ある日の新宿ペリカンこころクリニック
「六気」と「六淫」
東洋医学では、病気を起こす外部要素。
主に気候的な要因を示す「六気」(りっき)と言う考え方があります。
それらが体の許容範囲を著しく超えると害毒となり病気の原因となると考えられているのです。
六気とは、「風」(ふう)、「寒」(かん)、「暑」(しょ)、「湿」(しつ)、「燥」(そう)、「熱」(ねつ)
許容範囲を超えた状態を「風邪」(ふうじゃ)、「寒邪」(かんじゃ)、「暑邪」(しょじゃ)、「湿邪」(しつじゃ)、「燥邪」(そうじゃ)、「熱邪」(ねつじゃ)と呼び。
これらを「六淫」(りくいん)と呼びます。
どのような状態を指すのかご説明していきます。
まずは、「風邪」(ふうじゃ)
春の時期に活発になりやすい邪気で、頭痛、めまい、くしゃみ、咳、鼻づまりなど上半身に不調が出ます。
感冒も、この風邪に他の熱邪や寒邪、湿邪が合わさって体内に侵入しで起こることが多く。
季節の変わり目に風邪をひきやすい、と言うのはこう言った六淫が合わさりやすいことがあるのかも知れません。
続いて「寒邪」(かんじゃ)
寒い時期の寒気だけでなく、夏に涼しい、冷房で体を冷やすなどでも侵入しやすい邪気です。
悪寒、発熱、頭痛などの症状が現れ、寒邪の侵入が深いとそのまま腹痛などを引き起こすこともあります。
続いて「暑邪」(しょじゃ)
夏に限らず許容範囲を超えた暑さが原因で侵入しやすい邪気です。
口渇、発熱、頭痛、イライラ、ヒステリーなど精神面への影響も大きいのが特徴です。
続いて「湿邪」(しつじゃ)
湿度の高い時期、多湿の地域で体に侵入しやすい邪気で入り込むと除去するのが大変な邪気でもあります。
水分代謝の異常から、吐き気、食欲不振、下痢、だるさ、関節痛などの症状がみられます。
続いて「燥邪」(そうじゃ)
体内を乾燥状態にする邪気です。
鼻、喉、口の粘膜を乾燥させ、痛み、鼻血など出血を引き起こします。
続いて「熱邪」(ねつじゃ)
体内の熱量を過剰にする邪気で、暑邪よりも症状が強いのが特徴です。
高熱、充血、血尿、腫れ、のぼせなど強い症状がみられ、ウイルス性発熱、熱病もこれに該当します。
確かに暑すぎても寒すぎても体調崩しちゃうもんね。
冷え性を調べてたんだ。
今回も漢方薬とポイント生薬を勉強してみるかい?
冷え症で処方されることのある漢方薬とポイント生薬
桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)
蒼朮→水分の代謝を正す
炮附子(附子を加工したもの)→寒邪を除き痛みを止める
桂皮、生姜→辛温薬で発汗させて風寒邪を除く
大棗、甘草、芍薬→胃気の不和を改善し、胃陰虚を改善する
八味地黄丸(はちみじおうがん)
地黄、山茱萸、山薬→腎の働きを改善させ、精を増やす
牡丹皮、沢瀉、茯苓→虚熱を冷ます、水分の代謝を正す
桂皮、附子→温めて腎陽を補う
ポイント生薬
桂皮(けいひ)
桂皮の基原はクスノキ科の樹皮または周皮の一部を除いたものです。
主な効能は冷えを改善し、痛みを止めるなど。
桂皮はシナモンとほぼ同じ食薬と呼べるため薬膳的にも効果は同じです。
桂皮、と言っても中国では基原植物のケイの若枝を「桂枝」、樹皮を「肉桂」と呼んで区別しています。
枝である桂枝は手足、体表の発汗解熱に優れ。
肉桂は体幹を温める効果に優れています。
更に、心、脾、腎を温め気血の流れを改善し関節痛、痺れ、月経痛をも和らげてくれます。
附子(ぶし)
附子の基原はキンポウゲ科のハナトリカブト又はオクトリカブトの塊根を加工したものです。
古くは急性の病気でショック状態になった時や、激しく体力を消耗した時に協力に温め補う生薬として使われていました。
生薬で使うものは、生のものと加工により主要成分のアコニチンが減毒されたものの両方があります。
身体を温めて巡りをよくし、痛みをとる作用があります。
そのため、寒気の強い感冒、加齢による冷え、お腹の冷えによる慢性的な下痢が進行して夜中に下痢をする場合などに使用されています。
蒼朮(桂枝加朮附湯のみ)
蒼朮の基原はキク科のホソバオケラの根茎です。
芳香で湿邪を取り除く芳香化湿作用を持ちます。
芳香化湿作用とは、香を有して気滞を解除し、胃腸にまとわりついた痰を除去し機能を回復する作用のことです。
湿邪による消化不良、腹部膨満、むかつき、嘔吐、下痢など胃腸トラブルで用いられます。
湿気を取り去る力が優れており、発汗、利水作用で水分代謝異常を改善。
風邪を追い払う作用もあります。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)
桂皮、細辛、当帰、呉茱萸、生姜→お腹を温め、冷えによる腹痛や下痢を治療する
芍薬、甘草→痛みを鎮め、痙攣を止める
大棗→脾の働きを改善する
木通→水分の代謝を正す
ポイント生薬
当帰(とうき)
当帰の基原はセリ科のトウキまたはホッカイトウキの根を、通例、湯通ししたものです。
当帰は血を補う補血の生薬では必ずと言っていいほど使われている生薬です。
血を補う補血と、血を巡りを改善させる活血の作用をもちあわせている生薬でもあります。
血虚によりおこる月経トラブルに広く対応するため婦人科では主薬として用いられています。
血の巡りをよくすることで痛みを改善させ、頭痛、胸痛、筋痛などにも有効です。
また、全身の症状以外にも血には皮膚修復機能があるので皮膚可能証や打撲傷のような皮膚疾患にも使用されます。
芍薬(しゃくやく)
芍薬の基原はボタン科のシャクヤクの根です。
中国では血を補う「白芍」と、流れを良くする「赤芍」で使い分けられていますが日本ではその中間的な作用を持つとされています。
芍薬の補血作用は「血の量を増やす」と言うよりも「血の少ない部分に血を集める」と言う作用が強く局所的な血不足の解決に優れています。
血の巡りが悪い「瘀血」タイプでは無く血が少ない「血虚」タイプにあった生薬であると考えられます。
細辛(さいしん)
細辛の基原はウマノスズクサ科のウスバサイシンまたはケイリンサイシンの根および根茎です。
肺や腎をあたため、寒邪や冷え、水湿を取り除きます。
このため、風邪(ふうじゃ)、寒邪(かんじゃ)が一緒に来る風寒による悪寒や頭痛、関節痛、鼻水などに使用されます。
また、咳を鎮める効果もありとくに水っぽい痰の出る咳、気管支喘息、慢性気管支炎に効果的です。
細辛には更に痛みを止める効果もあります。
そのため、歯の痛みにも用いられ口にしばらく含ませることで効果を発揮します。
四逆散(しぎゃくさん)
柴胡・芍薬→肝の疏泄作用を正し、肝鬱を改善する
枳実→気を巡らせ、腸の蠕動運動を正す
甘草→痙攣を鎮め、痛みを止める
ポイント生薬
柴胡(さいこ)
柴胡の基原はセリ科のミシマサイコの根です。
柴胡は気を巡らせる作用に優れ、熱を発散させたり、炎症を抑える作用もあります。
元々は感染症の中期に用いられていた生薬ですが、肝の気をよく巡らせ感情の鎮静や肋骨の下の膨満感、圧痛に使用されています。
気を持ち上げる働きあわせてうつうつとした気持ちを発散させる作用もあります。
枳実(きじつ)
枳実の基原はミカン科のダイダイまたはナツミカンの幼果をそのまままたはそれを半分に横切りしたものです。
温州ミカンの皮を使用したものを「陳皮」と言いますが、こちらはダイダイとナツミカンを使用しでいます。
同じダイダイ、ナツミカンでも成熟したものは「枳殻」(きこく)と言いますが枳実の方が理気作用に優れています。
果実は成長途中で苦みが強く、その刺激で強力に気を巡らせる作用を持ちます。
そのため、胸腹部の痰、胃のみ消化物を取り除き。
胸の痛み、つかえ、腹部膨満感、食欲不振、もたれ、腹痛、便秘、食べすぎなどの改善にも用いられます。
真武湯(しんぶとう)
茯苓、白朮→脾の働きを改善し、水分代謝を正す
附子、生姜→温めて患者を除く
芍薬→痛みを鎮め、痙攣を止める
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
当帰、芍薬、川芎→血を補い、血の流れを改善する
茯苓、白朮、沢瀉→脾の働きを改善し、水分代謝を正す
ポイント生薬
茯苓(ぶくりょう)
茯苓の基原はサルノコシカケ科のマツホドの菌核で、通例、外層をほとんど除いたものです。
はれを鎮め、身体の表面の邪を払う効果があります。
茯苓はキノコの一種で、表面の皮は茯苓皮として体表部の水分を取り除く作用がありますがこれは「皮を以って皮を治療する」と言う考え方に基づくものです。
余分な水分を取り除く利水さようもあり、めまい、むくみなどの症状を改善してくれます。
また、脾の気を補う力、精神的な安定作用、食欲不振、胃もたれ、吐き気などの消化器症状にも良く組み合わされ不安、不眠、動悸にも使われています。
白朮(びゃくじゅつ)
白朮の基原はキク科のオケラの根茎またはオオバナオケラの根茎です。
蒼朮とは同じ体の余分な湿気をとり除く作用がありますが、消化器の機能を高める力は蒼朮よりも白朮の方が優れています。
湿をとり除き、弱った消化器官を補うことから倦怠感、食欲不振、胃もたれなどの改善に効果があります。
また、湿気をとり除く効果からむくみ、めまい、ふらつき、関節痛などにも用いられます。
蒼朮とは類縁でありながら、香りも有効成分も違いますが一緒に用いることで湿気をとる力を高めることが出来るため同じ漢方薬の構成生薬として使われていることも。
沢瀉(たくしゃ)(当帰芍薬散のみ)
沢瀉の基原はオモダカ科のサジオモダカの塊茎で、通例、周皮を除いたものです。
沢瀉、と言うのは「水を去る」と言う意味を表し、水生植物である沢瀉の植生と薬効を表しています。
体内の熱をもった余分な水分を処理して排泄すると言う高い利水効果があります。
そのため、下半身、膀胱炎、尿路関係の処方によく使われている生薬です。
利水は、体内に余分な水を血管の中に引き戻して腎臓を通し余剰分があれば利尿すると言う作用です。
利尿作用だけでは十分に排泄することができない場合に、この利水作用が使用されています。
それだけじゃないんだ。
冷え症で悩んでいる人は多いんだろうね。
体質からみる冷え性
冷え症と体質は切っても切り離せない重要なポイントです。
おおまかに分けると、発汗により冷えの悪循環が起きやすい陽虚体質の冷え性。
手足の先が冷え皮膚も乾燥しがちな血虚体質の冷え性。
精神面が原因で手足が冷える気滞体質の冷え性。
身体に滞る水による冷えとむくみの水滞体質の冷え性です。
まず、陽虚体質は身体を温める力が足りていない状態であると言えます。
足りていないのに汗をかきやすく、その汗で身体が冷えるため熱が逃げてしまいます。
着替え時に寒さを感じる、ちょっとした寒さで風邪をひいてしまうといった体の表部分だけが冷えているものから芯まで冷えているものと同じ陽虚体質でも段階によっておすすめの漢方薬が変わってきます。
体表の冷えには桂枝加朮附湯、冷えが進行している場合には五臓の腎を補う代表薬である八味地黄丸が使用されることがあります。
桂枝加朮附湯にも、八味地黄丸にも身体を温める附子、桂皮が使用されており。
またそれぞれに出過ぎる汗を調整してくれる利水作用を持った生薬が入っています。
続いて、血虚体質は血が足りず血流が悪くなると血脈中に寒邪がとどまり手足を冷やします。
寒さによってしもやけが出来るのはこのタイプの冷え性です。
病態が進むと月経痛や、月経不順などの月経トラブルが出てきます。
先ほど紹介した陽虚と血虚の両方を併せ持った方を多く血虚の状態が悪化すると陽虚になりやすくなります。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯は、当帰、芍薬の血に強い代表生薬で血を補い。
細辛、呉茱萸、生姜で身体を温めます。
血虚を改善しながら体を温めることで症状を改善に導きます。
続いて、気滞体質はいくら温めても冷えが改善しないと言う場合に考えられる病態です。
この場合は、精神症状から冷えが起きている場合があります。
緊張しやすい、イライラしやすい、暑がりで薄着なのに手は冷えているといったタイプです。
身体の内面は冷えていないのに緊張から気血の巡りが悪くなって冷えが生じます。
冷え症、というだけに治療は温めることになるイメージですがこのタイプの場合冷えの治療は不要です。
まずは、冷えが精神症状から来ていることを自覚することが重要。
その上で緊張をとり、気血の巡りを改善していきます。
四逆散は柴胡が緊張をとり、気を巡らせる枳実が入っているためこの体質の方にあっていると考えられます。
最後に水滞体質は水の巡りが悪くなり体に水が停滞していると起こる冷え性です。
もともと陽虚体質がある人は水滞にもなりやすいため両方併せ持っている人もいます。
先ほどの気滞と似ていて、いくら温めても症状はなかなか改善しないためまずは水滞によるむくみをとることで冷えの改善がみられます。
真武湯は配合されている附子で温め、茯苓と白朮で水を流して巡りをよくしてくれます。
この水滞に血虚がともなう場合は当帰芍薬散が使用されます。
当帰と芍薬で血を補い、茯苓と沢瀉で水滞を改善するのです。
より効果的かも知れないね。
食材の五性と五味に気を付けて選んでみたらどうかな?
食材は「酸」(さん)、「甘」(かん)、「辛」(しん)、「苦」(く)、「鹹」(かん)に分けられ、五行説では全ての食物がこの5つのどれかの属性を持っているとされています。
そして、そんな食べ物の性質の「五性」(ごせい)
これは、「熱」(ねつ)、「温」(おん)、「平」(へい)、「涼」(りょう)、「寒」(かん)に分けられます。
「五味」(ごみ)は味の効能からも分類されますが、分かりやすいのはその食材の味から分かります。
まずは、「酸」
酸味の酸です、すっぱい食材が多いのが特徴です。
効果としては大きく抑制引き締め効果。
体全体、発汗、便や尿、筋肉あらゆる部分を引き締めてくれます。
一方で唾液の分泌をよくする効果もあります。
代表的な食材は、梅、トマト、みかんなど。
続いて「甘」
甘味の甘です、甘味を感じられる食材が多いのが特徴です。
効果としては、緊張の緩和、滋養強壮、補気(やる気を出す)
胃腸の働きも助けてくれます。
代表的な食材は、とうもろこし、バナナ、なすなど。
豆類や卵などもここに含まれます。
続いて「辛」
辛味の辛です、辛い食材が多いのが特徴です。
効果としては、発汗、血行促進。
そして、気の巡り自体も改善する効果があります。
代表的な食材は、とうがらし、生姜、ネギなど。
香味野菜が多く含まれます。
続いて「苦」
苦い食材が多いのが特徴です。
効果としては、排水排熱のデトックス作用。
精神安定にも効果があります。
代表的な食材は、にがうり、ゴーヤ、レタスなど。
食材以外だとコーヒーなどもこの苦に含まれています。
続いて「鹹(かん)」
鹹、とは塩味のこと。
効果は便秘改善。
また固いものを柔らかくする作用もあります。
代表的な食材は、アサリ、イカ、カキなど魚介類など。
勿論ですが塩味をつける調味料の塩、醤油、味噌もここに含まれます。
そして、この五味と一緒に更に食材を細かく分類してくれるのが「五性」(ごせい)です。
「熱」(ねつ)、「温」(おん)、「平」(へい)、「涼」(りょう)、「寒」(かん)は凄く簡単に言うと熱が一番温め効果が強く、温は熱よりマイルド。
一方寒は、一番冷やす効果が強く、涼は寒よりマイルド。
平はその温めも冷やしもしないがその分、どんな体質の方でも食べやすい食材です。
この五味と五性が掛け合わさって、その食材の効能が決まります。
気を巡らせたい時は「辛」の食材を選ぶ。
まずはその辺りから始めてみたらどうかな?
料理を作ってあげようかな。
こうしてペリスケ君の漢方薬入門の日々は続いていくのでした・・・
出典:
現場で使える薬剤師・登録販売者のための漢方相談便利帖 杉山卓也著 SHOEISHA
生薬と漢方薬の事典 田中耕一郎 編著 日本文芸社
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監修者 佐々木裕人(精神保健指定医、精神科専門医)