はじめに
エチゾラム(商品名:デパス)は、不安感や緊張、不眠などに用いられる抗不安薬・睡眠導入補助薬のひとつです。精神科外来でも非常によく処方されており、「気持ちが落ち着いた」「眠れるようになった」と効果を実感される患者さんも多くいらっしゃいます。
一方で、患者さんの中には「エチゾラムとデパスはどう違うの?」「副作用や依存が心配」といった不安を抱えている方も少なくありません。実はこの2つの薬は成分としては同一でありながら、処方のタイミングや背景、現在の規制状況によって使い分けられているケースがあります。
この記事では、精神科クリニックの院長としての視点から、エチゾラムとデパスの違いについて詳しく解説していきます。副作用や依存性についても正しく理解し、医師と相談しながら適切に服用することで、安心して治療を進めることができます。
不安や不眠でお悩みの方、現在服薬中で疑問がある方は、ぜひ最後までご一読ください。
エチゾラム・デパスとは?それぞれの基本情報
エチゾラムとデパスは、本質的には同じ有効成分(エチゾラム)を含む薬剤であり、作用機序や効果も共通しています。ただし、名称や処方される背景、流通形態には違いがあります。以下で詳しく見ていきましょう。
エチゾラムとは?
エチゾラムは、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬に分類される薬です。不安や緊張を和らげる作用があり、不眠やストレス性の身体症状(肩こり、頭痛、胃痛など)にも用いられることがあります。
- 主な適応症:神経症、不安障害、うつ病の補助、パニック障害、緊張型頭痛、心身症 など
- 作用機序:脳内の神経伝達物質「GABA(ギャバ)」の働きを強め、神経の興奮を抑えることで不安や緊張を緩和します。
- 効果の特徴:即効性があり、服用後30分〜1時間程度で作用が現れることが多いです。
デパスとは?
デパスとは、エチゾラムを商品名(製品名)として発売された医薬品です。1984年に第一三共(旧:藤沢薬品工業)から発売され、日本で広く普及しました。
しかしながら、デパスは2016年に「向精神薬」に指定されたことで、処方・管理が厳しくなりました。この指定により、デパスという商品名での処方は徐々に減少し、現在ではエチゾラムという成分名でのジェネリック医薬品が主流となっています。
つまり、
- デパス=先発品
- エチゾラム=一般名(ジェネリックを含む)
という関係性になります。成分は同一であっても、パッケージや薬の外見、販売元が異なるだけということが多く、効果や安全性に大きな違いはありません。
エチゾラムとデパスの違い【処方・規制・剤形】
エチゾラムとデパスは有効成分が同じであるため、効果や安全性に本質的な違いはありません。しかし、処方の実際や法的な扱い、薬の外見や剤形(形状)などには明確な違いがあります。
商品名とジェネリック名の違い
デパスは先発医薬品の商品名であり、エチゾラムはその一般名(成分名)です。現在では多くの医療機関でジェネリック医薬品が処方される傾向にあり、以下のような違いがあります。
項目 |
デパス(先発品) |
エチゾラム(ジェネリック) |
成分 |
エチゾラム |
エチゾラム |
製薬会社 |
第一三共 |
複数社(沢井製薬、東和薬品など) |
見た目・剤形 |
錠剤(0.25mg/0.5mg/1mg) |
錠剤・口腔内崩壊錠(OD錠)など多様 |
薬価 |
高め |
比較的安価 |
※成分は同じでも、添加物やコーティングなどが異なることがあるため、まれに個人差による効果や副作用の感じ方が変わることもあります。
処方されるケースの違い
現在では、医療費抑制や流通状況の変化により、ジェネリックのエチゾラムが多く処方されています。一部の医療機関では患者さんの希望や過去の治療歴を踏まえ、あえてデパスを処方することもありますが、基本的には「エチゾラム=デパスと同等」と考えて問題ありません。
また、ジェネリックに切り替えた際に効果が変わったように感じる方もいらっしゃいますが、こうしたケースでは薬剤の微妙な違いや心理的要素が関係していることがあります。違和感を感じた際は、我慢せず主治医に相談しましょう。
エチゾラム/デパスの効果と使用目的
1. 抗不安作用(不安障害・神経症など)
最も代表的な使用目的が「不安の緩和」です。日常的な心配事が頭から離れず、常に緊張しているような状態を抱える方に処方されることが多く、以下のようなケースに効果が期待されます。
- 不安障害(全般性不安障害、社交不安障害 など)
- 神経症的な不安状態
- 恐怖感や緊張による動悸・吐き気・ふるえ などの身体症状
2. 睡眠補助(入眠困難の改善)
不安や緊張が強いことで寝つきが悪い場合、エチゾラムは入眠を促す補助薬として使用されることがあります。睡眠導入剤とは異なり、あくまで不安を和らげることで自然に眠りやすくするアプローチです。
3. 身体症状の緩和(心身症・筋緊張の緩和)
精神的なストレスが原因で現れる身体の不調=心身症にも、エチゾラムは有効です。
- 胃の痛み・違和感(ストレス性胃炎など)
- 緊張性頭痛や肩こり
- めまい、耳鳴り、動悸 などの自律神経症状
これらは検査で異常が見つからなくても、精神的な要因が関係していることがあり、エチゾラムを服用することで症状が軽減するケースがあります。
4. うつ病の補助療法として
抗うつ薬の効果が出るまでには数週間を要することが多いため、その間の不安や不眠に対して一時的にエチゾラムを併用することがあります。
エチゾラムとデパスの副作用と気を付けるポイント
エチゾラム(デパス)は効果の高い薬剤である一方、副作用への注意も必要です。医師の指導のもとで適切に使用すれば安全に活用できますが、自己判断での増減や長期使用はリスクを高める原因にもなり得ます。
ここでは、主な副作用や依存性について正しく理解し、安心して治療に向き合うためのポイントを解説します。
主な副作用
エチゾラムで報告される副作用には、以下のようなものがあります。
- 眠気・倦怠感
→ 最も多い副作用の一つで、特に日中に眠気が出ることがあります。自動車の運転や機械操作には注意が必要です。
- ふらつき・めまい
→ 高齢者では転倒のリスクが上がるため、用量は慎重に調整する必要があります。
- 記憶力の低下・注意力の低下
→ 長時間作用型のベンゾジアゼピンと比べれば少ないですが、集中力が必要な場面では様子を見て服用を調整することがあります。
- 口の渇き、便秘
→ 自律神経系への作用による影響で、比較的まれですが報告されています。
副作用の出方には個人差があるため、「いつもと違う」「体が重い」と感じた場合は、自己判断で中断せず、必ず医師に相談してください。
服用中に気をつけるポイント
エチゾラム(デパス)を服用する際には、以下の点に注意することで、副作用の予防や治療の質を高めることができます。
- 車の運転・機械操作には注意する
眠気や注意力の低下が起こることがあるため、服用後の車の運転や重機の操作は避けましょう。職業上、運転などが避けられない方は、医師にその旨を相談してください。
- アルコールとの併用は避ける
エチゾラムは中枢神経を抑制する作用があるため、アルコールと一緒に摂取すると副作用が増強される可能性があります。特に眠気や呼吸抑制などは重篤になることがあるため、必ず飲酒は控えるようにしましょう。
- 他の薬との相互作用に注意する
- 他の睡眠薬や抗うつ薬、抗精神病薬との併用には慎重を要します。
- すでに他の医療機関で薬をもらっている場合は、飲み合わせを医師に確認しましょう。
- 服用を急に中止しない
エチゾラムを長期間服用していた場合、急な中止で離脱症状が現れることがあります。不安感、焦燥、不眠、震えなどが起こる可能性があるため、医師の指導のもと徐々に減薬していくことが大切です。
- 妊娠・授乳中は必ず申告を
妊娠中・授乳中の方には、原則としてエチゾラムの使用は避けるべきとされています。妊娠の可能性がある場合は、事前に必ず医師に相談してください。
まとめ:正しく服用すれば安全に効果を得られる
エチゾラム(デパス)は、強い不安や緊張、不眠といった精神的なつらさに対して有効な治療薬です。
しかし、その効果と引き換えに、副作用や依存のリスクを伴うことも理解しておく必要があります。
重要なのは、医師とよく相談しながら、用法・用量を守って正しく服用することです。決して「怖い薬」ではなく、必要なときに必要な量を使えば、安心して治療に活用できます。
当院では、患者様一人ひとりの生活や症状に合わせた丁寧な処方と、減薬や離脱のサポートも行っております。薬に関する不安や疑問がある方は、どうぞお気軽にご相談ください。
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参考文献:
厚生労働省「医薬品インタビューフォーム:エチゾラム(デパス)」
https://www.pmda.go.jp/drugs/
日本神経精神薬理学会「ベンゾジアゼピン系薬物の使用と離脱に関するガイドライン」
https://www.jsnp.jp/
MSDマニュアル家庭版「抗不安薬:ベンゾジアゼピン」
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/ホーム
KEGG DRUG Database – Etizolam
https://www.kegg.jp/entry/D00344
e-ヘルスネット「睡眠薬の適切な使い方」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/
監修者:
新宿ペリカンこころクリニック
院長 佐々木 裕人
資格等:精神保健指定医、精神科指導医・専門医
所属学会:日本精神神経学会