皆様は「リワークプログラム」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。「リワーク」とは「職場復帰」の“Return to Work”を意味する造語で、医療機関や精神保健福祉センターや障害者職業センターなどで行われている、うつ病などの精神障害で休業している方を対象とした職場復帰の取り組みのことを指します。近年、うつ病などによる長期休業者の増加という社会背景から、様々な機関で職場復帰のための取り組みがなされるようになってきているのです。
リワークプログラムは、①医療機関・精神保健福祉センターにおいて、医師・保健師・看護師・精神保健福祉士などの医療関係者を中心に精神科デイケアとして実施されているものと、②独立行政高齢・障害者雇用支援機構の障害者支援事業の一つとして障害者職業センターにおいて、専門のカウンセラーが中心に精神障害者総合雇用支援として実施されているものの2つに大きく分けられます。
前者(①)は、医療スタッフがいる施設で実施されていることから、参加時の急な体調不良にも対応でじき、患者様の職種に限定なく参加できるメリットがある反面、精神科デイケア(当院の場合は精神科ショートケア)としての医療費の負担が必要です。
それに対し、後者(②)は、財源が雇用保険であるために、民間企業の休業者であれば費用の負担なく利用できますが、公務員の場合には利用不可能で、かつ医療スタッフが施設にいないというデメリットがあります。そのため、職業・病状・通所距離・費用負担などを総合的に判断して、どこの機関を利用するかを決定した方は良いでしょう。
Ⅰ.リワークプログラムの適用
リワークプログラムは、休業者を対象に行われる職場復帰のプログラムなので、施設にもよりますが、最低でも2~3ヶ月程度は継続的にプログラムに通うことを前提に計画が立てられています。そのため、短期間(1~3ヶ月程度)の休業の場合は、一般的には一人で行うリハビリプログラムを計画せざるを得なくなります。
しかし、一人でリハビリプログラムを行うには、何を・どのように・どの程度行えばよいのかの見極めが中々困難であると言わざるを得ません。そこで、当院(新宿ペリカンこころクリニック)では「1ヶ月から参加できるリワークプログラム」を開設させて頂きました。
ちなみに、リワークプログラムを使った職場復帰を検討された方が良い場合としては、次のようなケースが考えられます。
- 休業期間が半年以上に渡るなど、職場から長期間離れていた場合
- 以前、精神障害により長期間休業されたことがあり、二度目以上の職場復帰に当たる場合
- 会社に軽減勤務の制度がなく、職場復帰後、すぐに本来の業務が求められる場合
- 休業中に既に一人で行うリハビリプログラムを計画したけれど、上手くいかなかった場合
- 独り暮らしで、周囲の支援が期待できない場合
Ⅱ.リワークプログラムに通うメリット
リワークプログラムは、専門の機関で長期休業をしている患者様が集まり実施されるので、一人で行うリハビリプログラムでは得ることの出来ないメリットがあります。
- 専門的な立場から、うつ病などの心の病気に対する正しい知識を習得できる
- 常に客観的に状況を判断することのできるスタッフがいる
- より職場に近い環境でプログラムを受けることができる
- 集団で行うプログラムによって、コミュニケーションスキルなどが獲得できる
- 同じような悩みを持ち、同じような境遇に置かれている仲間と一緒に職場復帰を目指せる
- 精神保健福祉士や専門のカウンセラーによる適切なアドバイスを受けられる
- 専門の機関におけるプログラムのため、復帰する職場にも安心感を与えられる
- 再発予防教育など、職場復帰後も安心して就労できるようになる
Ⅲ.リワークプログラムの効果
実際にリワークプログラムにはどれほどの効果があるのでしょうか。まだまだリワークプログラムはその取り組みが始まってから間もないので、大規模な調査結果をえるためにはもう少し時間が必要です。
ただし、個々の医療機関での効果研究や調査は既になされてきており、とある医療機関のリワークプログラムで行われた調査では、リワークプログラムの実施前後(参加前・卒業時)で、ほとんどの参加者の方の認知機能を示す脳年齢が若返っているという調査結果が見られました。これは療養中に低下した判断力や集中力・記憶力などの認知機能が、3ヶ月程度のリワークプログラムにより大幅に改善する可能性を示しているのです。
……実際、これらの認知機能は、仕事に戻られる際に不可欠な能力であることは言うまでもありません。加えて、休業中は、どうしても家族以外の人との接点が減ってしまうため、リワークプログラムの場に参加されるだけでも、脳に適度な刺激をもたらしてくれるのも確かだと思います。
この機会に、もしよろしければ、復帰前にリワークプログラムを受けられることをご検討されてみられては如何でしょうか?
参考・引用文献:吉野聡・松崎一葉著『うつからの職場復帰のポイント』(秀和システム)
Presented by. 医療法人社団ペリカン(心療内科・精神科)
監修 佐々木裕人(精神保健指定医・精神科専門医)