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【医師監修】対人関係とこだわり【ASD】

ASDは「自閉スペクトラム症」と訳され、主に2つの特性を持ちます。

 

ひとつは、「対人関係」や「コミュニケーション」の障害です。

臨機応変な対人関係が苦手で、「空気が読めない」と言われてしまうこともあります。相手の表情や仕草、言葉のニュアンスや行間を読み取ることが苦手で、相手の言葉を額面通りに受け取ってしまうところもあります。

 

もう一つは、こだわりの強さです。

例えば、特定のものに興味が集中し、固執することがあります。電車に興味を持つと、あらゆる電車の名前を暗記し、電車の玩具を沢山集め、電車が見える場所を見つけるとそこから動かなくなる、といったことが起きます。こだわりが食べ物に出れば、偏食になりますし、道順など、行動パターンにこだわりが出ることもあります。そして、このような自分で決めたルールを守れないと落ち着かず、マイルールの変更が難しいという側面があります。

 

ASDに「コミュニケーションが苦手」というイメージを持つ方は多いですが、それだけではASDとは診断されませんむしろ「こだわりの強さ」の方がメインであると、精神科医の本田秀夫氏は指摘しています。なぜかというと、対人関係の苦手さを人並み以上の努力でカバーしている方が多くいらっしゃるからです。そのことを、本田秀夫氏は以下のように表現されています。

 

 

『ASDの人の中には、むしろ人一倍努力して「自分は人よりも気遣いが上手だ」とすら思っている方も出てきています。特に社会的カモフラージュと思われる人たちは、もう一見、普通の人と殆ど変わらないようなコミュケーションをとります。』

 

 

しかし、「社会的カモフラージュ」と言われるこれらの行動は、当事者ご本人に大きな負荷を掛けることになりなす。こういったASDの方は、「人と話すと気を遣い過ぎて、疲れてしまう」「人と会って家に帰ったらヘトヘトで、ぐったりしてしまう」といった感覚をよく持たれています。

一番の問題は、感情が不安定になること

 

前述のように、人一倍努力をして、対人関係の困難をカバーしたとしたら、残るのは「こだわり」です。この「こだわり」の強さが、様々な面で顔を出してくると、毎日の生活を送る上でも支障が出かねません。

 

ただ、それよりも日常生活で問題となるのは、感情の問題であると、本田秀夫氏は指摘しています。

 

 

『これはASDに限ったことではありません。発達障害の方の周りで、多くの人が困っているのは、本人が癇癪を起こしたり、イライラしたりすることです。それは本人も同じです。感情が不安定なことで、周囲も本人も生活に支障が出る場合に、悩みが大きくなって受診に至ることが多いのです。』

 

 

このように、ASDの方やその周囲にいる人たちが困っているのは、多くの場合、ASDの「対人関係が苦手で、こだわりが強い」という特徴そのものではありません。そこから派生するイライラなどが、実際には問題になるというのです。これはADHDでも同じだと言われています。

 

もし、感情の摩擦が起こりにくい環境で学んだり、働いたりすることができていたとしたら、発達障害が大きな問題になることはないのかもしれません。

ASDとADHDの違いと重なり

 

ASDの人とADHDの人は、表面的な行動だけを見ると似ていることがあります。日本で初めてADHD専門外来を立ち上げた、岩波明医師は次のように指摘しています。

 

 

『例えば、タイムカードの打刻をよく忘れる人がいるとします。ADHDの人であれば「うっかり忘れる」ために「打刻を忘れる」のに対して、ASDの人は「打刻する意味が分からないから、やらない」という理由で「打刻しない」のです。ASDの人には頑固なところがあり、自分の興味がないことはやらないという側面があるからです。』

 

 

「タイムカードの打刻をしない」という意味(表面的な行動)においては、ADHDの人もASDの人も同じですが、その裏には全く違った理由や背景があります。周囲の人が、その人の言動だけで「あの人はASDだ」「ADHDに違いない」等と判断することは、決して出来ないことなのです。

こだわりがあるのに、集中できない?!

 

ASDとADHDには、重なる場合もあり、「ASDであるのと同時にADHDでもある」という人たちもいます。ASDには「対人関係が苦手」で「こだわりが強い」という性質があります。一方、ADHDには「注意力の欠如」と「多動・衝動性」という性質があります。これらの性質が重なると、どうなるのでしょうか。その葛藤を、本田秀夫医師は以下のように表現されています。

 

 

『その時に大変なのは、「こだわる」というASDの特徴と、「注意散漫」というADHDの特徴が、干渉しあうということです。そうなると、ASDとしては、特徴が薄まるようにも見えますし、ADHDとしては「ADHDの割に固執する」みたいになります。…<中略>…例えば、ASDに人は、何かにハマると一心不乱、猪突猛進となります。ところがそこにADHD的な側面が入ってくると、猪突猛進でいきたいのに、つい気が散ってしまって、そんな自分にイライラしたりするのです。』

 

 

……このように、こだわりがあるのに、集中したくてもできない。そのような悩みが生じることもあるのです。

 

 

当院(新宿ペリカンこころクリニック)では、ご希望の患者様に、ウェクスラー成人知能検査(WAIS)を施行することが可能な医療機関となっております。

 

ご自身の能力の凸凹の可能性が気になられる患者様、とりわけ発達障害(ASDやADHDの可能性を危惧されている患者様は、御診察の際に、その旨を当院医師にお申し出頂けましたら幸いです。

 

 

Presented by.医療法人社団ペリカン(心療内科・精神科・内科)

監修 佐々木裕人(精神保健指定医・精神科専門医・内科医)

参考引用文献:黒坂真由子著発達障害大全