適応障害や抑うつが起こる状況には、様々なタイプがあります。例えば、仕事の容量オーバー(キャパオーバー)でなってしまう人もいれば、勤務時間の変則性によってなってしまう人もいます。今回は「『主体性』を奪われて適応障害になる人」のパターンについて解説します。
主体性とは、その人がその人らしく生きることを意味します。これが剥奪されると、表面的には上手くやれていても、最終的には行き詰ってしまいます。何故なら、その人の主体性が侵害されたり、自己の尊厳が脅かされたり、その人が大切にしているものを侵害される状況に置かれた時、人は元気でいられなくなるからです。
そうした状況に遭遇した時に、人に起こる自然な反応は、反発であり、怒りです。「それはおかしい」「そんなことはしたくない」と叫びたくなることでしょう。しかし、様々な事情で仕事を失うわけにはいかないと思い、また相手を怒らせるのも面倒だと思い、心の中では怒りが込み上げていても、表情には出さずに相手の言い分に合わせるのが、一般的な対応でしょう。自分の本心を押し殺して、生活のため、波風を立てないように我慢をします。
しかし、大抵のことには耐えられても、自分が一番大切にしていることや、プライドを持っていることを踏みにじられたような思いを、何か月も、場合によっては何年にもわたって味わい続けていると、その人の心は次第に活力を失っていきます。精神的な意欲や関心をなくし、ただ時間だけが過ぎ去っていけば、それでいいと思うようになっていきます。より良い仕事をしようとか、高めていこうという気持ちもなくしてしまいます。仕事が面白くないだけでなく、会社の人間関係も、人生そのものもつまらなくなり、ただ耐えるだけのものになってしまいます。
主体性とストレスの関係は、実験的にも確かめられています。一つのグループには厳しく手順を決めて、指示されたことしかできないという状況で仕事をさせ、もう一つのグループには自分の裁量で仕事ができる状況で働いてもらいました。その結果、前者の制限の強いグループでは、後者の自由度の高いグループに比べて、同じ時間働いてもストレスが大きく、過労の症状や心身症の症状を示しやすかったのです。
ましてや、自分の大切な信条や自分が大切にしているプライドを毀損されるような状況を味わい続けることは、強いストレスになるだけでなく、それに耐え続けることは、その人を病ませることにもなるのです。
主体性侵害型の適応障害やうつ、心身症を避けるためには、管理する側と本人の側が、それぞれ気を付けなくてはならない点があります。管理する側としては、本人の主体性やプライド、ペースといったものを、できるだけ侵害しないように配慮を行い、必ず守るべき手順の部分と、本人の裁量で調節できる部分を明確にし、守るべき手順の部分を最小限にすることです。機械を操作するということであれば、分厚いマニュアルで全てを決めるということが必要でしょうが、人間を同じように扱おうとすると、必ず主体侵害型の適応障害、さらにはうつや心身症を起こしてしまいます。
これだけは守って欲しいという点を伝えた上で、後は本人の自主性を尊重し、良い点や努力している点は評価する、という方法を基本にします。その上で、肝心な点が守られていない場合ややるべきことが果たせていない場合には、個別に呼んで注意を与えますが、皆の前で恥をかかせたり、感情的に怒鳴ったりすることはしてはいけません。注意する時も、丁寧であるけれども通常より少しトーンの低い声で、この点はやって欲しいと伝えたと思う、と確認を求めます。それと同時に、相手に対するポジティブな評価や期待の面も伝えた方が良いでしょう。
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Presented by.医療法人社団ペリカン(心療内科・精神科・内科)
参考引用文献:岡田尊司著『ストレスと適応障害』(幻冬舎)