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トリンテリックスで痩せる?作用と副作用を精神科専門医が詳しく解説

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トリンテリックスで痩せる?作用と副作用を精神科専門医が詳しく解説

トリンテリックスで痩せるって本当?作用機序と副作用の関係を精神科医が解説

はじめに

抗うつ薬として処方される「トリンテリックス(一般名:ボルチオキセチン)」について、「服用して痩せた」「食欲が減った」といった体験談を、インターネット上で見かけたことがある方もいるかもしれません。

では実際に、トリンテリックスには体重減少の効果があるのでしょうか。

 

この記事では、精神科の専門的な視点から、トリンテリックスと体重の関係について医学的根拠に基づいて解説します。また、薬剤の仕組みや副作用、服用にあたっての注意点にも触れながら、「痩せるかどうか」だけにとらわれない正しい理解を深めていきます。

重要なのは、「痩せるから良いお薬」「痩せないから効かないお薬」と単純に判断しないことです。正しい知識を持って、安心して治療に臨みましょう。

 

トリンテリックスとは?特徴と作用機序

2019年に日本で使用が認可されたトリンテリックスは、これまでの抗うつ薬とは異なる作用を持つ新世代の薬剤です。「マルチモーダル抗うつ薬」と呼ばれ、従来のSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)とは異なるメカニズムでうつ症状の改善を目指します。

 

特徴的な作用

  • セロトニンの再取り込みを抑制する
  • 特定のセロトニン受容体に対して作用し、神経伝達を調整する(例:5-HT1A受容体に作用、5-HT3受容体を遮断など)

 

このように、脳内のセロトニン濃度を高めるだけでなく、受容体レベルでの働きかけも行うため、気分の改善だけでなく副作用の出にくさにも配慮された設計となっています。

 

トリンテリックスで「痩せる」と言われる理由とは?

【1】食欲抑制の副作用

臨床試験や実際の治療の現場では、一部の服用者において「食欲の減退」や「体重の減少」が報告されています。これはトリンテリックスに見られる副作用の1つであり、特に体質的に食欲が影響を受けやすい人で起こる可能性があります。

 

【2】胃腸症状による食事量減少

服用を開始したばかりの時期には、吐き気や胃のムカつきといった消化器系の不調を感じる方もいます。こうした初期症状が一時的に食事量の減少を招き、それに伴って体重が落ちることがあります。ただし、多くの場合、こうした症状は時間とともに自然と治まっていきます。

 

【3】うつ症状の改善による行動変化

うつ病の症状として、過食傾向や運動不足が見られることがあります。トリンテリックスの服用によって気分が回復すると、食生活や活動量が整い、その結果として体重が適正化されることがあります。このような変化も、「痩せた」と実感する要因の1つです。

 

トリンテリックスの副作用と体重への影響

トリンテリックスは、従来の抗うつ薬に比べて副作用の頻度が低めとされている一方で、いくつかの症状が報告されています。

 

主な副作用

  • 吐き気(約20〜30%)
  • 便秘
  • 頭痛
  • めまい
  • 倦怠感

 

この中でも、特に「吐き気」や「食欲不振」は服用初期に経験する方が多く、結果として体重が減少するケースもあります。

ただし、これらは本来望まれる作用ではなく、あくまで副作用によるものである点に注意が必要です。トリンテリックスは「痩せるためのお薬」ではなく、うつ症状の改善を目的とした治療薬であることを忘れないようにしましょう。

 

「痩せるから飲みたい」はNG。正しい目的での服用を

インターネット上では、「ダイエット目的でトリンテリックスを試してみたい」といった声を見かけることがありますが、これは非常に危険な発想です。

トリンテリックスは医師の診断のもとで処方される医療用の抗うつ薬であり、あくまでも「うつ病」や「うつ状態」の治療を目的として使うものです。たとえ体重が変化したとしても、それは薬剤の主作用ではなく、副作用や生活習慣の変化によって起きる副次的な影響にすぎません。

 

また、全員が体重減少を経験するわけではなく、なかには服用後に体重が変わらなかったり、逆に増加したと感じる方もいます。体重の変化には個人差が大きく、「痩せるお薬」として使おうとすることは、かえって健康を損なう結果に繋がりかねません。

 

精神科医としての見解:痩せるかどうかより「合う薬かどうか」

お薬の効果や副作用の出方は個人差があります。「誰かに効いたから自分にも合う」とは限らず、体質・症状・生活環境によって、最適な治療法は変わってきます。

 

トリンテリックスに関しても、「痩せるかどうか」ばかりを気にするのではなく、「今の自分に合った治療かどうか」を見極めることが、より良い回復に繋がります。

なかには、「太るのが怖くて服用を躊躇っている」という方もいらっしゃいますが、副作用に関しては医師と相談しながら用量やお薬の種類を調整することが可能です。

 

むしろ、うつ状態を放置してしまうことによって心身の不調が悪化し、日常生活や社会活動に支障をきたすほうが、大きなリスクとなります。

 

まとめ:トリンテリックスで「痩せる」は副作用の一側面にすぎない

トリンテリックスの服用によって「痩せる」と感じる方がいるのは事実ですが、それは一部の副作用やうつ症状の改善による結果です。誰にでも当てはまるわけではなく、「痩せたいから服用する」のは本末転倒です。

大切なのは、自分に合った治療を安心して続けられること。気になる副作用がある場合は、自己判断せず必ず主治医に相談してください。

 

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参考文献:

日本イーライリリー株式会社:トリンテリックス®添付文書https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/1179042F1022_1_01/

 

Baldwin DS, et al. “Vortioxetine: a review of the evidence for its place in the treatment of depression.” Adv Ther. 2016.

 

Taylor D, et al. “The Maudsley Prescribing Guidelines in Psychiatry”, Wiley-Blackwell.

 

米国国立医学図書館:Vortioxetine – PubChem
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Vortioxetine

 

厚生労働省 e-ヘルスネット:うつ病の治療https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-03-002.html.

 

監修者:

新宿ペリカンこころクリニック

院長 佐々木 裕人

資格等:精神保健指定医、精神科指導医・専門医

所属学会:日本精神神経学会