認知症にリスペリドンは使って大丈夫?精神科医が安全性と注意点を解説
はじめに
認知症の症状が進むと、「暴言・暴力」「幻覚・妄想」「興奮・不安」といった行動や心理的症状(BPSD)が現れることがあります。こうした症状を抑えるために使われる薬の一つに「リスペリドン(商品名:リスパダール)」があります。
しかし、「リスペリドンを認知症の人に使って大丈夫なの?」「副作用が心配…」という声も多く聞かれます。この記事では、精神科医の視点からリスペリドンの効果や副作用、使用時の注意点についてわかりやすく解説します。
リスペリドンとは?
リスペリドンは、統合失調症や双極性障害などの治療に使用される非定型抗精神病薬です。脳内の神経伝達物質(ドパミンやセロトニン)の働きを調整し、幻覚や妄想、不安、興奮状態を抑える作用があります。
近年では、認知症によるBPSD(行動・心理症状)に対しても短期間限定で使用されることがあります。具体的には以下のような症状に使われることがあります。
- 急激な興奮や暴力行動
- 幻覚や妄想(「財布を盗られた」など)
- 強い不安や睡眠障害
認知症に対するリスペリドンの効果
高齢者の認知症患者に対して、リスペリドンはBPSDの一時的な鎮静に有効であることが研究で示されています。特に、非薬物療法(環境調整や心理的支援)で効果が得られない場合に、症状の悪化を防ぐ手段として使われることがあります。
ただし、効果がある一方で、薬の選択には慎重さが求められます。認知症の患者は薬に対する感受性が高く、わずかな量でも副作用が現れることがあるためです。
リスペリドン使用時のリスクと副作用
リスペリドンには、以下のような副作用が報告されています。
- 眠気やふらつき
- パーキンソン症状(筋固縮、動作緩慢など)
- 口の渇き、便秘
- 起立性低血圧
- 脳卒中や死亡リスクの増加(高齢者では特に注意)
米国FDA(食品医薬品局)は、認知症の高齢者に対する抗精神病薬の使用に警告を出しており、特に脳血管障害や死亡率の上昇との関連が指摘されています。そのため、日本のガイドラインでも「非薬物療法が基本であり、薬物療法は最小限にとどめるべき」とされています。
どのようなときに使用を検討する?
以下のような状況で、リスペリドンの使用が検討されることがあります。
- 本人や周囲の安全が脅かされるほどの興奮状態が続いている
- 幻覚や妄想によって強い混乱が見られる
- 非薬物的な介入でも改善が見られない
ただし、いずれの場合も、医師が患者の体調・症状・生活環境などを総合的に評価したうえで、使用するかどうかを慎重に判断します。
医師としての見解:使うべきか否か
精神科医としての立場から言えば、リスペリドンの使用は、慎重な判断と管理が求められる薬であり、副作用が出やすい高齢者に対しては、少量から慎重に使っていくことが大切です。すべての認知症患者に必要な薬ではなく、あくまでも一時的に強い症状を緩和するための選択肢の一つです。
適切な用量(できるだけ少なく)で、必要最小限の期間に限定して使用し、定期的に効果と副作用を評価することが重要です。また、患者本人とご家族への丁寧な説明と同意も欠かせません。
まとめ:リスペリドンは慎重に使うべき薬
リスペリドンは、認知症の行動・心理症状(BPSD)に対して一定の効果がある一方で、高齢者に特有の副作用リスクも伴います。そのため、安易な処方は避け、医師の厳密な管理下で慎重に使用する必要があります。
当院では、非薬物的なアプローチを重視しつつ、必要に応じて薬物療法も検討しています。ご本人やご家族が不安を感じている場合は、どうぞお気軽にご相談ください。
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参考文献:
日本認知症学会:認知症疾患診療ガイドライン2023 https://www.ninchisho.jp/professional/dementia-guideline.html
Food and Drug Administration (FDA). “Public Health Advisory: Antipsychotics in Elderly Patients with Dementia.”
厚生労働省:高齢者医療に関するガイドライン
Alexopoulos GS et al. “Use of Antipsychotics in Elderly Patients with Dementia: An Evidence-Based Review.” J Clin Psychiatry. 2005. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16187769/ “Use of Antipsychotics in Elderly Patients with Dementia: An Evidence-Based Review.” J Clin Psychiatry. 2005.
日本精神神経学会:抗精神病薬の適正使用に関する提言
監修者:
新宿ペリカンこころクリニック
院長 佐々木 裕人
資格等:精神保健指定医、精神科指導医・専門医
所属学会:日本精神神経学会