今回は、双極性障害(双極症・躁うつ病)について、よくある質問にお答えして参ります。なお、双極性障害は、近年の診断分類・基準では「双極症」という表記が使われるようになりましたが、今回は「双極性障害」で統一して書かせて頂きます。
Q1.「この病気をはじめて知りました。新しい病気なのですか?」
A.
双極性障害は元々「躁うつ病」と呼ばれていた病気で、その歴史は古く、ヒポクラテスの古代ギリシャ時代に「マニー(躁状態)」と「メランコリー(うつ状態)」の記述があることが知られています。双極性障害は、統合失調症と並んで、二大精神疾患と言われていて、精神疾患の中でも代表的な病気です。
Q2.「双極性障害は心の病気なのですか?」
A.
かつて双極性障害は「心の病気」だと言われていたことがありました。患者様の脳を調べても、パーキンソン病や認知症のような明らかな病変が見つからなかったのが、その理由の1つです。しかし、様々な角度から双極性障害の研究が進み、脳の病気であることが明らかになってきています。
Q3.「双極性障害って、うつ病に躁状態が加わった病気なの?」
A.
いいえ、違います。うつ病と双極性障害は本質的に異なる病気です。治療の目標も治療法も異なります。「うつ状態」は、双極性障害に限らず、他の精神疾患や甲状腺の病気などでも見られます。病気の時に熱が出たりしますが、うつ状態はそれと同様に病気に伴う1つの症状と考えて下さい。
Q4.「双極性障害はうつ病より重い病気なの?」
A.
確かに、双極性障害はうつ病に比べて、再発率が高い病気です。服薬を中断すると、9割以上の人が再発すると考えられています。一般にうつ病は1~2年で治療が終わる場合が多いのですが、双極性障害は長期の治療が必要となります。しかし、しっかりと予防すれば、再発をコントロールし、問題なく社会生活が送れます。
Q5.「『軽い躁状態』と『軽躁状態』ではどちらの症状が重いの?」
A.
Ⅰ型で起こる「躁状態」は軽い場合でも社会生活に支障をきたし、入院が必要となる場合がありますが、Ⅱ型の「軽躁状態」は、社会生活への阻害があまりなく、入院の必要はありません。そういった意味では、「軽躁状態」より「軽い躁状態」の方が症状は重いと言えます。
Q6.「双極Ⅰ型とⅡ型はどんな状態の時に診断するの?」
A.
Ⅰ型もⅡ型も、うつ状態の症状には大きな違いがないので、うつ状態の時に明確に判別するのは難しいのです。躁状態の時には明確に診断ができますが、うつ状態で受診した場合は、過去の躁状態、軽躁状態の有無が診断を見極めるポイントになります。
Q7.「今更ですが、そもそも脳と心は違うものなの?」
A.
「脳と心」は「時計と時刻」の関係に例えると分かりやすいかもしれません。時計が時間を刻むように心は脳が紡ぎ出すものであり、心は脳の働きであると言えます。壊れるのは時計で、時間ではないように、病気になるのは「脳」で、「心」が病気になるわけではありません。「脳の病気」の症状が怒りっぽくなって暴言を吐くなど、「心」に表れるのです。
Q8.「躁とうつの波は、1回きりでは終わらないの?」
A.
双極性障害は、維持療法を行わなければ、多くは再発します。躁状態やうつ状態が1回で終わることは滅多にありません。殆どの場合再発を繰り返し、社会的な損失が大きくなります。そのため、特にⅠ型の場合は長期にわたり維持療法を行い、病気をコントロールしていきます。糖尿病や高血圧と同じように、病気と上手く付き合っていけば、普通に生活が送れます。
Q9.「躁状態だけを繰り返す場合は、どんな病気なの?」
A.
躁状態だけ出てくる場合も「双極性障害」に含まれます。これまでは躁状態しかなくても、いずれうつ状態が出てくることが多いことなどからです。
Q10「うつと違って躁状態の情報が少ないのはなぜ?」
A.
なぜ躁状態に情報が少ないのか、その理由の一つとして、患者様にとって躁状態の時のことは、うつ状態の時よりも、当事者ご本人が詳細を語りたがらない傾向にあるからだとも言われいます。躁病エピソードで語りやすいのは、笑い話にできる程度のことや“自分らしさ”の片鱗が残っているものに限られてくるそうです。患者様本人は、躁状態の時の自分を忘れないと生きていけないくらい恥じています。躁状態のことは、人には言いたくもないし、思い出したくもないのです。双極性障害の知識を持っていない人は、時として「躁のときって、楽しそうでいいじゃない?」と思いがちですが、それは大きな誤解であることを、知っていて欲しいと思います。
Q11「躁状態で酷い言葉を投げかけられると腹が立ってしまうのですが…」
A.
躁状態の時の言動は、病気がさせているものです。言動に腹が立つときは、病気になる前の穏やかな時を思い出してみて下さい。病気に対する正しい知識をもって、本人が元の状態に戻れるようにサポートしてあげて下さい。
Q12「性的な逸脱行動は、本人の生来のものなの?」
A.
性的な逸脱行動は、家族、特に夫婦の場合は、大変ショックな出来事です。繰り返しになりますが、普段は穏やかな常識人である人が、躁状態でこうした行動をしてしまうことがしばしばあります。こうした場合、その行動は病気がさせているのです。本人の隠れた性格の一面と解釈しないで下さい。躁状態は、治療により多くは1~2か月程度で治ります。病気をコントロールすることが、何より大切です。
Q13「双極性障害になりやすい性格があると聞いたのですが…」
A.
かつて“循環気質”といって、気分にむらがある人が双極性障害になりやすいと考えられていましたが、現在こうした性格はすでに病気が始まっている状態と考えられています。
Q14「『躁状態が病気』だと、本人に気づいてもらうのには?」
A.
躁状態の時に本人に病気を自覚してもらうことは、容易ではありません。症状が改善してから、病気のことを十分に話し合って本人に病気を理解してもらうのが一番です。本人が病気を受け入れることができれば、再発の予防を心掛けられるようになりますし、再発の予兆があった段階で、必要な薬を飲む、受診をするなど、早めの対処ができます。
Q15「何故かいつも秋から冬にかけて『うつ状態』になります」
A.
双極性障害の患者様の中には、日照時間が短い秋から冬にかけてうつ状態になり、春から軽躁状態になるタイプの人がいます。「季節性感情障害」と呼ばれるものであり、朝方強い光を2時間ほど浴びる光療法が有効です。
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Presented by.医療法人社団ペリカン(心療内科・精神科・内科)
参考引用文献:加藤忠史監修『これだけは知っておきたい双極性障害』