」

強迫性障害では、手が「汚れている」と強く感じるため、過剰に手を洗うことがあります。手を洗った直後でも「まだ汚れている」と感じて、何度も洗い直すことが日常的になってしまう場合があります。この過剰な洗浄行為は、皮膚にダメージを与えることもありますが、不安が強いために止められません。

  1. 「ドアやガスの元栓などを繰り返し確認してしまう」

家を出るときや寝る前に、ドアがちゃんと閉まっているか、ガスの元栓が閉まっているかなどを繰り返し確認することが特徴です。確認している間は不安が和らぐものの、すぐに「ちゃんと閉まっていないかも」と思い、何度も確認する行為に走ってしまいます。これがエスカレートすると、日常生活が著しく制限されることがあります。

  1. 「特定の順序で物を並べないと気が落ち着かない」

物がきちんと整頓されていないと強い不快感や不安を感じることがあります。例えば、ペンや書類を正確な角度で並べる、食器を特定の順序で配置するなど、日常生活の中での小さなことにも完璧さを求めます。このような行動を繰り返すことで、精神的な負担が大きくなり、時間も浪費してしまいます。

  1. 「頭の中で不安な考えが繰り返し浮かんできて、それを止めることができない」

頭の中に繰り返し浮かんでくる不安な考えやイメージを「強迫観念」と呼びます。たとえば、「自分が他人に害を与えるのではないか」「家が火事になるかもしれない」といった考えが、何度も頭に浮かびます。これらの考えを無視したり、止めたりすることが難しく、次第にそれに対して過剰な反応をしてしまうことが多くなります。

  1. 「何か悪いことが起こるのではないかという強い恐怖がある」

日常生活の中で、根拠のない「何か悪いことが起こる」という強い不安感に襲われることがあります。この恐怖が常に心の中にあり、事故や病気、不運な出来事に対して過剰に敏感になります。その結果として、強迫的な行動に走ることが多く、日常の活動や楽しみを制限してしまいます。

  1. 「物が汚れている、または自分が汚染されていると強く感じる」

病原菌やウイルス、その他の汚染物質に対して過剰な恐怖を感じる場合があります。例えば、ドアノブに触れただけで「感染するかもしれない」と思い、即座に手を洗いたくなることがあります。このような感覚は現実には根拠がないことが多いですが、心の中では強い恐怖を引き起こし、行動に影響を与えます。

  1. 「自分の行動が他人に害を及ぼすのではないかと過度に心配する」

「自分の行動や言動が誰かを傷つけてしまうのではないか」という恐れに囚われることがあります。例えば、何気ない発言が相手を不快にさせていないか、または自分の不注意で他人に危害を加えていないか、絶えず気にしてしまいます。この恐れが過度になると、人と接すること自体が困難になることがあります。

  1. 「同じ言葉や行動を何度も繰り返さないと不安になる」

同じフレーズを繰り返し口にしたり、特定の行動を何度も繰り返さないと安心できない場合があります。例えば、鍵を掛けたことを確認した後でも、再度確認しないと不安になる、祈りの言葉を何度も繰り返すといった行為です。この繰り返し行動は一時的に安心感を与えるものの、次第に不安が再発し、さらに繰り返し行動に依存することになります。

  1. 「物を何でも取っておかないと落ち着かない」

不要なものでも「いつか使うかもしれない」という考えが強く、物を捨てられないことがあります。特に、古い新聞や壊れた家電など、実際には役に立たないものでも、それを手放すことが不安を引き起こすため、家の中が物であふれてしまうこともあります。このような行動は、生活環境を悪化させるだけでなく、精神的な負担も大きくなります。

 

 

 

強迫性障害(OCD)のメカニズムについて

強迫性障害(OCD)は、脳の中で起こる神経伝達物質の働きのバランスの崩れが関係しています。特に重要なのが、セロトニンと呼ばれる物質です。セロトニンは、脳内で感情の安定不安のコントロールに大きく関わっていますが、OCDの患者さんでは、このセロトニンの働きがうまくいっていないことが多いのです。

  1. セロトニンの役割

セロトニンは、脳内の神経細胞同士が情報を伝えるために必要な化学物質です。普段は、セロトニンが適切に働くことで、私たちは落ち着いて行動したり、不安をコントロールすることができます。しかし、OCDの患者さんでは、セロトニンの分泌量が少なかったり、神経細胞の受け取りがうまくいかないため、不安を感じやすくなり、それに対して過剰に反応してしまうのです。

  1. 脳の「回路」の問題

もう一つ、OCDに関わるのが脳の特定の「回路」です。脳には、前頭前野(物事を計画したり、決断したりする部分)と基底核(運動や感情をコントロールする部分)をつなぐ神経回路があります。OCDの患者さんでは、この回路が過活動状態になっていることがあります。つまり、必要以上に「不安」を感じたり、「何か確認しなければ」という信号が脳内で繰り返し発せられてしまうのです。

  1. 強迫観念と強迫行為の悪循環

このメカニズムによって、強迫観念(何か悪いことが起きるかもしれない、汚れているかもしれないという不安な考え)が生じます。そして、その不安を和らげるために、強迫行為(何度も手を洗う、確認するなど)を繰り返します。強迫行為を行うと一時的に不安は和らぎますが、すぐにまた強迫観念が戻ってきてしまうため、この悪循環が続くことになります。

  1. なぜセロトニンが関係するのか?

セロトニンは、脳内でこの「不安」をコントロールするための重要な役割を果たしているため、セロトニンの働きが低下すると、不安感が増し、それを抑えるための強迫行為に依存するようになります。OCDの治療に使われる抗うつ薬(SSRI)は、セロトニンの働きを高め、脳内での情報伝達を改善することで、強迫観念や不安を和らげる効果があります。

 

 

治療方法

強迫性障害の治療には、主に薬物療法認知行動療法(CBT)が効果的です。薬物療法では、セロトニンのバランスを整える抗うつ薬などが使用されることが多く、不安や強迫観念を和らげる効果があります。認知行動療法では、不安を引き起こす考え方や行動パターンを見直し、強迫行為を少しずつ減らしていくことを目指します。

 

 

強迫性障害における薬物療法について

強迫性障害(OCD)の治療において、薬物療法は認知行動療法(CBT)と並んで効果的な治療法の一つです。特に、強い不安や強迫行為が日常生活に大きな支障をきたしている場合、薬物療法が症状の改善に役立ちます。薬物療法は、脳内の神経伝達物質のバランスを整えることで、不安感や強迫行為の軽減を図る治療法です。

  1. セロトニンと薬物療法の役割

強迫性障害の患者さんでは、脳内のセロトニンという神経伝達物質の働きが低下していることが知られています。セロトニンは、感情の安定不安のコントロールに大きく関与しているため、このバランスが崩れると、強い不安や繰り返しの行動(強迫行為)が起こりやすくなります。

薬物療法では、セロトニンの働きを正常に戻すことで、強迫観念や不安感を抑えることを目指します。

  1. SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)

強迫性障害の治療で最もよく使われる薬は、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)です。SSRIは、脳内でセロトニンの再取り込みを阻害し、セロトニンの濃度を高める働きがあります。これにより、神経伝達のバランスが改善され、強迫観念や不安感が軽減します。

主なSSRIには以下のような薬があります:

  • フルボキサミン(商品名:ルボックス、デプロメール)
  • セルトラリン(商品名:ジェイゾロフト)
  • パロキセチン(商品名:パキシル)
  • エスシタロプラム(商品名:レクサプロ)
  1. SSRIの効果

SSRIは、強迫観念の軽減強迫行為の頻度の減少に効果があります。ただし、効果が現れるまでには通常4~6週間ほどかかるため、焦らずに治療を続けることが重要です。SSRIは、患者さんの体質や症状に応じて適切な種類や量が処方されます。また、SSRIは副作用が比較的少なく、長期的に使用することも可能です。

  1. その他の薬物療法

SSRI以外にも、以下の薬が強迫性障害の治療に使われることがあります:

  • 三環系抗うつ薬(TCA):SSRIが効果を示さない場合や副作用が強い場合に、クロミプラミン(商品名:アナフラニール)といったTCAが処方されることがあります。TCAはSSRIと同様にセロトニンのバランスを調整しますが、より多くの副作用があるため、慎重に使用されます。
  • 抗不安薬:一時的な不安を和らげるためにベンゾジアゼピン系の抗不安薬が併用されることもありますが、依存性があるため、長期間の使用は避けるべきです。
  • 抗精神病薬:非常に重度の強迫性障害で、SSRIだけでは効果が十分でない場合には、抗精神病薬が補助的に処方されることがあります。
  1. 薬物療法のメリットと限界

薬物療法は、強迫性障害の不安感を迅速に軽減し、生活の質を向上させる助けとなります。特に、強迫行為が日常生活に大きく影響している場合、薬物療法によって一時的に症状を安定させ、認知行動療法(CBT)への取り組みをより効果的に行うことができます。

一方で、薬物療法にはいくつかの限界もあります。例えば、薬を中止すると症状が再発することがあり、長期的な治療が必要となる場合があります。また、SSRIなどの薬には副作用(吐き気、頭痛、眠気、体重増加など)が伴うことがあるため、個々の患者さんに合った薬と適切な調整が求められます。

  1. 薬物療法と認知行動療法の併用

薬物療法は、認知行動療法(CBT)と組み合わせて行われることが多いです。薬物療法で不安をコントロールしながら、CBTで不安に対処するスキルを身に付けることで、治療の相乗効果が期待できます。薬によるサポートを受けつつ、強迫行為を減らすトレーニングを行うことで、症状の改善がより効果的になります。

 

 

強迫性障害における認知行動療法(CBT)について

認知行動療法(CBT)は、強迫性障害(OCD)の治療で最も効果的とされる心理療法の一つです。CBTは、患者さんが「不安な考え方」や「行動パターン」を見直すことで、強迫観念や強迫行為の悪循環を断ち切ることを目指します。具体的には、曝露反応妨害法(ERP)と呼ばれるアプローチが主に使用されます。

  1. 曝露反応妨害法(ERP)の仕組み

曝露反応妨害法(Exposure and Response Prevention:ERP)は、CBTの一部であり、強迫性障害の治療に特化した方法です。この方法では、患者さんが強迫観念を引き起こす状況に少しずつ触れていく一方で、それに対する強迫行為を抑えることを学んでいきます。

例えば、「手が汚れているかも」という強迫観念を持っている場合、セラピストは患者さんにあえて手が汚れる状況に身を置くように促します。通常であれば不安に対処するためにすぐに手を洗ってしまうところを、手を洗わずにその不安を感じ続ける練習を行います。この過程で、不安が少しずつ自然に和らぐことを体験することで、「実際には強迫行為をしなくても大丈夫なんだ」ということを学んでいきます。

  1. ERPの進め方

ERPは、患者さんが無理なくできる範囲から少しずつ始め、徐々に強い不安を引き起こす状況に曝露していきます。例えば、最初は軽い不安を感じる状況からスタートし、慣れてきたら徐々に難しい状況に挑戦していきます。これを段階的に繰り返すことで、不安に対する耐性が高まり、強迫行為が減少していきます。

  1. 認知の変化

ERPの過程で重要なのは、不安や恐怖に対する認知の変化です。強迫性障害の患者さんは、特定の状況や考えに対して過剰な不安を抱いていますが、ERPを通じて「不安はいつか必ず和らぐ」ことや「強迫行為をしなくても大きな問題は起こらない」ことを学びます。このようにして、不安に対する過剰な反応を抑える認知の変化が促されます。

  1. CBTの効果とメリット

認知行動療法は、薬物療法と並んで、強迫性障害の再発を防ぐ効果が高いとされています。薬物療法と異なり、CBTは不安や強迫行為に対する「対処スキル」を身に付けることができるため、治療が終わった後でもその効果が長く続くことが期待できます。また、薬の副作用がない点も大きなメリットです。

  1. 認知行動療法の取り組み方

CBTは、専門のセラピストと一緒に進めることが基本ですが、患者さん自身の積極的な参加も重要です。セラピストの指導のもと、自宅でもERPを実践し、日常生活での不安や強迫行為に立ち向かうことが大切です。最初は難しく感じるかもしれませんが、繰り返し挑戦することで少しずつ改善が見られます。

 

 

おわりに

強迫性障害は、多くの人が経験する心の問題ですが、適切な治療を受けることで、症状をコントロールし、日常生活を取り戻すことができます。自分だけでは対処が難しいと感じた場合は、専門の医療機関に相談することが第一歩です。

是非お気軽に当院までご相談ください。

 

 

参考

【心療内科Q/A】 「『強迫性障害(強迫症)』について教えて下さい①~症状について」

 

【心療内科Q/A】 「『強迫性障害(強迫症)』について教えて下さい②~診断基準」

 

強迫症 / 強迫性障害 | e-ヘルスネット(厚生労働省)

 

強迫性障害 – こころの情報サイト

 

監修 佐々木裕人(精神保健指定医・精神科専門医・内科医)