少し前から「風呂キャン」という言葉をよく耳ににするようになりました。「風呂キャンセル界隈」、つまり、お風呂に入らないことや、入らない人たちのことです。ただただ面倒という人からメンタル不調に至るまで原因は様々なようですが、ひょっとしたら、ADHDの人には、風呂キャン界隈に当てはまる人が少なくはないとも言われています。
お風呂に限らず、ADHDの人の中には、見た目や身の回りのことに無頓着という特性を持つ方がいます。例えば、「常にスマホの画面がバキバキになっている」「服のことまで気が回らないから、同じ服を10着以上持っていて、それを着回している」「風呂嫌いだし、歯磨きも嫌い」…等という訴えをされる方がかなりいらっしゃいます(勿論、これらは全てが当てはまる訳ではありません)。
ある意味では、ADHDのこうした特性は「空気を読めない」という現象の一つとも言えます。スマホの画面がバキバキでも、毎日同じ服でも、本人は余り気にしませんし、時にはそれが心地よいとすら感じています。しかし、周囲の大多数の人は、そのような振る舞いを見て、驚かれてしまいます。この、周囲の大多数の人が驚く“感覚”をADHDの人は理解できず、また、そう思われていることにも気づけないことも多いのです。ADHDの人にとっての許容範囲と世間の認識にギャップがあるという感じが適切かもしれません。
「特に害はないから良いのでは?」「その労力は、本質的に意味があるの?」という当事者様の意見もいありますが、総合的に考えるとかなり損をしてしまうことが多いようです。スマホの画面がバキバキに割れていれば、「だらしなさそう。余り仕事を頼みたくないな」という印象を与えてしまうかもしれませんし、TPOに合わない装いは、「常識がないのかな」と敬遠されてしまうかもしれません。
しかし、それが苦手なのがADHDの人なので、具体的で効果的な改善方法は、正直中々難しいものがありますが、まずは「自分はそのように周囲に認識されることで、気が付かない内にかなり損をしているのかもしれない」という意識を持つことから始めてみて下さい。当たり前のことができない、あるいは、世間の「当たり前」が分からないADHDの人にとって、このメタ認知(客観視)ができるか否かで、日々の行動が少しずつ変わっていくのではないでしょうか。
「当たり前」を完璧に実践しなくても、“最低限こなしていく”という方法もあります。例えば、お風呂に入るのがどうしても苦痛なら、人に会う直前に入る、それ以外はボディシートで済ませる。髪のお手入れまで行き届かなくても、せめて身体と顔だけは洗うようにする…等々です。
洋服も、いざという時(フォーマルな場で使える)ジャケット1着は持っておくとよいでょう。あとは、同じ服を色違いで何枚も買って、上手く着回せるようにするのもお勧めです。特に、洗濯が苦手な人、すぐにこぼして服を汚してしまいがちな人は、黒などのダークカラーで汚れが目立たない服を選ぶようにされたり、毛玉になりやすいニット素材は避けたり、といった工夫をされるのも良いでしょう。
髪色を変える時には、プリンになっても目立たないようなカラーにするか、いっそ髪色はあまりいじらない方が無難かもしれません。そもそも長期スパンで美容院に行かなくても済むような髪型にされるのも一案です。靴を磨く、バッグをクリーニングに出す等といった「メンテナンスの日」を定期的に作ってみるのも良いでしょう。スマホは最初から画面が割れるリスクを減らせるように、手持ちではなく、肩掛けのケースに入れるなどされると、紛失もしづらくなりますので、一石二鳥です。
繰り返しになりますが、これらを実践される前に、マナーとして「他人からどう見られているか」に少しでも意識を向けることが大切です。
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当院(新宿ペリカンこころクリニック)では、ご希望の患者様に、ウェクスラー成人知能検査(WAIS)を施行することが可能な医療機関となっております。
ご自身の能力の凸凹の可能性が気になられる患者様、とりわけ発達障害(ADHDやASD)の可能性を危惧されている患者様は、御診察の際に、その旨を当院医師にお申し出頂けましたら幸いです。
また当院では、診察と一緒に、専門の心理士(臨床心理士・公認心理師)資格を持ったカウンセラーによるカウンセリング(心理療法)も行っております。カウンセリングをご希望される患者様は、診察時に医師にご相談下さい。
Presented by.医療法人社団ペリカン(心療内科・精神科・内科)
参考引用文献:やしろあずき著『すごいADHD特性の使い方』