発達障害関係の掲示板やネット情報を見ると、定期的に恋愛や結婚に関する話題が登場します。それだけ多くの人が関心を持っているテーマであり、恋愛や結婚を機に発達障害ならではの特性が顕在化するので、本人も周囲の人も悩んだり戸惑ったりするのでしょう。
もちろん、発達障害の傾向や特性があっても、幸せな恋愛や結婚をされている人は沢山います。では「上手くいく秘訣は何か?」と問われたら、恋愛や結婚に対して過度な期待を持たないこと、恋愛や結婚には当然デメリットもあることを認識しつつ、それを上回るメリットを相手と共有できるよう努力・実行しているかどうか…といった所は大きいようです。
ASD傾向が強い人の場合、一人で過ごす時間が減ることが苦痛なことがあり、結婚していても個室にこもったり趣味に没頭したりする時間やお金がある程度必要、というケースが少なくありません。そのため、パートナーや家族に対して必要最低限の関わりで済ませようとしてしまうので、そのことで相手が悩んだり、不満を持ったりします。ですが、本人はそれで困っていない、あるいは余裕がないため、改善に取り組む際に支援が必要な場合もあります。
ADHD傾向が強い人の場合は、恋人と過ごす時間を作ったり、お互いのスケジュールを調整したりすることや、同居後は住まいを片付ける、お金を管理するといった、時間・物・お金の管理といったパートナーと過ごすための環境を整えることが苦手なケースが多くみられます。
恋愛や結婚は自分の視野を広げたり、新しい関係を通して自分を高めたりできるチャンスでもあります。だからこそ、相手との関係を丁寧に築くよう、自分の言動を把握する努力も必要になってくるのです。
なぜ恋人が欲しいのかを考えてみる
発達障害の掲示板において、なぜか恋愛や結婚についての悩みを書く人は、男性が多い傾向が見られます。恐らくは、「恋人がいて、できたら結婚してこそ社会的に信用できる(より責任ある仕事を任せられる)」という暗黙のルールが未だ日本社会にはあり、特に男性に対してそのプレッシャーが強いからでしょう。一方、女性が恋人や結婚相手に求めるのは、感情的な繋がりを前提にした上での経済的な問題や老後の生活を支え合う相手といった、よりリアリティのある問題にもなります。
しかし場合によっては、それは大半に人が当然と考えている価値観を、そのまま自分の感覚(価値観)として何の疑問も持たずに受け入れているだけ、ということもあるでしょう。確かにカップルで行動した方が、より楽しい時間を過ごせたり、より幅広い人間関係を作れたりする可能性は高いでしょう。一方で、恋人と過ごすため、個人としての時間やお金は、どうしてもある程度削らざるを得ません。また、今まで自分の都合だけ考えていればよかったことも、相手とやり取りして決める必要が出てくるかもしれません。
こうして考えてみると、恋人や結婚後家族としてパートナーと過ごすには、付き合う相手との相性も非常に大切になってくることが分かりますし、自分の言動が相手にどう映るかについても充分に考慮する必要があることが見えてくることでしょう。
また、それと同時に、なぜ自分は恋人が欲しいと思うのか、そのことを掘り下げてみることも必要でしょう。例えば、「一人でいるのが辛い」という理由ならば、一例ですが……
・どんな時にそう感じるのか?
→街でカップルを見かけた時
・辛くなる理由は?
→自分に恋人がいないことで惨めな気持ちになるから
・恋人がいない人は皆みじめなのか?
→一人でも楽しめていればよいと思う
・では、一人でも楽しめる何かがあれば恋人でなくてもよい?
→もしかしらそうなのかもしれない
……というように、考えを整理してみると、実は自分が求めているのは「恋人がいないことによるネガティブな感情の解消」であったことに気づくかもしれません。これは実は、社会の価値観や常識という名の「思い込み」に支配されており、一種の「呪い」となってしまっている可能性を示唆しています。
ASD傾向が強い人は、曖昧な状況が苦手で、特にルールやマナー、常識について「〇〇でないのはおかしい」「〇〇であるべきだ」と極端になってしまい、そのまま鵜呑みにしてしまうことがないよう、留意されるに越したことはないでしょう。「自分に合わないものは無理に取り入れる必要はない」等と考えを書き換えることも大切です。自分にかかっていた「思い込み」や「呪い」が解けてくると、それをキッカケに物事が上手く進むこともあるので、一度考えを整理されてみて、デメリットはないのではないでしょうか?
人とやり取りをする機会を持ちましょう
「恋人が欲しい」という悩みを持たれる方は、「普段、人とどのようなやりとりをしているか?」「どんな人と付き合いたいと思われているのか?」の2点を、まずは自問自答されてみて下さい。すると、会社(学校)と家との往復だけで、用事以外の会話を殆どしていない人が、意外と多いことがあります。
そういった方は、できたら人と関わるような機会(趣味の集まりなど)を作ることをお勧めしますが、中には、仕事などに精一杯でそんな余裕がない人もいることでしょう。
その場合、今の生活の中で出来る範囲で、会話の際「ありがとう」「お願いします」といった相手の言動に正(プラス)のフィードバックをするような言葉を掛けることから始めてみましょう。「言っているよ」と思われたかもしれませんが、それならより意識的に、相手に伝わるような態度と姿勢で(意外とこれは重要で、例えばパソコン画面を見た状態でお礼を言っているとしたら、相手の方にきちんと身体を向けるようにする等)、といった風にしてみましょう。
「面倒くさい」と思う人もいるかもしれませんが、恋人と付き合っていくには、この手の正のフィードバックをするといったマメさは欠かせません。「ありがとうと思っていることは黙っていても分かるだろうから、その位察して欲しい」「では、残念ながら相手には意図が伝わらない可能性があります。
心理療法の一つである「交流分析」では、このような挨拶やお礼、謝意といった儀礼的なやり取りは最低限のコミュニケーションであり、相手の存在を認めるという意味がある、とされています。つまり、他人とのコミュニケーションの入り口になるものであり、これを疎かにしている場合、「あなたは私にとって取るに足りない存在です」という非言語的なメッセージを暗に送ってしまっている可能性があります。
よく観察をしていると、モテる人はこの手の反応をとても自然にされており、かつ人と関わることを純粋に楽しんでいます。その域に達する必要はないにしても、人に正のフィードバックを送ることは案外心地いいと思える程度になることを、まずは目指してみましょう。
ネットやSNSの長所と短所
ネットで知り合ったことをキッカケに、交際や結婚に至るケースは、今日決して少なくはないことでしょう。ネットのメリットは、それまでの社会なら出会うことのなかったであろう人同士を結び付けたこと、今までとは比較にならないほどの質と量の情報が瞬時にやり取りできるようになったことでしょう、実際、ネットなしには生活は成り立ちにくくなっていますし、発達障害の人にとってネットは是非活用したいツールでもあります。
一方、ネットならではのトラブルもつきものであり、それまでならある程度相手の素性や背景を知った上で、時間を掛けてやり取りされていたことが、匿名で思い立ったらすぐネットに書き込めるようになったため、感情的な応酬や誤った情報もあっという間に広がることにもなりました。「ネット上ではいくらでも嘘がつけるし、経歴も簡単に詐称できる」「人は無意識に自分にとって不利な情報は隠す」という可能性も念頭に置いておく必要があるでしょう。
加えて、案外陥りがちなこととして、「ネット上なら、簡単にコミュニケーションができるし、対面では話せないなことも話せるから親しい気分になるが、深いコミュニケーションを取るのは難しい」という側面です。バーチャルで感じるものと肉体を通して感じるものにはギャップがありますが、そのギャップを認識し、コントロールするには学習が不可欠です。
もちろん大半の人は前提となるルールを守っていますが、悪気のあるなしに関わらず、その盲点を突いてくる人もいることには用心しておく必要があります。また、「ネットに書き込む=全世界に向けて話しているのと一緒」だという認識も持った方がいいでしょう。SNSやグループチャット、掲示板だと、ついつい仲間内でワイワイやり取りをしている感覚に陥りがちですが、デジタルコピーは簡単に出来ます。それを誰かが保管して、メールで第三者に伝え、さらにその人が公開の場所へ貼り付けることもあり得ます。
対面で会おうという話になった場合は、より慎重さ必要です。確かに親しくなるチャンスではありますが、
★最初は外で会う(お店やイベントなど、必ず第三者がいる場所で会う)
★鉄道やバスなど公共交通機関が動いている時間帯にする
★複数人で会うようにする
★セキュリティ対策(スマホや財布などは肌身離さずに。飲食物もできるだけ店員から直接受け取る)
……等といったことは、初対面時には意識しておいて越したことはないでしょう。
性について知っておいた方が良いこと
性の話題は普段なかなか話しづらいが、一方でネットなどではかつてないほど性の情報が氾濫しています。そして、女性の立場から見ると、男性側の都合で書かれているものが非常に多く、「女性の心や身体にことにもう少し正しい理解を持って欲しい」と思われるものが少なくありません。一方、男性側からすうると、いわゆるアダルトビデオものや、「いかに女性を口説くか」といった内容が非常に多い反面、それ以外の情報になると途端に少なくなるという側面があるのも事実です。
性の話は個人的な面が大きいため、許容範囲も実に様々です。セクシャル・マイノリティの人もいるでしょうし、組み合わせを考え始めたら、それこそ無限大になります。しかし、性は恋愛や結婚では切り離せない話題ですし、お互いの性指向やどのような関係を作りたいかについてパートナー同士でオープンに話せるかどうかは、その後のお互いの関係性を育んでいく上で、とても重要なことになるのです。
このような話題に対して戸惑ったり面倒だと感じたりしたとするならば、恋愛や結婚に対するリスク全般を引き受ける覚悟がまだできていないのかもしれませんし、相手の抱く不安に気が付いていない可能性も考えられます。全てを開示する必要はないかもしれませんが、こういった大切なことや、二人で考えていかないとならないことは、きちんと話し合えるパートナーであるかどうかが、恋愛や結婚における成否にかかわってくることは言うまでもありません。
このコラムを読まれまして、気になる点がありました方や、
興味・関心を抱かれた方は、どうぞ当院まで、
お気軽にお問い合わせください。
当院(新宿ペリカンこころクリニック)では、ご希望の患者様に、ウェクスラー成人知能検査(WAIS)を施行することが可能な医療機関となっております。
ご自身の能力の凸凹の可能性が気になられる患者様、とりわけ発達障害(ASDやADHD)の可能性を危惧されている患者様は、御診察の際に、その旨を当院医師にお申し出頂けましたら幸いです。
また当院では、診察と一緒に、専門の心理士(臨床心理士・公認心理師)資格を持ったカウンセラーによるカウンセリング(心理療法)も行っております。カウンセリングをご希望される患者様は、診察時に医師にご相談下さい。
Presented by.医療法人社団ペリカン(心療内科・精神科・内科)
監修 佐々木裕人(精神保健指定医・精神科専門医・内科医)
参考引用文献:村上由美著『ちょっとしたことでうまくいく発達障害の人が上手に暮らすための本』