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【医師監修】発達障害の診断で伏線回収!?

「発達障害の診断を受けた時、どんな気持ちになりましたか?」という問い掛けに対し、当事者の方々は「ほっとした」と回答されることが多いそうです。特にADHDの方の場合はそれが顕著だそうで、大人の発達障害に詳しい岩波明医師によると「がっかりする人は、何百人かに1人くらい」とのことです。殆どの方が「やっぱりそうだったんだ」という反応を示されるそうです。

 

発達障害と診断されてがっかりするならともかく、なぜ「ほっとする」のでしょうか?

 

それは、ADHDの人たちにとって、診断を受けるまでに経験された苦労が大きすぎるからでしょう。子ども時代の話からは、学校生活での苦労話が次々と出てきます。

 

例えば、ADHDにに典型的な症状の一つに、忘れ物の多さがあります。もちろん、忘れ物が多い子はADHDに限らずいるのですが、当事者様の語りからは、やはりよくある忘れ物とは少し違うように感じられます。「教科書を忘れる」という場合も1冊、2冊の話ではなく、その日に必要な教科書を丸ごと全部忘れてきてしまう、ということが起こります。また、登校する前に、ランドセルそのものを背負うことを忘れてしまう方さえいます。そうなると、「うっかり忘れた」と説明したところで、中々信じてもらえません。

 

このようなことが続くと、学校では毎日注意を受けますし、叱られます。学校の先生にしてみれば、何度も注意しているのに何故忘れるのか、全く理解できないからです。そして、そのうち「わざと忘れているのだろう」と思い込み、ついきつく当たってしまうこともあり得るでしょう。

 

 

ただ、小学校の先生に忘れ物の理由が分からないように、子ども自身にもその理由は分からないのです。どうして、皆が忘れ物をしないでいられるのかも、何故自分だけが忘れ物をしてしまうのかも分かりません。ですから当然、改善策も思いつきません。そのため、忘れ物が多いADHDの子どもにとって学校は辛い場所となりがちなのです。

 

大人になってから発達障害の診断を受けられた方の中には、「診断されて生きるのが楽になった」と感じる方も少なくないそうです。その人ご自身の人生の色々な意味がようやく分かった、「ああ、だからだったのか」といった「伏線回収」のような感覚を持たれるそうです。

 

伏線回収における「伏線」とは、一般には、物語に散りばめられた「ヒント」を指します。物語の後半で、これら「伏線」や「ヒント」が1本の意図で繋がり、物語全体を貫く「疑問」に対する「答え」が提示される、というのが「伏線回収」です。

 

発達障害における伏線回収とは、「なぜ、自分の人生はこれほど辛いのか」という疑問に対する答えが、「診断」によって明らかになる、という意味合いが含まれています。人生の前半にあった悲しい経験の理由や、疑問に感じた出来事の意味が全て、診断を受けた障害の名前を聞くことで腑に落ちる。ADHDだと診断されることで、「だから、あんなに怒られたのか」「だから、皆と同じようにやれなかったのか」「だから、いつも気が散ってしまっていたのか」…等々、振り返って納得がいくのです。

 

伏線が回収されると、「できなかったのは、自分のせいではなかった」と分かります。発達障害の診断を受けて、ほっとし、生きるのが楽になる理由として、これは大きいと思われます。

 

ADHDの人たちは、いつも頑張っています。忘れ物をしやすいからこそ、忘れ物をしないように頑張っています。じっとしていられないからこそ、ちゃんと座っていられるように頑張っています。そういった努力を必死でされながら毎日を過ごしているのに、それでも上手く出来なくて怒られることの繰り返しです。

 

そして、上手く出来た時にも、褒められることはありません。

 

これは覚えておきたい部分だと言えます。皆と同じに出来たからと言って、褒められることはあまりありません。忘れ物をすれば怒られますが、しなかったからと言ってほめられません。授業中に席に座っていたことも、宿題をやってきたことも、それだけでは、ほめる理由に中々なりません。ADHDの方にとって、これは非常に辛いことです。

 

このように頑張りを認めてもらえない経験が重なると、「自分がどんなに努力しても無駄なのだ」と思い、頑張ること自体を諦めてしまいます。自暴自棄になて、周囲の人に迷惑をかけてしまうこともあるかもしれません。だからこそ、周囲はADHDに気づく必要があります。ADHDの存在に気づき、ADHDの方の頑張りに気づいてあげる努力をする必要性があるのです。

 

当院(新宿ペリカンこころクリニック)では、ご希望の患者様に、ウェクスラー成人知能検査(WAIS)を施行することが可能な医療機関となっております。

 

ご自身の能力の凸凹の可能性が気になられる患者様、とりわけ発達障害(ADHDやASDの可能性を危惧されている患者様は、御診察の際に、その旨を当院医師にお申し出頂けましたら幸いです。

 

 

Presented by.医療法人社団ペリカン(心療内科・精神科・内科)

 

監修 佐々木裕人(精神保健指定医・精神科専門医・内科医)

 

参考引用文献:黒坂真由子著『発達障害大全』・岩波明著『発達障害』・岩波明著『医者も親も気づかない女子の発達障害