「不眠タイプ別おすすめ漢方薬&食材」
医療法人社団ペリカン新宿ペリカンこころクリニック(心療内科、精神科)です。
以前、不眠症に効く漢方を幾つかご紹介させていただきました。
不眠も、イライラと同じように五臓の内の「心」のバランスの乱れによって寝つけなかったりだるさを感じたり、悪夢をみたり。
また、実際に動悸やのぼせなどの身体症状で目が覚めるなど理由は様々。
それぞれ漢方薬を使い分けて対処してみたり、未病の状態を薬膳で改善出来るなら是非してみたい所ではありますよね。
今回は不眠のパターン毎に証やタイプを分け、おすすめの漢方薬をご紹介し。
効果的と呼ばれる食材を幾つかご紹介します。
まず、不眠でも寝つきが悪い、何度も目が覚める(中途覚醒)、日中も常に眠い、食欲不振、不安感、物忘れ、集中力の低下などがある方は「心脾両虚(しんぴりょうきょ)証タイプ」
「心」、「脾」の機能低下のよっておこるタイプの不眠です。
仕事中凄く眠い、と言う方は紐解いてみると寝つきが悪くてベッドでごろごろしていた、何度も目が覚めて睡眠時間が短かったなんてこともあるかも知れません。
そんな方におすすめの漢方は「帰脾湯(きひとう)」
「脾」の働きを改善し「気」を補う黄耆(おうぎ)、人参(にんじん)、白朮(びゃくじゅつ)、甘草(かんぞう)、茯苓(ぶくりょう)、大棗(たいそう)、生姜(しょうきょう)と。
「血」を補う当帰(とうき)
「心」「気」を増やし精神を安定させる竜眼肉(りゅうがんにく)、酸棗仁(さんそうにん)、遠志(おんじ)
気を巡らせ腸の蠕動運動を正す木香(もっこう)が入った漢方薬です。
おすすめの食材は「小麦」
小麦は、「心」、「脾」どちらにも効果のある食材で麺類やパン類など取りやすさもピカイチ。
同じ「心」、「脾」に効果のある「たまご」を加えてシンプルなうどんなら食欲不振でも食べやすくまた胃に優しいのでうってつけです。
続いて、不眠でも考え事で頭が動いている、目が冴える、精神不安定、動悸、夜驚症、便秘などがある方は「肝鬱心虚(かんうつしんきょ)証タイプ」
こちらはストレスによって「肝」の作用が妨げられ、同時に「心」も弱っている状態です。
そんな方におすすめの漢方は「加味逍遥散(かみしょうようさん)」、「柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)」
下痢軟便を繰り返す方は加味逍遥散を。
これは、「肝」の疏泄作用を正し、肝鬱を改善する柴胡(さいこ)、薄荷(はっか)と。
「脾」の働きを改善し「気」を補う生姜(しょうきょう)、甘草(かんぞう)、白朮(びゃくじゅつ)、茯苓(ぶくりょう)
「血」を補う当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)
熱を冷まし、出血を止め、鎮静作用のある牡丹皮(ぼたんぴ)、山梔子(さんしし)が入った漢方薬です。
便秘でほてりやのぼせを感じる方は、「肝」の疏泄作用を正し、肝鬱を改善する柴胡(さいこ)、黄芩(おうごん)と。
熱を冷まし、便を下す大黄(だいおう)
精神を安定させ、水分の代謝を正す茯苓(ぶくりょう)
吐き気を抑制する半夏(はんげ)、生姜(しょうきょう)
「脾」の働きを改善し「気」を補う人参(にんじん)、大棗(たいそう)、桂皮(けいひ)
精神不安定を重さのある生薬で落ち着かせる竜骨(りゅうこつ)牡蠣(ぼれい)が入っている柴胡加竜骨牡蠣湯を選んでみてはいかがでしょうか。
おすすめの食材は「春菊」
春菊は「肝」の働きをなだめてくれる食材です、怒りや不安などの感情を落ち着かせる効果もあります。
便秘の方は腸を潤す「ごま油」を使ってごま和えに、下痢軟便の方は体を冷やさないように豆腐と一緒にお鍋に入れて「湯豆腐」なども美味しいですね。
続いて不眠でも、心身ともに著しく疲れているのに眠れない方は「虚労虚煩(きょろうきょはん)証タイプ」
これは文字でもなんとなく分かりますね、極度の疲労で体力気力が衰えている状態の方を指します。
疲れすぎているのに眠れない、と言うのは一つの病態として存在しているんですよ。
そんな方におすすめの漢方は「酸棗仁湯(さんそうにんとう)」です。
これは、「心」「気」を増やし精神を安定させる酸棗仁(さんそうにん)と。
水分の代謝を正し脾の働きを改善、精神を安定させる茯苓(ぶくりょう)
「気」の流れと「血」の流れを同時に改善する川芎(せんきゅう)
体内の「陰」を補い、熱を冷ます知母(ちも)
構成生薬の働きを整える甘草(かんぞう)が入った漢方薬です。
おすすめの食材はここは2つ選ばせていただきます。
疲労回復には「じゃがいも」、リラックスには「牛乳」
これらを合わせて「ヴィシソワーズ」はいかがでしょうか?
心身ともに疲弊していると食欲も減退しがちですので食べやすいスープを。
ヴィシソワーズなら温めても冷やしても美味しいですよ。
続いて不眠でも、イライラ、何度も目が覚める、身体がだるい、むくみ、胸焼けなどがある方は「肝胃不和(かんいふわ)証タイプ」
これは、ストレスや怒りの感情が「肝」を傷つけそれにより胃の消化機能も低下させてしまっている状態を指します。
おすすめの漢方は「竹茹温胆湯(ちくじょうんたんとう)」
これは、熱を冷まして痰を除く竹茹(ちくじょ)と。
余剰な湿を取り除き、痰を除く半夏(はんげ)、陳皮(ちんぴ)、茯苓(ぶくりょう)、生姜(しょうきょう)、甘草(かんぞう)
気を巡らせ腸の蠕動運動を正す枳実(きじつ)、香附子(こうぶし)
肺を潤して咳を止める麦門冬(ばくもんどう)
膿を排出し、痰を除く桔梗(ききょう)
熱を冷まし、鎮静させる柴胡(さいこ)、黄連(おうれん)
「脾」の働きを改善し「気」を補う人参(にんじん)が入った漢方薬です。
おすすめの食材は「ミント」
ミントはイライラを抑え、更に「肝」の働きを正常にする作用もある正に肝胃不和証タイプの方にぴったりの食材です。
それだけだと摂り辛いのが難点ですが、ミントティーなどでも効果がありますよ。
最後に不眠でも、悪夢を見る、体がだるい、胃が持たれる方は「痰湿(たんしつ)証タイプ」
これは、湿気の多い環境(日本はとても湿気が多いです)暴飲暴食、運動不足などが原因で体液の停滞が生じ水滞が起こっている状態が長期化した状態です。
水滞は長期化すると毒性の強い痰湿となってしまいます。
おすすめの漢方は「温胆湯(うんたんとう)」
これは、余剰な湿を取り除き、痰を除く半夏(はんげ)、陳皮(ちんぴ)、茯苓(ぶくりょう)、生姜(しょうきょう)、甘草(かんぞう)と。
気を巡らせ腸の蠕動運動を正す枳実(きじつ)
熱を冷まして痰を除く竹茹(ちくじょ)が入った漢方です。
ただし、こちらの漢方は保険適応外の漢方なので病院での処方は難しい漢方薬です。
類似適応症のある竹茹温胆湯を試してみると良いかも知れません。
おすすめの食材は「えんどう豆、そら豆」
どちらも体内に溜まった余分な水分を排出する効果を持つ食材です。
この余分な熱を排出させる熱を作り出すため、身体を温める効果のある「ガーリック」で炒めて一緒に取るとより効率良く水分代謝が出来るようになります。
ここまで、パターン別に不眠に効く漢方と薬膳をご紹介しましたが。
不眠、と言うほどでは無いけれどよく眠れたら嬉しいな、そんな未病な状態の眠りのお悩みにもおすすめの食材を更にいくつかご紹介します。
最初にご紹介する食材は「ゆり根」
体質としては「気虚」「気滞」「陰虚」の方におすすめ。
五性は平なので他の食材とも合わせやすいです。
「心」の熱を収める効果があるので精神的興奮を抑える効果があり。
それによって不眠改善が期待できます。
熱を収める効果で動悸などにも対応出来ますよ。
おすすめは「ホイル焼き」
ゆり根が、と言うより他の食材と「合わせやすいゆり根」だからこそ付け合わせる食材に自由度の高いホイル焼きをお勧めします。
体を温める効果のあるサーモンや、不眠改善の期待出来る豚肉と一緒にお好みでどうぞ。
続いては「きくらげ」
体質としては血虚、瘀血、陰虚、陽熱タイプの方におすすめ。
中華料理ではおなじみのきくらげ、中々単品では調理することが無いかと思います。
きくらげ料理と言うよりも中華料理の食材としてきくらげを取り入れてみては。
きくらげは「血」に関する様々な症状に効果があります。
「心」は「血」が不足すると働きが弱くなるため「血」に効果の高いきくらげを食べることで不眠改善にも効果があると期待されます。
そして、このきくらげ。
先ほどご紹介したゆり根と一緒にスープにしてもとても美味しいです。
このように薬膳は効果の似た性質をもつ食材を合わせることでより効果を感じられるのです。
※熱すぎる、冷たすぎる作用を持つ食材同士は体を温めすぎる、冷やしすぎることがあるので気を付けて下さい。
最後に、おすすめの食材は「うずらの卵」です。
体質としては「気虚」、「血虚」、「陰虚」タイプの方におすすめ。
卵にも同じような効果があるのですが、うずらの卵は煮るだけ。
1日に2.3個程度で済むと言う所であえて「うずらの卵」としました。
いつもの食事にうずらの卵を2.3個追加する。これも立派な薬膳です。
少し身近に感じてきませんか?
ここまでご紹介してきた、ゆり根、きくらげ、卵は3つ一緒に調理しても美味しいです。
どれも五性の「平」である(卵白は「涼」)ことから体を温めすぎたり、冷やしすぎたりする可能性も低いです。
また、睡眠はストレスを受けやすい部分でもあるためストレス緩和の食材を日頃から取り入れることも有用です。
コンビニやスーパーでも手に入りやすいフルーツはイライラに効果のあるものが多くあります。
例えば、メロン、パイナップル、キウイフルーツ、ライチ、レモン、りんごなど。
貧血や肌荒れが気になる方はライチ。
むくみがちな方はキウイフルーツ。
メロン、パイナップル、レモン、りんごは熱症状(ほてり、のぼせ)のあるイライラにおすすめです。
飲み過ぎは禁物ですが、赤ワインや白ワインには気持ちをリラックスさせる効果があるのでフルーツと合わせてサングリアなども美味しいですね。
最後に、漢方薬や薬膳は既に不眠症状が出ている方にも効果がありますがその症状に備ええておきたい「未病」の方にも効果があります。
また、そうして未病に備える生き方を中医学では「養生(ようじょう)」といいます。
養生は深呼吸をすること、一息ついて伸びをすること、なども含まれる誰でも出来る病気の備えです。
ちなみに、今回扱っている「薬膳」は「食養生(しょくじょうじょう)」に該当します。
食べるときは腹八分目、ゆっくりよく噛んで食べることが大事ですよ。
食養生をする時は胃腸が動いていると睡眠の質を下げるため、就寝時間の3時間前までには食事をすませておきましょう。
寝る前にリラックスでハーブティーやホットミルクはOKです!
ハーブティーは「オレンジピール」、「カモミール」、「パッションフラワー」、「バレリアン」、「ホップ」、「マジョラム」、「リンデン」、「レモングラス」、「レモンバーム」、「ローズ」が不眠に効果があると言われています。
中でも「ローズ」は薬膳でもポピュラーな食材の一つ。
ビタミンやクエン酸も豊富でイライラの緩和や美容効果にも一役買ってくれる優れもの。
五性は温なので体を温めてくれます。
その香り自体にも鎮静作用があるので味が苦手な方はローズの香りのするものを取り入れると眠りやすくなるかも知れません。
イライラ、不安感など精神症状がある方には「パッションフラワー」もおすすめ。
神経緊張や不眠の治療に使われてきた歴史のあるハーブです。
ストレスからくる片頭痛や腹痛にも有効です。
眠れない時はついつい考えすぎてしまって余計に目が冴えてしまう、なんてこともあるかも知れません。
眠れない時は一度ベッドから離れてみる、朝起きたらカーテンを開けて日光を浴びるなどあえて眠りの場とは違った方面からのアプローチも一つの手。
睡眠時間は「肝」と「胆」を養生する時間。
今、ご自身の出来ることから少しずつ「養生」を。
それでも眠れない時は、悩みすぎる前に是非ご相談にいらっしゃって下さい。
心療内科、精神科において、漢方薬による治療をご希望の患者様。
このコラムを読まれまして、ご自分の現在のご状況として、気になる点がありました方や、興味・関心を抱かれた方は、ご受診をお待ちしております。
出典:現場で使える薬剤師・登録販売者のための漢方相談便利帖症状からチャートで選ぶ漢方薬 杉山卓也著 SHOEISYA
出典:新版 毎日使える薬膳&漢方の食材辞典 阪口珠未著 ナツメ社
出典:ハーブティー事典 改訂版 佐々木薫著 池田書店
参考資料:「Kampo View」https://www.kampo-view.com/