IQ(Intelligence Quotient)は「知能指数」と訳され、全般的な知的能力を表します。そして、このIQ(知能指数)を測るためのテストが「知能検査」です。現在、よく使われる代表的な知能検査が「ウェクスラー式知能検査」であり、その成人版が「WAIS(ウェイス)」です。
WAIS(Wechsler Adult Intelligence Scale)、即ち「ウェクスラー成人知能検査」は、16歳以上を対象とした知能検査になります。定期的に改訂され、新しいバージョンほど後ろに続くローマ字が増えます。
知能検査の結果を示す数値は、統計的に処理され、平均が「IQ100」になるように調整されています。母集団(基準となる集団)は、「日本において教育を受けた同年代の人たち」であり、検査を受けた人だけではありません。IQ100が平均ですので、非常にざっくり言いますと、日本人の半分位がIQ100以上、残り半分はIQ100未満といった感じです。
知能は幾つかの分野に分かれる
WAISでは、具体的にどのような能力を測っているのでしょうか。また、IQとはどのような能力を示す数値なのでしょうか。
例えば、児童用の知能検査「WISC-Ⅴ」では、次の5つの指標を出し、これらを総合して、いわゆる「IQ(全検査IQ)」を出します。
- 言語理解指標:言語による理解力・推理力・思考力に関する指標
- 視空間指標:視覚情報を処理する力や視覚情報から推理する力に関する指標
- 流動性推理指標:非言語情報の特徴を把握し、関係性や規則性、暗黙のルールを察する力に関する指標
- ワーキングメモリ指標:耳で聞いたり目で見たりした情報を一時的に正確に記憶する能力に関する指標
- 処理速度指標:どれくらい速く物事を処理できるかを測定する指標
因みに、成人用の「WAIS-Ⅳ」と児童用の「WISC-Ⅳ」では、「視空間」と「流動性推理」の2つの指標が「知覚推理」(WAIS-Ⅲだと「知覚統合」)として、ひとつにまとめられています。
ここまでの話をざっくりとまとめますと、知能検査で問われるのは、次のような能力です。
- 言葉を使う力がどのくらいあるか?
- 目で見て理解する力がどのくらいあるか?
- 耳で聞いて理解する力がどのくらいあるか?
- 情報を記憶し処理する能力がどのくらいあるか?
IQというと、総合的に見て「高いか低いか」ばかりをつい気にしてしまいがちですが、発達障害の場合、この分野別の結果が意味を持ってくるのです。
知能検査から見えてくる「困り事」と「解決策」
発達障害の中には、IQが高い人もいれば、低い人もいます。しかし、発達障害の人が知能検査を受けると、結果に“とある共通点”が出る傾向があります。それは、「分野別の凸凹が大きい」ということです。
出来る事と出来ない事の差が大きいのが、発達障害です。知能検査で完全に分かるわけではありませんが、この分野別の凸凹は、その人が日常生活で感じられている困り事を探るヒントになります。そして困り事が具体的・客観的に分かれば、何らかの対策を講じることが可能になります。
例えば、耳で聞いた情報を処理することが苦手な人の場合、口頭で指示されても理解出来ずに困る、ということが起こり得ます。それならば、黒板やホワイトボード、配布資料などを使って、視覚的に伝えるのが良い場合もあるでしょう。また、情報を処理するスピードが遅い人にとっては、ノートやメモを素早く取ることが難しいかもしれません。そうだと分かれば、内容を予めレジュメにまとめて渡しておく、音声媒体の記録を許可する…等々といった配慮が可能になるかもしれません。
もちろん、知能検査は、その人の能力の全てを測るものではありません。知能検査で把握しきれない苦手もあれば、IQで測れない長所もたくさんあります。近年注目をされてつつある「心の知能指数(EQ:Emotional Intelligence Quotient)」も、その代表的なものの一つだと言えるでしょう。
発達障害の人にはIQが高い人も低い人も!
発達障害と診断された人の中には、IQが高い人もいれば、低い人もいます。これは、一般の人(の分布)と変わりません。IQが一定水準を下回れば、知的障害とされるのも同じです。
よって、同じADHDであったり、ASDであったりする人でも、上位に位置される人もいれば、下位の方、場合によっては「知的障害(IQ70未満)」に位置される人もいるのです。
同じ発達障害であっても、知的障害が伴う場合には、当事者が直面する困難の性質や度合がかなり異なり、当然ながら対応も異なってくるのです。
当院(新宿ペリカンこころクリニック)では、ご希望の患者様に、ウェクスラー成人知能検査(WAIS)を施行することが可能な医療機関となっております。
ご自身の能力の凸凹の可能性が気になられる患者様、とりわけ発達障害(ADHDやASD)の可能性を危惧されている患者様は、御診察の際に、その旨を当院医師にお申し出頂けましたら幸いです。
監修 佐々木裕人(精神保健指定医・精神科専門医・内科医)
Presented by.新宿ペリカンこころクリニック
★参考引用文献:黒坂真由子著『発達障害大全』、宮口幸治著『境界知能の子どもたち』