はじめに
「ゾルピデム」と「マイスリー」はどちらも睡眠薬として使用されている薬剤ですが、実はこの2つは同じ成分です。しかし、患者さんからは「何が違うのか」「どちらを使うべきか」といった疑問の声が聞かれます。
この記事では、精神科医の立場から、ゾルピデムとマイスリーの関係性やそれぞれの特徴、ジェネリック医薬品と先発医薬品の違い、副作用や注意点についてわかりやすく解説します。薬に対する不安を和らげ、安心して治療に取り組めるような情報提供を目指します。
ゾルピデムとマイスリーの違いは?
成分は同じ
ゾルピデム(一般名:ゾルピデム酒石酸塩)は、マイスリーという商品名で販売されている睡眠薬です。つまり、両者は「成分が同じ薬」であり、効き目の本質に大きな違いはありません。実際、厚生労働省や医薬品評価機関の見解でも、ゾルピデムとマイスリーは生物学的同等性が認められており、効果や安全性において明確な差はないとされています。
先発医薬品とジェネリック医薬品の違い
- マイスリーは先発医薬品(製薬会社が最初に開発・販売した薬)
- ゾルピデムはそのジェネリック医薬品(後発医薬品)
ジェネリック医薬品は基本的に先発品と同じ有効成分を含み、臨床試験によって効果もほぼ同等と証明されています。ただし、添加物や製剤の形状、崩壊速度などが異なるため、一部の患者さんでは「効き方が少し違う」「副作用の出方が違う」と感じるケースもあります。
また、ジェネリックはコスト面で優れており、医療費の負担を軽減するという点でも利用価値が高いといえるでしょう。
ゾルピデム/マイスリーの特徴と作用時間
非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬
どちらも非ベンゾジアゼピン系に分類され、入眠困難の改善を目的とする短時間作用型の薬です。従来のベンゾジアゼピン系睡眠薬に比べ、筋弛緩作用や記憶障害のリスクが低く、依存性も抑えられているという報告があります。
作用時間
- 効果の発現:服用後15〜30分以内
- 効果の持続:3〜4時間程度
このため、「寝つきが悪い」タイプの不眠症の方にはとくに有効です。一方で、夜間頻繁に目が覚める「中途覚醒型」には他の薬剤の併用が検討される場合もあります。
日中への影響が少ない
短時間作用型であるため、翌朝の眠気や倦怠感などの「持ち越し効果」は比較的少なく、翌日の生活に支障が出にくいというメリットがあります。ただし、高齢者や肝機能が低下している方では代謝が遅れることがあるため、注意が必要です。
副作用と注意点
主な副作用
- 眠気の持ち越し
- 記憶障害(服用後すぐに寝なかった場合)
- めまい、ふらつき
- 異常行動(夢遊状態、記憶にない行動)
とくに高齢者では転倒のリスクが高まるため、夜間のトイレ移動などには十分な注意が必要です。
依存のリスクと使用上の注意
非ベンゾジアゼピン系とはいえ、長期使用による身体的・心理的依存のリスクはゼロではありません。厚生労働省の指針でも、「2週間以上の連用は慎重に検討すべき」とされています。
使用期間や用量は、必ず医師の指導のもとで調整しましょう。症状が改善した後も継続が必要な場合は、徐々に減量していく「漸減法」なども考慮されます。
ジェネリックと先発品、どちらを選ぶべき?
どちらも有効性と安全性は確認されています。費用面でのメリットが大きいジェネリックを選ぶ方も多いですが、
- 「マイスリーの方が合う」
- 「ジェネリックだと効き方が違う気がする」
と感じるケースもあるため、実際の服用感は個人差があります。とくに過去にマイスリーで良好な効果が得られていた方は、変更に慎重になるケースもあるでしょう。
服薬の切り替えについて不安がある場合は、必ず主治医と相談のうえ、自分に合った治療方針を選択することが大切です。
まとめ:正しく使えば安心して不眠改善が可能
ゾルピデムとマイスリーは、成分が同一の薬剤であり、大きな違いは先発品かジェネリックかという点にあります。効果や安全性は科学的に担保されており、正しい服用と適切なフォローのもとで使用すれば、安心して不眠改善に取り組むことが可能です。
薬に対して不安を感じる方も多いかもしれませんが、自己判断での中止や切り替えは避け、医師としっかりコミュニケーションをとりながら治療を継続することが、心と体の健康を守る第一歩です。
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参考文献:
ゾルピデム酒石酸塩製剤インタビューフォーム(各製薬会社)
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/
大日本住友製薬「マイスリー錠」製品情報
https://www.ds-pharma.co.jp/
MSDマニュアル家庭版「不眠症とその治療」
https://www.msdmanuals.com/ja-jp
日本睡眠学会「睡眠薬の使い方」
https://jssr.jp/data/pdf/suiminyaku_qa.pdf
厚生労働省「後発医薬品に関するQ&A」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411.html
監修者:
新宿ペリカンこころクリニック
院長 佐々木 裕人
資格等:精神保健指定医、精神科指導医・専門医
所属学会:日本精神神経学会