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【医師監修】発達障害の人でも働けるの?

大人の発達障害について調べていかれると、きっと「一般雇用」「障害者雇用」という言葉を目にされることがあるかと思いますので、ここで以下に整理させて頂きます。

 

 

★ 一般雇用:「個人が、起業と労働契約を結んで働く」という、一般的な雇用関係を指す言葉。制度として存在するわけではなく、「障害者雇用」との対比で使われます。

 

 

★ 障害者雇用:「個人が、企業と労働契約を結んで働く」ときに、自分が障害者であることを明かす雇用関係を指します。採用する企業側には、採用する企業側には、障害者雇用促進法で定められた法定雇用率の充足に繋がるメリットがあります。採用される側には、障害者手帳が必要です。

 

 

★ 福祉的就労:障害者総合支援法が定める「福祉サービス」を受けて働くこと。「就労移行支援」「就労継続支援A型」「就労継続支援B型」などの種類があります。

 

 

発達障害の人たちが、どの形で働いているかと言いますと、一番多いのは一般雇用です。

 

 

2021年に野村総合研究所が、『発達障害人材の現状に関するアンケート調査』を実施しました。約11万人のスクリーニング調査を経て、ASD(自閉スペクトラム症)の診断を受けたことのある333人、ADHDの診断を受けたことのある335人を対象の行った調査です。この調査によると、ADHDの人のうち80%、ASDの人では63%が、一般雇用で働かれていました次に多いのが障害者雇用で、それぞれ18%と26%、それに福祉的就労が2%と10%と続きます。この結果を、専門家は次のように指摘しています。

 

 

『濃淡はありますが、発達障害の方は日本の全人口の10%程度を占めるとも言われています。ですから普通に考えれば、大抵の会社でもう既に雇用しているはずなんです。…(中略)…才能を発揮してくれた人の中にも、逆に上手く生かせなかった人の中にも、発達障害の人はいたはずです。』

 

 

…このように、発達障害の人たちが職場で上手くやっていけるかどうかは、誰にとっても他人事ではない、身近な課題だとも言えるのです。

障害者手帳にプラスはあってもマイナスはない?

 

発達障害と仕事について考える時、知っておきたいのが「障害者手帳」のことです。ここでまとめておきましょう。種類は3つです。

 

 

● 身体障害者手帳

● 療育手帳

● 精神障害者保険福祉手帳(以下、「精神の手帳」)

 

 

発達障害の人が取得するのは、基本的には「精神の手帳」となります「療育手帳」は、知的障害を対象とするので、IQ(知能指数)が一定以下でないと取得できません。判断基準は自治体によって違いがあり、IQ70以下、75以下などとなっています。

 

 

知的障害のない発達障害の人が取得できるのは「精神の手帳」です。精神の手帳が対象とするのは、精神障害のために長期にわたり日常生活や社会生活への制約がある人です。過去に取得できなったとしても、環境が変わったことで、長期にわたり日常生活や社会生活への制約がある状態になってしまった場合、取得できる可能性があります。

 

 

但し、取得にはそれなりの時間が掛かることも覚えて下さい。転職活動などに利用されるのであれば、かなり早い段階での準備が必要です。まずはお住まいの市区町村の窓口で流れを確認されてみられて下さい。参考HP東京都在住の方の場合はこちらのHP「【都民の皆様へ】精神障害者保険福祉手帳申請の手続き参照。また、障害者雇用で働くためには障害者手帳が必要ですが、手帳を持っているからと言って、一般就労ができない訳ではないことは、誤解されないで下さい。

 

発達障害の人たちと一緒に働いていくための小さな知恵

 

発達障害を持つ人と一緒に働く際、どのようなことを意識されると、お互いに気持ちよく働くことが出来るでしょうか?

 

 

「配慮」という言葉がよく出てきますが、発達障害には、ADHDもあればASDもありますし、重なる場合もあります。加えて、同じADHD、同じASDでも症状は人それぞれで、必要な配慮も一人ひとり違います。ただ、専門家の方や当事者の方等からの様々な意見の中で、一緒ん働いていく上の知恵として、共通する内容もあるように感じられます。それらを以下に挙げさせて頂きます。

 

 

「これは自分には当てはまらない」という内容もあるかもしれません。しかし、発達障害の方に対する配慮は、具体的にイメージがしづらい側面があるため、実践の参考になればと思い、記載させて頂きます。

 

 

★ 暗黙のルールを言葉にして書き出す

職場には様々なルールがあります。「言うまでもない」と思うことでも明文化することで、空気を読んだり、察したりする必要がなくなります。例えば、持ち出し禁止の本だなには「持ち出し禁止」と書いたシールを貼っておく、などです。

 

 

★ 口頭だけの連絡で済ませず、文字で残す

口頭での指示は分かりにくい、忘れてしまうという意見が発達障害の方からよく伺います。メモやメールなど、文字として残る形で伝達すると、後から読み返すことのできるので安心です。例えば、返却が必要な資料には「〇日までに△△さんへ返却」といったメモをつけておく、といったことです。

 

 

★ 図解化すればより効果的に

マニュアルなどが、図解化したり、写真や絵をつけたりすると、理解が早いという人が多くいます。確実に伝えたい、理解してもらいたいことは、ビジュアル化できないか、一度考えてみると良いでしょう。

 

 

★ 指示に優先順位をつける

優先順位をつけることが苦手な人は、かなりいらっしゃいます。このタイプの人には、大きな仕事を一度に渡さず、細かな仕事に分解して、ひとつずつ指示をする方が良いでしょう。複数の仕事を一度に頼むときには、順番も併せて指示されると良いでしょう。

 

 

★ 急な予定変更は出来るだけ避ける

臨機応変な対応が苦手な人もいます。スケジュールは早めに確定させて、どうしても日程を変更しなければならない場合は、早めに伝えたいところです。難しい時もあると思いますが、周囲の人たちが、「〇〇さんは急な予定変更が苦手」ということを知っておくだけでも、当事者様の助けになる筈です。

 

 

★ 曖昧な言葉や表現は避ける

「ちゃんと」「早く」「適当に」といった言葉では、中々伝わりません。例えば、「これをちゃんと記入して」ではなく「一番上の欄に売り上げの数字を記入して」。「なるべく早く提出して」ではなく「12日の14時までに提出して」。「ここを適当に処理しておいて」ではなく「この図を大きくして」…等々、出来るだけ具体的な言葉を使ってみて下さい。

 

 

★ 間違いはすぐに指摘

ミスや間違いに気づいたら、すぐにその場で指摘して欲しい、という当事者様の声もよく耳にします。何故なら、後から指摘をされると、いつのどの話なのか分からなくなってしまうからです。また、信じられないないようなミスを見ると、「どうして?!」と問い詰めたくなるかもしれませんが、そのような時は、怒りの感情ではなく、ミスの事実のみを伝えるようにしましょう。

 

 

★ 怒鳴らない

怒鳴られると、びっくりしたり、思考が停止してしまうと言います。また、怒鳴りながら注意をしても、「怒鳴られた」ことしか相手の記憶には残りません。

 

 

★ 同じ注意を何度もして欲しい時がある

注意をする側としてはためらいますが、「何度注意しても忘れてしまうので、毎回注意して欲しい」という人もいます(※これは人に拠る所も多少ありますので、確認が必要でしょう相手が嫌がっていないのなら、繰り返し注意しても大丈夫です。

 

 

★ まず、「悪気はない」と考える

もしかすると、聞かれた瞬間は失礼に感じられるような発言もあるかもしれません。例えば、こちらが「遅れてすみません」と謝ったら、「寒い中、待たせないで下さい」と返された…等々。ただ、本人としては、事実を口にしただけで悪気はなかった、ということもよくあります。相手のキャラクターや特性が分かっているのであれば、まず「悪気があるわけではない」と考えてみられては如何でしょう。そのような前提で捉え直せば、怒ったりイライラしたりしないで済むかもしれません。

 

 

当院(新宿ペリカンこころクリニック)では、ご希望の患者様に、ウェクスラー成人知能検査(WAIS)を施行することが可能な医療機関となっております。

 

ご自身の能力の凸凹の可能性が気になられる患者様、とりわけ発達障害(ADHDやASDの可能性を危惧されている患者様は、御診察の際に、その旨を当院医師にお申し出頂けましたら幸いです。

 

 

Presented by.医療法人社団ペリカン(心療内科・精神科・内科)

監修 佐々木裕人(精神保健指定医・精神科専門医・内科医)

 

参考引用文献:黒坂真由子著発達障害大全・岩波明著発達障害・岩波明著医者も親も気づかない女子の発達障害